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異世界で煙の魔法使いやってます。  作者: メカニカルカニカマ
序章
3/7

第2話『実は異世界!』

 

 この世界にいきなり放り出された俺は、まずはシーシャのお爺さんから乗り移った少年の名前に付いて教えてもらった。

 もちろん、記憶を無くした少年として。

 一緒に商品を売りに来ることは少なかったようだが、息子の話は良くしていたらしい。

 少年の名前は「ルコ」と言うそうで、出身はザハ首長国だそうだ。

 現実で言うところのアラブ首長国連邦みたいな場所だろうか?

 家柄としては裕福な方で、母をなくした後は父と子二人で暮らしていたそうだ。


 もっと詳しい話を聞こうと思ったが、また傷の痛みが尋常じゃなくなってきたため、

 再びシーシャが施してくれた不思議な魔法で眠っていた。



 ーーー


 あれから一晩が経った。

 彼女はベッドの縁でスヤスヤと寝ている。

 どうやら、つきっきりで看病をしてくれたようだ。


「…んっ、起きた?」


 彼女も朝日に顔を照らされ、目を覚ましたようだ。


「はい、昨晩はどうも」


 シーシャは俺の体をぐるぐる巻きにしていた包帯を解き、具合を確認し始めた。


「ーよしっ! 背中の傷は残っちゃうかもしれないけれど、ほぼ傷は完治してるわね」

「ただ眠ってただけなのに、こんなに早く治っちゃうんですね」


 魔法と自然治癒を促す薬草の影響だろうか、体の痛みと傷はほぼ無くなっていた。


「ううん、本当は治癒魔法を使えたらすぐに治してあげられたんだけど、このあたりには使える人が居ないの。だから、自然治癒と気休めの薬草で治療するしか無くって」

「え?これ治癒魔法じゃないんですか?」

「うん、私が使ったのはお香を焚くのに使った、この火を出す魔法だけよ」


 彼女は簡単な火の魔法を使えるそうで、俺が意識を失ったりしていたのはお香による効果だったらしい。

 そのお香は意識を混濁させてしまうかわりに、使った者の自然治癒力を最大に引き出すことができる。

 いわば合法ドラッグといったところだろうか。

 いくら普段から煙草という害のあるものを吸っていたとは言え、そっちの類は怖い。


「ま、まあでも、魔法が使えるなんてすごいんですね」

「え? あなたも使えるはずだけど?」


 さらりと衝撃の事実を知ってしまった。

 俺も使える?この世界ではみんな魔法使いなのか!?


「ま、まじ?」

「うん。マジ」


 現実世界では、アニメや映画を見て憧れるモノが、この世界では普通らしいのだ。


 じゃあ、俺はどんな魔法が使えるんだろうか?

 そうこう考えていると、寝ていてロクに食事もとっていなかったためか、腹がくぅ〜っと鳴った。


「あ、あはは〜…お腹すいちゃった」

「あははっ、体が元気な証拠ね。じゃあアタシがご飯作ってあげる。ちょっと買い出しとかいかなきゃだから時間がかかるかもだけど」

「じゃ、じゃあ、あそこにある本を読んで待っててもいいかな?」


 俺はお香や薬草が飾ってある棚の横に、ホコリをかぶった本棚があるのが気になって指をさした。

 これまでの流れで、言葉は問題なく通じることがわかったから、文字も理解できるんじゃなかろうか?

 ついでにこの世界のことを少しは調べることができるかもしれないとも思った。


 というか、特に魔法について早急に知りたくなった。


「あ〜、あれはお爺ちゃんの本で歴史とか色々あるみたい。何か思い出すこともあるかもしれないし、好きにしていいよ」


 治療に使った包帯や薬草を片付けると、彼女は元気な駆け足で部屋を出ていった。

 シーシャを見送って、椅子に用意されていた部屋着に着替えると、俺は本を取りに行こうとベッドを降りようとした。


「ちょわっ!お、お、おぉお?!」


 お香の影響か、体の筋肉が思うように動かずふらふらとバランスを失った。

 そのままケンケンパをするように本棚に突っ込んでしまった。

 盛大に本をぶちまけた俺は、せっかく着替えた服にホコリの被ったカビ臭い本を浴びた。


 決して俺は悪くない。

 本の山に押しつぶされた俺は、真顔で顔に覆いかぶさった本を適当に選択して中身を見ることにした。


『聖者コパの伝説』


 木のツルみたいな書体をした字がびっしりと書いてあるが、どうやら理解できるらしい。

 ざっと中身を説明する。


 この世界では数百年の長きに渡って、人間と魔の物が自分たちの領土を守るために戦争をしていた。

 何十年に何度かは休戦が締結されたが、それが定めかのように熾烈な争いは止むことが無かった。

 種族間の迫害が原因でもあったようだが、その土地の気候や資源などの奪い合いが発端のようだ。

 人間側の国であるシアンダ王国は、長きに渡る戦争を終わらせるために一人の聖人に助けを乞う。

 それが『聖者コパ』である。

 聖者コパは、生まれながらに卓越した魔力を持っており、特に召喚魔法を得意としていた。

 彼は、命と引き換えに己の持つ全ての力を振り絞り、魔の者たちに対抗しうる力を召喚した。


 ここまで来ると、いよいよテンプレパターンが読めてきたと思う。

 そう、天からの授かりもの”勇者”を召喚したのである。


 召喚された3人の勇者たちは、儀式に居合わせた聖女達の腹に宿った。

 その後、元気に産まれた子どもたちは勇者としての才覚を瞬く間に発揮し始める。

 すくすくと育った勇者3人は、『魔王ザナン』と相打ちで倒すことに成功した。

 この戦いで、勇者も魔王も全員が死んでしまったらしい。


 そして、聖者ルパと3人の勇者たちは、その功績を讃えられ宗教的存在として祀られることになった。

 シアンダ王国は戦争に勝ち、魔の者たちは住んでいるところを追われて南の大陸に追いやられる。

 こうして長きに渡った血なまぐさい戦争は徐々に終結しましたとさ。


 ―おしまい。



 要するに、この世界はコミックでよくあるような”異世界”って場所で、そんなとこに俺は迷い込んでしまったようだ。

 それにしてもどこの世界も人間というのは醜く争う生き物だ。

 にしてもちょっとおそまつ過ぎる内容じゃなかったか?

 相打ちで両陣営ともトップが死ぬって…。

 どうせ戦争をおっぱじめたのも人間側で、いろんな裏の事情とかあるんだろうな。


 他にも、『薬草図鑑』や『調合術』といったクリエイター系の本などもちらみしていると、もう一つ気になる本があった。


『世界五大元素 〜魔力の根源〜』


 キタッ!これは俺が一番気になっていたものだ。

 ここが異世界ならば、俺にも魔法が扱えるかもしれない。

 どれどれ…。


 ―世界五大元素とは、火・水・土・風・空で構成される。

 火は灼熱の強き魂を持って業火の炎をその身に宿し、水はその深淵の如き強大な海の力を宿す。

 土は大地の恩恵を恵みへと変え、風は季節と災厄を呼ぶものなり。

 斯くして空は光と闇を統べる世界の理である。


 ちょっと抽象的表現が多すぎて、内容が入ってこなかったが雰囲気は分かった。

 とりあえずこの世界の人達は、5つの属性のどれかを有しているらしい。

 本を読み進めていくと、自分の属性を調べよう的なページをみつけた。

 これで俺がなんの属性だか分かるかもしれない。


 本の中央に魔法陣のようなものが有り、その陣の中央にある◯の部分に指を置くと色が変わって分かる仕組みらしい。

 赤が火で、水が青色ととても分かりやすい。


 だが、肝心の真中の◯印部分がまっぷたつに破けていて、正常に機能しなかった。


 おいおい嘘だろ!せっかくワクワクしてたのに!

 他に調べる方法はないのか。


 ページを読み進めていっても、他の方法は全く載っていなかった。


「くそ〜調べる方法がいくらなんでも限定的すぎるだろ〜、勘弁してくれよ〜」


 いっきにやる気を無くしてうなだれていると、部屋の窓から声が聞こえてきた。


「ほう、そりゃ五大元素の本かのう」

「うわっ!びっくりした」


 窓の外に白い口ひげをこさえて、灰色のローブを着た老人が浮いていた。

 正体はシーシャのお爺さん、ラジ・スワニだ。


「ホッホッホ、驚かせてすまんのう。おぬし、自分の属性を知りたいのかの?」

「えっ? あ、はい。何か方法でもあるんですか?」

「あるにはあるが、ちと面倒でのう。その本ならすぐに分かるんじゃがなにぶん貴重なものでのう、なかなか手に入らんのじゃ」

「じゃあ今は無理そうですね…残念」


 使えるであろう魔法をお預けされて、俺はうなだれた。

 だが、捨てる神あれば拾う神ありだ。


「ワシはおぬしの属性を知っておる。」

「そうですか〜…えっ!?」


 爺さんは続けて教えてくれた。


「おぬしはワシと同じ、”風”属性じゃ」


 風…か、どうせなら”空”がなんか強そうで期待してたんだが…。

 それにしても、なんで知ってるんだろうか。


「おぬしの父も風属性でのう、きっとあの事故のときに最後の力を振り絞って、お前さんをどうにか助けようとしたんじゃのう。」


 そうだったのか。ルコの父さんは身を挺して息子を守ったんだな。泣かせる話だ。

 たしか本で見た風属性は、相当な魔力量を持っていない人だと小さい物を動かすくらいの能力しか発揮できないらしく、自分のキャパ以上の力を発揮すると下手したら魔力を枯渇させて死んでしまうらしい。

 それと崖からの落下ともあり、どちらか一方しか助けられなかった状況だったんだろう。

 しかし、それならこの爺さんも何者なんだという話である。


「父親が無くなり大変じゃと思うが、今はゆっくりしておれ」


 それだけ言うと、お爺さんは窓から離れていった。


「あっ、ちょ、まだ聞きたいことが―!」


 肝心の魔法を使う方法について知ることができなかったが、属性がわかっただけでもちょっとした進展だし。

 ゆっくりでいい、少しずつ課題を片付けていこう。



<第二話『実は異世界!』 おわり>

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