表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

THE 四人組

目が覚めると、次の日だった。

当たり前のことなのだが、昨日は寝たのが7時半という

ものすごく早い時間だったので、何か変な感じがしたのである。

時計を見ると朝の10時だった。

こう暑いと、朝起きたら体がべたべたして気持ち悪い。

ここ最近、香織は朝風呂が日課になっていた。

風呂から上がり、バスタオル一枚で朝ごはんを食べる。

「服、着なさいよ」

母に毎朝そう言われるが、香織も母も、そう気にした様子も無い。

髪の毛をとかす。

高校生なら髪をていねいに巻いたりするのかもしれないが、

香織はショートなので前髪をアメピンで少し留めるだけで十分だ。

30分ほど経ったところで、そろそろ服を着る。

「ねえ、洗濯物乾いてる?」

聞くと、乾いてるわよーとキッチンのほうから母の声が聞こえた。

今日はちゃんとTシャツ、持っていかなきゃ。

そう思った瞬間に、まただ。

雨が降ってきた。

……何故。

本当に雨女だ、とつくづく思う。

急いでベランダから洗濯物を取り入れた。

「いってくるー」

傘を右手に。Tシャツと、お礼のクッキーの入った紙袋を左手に、

香織は歩き出した。

さっきより雨は小降りになっていた。

今のうちにと、香織は傘をたたんで学校へ向かって小走りになった。

いつもなら、傘をたたんだ瞬間に雨が強さを増すのだが、

今日は何故か逆に止んでいった。

内心嬉しくなりながら、学校の裏へと向かう香織。

オレンジの家まであと数メートルというところで、

香織は誰かに肩を掴まれた。

「君さ、可愛いよね、ちょっと遊んで行かない?」

気持ちの悪い笑みをうかべながら、香織を取り囲んでいく5人ほどの男。

――最悪。

ここまで来てリンチ? 痴漢? ホント神も仏もあったもんじゃないわ。

 しかし、そんなことを言ってられなくなってきた。

男共が香織に近づいてきた。

「ほんと、やめてください」

 今まで何回かこういうことをされてきたが、一人か二人だけだったので、

すぐに逃げられたのだが、

5人もいたんじゃ、取り囲まれて逃げ場が無い。

 ――やばい。

「まじで可愛いよね」

「俺リアルに好みなんだけど」

そんな感じで近寄ってくる。

膝が震えてきた。恐怖で声も出ない。

そして、男の一人が香織の手首を掴んできた。

 もうだめだ。どうにでもなれ。

そんな絶望感に抵抗を完全にやめた時だった。

「ちょっと、そんなに道のど真ん中で変なことしないでくれる?

 俺ら今から遊園地行くんでテンション上がってきてるっていうのに」

誰かに後ろから手首を引っ張られ、香織はされるがまま。

「くそっ!」

5人組が素晴らしくハモって、その場から逃げていった。

「大丈夫? って、んなわけないか」

助けてくれた人が言う。

全員男かと思ったら、一人だけ女の人もいた。

「あぁいう、変態野郎って、本当ムカつくわよね。

 私、あんなの見たら背筋が寒くなってボコボコにしたくなるの」

笑顔で言うのが怖かったけど、悪い人じゃないみたいだ。

「あ、の。ありがとうございました、本当に……」

深々と頭を下げる香織。

戸惑う四人組。

「お礼とかいいって。つーか、女の子一人で何やってんだ?この辺に家でもあるのか。

 ここ、明るいけどあんまり人目につかないから危ないぞ」

一番背の高い人が言った。

「……返さないといけないものがあって……」

なんで聞かれなきゃいけないんだと思いながらも、素直に言った。

なんせ、命の恩人なのだから。

「よーし。じゃあ付いていってやろう」

隣にいるメガネの人と、女の人の声が一緒になった。

「いえ、そこの家の人なんで、大丈夫です。

 ありがとうございました」

と言って、オレンジ色の家の隣を指差す。

すると、四人とも「え?」と言った表情で一瞬顔を見合わせた。

「そこの家なら俺ん家だけど、なんか用だった?」

一番背の高い人が口の端っこだけ上げて言った。

何を思っているのだろう。

それに……。

この人が「ケン」さんだろうか。

そうとしか考えられないけど。

無造作な髪に、一重の細い目。

すらっと高い背に、さわやかな匂い。

何だか、想像していたのと違った。

まあ、どうでもいいのだけれど。

「これ……昨日借りてたTシャツなんですけど。

 ほんと、助かりました。ありがとうございました。

 あ、あとこれ……お礼です」

そう言って、紙袋を差し出す。

「え、もしかして林さんの家の? 

 娘さんの? 香織ちゃん?」

「はい、そうです」

「まじでー! ありがと。

 俺、健です」

ニコッと笑われて、その笑顔がすごく爽やかで、何かよくわからないけど、胸の奥の奥のそのまた奥のほうが

チクリと痛くなった。

「じゃあ……あたしはこれで。

 本当にありがとうございました」

そう言って、香織は振り返り、もと来た道を走っていった。

……そう、香織は足早にそこから去ったつもりだった。

しかし。頭にくるほど絶妙な位置に転がっていた石に躓き、コンクリートの地面に見事にどかんと激突してしまった。

「……いったあ……。――最悪」

 香織が頭をおさえていると、当然のことながら一部始終を見ていた四人組が駆けつけてきてくれた。

 ほんと、大人の人だと思う。

あたしみたいな高校生だったら、こんなことになったら爆笑物だ。

「ちょ、大丈夫? ひざ、血出てるじゃん」

 女の人が慌てふためく。その様子が可笑しくて、笑ってしまった。

「ごめんなさい……あたし、マジでドジでバカですよね……」

 大きくため息をつく。つくづく自分にあきれる香織。

いつまでも地面に突っ伏しているわけにもいかないので、立とうと思い、

右の足首に体重をかけた時。

「痛っ……」

 さっきの憎たらしいあの石に躓いてこけたときに、足をぐねったんだ。

とっさに思ったが、後の祭りだった。

 これ以上、四人に迷惑はかけられないので、ずきずき痛む足をこらえながら、

「もう大丈夫です。家、すぐそこなんで」

そう言ってから、ありがとうございましたと深々と頭を下げた。

「そっか。じゃあ大丈夫ね。

 そんじゃ、私達行くよ?」

「気をつけろよ、もう転ぶんじゃねーぞ」

三人に言われたがケンは黙ったままで。何か首を傾げたかと思うと、

香織のほうに寄った。

「……足首」

「え?」

「痛てえくせに」

 香織にしか聞こえないような声で言うと、ケンはあとの三人に振り返った。

「一応、送ってくわ、俺。

 遊園地、後で追いつくようにすっ飛んでいくから先行ってろよ」

三人はきょとんとしている。

「ああ、そう? じゃ、よろしく。

 私らも心配だしね。

 ……あ、健に危ない事されそうだったらここに連絡してきなよ」

女の人がメモを香織に手渡した。

メモには、大人の綺麗な品のある字で「皆川琴美」と書いてあった。

準備のいい人。香織は思った。

「バカ言うな、琴美。

 俺は純粋で清潔な変態だ」

ケンは自信満々に言う。

「まあいいや。こんな奴相手にするような子じゃないよね、この子は」

 琴美は、香織のほうを見てウインクする。

香織も微笑み返した。

「やだーっ! 香織ちゃん超可愛いー! 完全に私好みの顔ね」

「あ、そうだ。じゃあ俺らのも、はいコレ。

 健は変態の中の変態だから注意しろよ。怖くなったら警察に連絡するんだぞ」

 そう言って、続いて二人の男の人がメモというか名刺を香織に手渡した。

 メガネの人の名刺には「前波 良平」、その横の言ったら悪いが平凡な人の名刺には「山田 直人」と書かれていた。

「お前らな、どれだけ俺を侮辱したら気が済むんだよ」

 言ったが、完全に無視されていた。

「香織ちゃん、だっけ? また会いたいな。

連絡、できたらしてよ。じゃっ! 野郎共、行くよ」

そう言ってずかずかと香織とは反対方向の道を行ってしまった。

取り残された、二人。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ