17.俺の主様は…… *クレイグ視点
アルベルトの執事、クレイグの視点です。
クレイグの恋…話も、書いていくので、色々なカップルの恋模様も一緒に楽しんでいただけると嬉しいです!
「僕はクラリスがやったとは思えない」
俺の主はせっかくの綺麗な顔が台無しなくらい、ブスッとした表情で腕を組んで、足を投げ出した。
(……この光景、クラリス様に見せてあげたい)
いつも紳士な対応をする我が主……アルベルト様は、自室(とは言っても学園寮ではあるが)に着くなり、ドカッとソファに座って不機嫌オーラを醸し出す。
(……こうなるともう、手はつけられない……)
「おかしくないか? クラリスがそんなことをするわけがないだろう。
……それに僕が彼女と過ごした時間は、伊達なんかじゃない」
(……まだ気にしてましたか……)
“ペンダント事件”から3日後、校長がクラリス様に1週間の謹慎処分を言い渡した。
それを聞いたアルベルト様は、たいそう怒っていらっしゃる……というわけだ。
「アルベルト様、落ち着いてください」
「これが落ち着いてなどいられるか!!」
バンッと、テーブルを叩くアルベルト様。
(あーあ、もう知らね)
「お前はどう思っているんだ、クレイグ!」
「えぇ、そこで俺に振ります?」
主は一度こうなると、暫く続く。
よく知ってはいるが、まさか自分に火の粉が降りかかるとは思っていなかった。
「……そんなの、無論クラリス様がやるとは思えないですよ。
彼女がそんな人を傷つけるようなこと、する人だと思います?」
……俺は命の恩人であるクラリス様には、頭が上がらない。
彼女は自ら沢山の命を救おうと、自分のお小遣いなんていいから、とそのお金で孤児院を建てるという、もう、どれだけ良い人かなんて一目瞭然だ。
俺の言葉に、少し笑みを浮かべるアルベルト様。
(お、機嫌良くなるか?)
「よく分かってるじゃないか、クレイグ。
……ただ、お前の口からクラリスのことを分かった風に言われるのは癪だな」
「ちょっ、それはどう考えても不可抗力でしょ!!」
とテンポ良く突っ込む俺に対し、「冗談だ」と冗談に聞こえない抑揚のない声で言い放つアルベルト様。
(あーあ、大変なことになったなぁ……)
「……これからすべきことを、分かっているだろう? クレイグ」
その一言で俺は、この人が考えてることをすぐに理解する。
「……はっ、殿下、お任せを」
☆
……結局、それだけでは収まらなかった主の怒りは、危うく他の生徒の生活に支障をきたす……まあようするに、魔法というたいそうな武器を使って暴れた訳だが。
(学園中の全水道の水が全く出なくなるという、ご丁寧な大魔法を我が主が使われたことには、俺は驚きを隠せなかった)
そしてまあ、時は過ぎ。
(……どうして、こうなった……!?)
「ひ、姫さまぁぁぁっ……」
我が主(暴れたのとは裏腹に、今日はたいそう機嫌が良かったのは言うまでもない)とルナのご主人様の二人が、とても幸せそうな、見ていてこっちが胸焼けするような甘い雰囲気でお茶会をしている最中、薔薇園の外では、俺とルナと二人きりで護衛をしていた。
そこまではいいとする。
……だが、この状況はというと中を窺い見ていたルナが、突然泣き出したというわけだ。
「え、ちょ、ルナ!? 何で急に泣き出すんだ!」
小さい頃から侍女と騎士として、幼馴染といっても過言ではないほど一緒にいるルナ。
あまり涙は見せない気丈な彼女からは有り得ないほど、彼女は綺麗な茶色の瞳から大粒の涙をとめどなくこぼし始めたのだ。
「だっ、だって、悔しくないんですか!? アルベルト様と、クラリス様は、両おも」
「それはまだ言っちゃ駄目だから! 分かってはいるけど、あの人達遠回りをする上に鈍いんだから!!」
俺は慌ててルナの口から飛び出そうとした言葉を、俺のハンカチで封じ込める。
そんなルナはあろうことか、そのハンカチを、俺の手ごと握りしめて顔に押し付けた。
(ちょ、な、何やってんだ!? ルナ……!)
俺は慌てて手を離そうとした。
……だけど、小さな彼女の肩が震えているのが分かって、何も言わずにただ、空いた手で背中をさすって落ち着けることにした。
「……ルナ、俺達の主人は小さい頃から一緒にいるんだ。 何があったって、あの人達の絆を壊せる者はいないさ。
考えてみろ、アルベルト様がまず、クラリス様の手を離そうとはしない」
「……ふふっ、それもそうね」
ようやく泣き止んで、俺の顔を見上げて笑うルナ。
……その顔が泣き顔でも可愛い、なんて思う俺は、重症だろうか。
「っ、そ、それよりさ。 もし、俺にも力になれることがあったら、遠慮なく言えよ。
……お、俺は、その……ルナの、良き理解者でありたいと思ってるし」
「……! クレイグ……」
驚いたような顔をした後、ルナは又、綺麗に微笑んで「有難う」と言った。
「……あのね、クレイグ。
聞いて欲しいことがあるの。 ……クレイグも、きっと、アルベルト様から頼まれてるでしょ? ペンダントの件のこと」
「ペンダント……っ、何か知ってるのか!?」
俺の大きい声にビクッと肩を震わせるルナ。
「あっ……すまん。 その……アルベルト様も、俺も、力になりたいんだ。
もし、知っているのなら……その、教えてくれないか?」
ルナはこくりと頷くと、「クラリス様には、絶対秘密っていう約束をしたんだけどね」と言いながら、ポツリポツリと話し始めた彼女の話に、耳を傾けたのだった。
☆
「……そうか」
帰って早速、アルベルト様に報告すると、「思ったより早く情報が見つかって良かった」と呟いた。
「えぇ、本当ですね」
(これで漸く、アルベルト様のご機嫌斜め行動から解放される……)
俺にとってのこの収穫は、クラリス様の疑惑が晴れ、アルベルト様のご機嫌は治る……つまり、一石二鳥である。
よしっ、と心の中でガッツポーズをしていると、アルベルト様は椅子から立って、窓に歩み寄る。
「これでクラリスの疑いが晴れたな。 全く僕は信じていなかったけど。
……しかし、ここまでクラリスがお人好しだったとは」
そうアルベルト様は区切って、窓の外を眺める。
「……呆れましたか?」
俺の言葉に、ふっと笑って俺の方を振り返ると、何とも言えない優しげな表情を浮かべて言った。
「愚問だな。
……むしろ、惚れ直した」
クラリス様のことを本当に思っているのがよく分かるな、と幸せそうな顔をする主の顔を見て、俺も心が温かくなる。
思わず笑みがこぼれそうになったのも束の間、今日だって、クラリスが可愛すぎて辛かったんだぞ、と笑顔でクラリス自慢が始まろうとしていることに気付いた俺は、能面に戻り、主の惚気話を聞くたびに培ってきた“適当に聞き流す”スキルを使いながら、今日見せたルナの笑みを、思い出していた。
「……と、いうわけなんだが……おい、話を聞いているのか、クレイグ?」
長い長い惚気話の後、重大な任務を任された俺は「はっ、聞いております」と改まった口調で言った。
「……頼むぞ」
「お任せください、殿下」
そして新たに任された、重要な任務に、俺は胸に拳を当て、頭を下げたのだった。
次回、視点はクラリスに戻ります。




