第5話『転生者の先輩』
「え!転生者って… 君もなの?!」
「だからそう言ってるじゃない。といっても最近になって”思い出した”んだけどね」
「思い出す?」
「そう、前世の記憶を思い出したの」
「…ってことは、やっぱり俺たちって」
「お察しのとおりよ、わたしたちは一回死んでるのよ」
突然の真実に、俺は笑うしか無かった。
いや、確定はしていなかったが、考慮はしていたはずだった。
たしかに突然見ず知らずの人に乗り移るなんて、魔法も何もない世界から着た俺がそう簡単にできることではない。
妙に説得力のある事実に、俺は納得してしまった。
「あっはっはっはっは、いやそうか〜、やっぱ俺死んでたのか〜」
「案外、平気そうね」
「まあね〜、あれだけ無茶して寿命を縮めてたんだし過労死でもおかしくないしな〜」
実際、会社が家と言っても過言じゃないくらいに仕事しかしてなかったし、残業も”非公式”では150時間を超えていた。これが普通じゃんと思う人は、すぐに労基へ向かった方がいい。
「ところで、君はどんな最後だったの?」
「あたしは占い師だったの、インチキな商売が元で殺されちゃったのよ」
「な、なんかごめん…」
「いいの、殺されてもおかしくないことしてたもの。なんの因果かしらね、当時は嘘八百で人のオーラが見えると言ってたのが、今や本当に見えるのよ。笑えるでしょう?」
そう自分を貶す彼女に、俺みたいな普通の生活を送っていたものとして何も慰めることはできなかった。
もし、俺達がこうして転生した意味があるのならば、それは何かしらの業が招いたのかもしれない。
だとしたら、俺の業とはなんなのだろうか?
「付いたわ。ここがカタコンベ、エステルの根っこよ」
螺旋階段を降りた先には、緑色の光の粒が輝く美しい場所に出た。
どうやらこの光はエステルの根から出ているものらしい。
先程、上にあった棺も降りてきて準備が出来ているようだった。
「そういえば、監視役ってここまでは来ないの?」
「ええ、さすがに今日は王国側の者もカタコンベまでは付いてこないわ」
お爺さんに聞いたように魔物族と関わりがあると、興味を持ってくれないらしい。
あくまで王国側の人間は儀式の指導と、ポラド共和国の内政把握が目的なのである。
彼らが面倒を見るのは、この国でも魔物族に対してヘイトの強い貴族連中だけなのだ。
「で…、この先どうするの?」
「こうするのよ」
相変わらずの無表情で、彼女が石の壁を押すと棺を乗せた石壇が動き始めた。
ちょっとした池のようになっているエステルの根本へとゆっくり近づいていく。
すると、エステルが融合するように棺ごと取り込み始めた。
バキバキと棺を壊しながら取り込む姿は、割りとグロかった。
「それで、あなたこれからどうするの?」
「そ、そうだな〜。とりあえず、タバコが吸いたいかな?」
「…は?タバコって。 ここは剣と魔法のファンタジー世界よ?なにかあるでしょう、普通」
「急にそう言われてもな。そういう君はどうなんだよ」
「わたしはこの能力で人助けをしているわ」
「人助け…か」
パラテラは、前世で占い師をしていたことを語った。
その筋では著名な師匠を持ち、師と弟子二人三脚で占い家業を行っていたのである。
的確なアドバイスや、誰にも平等に問題を解決しようとする師匠に憧れて、彼女も人の役に立ちたいと修行に励んだ。
しかし、占いブームが過ぎ去ると、師匠は不審な行動を取り始めたという。
日増しにかつての名声は色あせ、金のためにスピリチュアルグッズの販売として、裏で麻薬を売り始めたのである。
もちろん、弟子である彼女はそれが救いになると信じて売っていたのだが、そのツケは突然訪れる。
ある日、一人の男性を占っていた彼女は、妻を殺したと罵られ、蔑まれながら刺された。
何度も何度も刺されながら、来世では本当の人助けができることを祈って殺されたことを教えてくれた。
「難儀…だな」
「別に、励ましてもらいたくて語ったんじゃないわ。ただ、他人の過去を聞いておいて語らないのも失礼じゃない?」
彼女の強がりでもないクールな返しに、すこし惚れそうになってしまった。
結果的には彼女が100%悪いのだが、そんな彼女はいまこうして第二の人生を人助けのために生きている。
そんな姿勢をわざわざ蔑むまでもなく、むしを尊敬をした。
「少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「なにかしら」
俺は、彼女の持っている「オーラ」を見る能力について質問をしてみた。
「その能力って、例のユニークスキルってやつなの?」
「よく知ってるわね。わたしは属性的には土なんだけど、プラスこの能力を授かったようね」
パラテラの能力は、その目で見た人のオーラを見ることができる。
オーラの色や、流れを見て直感的にその人の事が分かるという。
まさに前世での彼女の行いを体現したような能力だ。
「俺にもあんのかなぁ〜、ユニークスキル」
「転生者のあなたなら、わたしと同様に持ってるかもね」
「そういえば、勇者って言ってたけど。100年前の戦争で死んでるんだよね? 君って…、何歳なの?」
「あたしは人間の父さんと、エルフの母との子なの。ハーフエルフだから、今115歳…だったかしら」
俺は転生者同士で、見た目の幼さに親近感が付け加わってタメ口をきいていたが、人生を3回くらい生きている大先輩にすかさず土下座をした。
「度々の失礼を…」
「いいわよ、あたしは気にしないから。さっきまでみたく、これからもタメ口でいいわよ」
「そ、そっか、ってあれ? ダビド神父って父親なんだよね?」
「そうよ、わたしの3番目のパパ」
「そうなのね、今は聞かないでおくかな…。色々あるよね…」
「まあね。今度ゆっくり話してあげるわ」
互いに親睦を深めあっていると、エステルが父さんを飲み込み終わったようだ。
これにて葬儀は完了となる。
父のガラムはエステルへと還っていった。
「それじゃ、あたしは最後にやることがあるから。先に上がっててちょうだい」
「分かった、色々とありがとう。それとこれからもよろしく」
「長い付き合いになりそうね」
俺は人生の大先輩と握手を交わして、地上の大聖堂へ戻った。
お爺さんとダビド神父が俺に気づいて寄ってきた。
「ご苦労様でした、これにて式は終了となります。道中、気をつけてお帰りください」
そう丁寧に挨拶をすると、ダビド神父は胸に開いた手のひらを当ててお辞儀をした。
お爺さんも同じようにしているため、そういう挨拶の仕方なのだろうと慌てて俺も真似をした。
手のひらはエステルの樹を表しているのだろうか。
こうして、俺たちはダビド神父と訳ありハーフエルフのパラテラに見送られ、教会を後にした。
「ルコや、どうじゃった?」
「おかげさまで、父はちゃんとエステルに還れたようです」
「うむ、寂しいじゃろうが、ワシらがついておるぞ」
お爺さんは俺の頭を優しく撫でると、シーシャのように優しく微笑んでくれた。
俺は最高の家族に拾ってもらえたのかもしれない。
<第5話『転生者の先輩』 おわり>
今回の話は短めです。