10.夜会編 ー演出②と2つ目ー
動物達の演出が終わり、会場からワッと拍手が起こる。
(……次はいよいよ、ドラゴンの演出ね……!)
ドラゴンもまた、有名な伝説の生き物であり、この国の守護神とされている。
そして、ここでは私が、重要な役目を務めることになっている。
……又それは、新たな試みでもある。
(絶対、成功させて見せるわ……!)
「クラリス、準備はいいか?」
「はい、お兄様」
お兄様に向かって頷くと、「では、行くぞ!」とお兄様は高らかに、指先から大量の火を天井の方に目掛けて放出する。
私やアイリスお姉様、ランドルの火の使い手達と共に、お兄様の後に火を放つ。
集まった火は、やがて大きな1匹の龍となる。
本来は、そのドラゴンを天井の真ん中にある大きなシャンデリアに灯して終わり……なのだけれど、そのドラゴンを今年は分裂させ、2匹の龍に分ける。
分裂した1匹のドラゴンは、本体のドラゴンに負けじと大きく、会場の天井を一周するように舞う。
その光景に驚いた会場の人々は、舞台上の私に注目した。
……そう、分裂させたのは、私から放った火のみ。
私は一先ず成功する、と心の中で確信すると、一瞬ドラゴンを消したように見せ、窓の外に飛ばす。
そのすぐ後、外でドンッドンッと、続け様に大量の花火が上がる。
その光景に、会場中がワッと湧いた。
……勿論、アルも驚いた後、私に向かって何とも言えない表情で微笑んだ。
その表情に見惚れていたのも束の間、もう一体のドラゴンは、シャンデリアに吸い込まれるように火を灯し、一気に会場内を明るくした。
……こうして、大歓声に包まれたランドル家の演出は、幕を閉じたのだった。
☆
演出が終わり、いよいよ悪役令嬢を演じにミリアさんの元へ……!
と思っていたのに、私は終わってから一時間ほど、ずっと王家として途絶える事のない数の来賓に御挨拶をしていた。
(……演出を派手にやってしまったからね……)
お兄様から「クラリスへの注目度は間違いなく高くなるはずだ」とは言われていたけど、こうも露骨だと嫌気がさしてくる。
(今まで見向きもしなかったくせに)
そんな嫌な感情でさえ出てきてしまう。
「クラリス、後は良いから君はお友達のところへ行っておいで」
「え、でも……」
「大丈夫だから」
お兄様は私にそう言って笑う。
「今は学園生活で、大切な思い出を作る時間だ。 ……私も、友人と過ごした学園の思い出は、大切な宝物だからね」
「お兄様……」
ほら、行っておいで、と大きな手が背中を軽く押す。
私はお兄様に淑女の礼をし、来賓の方にも淑女の礼をすると、まずはルナの元に足早に歩いて向かう。
「クラリス様、こちらです」
そうルナに手招きされると、ルナは「素敵でした!」と私に小さく拍手をした。
「有難う、ルナ」
「いえいえこちらこそ! 小鳥も子犬も、とても可愛かったです!」
「……実は、小鳥はルナをイメージして、子犬はアルをイメージしたのよ」
「えぇ!? 私が小鳥!?」
ルナは驚きながら、「アルベルト様は納得ですけど!」と付け加えて言ったことに、ぷっと吹き出す。
「……そろそろ、ミリアさんの所に行きましょうか」
私の言葉に、ルナはテーブルに並んだ豪華な料理を指差して言う。
「姫様は何も召し上がらなくてよろしいのですか?」
「えぇ、あまりお腹が空いていなくて」
「えっ、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。 ……それよりも、悪役令嬢としてのお仕事もしなきゃ」
そう言ってキョロキョロと辺りを見回すと、「あ、発見しました!」とルナが私の腕を引っ張って指差す。
「丁度一人のようね」
周りには目立つ4人(攻略対象)はいない。
……どうやら、同じく隣国の王家のため、挨拶回りをしているらしい。
「……ではクラリス様、これを」
そう言って差し出された、グラスに入ったオレンジジュースを、私は「有難う」と受け取って、ミリアさんの所へ向かう。
歩いている最中、視線が無意識にアルを見つけた。
(あ、アルいたわ)
……アルは、御令嬢方に囲まれている。
(流石はアルね)
そんなことを冷静に思いながら、チクリと胸の奥で何かが刺さったように痛くなる。
(……変ね、どうかしているわ、私)
……風邪でも引いたかしら。 なんて思っていると、何やらルナの叫び声が聞こえた。
と、思ったら、足から急に、力が抜ける。
(あ…れ…)
……頭が、グラグラする。
気が付けば、うつ伏せで床に倒れこんでいた私。
起き上がらなくては、そう思っても体が動かない。
視界には、私が手に持っていたジュースで、ドレスの裾が汚れているのにも関わらず、私の名を呼ぶミリアさんの声。
……悪役令嬢としてのお仕事は、成功……?なのかしら、これは……
ぼんやりと、そんなことを考えてみたけど、頭が上手く働かない。それどころか ……
(……声が、遠い……)
遠のていく意識の中で、いつも聞いている落ち着く声が、私の名前を呼びながら、温かく私を包み込んだ。
……それがアルだ、と気付いたのを最後に、私の意識はそこで途絶えた。




