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異世界で煙の魔法使いやってます。  作者: メカニカルカニカマ
序章
2/7

第1話『夢?それとも死の世界?』

 

 イテテ、なんだこれ。

 なんで俺、事故に巻き込まれちゃってるの?


『お、お爺ちゃーん!大変、これを見て!』

『おぉ・・・なんてことじゃ。さっきの音はこれじゃったか』


 たまたま川辺向こうの森に居たのだろうか、若い女性の声と老人の声が近づいてきた。


『うん、この子はまだ息をしてるみたい! でも、向こうに倒れてる人は・・・』

『そうか、お前はこの子を家まで運びなさい』

『そ、そうね。応急処置もしなくちゃ』


 彼女はそう言うと、こっちへ駆け寄ってきた。

 さっきからバットで全身殴られたような痛みを体中で感じる。

 そして、少しぼやける目を動かすと、柑橘系の甘い香りと共に女の子が視線に入ってきた。


 深めに帽子を被った、褐色肌の女の子だ。顔は見えない。

 外見は高校生ぐらいの”沖縄の綺麗なギャル”みたいな感じだ。


『大丈夫だよ、今助けてあげるからね』


 助ける? ホントに何が起きたんだ?

 彼女がなにかをゴソゴソとカバンから出している。

 薬草みたいな香り… どこか嗅いだことのある、これは線香(せんこう)か?


 その線香を合唱するように両手ではさみ口元に持っていくと、彼女は祈るように唱えはじめた。


 『ラウ・ケ・ライ(炎の元素よ)』 


 すると、彼女の綺麗な黒髪を肩の上でふわふわとなびかせるように線香が弾け、七色の火花を散らして煙を吹き出だした。


 ま…魔法? 夢なのかこれは? 

 魔法が出てくるような夢は初めて見る。

 いや、でも痛みとか感じるし、妙にリアルだ。

 突然の出来事に、俺は何が起こるのかと不安になりながらも彼女の行為をただ見てるしかなかった。


『大丈夫。痛みを和らげるだけだから』


 ビビって変な顔をしてたのを察したのか、俺のデコに手を当てると優しく微笑んだ。

 何が起こっているのか全くわからないが、だが悪い気分じゃない。


 すると、煙が俺の体を包むように流れ、かろうじて保っていた俺の意識は眠る様に落ちていった。


 ん… なんか眠くな… って…?


 あ……。


 …。



 ◇♢◇



 ーチュン、チュンチュン

 朝を告げる小鳥の声が鳴っている。

 鳴りもしないアラームを確認しようと無意識的に手を動かす。


 あれ、携帯が無い。 …やべっ!まさか―。



「ッヤバ!かいひゃっ 痛っ!」


 携帯のアラームを設定し忘れて会社に遅刻すると思い飛び起きた俺は、これが夢では無いことを証明する痛みと共に、ここが自宅でもビジネスホテルでも無いことに気がついた。


 ゆ、夢じゃない…? ここはどこなんだろうか?

 しかも体中が包帯でグルグル巻きにされてる。


 この部屋は… 木造の建物に、家具までが現代では珍しいくらいに全てが木で作られてるみたいだ。

 さすがに現代にしてはど田舎すぎないだろうか? いや、今流行りの天然素材ってやつか?

 羽毛のように暖かく、シルクのように肌触りの良いお布団で寝ているところからすると、ど田舎のちょっと豪華なコテージみたいな感じに思えなくもない。


 とりあえず、現状を把握しようと痛みを我慢してぐるぐるに包帯を巻かれた手足を動かしてみる。なんとか上半身を起こすと、窓の外に目をやった。

 そこは明らかに日本とは違った景色の別世界が広がっていた。


 え?なにここ!?どこ!?


 リアルな猫耳を生やした幼い子供達がかけっこしていて、顔がまさに虎そのものなのに人間の出で立ちをした亜人が薪を斧で割っている。

 また、その光景をいつも通りと言わんばかりに声をかけてまわる人間たち。

 人というのが居ること以外、変わっていることといえば亜人がいるということだけだ。


 ここは‥ あの世か…?

 そんなことを想像しながら、ボーっと景色を眺めていると、窓ガラスに顔が写っているのに気づいた。


 ん… んン!?

 なンだッこの美少年はッ!?


 幼く、可愛らしい顔をした銀髪の少年がこっちをじっと見つめている。

 窓の外に少年がいるわけではなく、確実にその顔は自分のそれだ。


 まさか、これが今の俺… なのか?

 どうみても中学生くらいの歳をしたジャ◯系の美少年だ。

 ま、マジか…。


 どうやら俺はこの見知らぬ少年の中に乗り移っている?みたいだ。

 リアルにこんな顔で育ってたらどんだけ勝ち組人生だったろうか。

 いや、今はそんなことよりも、なんでこんなことになってるのかだ。


 原因となるトリガーがなんなのかは、だいたい思い当たるふしがある。

  無茶な生活を送り続けて、過労とストレスを溜めに溜めて喫煙所で倒れてしまったアレだ。

 あの後に、俺の中で何かの異変が起こったに違いない…。

 やっぱり俺は死んでしまったんだろうか?


「起きた?」


 頭を抱えてぐるぐると思考を巡らせていると、ドアの向こうでひっそりとその姿を見ていた高校生ぐらいの女の子が、懐かしい友人に会った時のように喋りかけてきた。それは俺のことを助けてくれた彼女だった。


「い、生きてるみたい?」


 俺は自分でもボケなのか本気なのかわからない返事をした。


「大丈夫…? あなた、崖から落ちちゃったみたいなのよ?」

「え、あぁ…えっと、助けてくれてありがとうございます」

「ううん、川の方ですごい音が聞こえたから。あそこ、結構事故が多いから、まさかと思っていったら案の定で…」


 事故にしては、かなりショッキングな状況だった。

 この体の持ち主である少年も、事故が原因で何かしらの減少に巻き込まれてしまったんだろう。

 あの時見た、俺と一緒の事故に巻き込まれたであろうもう一人の男性のことも気になった。


「でも良かった、あなたは助かって本当に良かった…」


 彼女の悲しそうな一言で、状況に察しがついた。


「大丈夫、大丈夫だからね」


 彼女は涙ぐんだ顔をしながらも俺を不安にさせないようにギュッと引き締まった体で抱擁してくれた。 適度に育った美乳が俺の顔をぷにぷにと当たるのが複雑な心境だが。


 喜んでいいのやら、悲しんでいいのやら分からないな…。


 そんな彼女の温かさや優しさが、乱れていた心を落ち着かせてくれた。

 事故に巻き込まれた時に向こう側で倒れていた男性について、直感的にこの体の少年の親であることや、これが原因で亡くなってしまったんだろうと悟った。


 なんだろうこの気持ち、どこかしっくり来てしまう感覚。

 他人事でもないような、俺の中に溜まっていた何かが崩れて、噴き出すように感情が爆発してしまった。


「う…っ うぐっ…」


 え、俺なんで泣いちゃってるの?

 しかもなんか… なんだか止まらない。


 久々に感じた人のあたたかさと、少年のもとあった魂がおり混じったような情けない悲鳴と共に大粒の涙を流しながら、俺は強く彼女の胸で男泣きした。



 〜〜〜



 数十分が経過して落ち着きを取り戻した俺は、次第に自分がしたことを恥ずかしく思えてきて顔が真っ赤になった。

 だいたい、全く見知らぬ他人の出来事に、何故俺は涙してしまったんだろうか?

 疑問が連鎖して謎は深まっていくばかりだ。


「それで、ね…」


 タイミングを見て、深刻な話を告げるように彼女は続けた。


「君のお父さん。あの後…」


 ああ、やっぱりアレは父親だったのか。

 少年にはツライ出来事に違いない。

 さっきの謎の涙も、少年の魂が自然と涙したに違いなかった。


 俺はどう反応していいかわからず、とりあえず顔を下にやってうつむいて悲しむ素振りだけでも不自然じゃないように振る舞った。

 見知らぬ人とはいえ、気持ちだけでも弔ってやろう。合唱。 

 安心してくれ、少年の体は… まぁ、いまのところ無事だ。


「お爺ちゃんがね、当分は君をウチで面倒をみるって言ってるんだけど。どうかな?」

「え、いいんですか?」

「うん。お爺ちゃんと貴方のお父さん、何回か仕入れで顔見知りだったの」


 どうやら俺は商人の息子だったようだな。

 とりあえず、行く宛もなさそうだし、その提案に乗っかることにした。


「ど、どうも」

「うん、よろしくね」


 ここが現代の外国とかだったら、目を覚ましたらさっさと出て行けという展開になりかねなかったが、

 そんな心配はする必要が無かったみたいだ。

 まずは、ここを拠点に俺の身になにが起きたかを少しずつ調べていくことにしよう。


「えーと。そういえば君、名前は?名前はなんていうの?」


 あ、そういえばそうだ。

 俺の名前って何なんだろうか?

 とりあえず、この少年のことは全く分からない。

 まずは本当のことを話すしか無いだろう。


「実は、何も覚えて無くて…」

「そ、そう。まあ、色々合ったから混乱しちゃうのも分かるわ。お爺ちゃんなら何かわかるかもしれないから、あとで会ってみるといいわ」


 たしかに、少年の父親と交流があったお爺さんなら、俺のことを少し知っているのかもしれない。


「私の名前はシーシャ、”シーシャ・スワニ”よ」


 深めのに被った帽子を人差し指であげると、シーシャは可愛らしく笑った。


 こうして、美少年に乗り移ってしまった俺の奇妙な生活が始まったのだ。




<第一話『夢?それとも死の世界?』 おわり>

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