14.悪役令嬢の残酷な宿命
「ミリア、さん……?」
呆然と呟いた私の視線の先には、アルが、ミリアさんを、お姫様抱っこしている姿。
その後ろにはルナとクレイグもいるけど、私はその二人よりも、アルとミリアさんの姿しか目に入らない。
そんな状況を目の当たりにして、私は頭が真っ白になって何も考えることが出来なくなる。
「っ、ミリア!? どうしたんだ!」
ローレンスは真っ先に、ぐったりしているミリアさんに駆け寄る。
(……私、私……)
……ミリアさんは、冷たい雨の中を、必死でペンダントを探していた。
なのに私は、ミリアさんが探している大切なものだと言うことを知っていて、持っていたペンダントを渡さず、罪悪感に駆られてローレンスに渡そうとしていた。
……そして何より……
(アルが、ミリアさんを、助けた……)
当たり前なことなのに、アルに抱かれたミリアさんを見て、私は嫌な気持ちが込み上げてくる。
……悪いのは、私なのに。
アルが、私以外の子を抱いている。
……アルは、私の、婚約者なのに……
(私は、一体何がしたいの? 何で、こんなことばかり考えてしまうの……?)
ミリアさんはうっすらと目を開けて、ローレンスの呼びかけに対して、ローレンス様? と、虚ろな目で答えた。
見るからに弱々しいミリアさんの声に、私は一気に目の前が真っ暗になっていく。
「……ペンダント、私のことは、いいから、ペンダントを……」
そう弱々しくも、強い口調でミリアさんがローレンスに向かって訴える。
ローレンスは、「それは大丈夫だよ」と私を指差して、口を開きかけた。
その時、私はローレンスの言葉を遮るように満面の笑みを浮かべて言った。
「貴女の探し物はこれ?」
「え……」
驚きの声を上げたのは、アルだった。
私の口調がいつもより強いことに驚いたんだろう。
周りにいたルナやクレイグ、ローレンスにシリル、ミリアさんも一斉に驚いた顔で私を見た。
(笑え、私。私は、 悪役令嬢のクラリス・ランドルよ……!)
「私、このペンダント、貴女から盗んだの。 ……だって、面白くなかったんだもの。
……そうやって、アルを……私の大切な人達を、奪っていく貴女が」
最後の言葉に、本心が混じる。
(汚い感情を持つ私。 これが悪役令嬢である私の、運命なんだわ)
……さあ、笑え。
こんな汚い感情を持つ私は、アルには似合わない。
だから、アルを、皆を、突き放すの……
「っ、何を言っているんだ、クラリス! さっき、教室から見つかったって言っただろう!? 何でそんなことを」
「あらローレンス。 そんなの、嘘に決まってるじゃない。
……馬鹿な人ね。 私と幼馴染をしていた時間は伊達かしら? 私は元々、こう言う性格よ」
ローレンスの、絶句した表情。
ミリアさんの、驚いた表情。
ルナとクレイグの、困惑の表情。
……そして、私は怖くて、アルの方には目を向けられなかった。
(あーあ、これで何もかもおしまい)
メリバフラグは、無事回収ね。
私はペンダントを床の上に置くと、「それでは皆様、ごきげんよう」と言ってその場を後にする。
途中で静止するアルの声がしたが、私は振り向かない。
それに、アルは追って来ようとはしなかった。
「く、クラリス様っ……!?」
追いかけて来た侍女のルナは、私の顔を見て、驚いている。
(……泣いているわ、私)
……こんなの筋違いよ。 私は、泣いたってもう、どうしようもないんだから……
☆
その後のことはあまり覚えていない。
校長に呼ばれて行くと、アイリスお姉様もいて。
何も答えずただ、大人しくしていたことだけは覚えている。
そして私は、一週間の謹慎処分を言い渡された。
「クラリス様、私は貴女様の味方です」
ルナは毎日、人形のように静かな私を見て、そう声を掛けてくる。
(……そんな悲しい表情、しないで)
泣きたくなるのをぐっと我慢する。
その言葉にも私は何も言わない。
彼女はそうしていれば、私から離れていくだろう。
……そう思って、耐えていた謹慎4日目のこと。
……気丈な彼女の茶色の瞳から、涙が零れ落ちた。
これには私も、驚きのあまり彼女を凝視してしまう。
「クラリス、様っ、ごめんなさい……! 私、私……! 何も、出来ない……お役に、立てない。
それが、悔しくてっ……」
私はそう言って、止めどなく涙を零すルナを見て、私は、自分が間違いだったことに、今更気が付いた。
(……傷付くのは、私だけじゃないのね)
「……ごめんなさい、ルナ。
貴女は、悪くないのよ。 ……悪いのは全部私。
こんな感情のせいと、あの時ペンダントを渡さなかった私が悪いのよ……」
「え……?」
私の言葉に、ルナは泣き顔のまま驚く。
私はハンカチを差し出すと、「落ち着いて聞いてね」と言って、ルナに全てを話した。
話し終えると、ルナはまたポロポロと涙を零す。
「そ、そんなの……! 姫様は、何も、悪くないですよぉぉぉ……! アルベルト、様は、ミリア様が、急に倒れたから驚いて、雨に濡れているから良くないと、運ぼうとしただけですから……!
姫様には悪いけど、ローレンス様の、大事な方が、風邪を引いたら、ローレンス様が悲しむから、とクラリスにもそう言っておいて、と言って、運んだだけなんですよぉぉ……!」
ヒック、ヒックと涙ながらに訴えるルナに、私は頭を撫でながら「その言葉だけで、十分だわ」と言った。
「このことは、誰にも言っては駄目よ。 アルにも、お父様にも、ローレンス達にも。
絶対に、秘密。 これは命令よ」
「っ、でも、それではお嬢様が……!」
「これ以上、私は誰も傷付けたくないわ。 ……悪役令嬢の私が関わることで、皆を傷付けたくないの。 伯爵家の御令嬢にこんな処罰が下ったら、その後の学園生活で彼女がいじめられてもおかしくないわ。
私は大丈夫。 魔力が弱いことで散々言われていたし、まだこの国の姫という立場があるから、目立っては何も起こらないわ。
それより、ミリアさんにとばっちりがかからないよう気にしなくては。 ……ルナ?」
私の言葉に、ルナは急に抱きついてくる。
「ひ、姫様は良い人過ぎますぅ〜……! 私は、一生姫様の味方ですから!! 絶対、姫様から、離れたりなんかするものですかぁ!!」
「っ、ふふっ、ルナ、頼りにしているわ。 ……私は、貴女がいれば、幸せよ。 十分すぎるくらい」
「そんなの、私のセリフですからぁ……!」
いつまでも泣き止まないルナに、私まで泣いてしまう。
二人でしばらく、抱き合ったまま泣いていた。




