1.転校生
最近、不思議な感覚にとらわれる。
“自分”ではない、“自分”の声。
……この声は一体……。
「…さま、クラリス様?」
「!……ごめんなさい。少しボーッとしてしまっていたわ」
心配そうな顔でこちらを見る、茶色の瞳をした私の侍女のルナは、再度「大丈夫ですか?」と私に聞いてきた。
(気が付かない内に、もう仕度をしてくれていたのね……)
鏡に映る、腰まで伸びた金色の髪は、ハーフアップにされている。 服はランドルの紋章がついた制服を着ており、既に学園に行く仕度は整えられていた。
ルナの言葉に、「大丈夫よ、行きましょう」と声をかけると、同じくランドルの制服を着たルナと共に、今日も王国内の学園へと向かう。
☆
移動中の馬車の中。 私の向かいの席にはルナが座っている。
ルナは少し談笑した後、私に問いかけた。
「最近、ボーッとしていらっしゃるところをよく見かけるのですが、大丈夫ですか?」
「えぇ。体には問題ないから大丈夫よ」
「左様ですか……もしお具合が悪い様でしたら、遠慮なくお申し付け下さいね! 私が姫様を抱えて、お医者様のところまで連れて行きますから!」
と言って胸を張るルナを見て、「ふふ、頼もしいわ」と笑うと、ルナは「そういえば、」と思い出したように言った。
「今日、転校生がいらっしゃるそうなんです。それも、シュワード王国から」
「まあ!アルの国から?」
シュワード王国。
水を司る王国で、領地一帯が海で囲まれており、泉や湖が多い、とても美しい国。
その王家の一人、アルベルトは私の幼馴染でもあり、次期国王の座に着く予定の第一王子。 今アルは私の一歳上で、学園に留学生という形で通っている。
「なんでも、シュワード王国の伯爵令嬢だそうで、噂で持ちきりなんです」
「そうなのね。シュワード王国の方だからきっと、良い方に違いないわ」
「ご友人になれたらよろしいですね!」
「そうね」
ふふっと笑うと、馬車が停車しドアが開く。
「では、行きましょうか」
「えぇ」
ルナの言葉に微笑むと、私は馬車をゆっくりと下りた。
☆
聖ランドル王立学園。
その言葉通り、この学園は前国王である私の父が創立した学園。
15〜18歳の魔力を持つ生徒を対象として教育していて、魔力向上を図るための学校である。
ちなみに次期学園長(代理)を務めることになっているのは、現在学園長補佐をしている私の姉が継ぐことになっているけど、その話は又後程するとして。
教室までの長い廊下を挨拶を返しながら歩き、席に着いたと同時に、朝の始業のベルが鳴った。
先生の話が進み、いよいよルナが言っていた、例の転校生を紹介する時間に。
(どんな子なのかしら?)
この時期……2年の春に転校してくるのは、留学生だけであることもあって、皆も期待の眼差しで教室のドアを見つめている。
先生の教室に入るよう促す言葉を合図に、ガラッとドアが開く。
教室に入ってきた少女の姿を見て、何故だかドクンッと心臓が大きく脈打つ。
喉が急激に乾いて、頭に鈍い痛みが走る。
(私、この子のこと……知ってる。)
クリーム色の髪に、翡翠色の瞳を伏せ目がちに、鈴の鳴るような声で口を開く彼女。
「シュワード王国から参りました、ミリア・オルセンです」
ミリア・オルセン……。
彼女の名前が頭に響いた直後、私の意識はそこで途絶えた。




