21.重なる悪夢
「……さま、クラリス様?」
ハッと顔を向ければ、目の前にはルナの顔が。
「……顔色が優れないようですが、何かありましたか?」
いつもの馬車の中で、私はそう言って心配してくれる彼女に向かって、昨夜のことを話そうか迷ったけど、こんな変な話しても辛いだけよね、と思い、「少し嫌な夢を見てしまっただけだから大丈夫」と誤魔化して、窓の外を見つめた。
(……言えるわけないわ、あんな夢。
怖いどころじゃないし、本当であって欲しくない。
……言ったら何かが壊れてしまうような、そんな予感がするから……)
私はまたドクンと嫌な感じのする鼓動を抑えるように、ふーっと長く息を吐く。
……そんな私を、ルナは何か思案しているように見ていたことに、私は気が付かなかった。
☆
少し早めだからか、学園に着くとまだあまり生徒がいなかった。
そうしてあまり生徒のいない長い廊下を歩いていると、「クラリス」と温かく私の名前を呼ぶ彼の声が聞こえる。
バッと振り返れば、驚いたように「凄い勢いだね」と笑うアルがいた。
「……っ」
その笑顔を見て、私はポロポロと泣き出してしまう。
「え、ちょ、どうしたの!?」
「ひ、姫様!?」
私は慌てて駆け寄ってくるアルとルナを安心させるように笑みを浮かべると、二人の手を取った。
「な、何でもないの。
ちょっと、安心しただけよ」
……夢の中で取れなかったアルの手が、今はこうして側にいて、手を取れる。
それがどれだけ嬉しくて、どれだけかけがえのないものか。
私は改めて自覚することになった。
(……アルは……元気ね)
夢の中では、随分とぐったりとしていた。
魔力も強いアルが、病気以外でそう簡単に倒れたりするわけがない。
(やっぱりあれは、ただの幻よ。 疲れているだけだわ)
そう心の中で言い聞かせる私を、二人はじっと、何も聞かずに、ただ、私が泣き止むまで暫くそうして近くにいてくれたのだった。
☆
……燃える、火が、燃えている……
それは、学園の庭園。
(……っ燃えているのって……!)
……燃えていたのは、ミリアさんがお母さんの形見を使って育てた、大事な花達の花壇があるビニールハウス。
クラリス・ランドルは不敵に笑い、ミリアさんを上から見下ろした……
「……クラリス様、起きて下さい」
その声にハッと顔を上げれば、とっくに下校時刻は過ぎていた。
「……嫌だ、私。 寝ていたの?」
「授業の最後だけですから、バレていないと思います。
……お疲れなんでしょう、きっと。 昨夜は怖い夢を見たのでしょう?」
……どうやら、あまり眠れていないと判断したルナが、私をそのまま寝かせてくれていたらしい。
「……有難う、ルナ」
お礼を言うと、「どういたしまして」とルナはにっこりと笑って言った。
「そういえば、今度もし宜しければ開花した時にお花を見に来てくださいと、ミリアさんが仰っていましたよ?
……? 姫様?」
その言葉に、さっきの夢……記憶を、思い出す。
―――燃えている花壇。
クラリスの不敵な笑み……―――
その夢の正体は、分かっている。
これが、ミリアさんへの最後のとどめ……5つ目の、悪役令嬢としての役割なんだと。
その話をしようとして、口を開きかけたけど……言えなかった。
(……ミリアさんのペンダントと同じくらい……いえ、お母様と約束したもっと大切なものを、あんなちりぢりに、彼女から奪えない……)
……あんな夢は封印しよう。
そして、あんなことには、絶対にさせない。
……例え、私の運命が、バッドエンドに向かうことになっても。
「う、ううん。 何でもないの……分かったわ。 その時は、ルナも一緒に見ましょうね」
「……はい! 是非!」
私を見て少し戸惑ったようだけど、笑顔に戻って頷くルナ。 私はさっきの場面を振り払うように軽く頭を振ってから、ルナと庭園に行くことだけを考えた。
「ふふっ、楽しみね」
「どんなお花が咲いているんですか?」
私達はミリアさんの花壇について話しながら、帰路に着くのだった。




