表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/21

第四話:盗賊の縄張り

 女王陛下の誕生から一夜が明けた。今、ゼルクは鍛冶場まで来ていた。狙いはもちろんメリルだった。約束どおりならばメリルは既に鍛冶場にいる筈だ。あ・・・・・・メリルを見つけた。


「おーい! メリルちゃーん!」


 ゼルクが心踊るような気分のままに云った。はっきり云ってゼルクはデートをしに来た訳ではない。なのにこの浮かれっぷりはなんだろうか。いや。まだ云うには早かっただろう。


「あ! ゼルク様! こっちです! こっち!」


 どうやらメリルは待ち合わせ場所から動く気はないようだ。メリルはゼルクを呼んだ。それも楽しそうな雰囲気で。メリルは片手を上げて左右に振った。非常に目立つ行為だった。


「・・・・・・メリルちゃん。んじゃ行こうか。早速」


 ゼルクは沈黙の際にメリルと握手が出来る距離まで近付いた。そして立ち止まると話し掛けた。やはりなぜだか浮かれているような気がした。だがゼルクに悪いと云う思考はない。


「お? 来たのか。メリル。粗相のないようにな」


 と急に二人の中にガッツが入り込んできた。ガッツはメリルのことを信じていない訳ではなかった。だけど万が一のことで粗相があってはいけないと念を押した。ガッツの気配りだ。


「うん! お祖父ちゃん! んじゃ・・・・・・行って来まーす!」


 メリルはガッツの云った言葉を鵜呑みにした。メリルにとって野鳥の巣へと行くことは日常的だった。だから迷子にはならないだろう。しかし外の世界には悪い人間もいる。確実に。


「おう! 気を付けてな~」


 ガッツは手を振っていた。だからメリルも上半身だけガッツの方に向けて手を振っていた。そしてすぐさまにメリルは前を向いた。ゼルクはその光景を見ていた。大丈夫。護るから。


「なぁ? メリルちゃん。外はそんなに危険なのか」


 ゼルクは外に出たことがなかった。生まれも育ちも王家の傘下だった。だからゼルクは外について凄く敏感だった。いくらなんでも今の自分の知識では情けなかった。外が気になる。


「危険です。外に出る時はいつも護衛を雇う程です」


 メリルがゼルクと歩きながら云っていた。メリルの言葉を聴いたゼルクは思った以上に外は危険そうだなと思い込んでいた。わざわざ護衛を頼む程に外は危険なのかとも思っていた。


「どうして護衛を雇ってまでも外に行くんだ?」


 ゼルクにひとつの疑問が浮かび上がっていた。どうして外が危険だと分かっているのに出たがるのか。凄く疑問に思った。だけどもしかしたらゼルクの疑問は世間離れしているのか。


「そうですね。ひとつはお小遣い稼ぎとでも云いましょうか」


 メリルはまだ十歳半ば以下だ。それなのに危険な外に出るなんて凄まじい環境だなと思った。ゼルクの十代半ば以下の時はいつも親の重圧に耐えながら修行をしていた。違いすぎる。


「お小遣い稼ぎか。・・・・・・命懸けだな」


 ゼルクとはある意味で正反対なメリルだった。メリルに比べてゼルクは修行をしているとは云え温室育ちだ。これではどちらに武があるのかが分からない。いや。比べるのは変か。


「でも・・・・・・きっと大丈夫なんです。だって・・・・・・いつもはグレイズ様が付いて来て下さいますから」


 メリルはどうやらグレイズの腕前を信用しているようだ。しかし今回だけは違ったようだ。今回はゼルクが護衛をしなければいけないようだった。ゼルクは思わず固唾を飲み込んだ。


「そうか。グレイズさんは良い人なんだ」


 ゼルクはそれとなく云った。ゼルクにとってグレイズはまだ会ったばかりの人物だ。だけどメリルが云っていることを聴いて見ると凄く良い人で腕前もあるそうだ。頼もしい限りだ。


「はい! それはもう! かなり!」


 急にメリルのテンションが上がった。そうか。メリルちゃんにとってグレイズさんは唯一に頼れる存在なんだとゼルクは思った。そんな仲と比べてゼルクとメリルにはまだなかった。


「そうか。俺も・・・・・・グレイズさんみたいになれるかな」


 ゼルクは比較的にメリルに対して優しく云ったつもりだ。二人の間はギスギスしていないので余り関係がないが。それにしても二人に慌てる様子はなかった。どうやら歩きのようだ。


「はい! どうか私を護って下さいね! ゼルク様!」


 メリルはゼルクの方を見ながら満面の笑顔になった。心なしか。ゼルクはドキッとした。こんなにも笑顔が似合う女の子に出会ったのはこれが初めてだった。ゼルクの目線は逸れた。


「ところでさ。野鳥ってどんな魔物なの?」


 ゼルクは話を逸らすように云った。目線も逸れているがそれとなく云っていた。でもゼルクは気になることをメリルに訊いてみた。確かにゼルクは一回も野鳥を見たことがなかった。


「えーとですね。大きさは人間よりもあります。たまに巣から離れることがあるのでそこを狙いましょう」


 メリルは唇に右手の人差し指を当てながら云っていた。途中からは元の状態に戻して云っていた。どうやら野鳥の卵を取る時は巣から離れた時を狙うらしい。なんともずる賢かった。


「分かった。巣から離れたところを狙うんだな」


 ゼルクはメリルの云った言葉を耳に入れて理解した。確かに戦わずに済むならばそれに越したことはない。ゼルクはすっかりもどかしさを忘れていた。だから凄く自然体に喋っていた。


「・・・・・・あ! それとこれはグレイズ様が云っていたことですが最近は野鳥の卵を狙う盗賊もいるとか。だからより一層に気をつけましょう」


 メリルは沈黙の際にグレイズから云われていたことを思い返していた。完全に思い返すと声を挙げた。すると急に淡々と喋り始めた。メリルの両目に力が入ったのが分かった。盗賊か。


「すまない。メリルちゃん。盗賊ってなんだ?」


 ゼルクはここでも温室育ちの知識不足が出た。本当にゼルクは姫様ことローゼリア女王陛下をお守りすることだけしか脳がないのか。これでは先が思いやられるのは時間の問題だろう。


「え? ・・・・・・盗賊と云うのはですね。物を盗んだり縄張り争いをしたりする悪い人達です」


 最初はゼルクの知識不足に困惑していた。しかし沈黙の内にメリルはなんとか持ち直した。そしてゼルクでも分かりやすいように説明し始めた。なんともメリルは面倒臭がらずにいた。


「そんなことをする奴がいるのか。外は思った以上に危険だな」


 ゼルクはにわかに信じられなかった。でもメリルちゃんが云うのだから本当なのだろうと思っていた。ゼルクはどこか武者震いが起きた。なぜなら魔物よりも人の方が恐ろしいからだ。


「はい! ですからゼルク様に護って頂きたいのです!」


 凄く威勢良くメリルちゃんは云ってくれた。ゼルクは心の奥底でどこかに火が点るのを覚えた。なんだろう。この感覚は。姫様の時とは違うなにかが猛烈に燃え始めた。今にも広がる。


「メリルちゃん。俺・・・・・・頑張るよ」


 ゼルクの心の中の火は広がり見せた。密かなやる気へと変わって行った。ゼルクにとってメリルは最早妹みたいな存在だった。だからこそにゼルクは護ろうとした。絶対に護るんだ。


「はい! 宜しくお願いします!」


 まただ。メリルは満面の笑顔だった。ゼルクはまるで弓矢で射抜かれたかのような衝撃を覚えた。もしゼルクに妹がいたのならこんな感じなのかなと思っていた。ゼルクは恋しかった。


「俺・・・・・・メリルちゃんを絶対に護るから」


 ゼルクは歩きながら両手を握り締めた。心なしか。今にも歯軋りも起こりそうだった。ゼルクにとってメリルはもう既に義理の妹と化していた。ゼルクはメリルの信頼を得るだろうか。


「はい!」


 また満面の笑みだった。最早好循環しか生まれなかった。ゼルクはこの笑みを護る為なら命懸けでも良いと思った。こうしてメリルちゃんに出会えたことが幸せだと思った。勝たねば。


「あのさ。メリルちゃん」


 ゼルクは照れ臭いがとっくの昔になくなったのでメリルの方を見た。ゼルクとメリルの間に緊張と云う二文字はなかった。だからゼルクは頬が緩んでいた。心なしか。目付きが優しい。


「はい? なんですか」


 メリルは普段通りの声量でゼルクの次の言葉を聴く準備に入った。メリルはゼルクに訊いて見た。この時のメリルもまたゼルクと好循環の影響で会話が楽しそうだった。良い感じだ。


「今日は天気が晴れで良かったね」


 ゼルクの心も晴々としていた。ゼルクは凄く今の時間が平和で楽しかった。これからもこのままの関係でいたいと思う程だった。だけど今は姫様ことローゼリア女王陛下の為に働こう。


「そうですね。雨なら地面でぬかるんで走り難いですから」


 メリルに緊張の面影はなかった。どうやら二人共凄く好印象を持ったようだ。決して好きとか嫌いとかではなく。純粋に信用しても良いのではの空気が流れ始めていた。本当に凄い。


「んじゃ天気が変わらない内に向かおう。メリルちゃん。走れるかな」


 ゼルクはこの空気を利用して走って行くことにしようとした。もちろん。それもあるがアーマデラスとの剣の稽古のことも考えると早く終わらせた方が良かった。実に合理主義だった。


「はい! それでは走って向かいましょう! ゼルク様!」


 メリルはゼルクの言葉通りに動こうとした。だけどその前に返事をしないといけないと思い動かなかった。だけど云い終わると先導する為か。メリルは急に走り始めた。追いかけた。



 ゼルクとメリルは野鳥の巣辺りまで来ていた。すると既に野鳥が巣の周りにいた。一羽の野鳥は巣の周りを警戒しながら歩いていた。どうやらもう一羽はどこかに飛んで行ったようだ。


「いました。あれが・・・・・・野鳥です」


 ゼルクとメリルは野鳥に見つからないように遠目で見ていた。しかもばれないように森の草木の合間に居座るようにいた。野鳥は視力が悪いのか。こっちが見えていないようだった。


「あれが・・・・・・野鳥か。結構でかいな」


 ゼルクの内心はややビビッていた。なんせこれが初めての戦いだったから。ゼルクは野鳥が云われたとおりの大きさにしても大きいと感じた。もし戦うとなれば骨が折れそうだった。


「はい。卵もそこそこ大きく。今日は大きめの入れ物を持ってきました」


 メリルは野鳥の卵の大きさを知っていた。だからメリルは大きめの入れ物を持ってきていた。肩から腰に掛けての入れ物はメリルに凄く似合っていた。それはもうお洒落に見える程だ。


「それは助かる。・・・・・・それで? 今は待つだけなのか」


 ゼルクは入れ物を持っていなかった。だからゼルクにとってメリルの機転は凄く助かっていた。ゼルクはメリルに訊いてみた。もし今は待つだけならばゼルクは相当に暇になりそうだ。


「はい。待つだけです」


 メリルは淡々と云った。メリルにとって待つことは慣れていた。ただし一人で待っていたことはなかった。いつもグレイズがいたから待てた。グレイズもまたメリル同様に慣れていた。


「・・・・・・待つだけでも骨が折れそうだな」


 ゼルクはもどかしい沈黙になっていた。ゼルクは密かに待つのと狩るを天秤に掛けていた。その結果は狩りたいだった。だけどメリルのことだから待つを選びそうだった。仕方がない。


「そうですね。でも狩るのは可哀想ですよ」


 メリルがどうして野鳥を狩るのが可哀想と思ったのか。それは単に血生臭いのが苦手だからだ。だからメリルはお肉などが苦手だ。たとえ貴族になっても食べたいとは思わないでいた。


「分かっている。・・・・・・だが命に関わることは見過ごせないな」


 ゼルクはメリルに嫌われたくなかった。だからメリルの言葉を鵜呑みにした。どっちにしてもゼルクは分かったと云いそうだった。そもそもゼルクもお肉はそんなに好きではなかった。


「そう・・・・・・ですね。その時が来ないように祈っています」


 さすがに自分の命が危険になっていればメリルでも殺してしまうようだ。だけど出来ればそんなことが起きて欲しくはないと祈り続けるようだ。なんて慈悲深い女の子なんだ。聖者か。


「なぁ。メリル。野鳥の卵は良いのか」


 ゼルクは軽めに訊いてみた。ゼルクは野鳥が駄目で卵は良いのかと考えた。だからゼルクはメリルに訊いていた。確かに・・・・・・どうして野鳥は駄目で卵は良いのだろうか。訳ありだな。


「いいえ。本当は食べて欲しくはないんです。でも・・・・・・お祖父ちゃんや病気がちなお母さんに食べて欲しくて」


 メリルの本当のところは卵すらも食べて欲しくはなかった。だけどいつもお世話になっているお祖父ちゃんや病気がちで看病の要るお母さんに食べて欲しかった。なんて良い子なんだ。


「・・・・・・そうか。なんか。すまない。要らないことを訊いた」


 ゼルクは耳に入れたことを凄く後悔した。なぜならメリルの言葉を耳に入れた瞬間に自分の親が脳裏を過ぎったからだ。つまりゼルクの母親も謎の奇病によって寝る生活をしていた。


「良いんです。あ・・・・・・野鳥が――」


 メリルはそこまで気にしてはいなかった。それよりもふとメリルが野鳥の方に顔を向けると野鳥が今にも飛んでどこかに行きそうだった。ゼルクとメリルはなんて運が良いんだろうか。


「うん? お・・・・・・どこかに飛んで行くようだ」


 ゼルクもメリル同様に野鳥を見た。すると野鳥は羽ばたいてどんどん真上に昇っていく。しかしここで動けばばれる可能性があった。だから興奮しても絶対に動かないことが重要だ。


「やった。今の内ですよ。ゼルク様」


 メリルは自分の運の良さに歓喜した。まさかこうもあっさりと行くとは思ってもいなかった。普段と云うか。たまに野鳥が交互に飛び交うのを見ていた。だから今日は楽な方だった。


「ああ。そのようだな。ただもうちょっと待とう」


 ゼルクは今行って見つかるのは得策ではないと考えた。だからゼルクは最後まで野鳥を見送るようだった。そもそも空を見上げても邪魔者はいないと感じ取った。これなら行けるぞ。


「はい!」


 メリルは威勢の良い返事をした。メリルは本当に自分自身の運の良さに嬉しくなっていた。今は凄く気分が良いので良い人と会話をするとさらに気分が良くなった。今日は最高だった。


「良し! ・・・・・・そろそろ大丈夫だろう。行こう。メリルちゃん」


 ゼルクは最後まで野鳥を確認すると沈黙に入った。沈黙が終わった頃には野鳥はどこかに飛んで行った。だからもう大丈夫とメリルに野鳥の巣まで行こうと云った。気分が良すぎた。


「はい!」


 メリルはこの運命を共有出来たことでゼルクを信用し掛けていた。メリルにとってゼルクはグレイズと被せるところが増えたように思えた。メリルはゼルクのことも好きになっていた。


「それにしても案外楽に終わりそうだな。なぁ。メリルちゃん」


 ゼルクが待ってからそんなに時間が経っていない。と云うことはどう考えても今回は楽だったとしか云いようがなかった。だからゼルクは凄く真面目ながらに楽しそうな声音だった。


「そうですね。たまに夫婦が飛び交う時がありますが今回は楽ですね」


 メリルは知っていた。それもそうだろう。ゼルクと違って何度もここに足を運んでいるのだから。どうやらメリルから見ても今日は楽な日のようだ。本当に野鳥の姿はない。幸運だ。


「そうか。そんな時があるのか。にしても戦わずに済んだのは大きいな」


 ゼルクはメリルの前を歩いていた。もう隠れる必要がないので屈むことはせずに普通に立って歩いていた。ゼルクは戦わずに済んだことを素直に喜んだ。なんでも楽な方が良い筈だ。


「はい! それもこれも我慢のお陰です!」


 メリルはゼルクの後ろを歩きながら云っていた。メリルは全て我慢のお陰だと思っていた。ゼルクもまた我慢はこんなにも忍耐の要ることなんだと再認識した。我慢比べは疲れるが。


「はは。本当に我慢だけで乗り切るんだから驚かされるよ」


 ゼルクは余裕を持って笑っていた。本当に楽だなと思っていた。まさか我慢だけで乗り越えようとするなんて凄い衝撃だった。これは弱いメリルなりの考えだった。運も掴んでいた。


「・・・・・・我慢か。メリルちゃんには凄いことを教わったよ」


 ゼルクは前の巣ばかり気にしていた。だからメリルの返答が来ないのに違和感を覚えなかった。この時のゼルクはメリルよりも巣の卵を今度は気にしていた。卵の味も気になった。


「まさか我慢で卵が手に入るなんてね。素晴らしい考えだよ」


 その証拠にゼルクはメリルの返事を待たずにマシンガントークをし始めた。この時のゼルクは本当に巣と卵のことばかり考えていた。ゼルクは一歩一歩と野鳥の巣に近付く。慎重に。


「さてと・・・・・・んじゃあ卵を頂きますか。メリルちゃん。・・・・・・うん? メリルちゃん? どうかしたの?」


 ゼルクが野鳥の巣に着いた。野鳥の巣は木の枝や藁で出来ているようだ。きっとどこからか持って来たのだろう。それにしてもゼルクは二回目の沈黙の時に違和感をやっと覚えた。


「な!? メリルちゃん!?」


 だからゼルクは後ろに振り向いた。するとそこにいたのは口を塞がれて身動きが取れないようにされたメリルの姿だった。しかもメリルを捕まえた奴以外にもう二人が左右にいた。


「うへへ。これは上玉じゃないか」


 メリルを捕まえた奴が云った。メリルを捕まえた奴は不健全な考えを持っていた。だけどゼルクは世間体知らずなので要約してなにを云っているのかが分からないでいた。悔しいが。


「だ、だれだ! お前達は! メリルちゃんを放せ!」


 とにかくゼルクはメリルを放せと云った。ゼルクは世間体知らずなので話し合いをしようとした。普通に考えれば話し合いで解決すれば始めからこのようなことはしないと思えた。


「ふん! 男に用はない! おい! お前達! やってしまえ!」


 やはり真ん中の男はメリルを放すつもりはないらしい。しかもゼルクに対してやっつけてしまえと云ってきた。それだけに止まらずに真ん中の男はメリルを抱き抱えたまま逃走した。


「お! おい! 待てよ! おい!」


 ゼルクは慌てて追いかけようとするが残りの二人に遮られた。ゼルクの言葉はずさんにも断られた。ゼルクはどうしてあの時にメリルちゃんを先に行かせなかったのかと後悔した。


「ここから先は行かせねぇ。あれは親分への手土産だ」


 左右の内の一人が云った。どうやらこいつらには親分と云う格上がいるらしかった。ふとゼルクはメリルに云われたことを思い返した。それはこいつらが盗賊なんだろうかだった。


「なに!? く・・・・・・まさか! お前達が盗賊か!」


 ゼルクはどうして驚いたのかと云えば敵だと確信するようなことを云われたからだ。ここでようやくゼルクはこいつらが盗賊であることを確信した。だからゼルクは訊いた。律義に。


「ぐへへ。今死ぬような奴に話しかけるどおりはねぇ!」


 すると左右の内の一人が不気味な笑いを腹から出した。そしてサーベルを抜いた。しかもそれに追随するようにもう一人もサーベルを抜いた。どうやら貫くタイプの使い手らしい。


「く! やるしかないのか!」


 ゼルクは先端が針のように尖っているサーベルを見て云った。ゼルクは戦うことに対して嫌な汗が出てきた。それにしても敵の二人はゼルクの武器がないことに気が付き始めた。


「ふはは! 騎士のくせに剣を持っていないとはなぁ! 名折れ君かな」


 ゼルクに武器がないことは最早一目瞭然だった。そんな状況を敵の二人は理解した。だから敵の二人共高笑いをした。しかもゼルクが騎士の鎧を着けていることで見抜いたようだ。


「なにを!? ・・・・・・お前達・・・・・・後で後悔するなよ」


 ゼルクは悔しかった。どこの馬の骨かも分からないような奴らに侮辱されたことが相当に来たようだ。言葉と言葉の応酬だ。これではいつでも戦いになっても不思議ではなかった。


「なんだと!? 俺達が剣も持っていないようなお前に負ける訳がないじゃないか。もう良い。戯言はここまでだ。さぁ! ここからが本番だぁ!」


 ゼルクの言葉が嫌でも耳に入ってくることに二人の内の一人が切れた。だから二人の内の一人が云い終わるといつでも貫けるポーズをしながら突っ込んできた。ゼルクは受け身だ。


「・・・・・・な! なんだとぉ!?」


 突っ込んできた盗賊が沈黙の間にゼルクの前までやってきてはサーベルで貫いてきた。このままではゼルクは貫かれると思った矢先ゼルクは魔力剣を出現させた。ギリギリで防いだ。


「ふはぁ。私の眠りを妨害したのはだれ?」


 ビビーが不機嫌そうに云っていた。しかもビビーは寝起きだった。だからビビーは眠たそうに右手で頭をポリポリと掻いていた。実にやる気がなさげだがこれでもビビーはやる気だ。


「ば! 馬鹿な! な! なんで! こいつが剣なんて持っているんだ!?」


 サーベルで貫こうとした盗賊はすぐさまにサーベルを引いた。そして驚きながら後ろに引き下がっていった。すると盗賊は間髪入れずに驚いたことを云い始めた。盗賊は畏怖の嵐だ。


「ねぇ? 聴いてる? だれが私の眠りの妨害をしたの?」


 ビビーはだれが私の眠りを妨害したのかと不機嫌そうだ。ビビーの眠りを妨害したのは当然盗賊達だった。ビビーは寝起きなので云われないと分からない部分があった。説明不足だ。


「しかもなんだぁ!? このチンチクリンはぁ!?」


 盗賊達は最早それどころではなかった。摩訶不思議な光景を目の当たりにしたのだから混乱していた。どうして急に剣が出現したのか。そしてどうして目の前に変な生物がいるのか。


「ちょっと! それって! 私のことぉ? あーむかつくぅ! ねぇ! ゼルク! こいつらやっちゃってよ!」


 ビビーは切れた。それもそうだ。ただでさえ安眠を妨害されたのにその上にチンチクリンとまで云われたら切れるに決まっていた。ビビーは切れたのでゼルクに対して退治を求めた。


「云わずともやるつもりだ」


 実にクールだった。ゼルクはメリルを救う為に全力で行くつもりだった。一刻も早くメリルを助けなければどこに連れ去られるかが分からないでいた。いや。もう既に見失っていた。


「気をつけろ! こ、こいつ! 変な剣を持っているぞ!」


 だからこそに情報を訊きだす為に生かす必要があった。もし万が一殺してしまえばメリルの所在の検討が付かなくなる。もの凄く力加減をしなければいけなかった。良い練習相手だ。


「殺さない・・・・・・か。俺に・・・・・・出来るのか」


 ゼルクは自身の力のコントロールが出来ていなかった。だから下手をすれば殺してしまいかねなかった。ゼルクにとって殺さない程度の力は凄く難しいと判断せざる負えなかった。


「く、来るぞ! 俺達でなんとかするんだ!」


 ゼルクの走りを見て盗賊達は息を飲んだ。どうやら今度は盗賊達が受け身になるようだ。果たしてゼルクの魔力剣と盗賊のサーベルではどちらが強いのだろうか。目が放せなかった。


「・・・・・・ぐ!」


 ゼルクの声だ。ゼルクはサーベルの機動性に付いて行こうと避けたが思った以上に全身に負荷が掛かっていた。つまりゼルクは盗賊の先手である突き攻撃を喰らいそうなっていた。


「・・・・・・ぐ!」


 これまたゼルクの声だ。ゼルクは盗賊のサーベルによる連続突きをひたすらに避け続けていた。一回でも喰らえばアウトな状況なだけに嫌な汗が噴き出ていた。早く・・・・・・勝たねば。


「・・・・・・ぐ!」


 だ、駄目だ。このままでは反撃が出来ずに体力だけが消耗されていく。これでは勝機は見えない。いずれ喰らうのも時間の問題だった。本当にこの状態が続けば危ないのはゼルクだ。


「ゼルク! どうやら・・・・・・私の出番のようね!」


 どうやらビビーにとっておきの秘策があるようだった。それはゼルクと一心同体になる・・・・・・ではなく。もっとビビーらしい攻撃を思い付いていた。だからビビーは敵の側に寄った。


「これでも・・・・・・喰らいなさいよう! ええーい!」


 なんとビビーは敵の真上にまで行くと羽の鱗紛を散布し始めた。実にビビーらしい攻撃だった。ゼルクと対峙している盗賊の両目に鱗紛が入り込む。すると盗賊は言葉を叫び始めた。


「ぐおおおおお! 目が! 目がぁあああああ!」


 盗賊は両目を両手で塞ぎこんだ。ゼルクはこの隙を逃さない。すかさずゼルクは貫く構えをした後に突っ込んだ。盗賊は未だに両目を両手で塞いでいた。そして・・・・・・貫く音がした。


「ぐ・・・・・・」


 ゼルクの魔力剣で貫かれた盗賊は最期の声を出した。そしてゼルクが魔力剣を引き抜くと盗賊は力無くその場に倒れ込んだ。どうやら絶命したようだ。情報源は一人で十分だった。


「ひぃ! ひぃい!」


 もう一人の盗賊は腰が抜けていた。だからその場で尻餅を付いた。そんなゼルクは魔力剣を消すことなくもう一人の盗賊に近付いていった。ビビーもまたゼルクの後を付いていった。


「や、やめてくれ! お、俺は! べ、別に見逃してやっても良いんだ! あんたのことを!」


 もう一人の盗賊は完全に腰が抜けていた。だから尻餅を付きながら後退りが出来なかった。そこでもう一人の盗賊は命乞いをしてきた。ゼルク達はもう一人の盗賊の前で止まった。


「・・・・・・ひぃ!?」


 そしてゼルクは魔力剣をもう一人の盗賊の首に当てた。するともう一人の盗賊は恐ろしさの余りに声を挙げた。本当はここから一目散に逃げたかったのだろうがそれは出来なかった。


「どうやら気付いていないようだな。既に立場が逆転していることに」


 ゼルクは冷徹なまでに声を低くして云った。確かにゼルクの云うとおりで立場は逆転していた。つまり・・・・・・見逃すはゼルクの台詞と化していた。ゼルクは一刻も早く知りたかった。


「ゼルク! こんな奴! 殺しちゃいなよ!」


 ビビーはメリルの事情を知らないのでそんなことが云えた。ビビーはプライドを傷付けられたことにまだ根に持っているようだった。ビビーは意外と執念深い妖精なのかも知れない。


「ひぃ!?」


 ゼルクが魔力剣をもう一人の盗賊の首にほんのちょっとの力を加えて当てた。これがもし普通の長剣ならば冷たい感覚に陥ってしまうがゼルクは魔力剣でしている。だけど怖い筈だ。


「ビビー。それは駄目だ。・・・・・・おい! 今すぐに逃げた盗賊の所在地を教えろ!」


 ゼルクはそう云ったが本音は今すぐにでも殺したかった。害悪でしかないような連中をゼルクは己の正義だけで裁けるのだろうか。いや。己だけの正義では己自身が害悪になる筈だ。


「あ! あいつなら! ここから南西のアジトに向かった筈だ!」


 もう一人の盗賊は比較的に大きな声ではっきりと云った。もし云っていることが本当ならばこれは一番の有力な情報になる。しかしもし万が一嘘を付いていたら・・・・・・殺しそうだ。


「本当だな? 嘘を付いていたら・・・・・・」


 だけどゼルクは殺しそうだをグッと抑え込んだ。なぜなら殺してしまうと結局のところで正しい情報が訊き出せなくなるからだ。ゼルクはなんとしてでもメリルを早く知りたかった。


「ほ、本当だ! 俺は嘘を云っていない!」


 もう一人の盗賊は必死になっていた。それもそうか。だれでもこんな状態に陥れば恐怖の余りに正常ではいられなくなる。そもそも一度でも疑えば切りがない筈だ。信頼度は無だが。


「・・・・・・やめた。気分が変わった」


 ゼルクはもう一人の盗賊が偽の情報を教えてこちらがそこに向かっている内に逃げ出すかも知れないと思った。それとは関係がないがゼルクはもう一人の盗賊の首に魔力剣を当てた。


「ひぃ!?」


 これ以上に威すともう一人の盗賊の精神が壊れそうだった。だからゼルクは率直に思い付いたことを云うつもりだった。つまりゼルクはもう一人の盗賊に道案内させるつもりだった。


「おい! お前! 俺をそのアジトまで案内しろ! 良いか! 逃げようなんて思うなよ!」


 ゼルクが念を押して逃げるなよと云ったがもう一人の盗賊はとっくの昔に腰が抜けているので逃げれなかった。そのことにゼルクは気が付いていなかった。ゼルクの魔力剣が光った。


「ひぃ!? わ、分かった! だからその剣を引いてくれ!」


 もう一人の盗賊は今にも気を失いそうなくらいに震えていた。どうやらもう一人の盗賊はゼルクの言葉を耳に入れた。その結果はゼルクをアジトまで道案内するだった。交渉成立だ。


「ちょっと待って! その前になにがあったのかを私に教えて頂戴。じゃなきゃ私が納得いかない」


 だけど一番にして納得していないのはビビーだった。そもそもビビーが起きたのはつい先程だ。それまではぐっすり神の篭手の中で寝ていた。だけどなにやら外が騒がしく起きた。


「・・・・・・そうだな。実は・・・・・・ビビーが寝ている間にメリルとか云う女の子と出会ったんだ」


 ゼルクも静かな沈黙の際にビビーに対しての説明はいると思った。だから冷静になるとメリルについて説明し始めた。ゼルクは本当に軽くあっさりとビビーに教えるつもりだった。


「ふむふむ。それで?」


 ビビーはひたすらにゼルクの言葉に耳を傾けた。するとビビーの中でメリルってだれ? ってことになった。だけどそこはなんとか抑え込んだ。続きが気になったので訊くに徹した。


「それでこいつらは盗賊で俺の大事なメリルちゃんをさらって行ったんだ」


 ゼルクが云うには謎のメリルが盗賊にさらわれた。だから殺さずに情報を訊き出そうとしていた。うん。ビビーの頭の中は正常なようだ。確かに頭が回っていた。実に賢いようだ。


「ふむふむ。つまり・・・・・・こいつらにさらわれたメリルって云う子を救う為に生かしておかないといけないってこと?」


 ビビーはゼルクの云った言葉を理解した。だから理解したことを云い始めた。ビビーは実に賢かった。まるで演劇の評論家かと云う位に頭が切れていた。ビビーはどうやら納得した。


「ああ。そう云うことだ」


 ゼルクがビビーの云った言葉は合っていると認識した。だからゼルクは深く頷きながら云っていた。ゼルクは今にも逸る気持ちを抑え込んでいた。本当は早くメリルを知りたかった。


「どおりで見た限りは盗賊っぽい訳ね。・・・・・・やい! そこの盗賊! メリルって子を返しなさい!」


 ビビーは最初から盗賊が怪しさ満点だと思っていた。だけどそいつらが謎のメリルをさらったと云うのは想定外だった。だからビビーは怒りながらもう一人の盗賊に声を投げ掛けた。


「わ、分かったから! 本当にその剣を引いてくれよう!」


 もう一人の盗賊は今にも泣きそうだった。自業自得とは云えこれ以上の虐めは無意味だろう。それになによりももう一人の盗賊は腰が抜けているので立ち上がるのでも一苦労だろう。


「うん! 分かればよろしい! ゼルク! 魔力剣を引いてあげて!」


 ビビーの許可が下りた。別にビビーの許可が下りなくてももう一人の盗賊は十分に反省しているようなのでゼルクは魔力剣を引かせるつもりだった。だけどこの際ビビーに委ねた。


「分かった。・・・・・・どうやら本当に腰が抜けているようだからな」


 ゼルクはビビーの許可が下りたことで魔力剣を引かせた。ここでようやくゼルクはもう一人の盗賊の腰が抜けていることに気が付いたようだ。だからゼルクは逃げ出さないと思った。


「ほ・・・・・・」


 今までゼルクの魔力剣を首に当てられていたもう一人の盗賊はホッとした。それもそうだろう。ついさっきまで殺されるかも知れなかったのだから。だけどこれで道案内が出来る。


「さぁ! 立て! しっかりと案内して貰うぞ!」


 ゼルクは怒りと焦りの余りにもう一人の盗賊に立てと強要した。ゼルクにとって最早例え強要で捕まろうが知っちゃこっちゃなかった。それ位にゼルクはメリルを取り戻したかった。


「わ、分かったから! ちょっとだけでも待ってくれ!」


 もう一人の盗賊の心情はもう既に完全に道案内する気でいた。そもそも何度でも云うが本当に腰がやられたらしく。立ち上がるのもやっとのようだった。仕方がないので待ってみた。


「・・・・・・もう良いだろう? さぁ! 行くぞ!」


 ゼルクはもう一人の盗賊が立ち上がるまで沈黙した。さらにもう一人の盗賊が立ち上がってからもほんのちょっと経たせた。だからゼルクはそろそろ良いだろうとさらに強要した。


「ああ。案内するから付いて来てくれ」


 もう一人の盗賊は十分に待ってくれたことに変な話で感謝していた。するともう一人の盗賊が道案内の為に歩き始めた。ゼルク達はメリルを救う為に盗賊のアジトに向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ