12.夜会編 ー覚悟と宿命ー
アルと二人、開けられたドアの方を見れば、「あ……」と何故だか驚いたように立っている、ルナとクレイグの姿があった。
そんな二人を見て先に口を開いたのは、声を低くして怒るアル。
「……お前達、ノックくらいしろ」
「……もしかして……お邪魔でした?」
出直そうか、というクレイグの言葉に、アルは「そういう問題ではない」と間髪入れずに心なしか冷めた口調で言うアル。
私はどうしようか迷った後、視線でルナに助けを求める。
するとルナは、クレイグとアルを交互に窺うように見ながらおそるおそる口を開く。
「アルベルト様、姫様はお風邪を引かれていますので、このままではちょっと……」
あ、お風邪でない時は全然大歓迎ですよ!と慌てて付け足す私の侍女。
……いや、それは何のフォローよ!?
(最後のフォローはむしろいらないわ!)
私はアルに支えられた状態のまま心の中で突っ込む。
それなのにアルは、「あぁ、そうだな」と私をお姫様抱っこしてベッドまで運ぶ。
「では私は、姫様が何か召し上がることが出来るものをお持ちしますね。
アルベルト様、姫様のことを宜しくお願い致します!
……クレイグも! ほら、行くよ!」
「え、いいのか?」
戸惑ったようなクレイグを引っ張るように、ルナは私に何故か意味深な笑みを浮かべて行ってしまう。
(……これは後で質問攻めされるわ、間違いなく)
私は少し溜め息をつきながら、掛け布団を掛けてくれるアルに、「有難う」と小さく言った。
アルは私の頭を撫でて、又いつもの温かい表情で私に言った。
「……クラリスは……いや、この話は又今度にしよう。 君が気が付くまで、僕は幾らでも待つよ。
……いやでも、それだと今までと同じで気が付かないか」
「? 何のこと……っ!?」
私の額に、アルの少し冷たい唇が触れる。
(い、いいい今! き、きききキスした!?)
私のパンクした頭をよそに、アルは満足そうに笑って「覚悟しててね」とどこか色気を醸し出しながら言う。
(か、覚悟しててね、なんて言われても……! な、何を!?)
「かっ……え、な、何を……?」
「だから、それは教えないって。
……頑張って、言葉の代わりに態度では示すけどね?」
「っ……」
“態度”という言葉を強調して、今度は髪に口付けるアル。
……一体、私の心臓に悪いことをして、何がしたいのか。
その真意は、いくら考えても分からなかった。
☆
「ひゃぁぁぁお嬢様、やりましたね……!」
「は!? 何が!?」
夜会から2日後。
私は丸1日寝込んで起きなかったため、2日後にようやくルナと落ち着いて話をすることが出来た。
アルとのやりとりを案の定問い詰められた私は、悪役令嬢の話をするより先に、アルとの件を半ば強制的に話をさせられた。
その話を聞いたルナは、何故か発狂しだしたから、私は驚きのあまり王女として取り繕うのも忘れて素で驚いてしまう。
そんな私に構わずに、ルナはうっとりとしながら空を見上げた。
「はぁぁアルベルト様やっぱり恰好良い……!」
「……あれ、確認するけれど、あなたが好きなのはクレイグよね?」
ルナの言葉はまるで、前世の私のようね、なんて思いながら一応聞いてみると、顔を真っ赤にして怒り出すルナ。
「ちょっと姫様! それはしーっですよ!!
それに私は、アルベルト様と姫様のれん……ゔっゔん、ご関係が大好きなのですよ!!」
分かりましたか! なんて大声で叫ぶように言うルナの言葉を聞いて、少し頭がキーンとしながらも、ルナが言おうとした言葉が引っかかって尋ねる。
「え、ルナ、咳払いをする前に何か言いかけなかった? れん……って」
「さぁ? 気の所為じゃないですか?
……それよりも、あの後のことですよ! ミリアさんのこと」
「……はぐらかされたような気もするけど……まあいいわ。 そう、あの後はどうなったの!?」
私の言葉に、ルナは細かく説明をしてくれた。
長いので簡単にまとめると、
私が倒れた後、皆騒然となった。 見るからに魔力の使い過ぎだと気が付いていたお父様が、アルにそのまま私を連れて城内の部屋に連れて行くよう指示したらしい。
(……その後、アルベルトと私の仲はれっきとした婚約者で、仲がとても良いと大騒ぎになったとかならないとか)
そして、ドレスが汚れてしまったミリアさんには、お父様が直々に謝罪をして、新しい私のドレスをあげるよう、ルナに言ったらしい。
「……お父様にまで、ご迷惑をかけてしまうなんて……」
「その件では、“クラリスなら出来るからと無理をさせてしまった私が悪かった”と申し訳なさそうに皆さんの前で仰っていました。 なので、姫様は心配しないように、と前王様は気遣っておいででした」
「そんな! ……元はと言えば、私が大魔法を使いたいと、反対を押し切って願い出てしまったのが悪いのに……」
「でも、クラリス様のお陰で演出はたいそう評判が良かったのんですよ。 これなら、前王様の代わりを務められると」
……お父様の代わりだなんて、とんでもないわ。 私は無理して魔力を使ったんだもの。
「……今回は、お父様にとても感謝ね。
元気になったらすぐ、お父様にお詫びをしに行きたいわ」
「そうですね。 私もそれがよろしいかと。
……そうそう、それでですね、ミリア様のことで面白いことが起きたんです。
知りたくないですか?」
「? ミリアさん……あぁ、大体想像がつくわ」
“聖ランドル王立学園”のゲームの記憶は思い出せないけど、きっと乙女ゲームの展開的には、誰かしらのエンドに刻々と近づいているに違いない。
そう思ったけど、ルナの話は想像以上だった。
「ミリア様に、私とクラリス様が選んだドレスを着て頂いたらとてもお似合いだったんですよ! ミリア様の侍女の方がお化粧を、私は髪型を任されたので、私頑張ってしまいました!
……そうしたらですね、なんと、会場中が盛り上がってしまって!
それだけでは収まらず、ローレンス様自らエスコートを名乗り出て、3回もダンスを続けて踊ったんですよ!」
「!? まあ! それは……」
……ローレンス、凄いわね。
夜会でのダンスは、4回以上踊るのはマナー違反とされている。
そのため、3回が回数的には最も多いことになるのだけれど、回数が多ければ多いほど、本命となる。
私は今まで、ローレンス自ら指名して踊るのも、2回以上踊る相手ですら見たことがなかった。 元々国が違うからそう夜会では会えていないのだけれど、そういう噂も聞いたことがなかった。
だから今回、ミリアさんと3回も踊った、ということで2人は一気に距離が縮まったことになる。
「……良かった」
「え……?」
無意識に出た言葉に、ルナは驚いたように私を見る。
「……実は、さっきさらっとしか言ってないから気が付かなかったようだけど、私、思い出したの。 バッドエンドが何か。
……それはね、アルとの婚約破棄、だったの」
「……! やっぱり、そうですよね」
ポツリと呟いたルナに、私は「え、知っていたの?」と聞く。
「いえ、そうなんじゃないかな、とは思っていました。 お嬢様が婚約者、しかも悪役令嬢といえば、そういうネタは付き物ですよ」
「……そうよね」
しんみりとした空気が出来てしまったのに気付いたルナは、慌てて拳を握って力説する。
「でも良かったですよ! フラグは今のところ、ローレンス様です!! 嬉しくないですか!?」
「……今思ったけれど、もしこれでメリバフラグが回収されていたとしても、私が悪役令嬢を演じる限り、アルに嫌われたら最後、婚約者ではいられなくなるのではないかしら」
……言っていて、辛くなる。
この先ミリアさんは、3回踊ったことで余計に注目の的として、また、御令嬢方の標的として、私以外からも苛
められることになる。
その中で私は筆頭として、苛めなければならない。
それが、悪役令嬢として転生した、私の“宿命”だから。
「……姫様」
かける言葉を失ったルナは、落ち込む私を見てただただ、黙って私を見つめていた。




