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俺の島がベタピンなわけがない  作者: 二桜桃 フリズ
1/1

~イースト・エレクト~

―徒歩覚悟の千円をサンドにぶっこんだ、バカ野郎達に捧げます―

 


  「俺達はな、狂ってるんだよ。」



轟音が支配する環境の中、確かに聞こえた声。

今となってはそれが誰の声かは分からない。


ゴローのジャグラーは「ガコッ」という音を立てた。


頭の中では「ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?ビッグだぞ?・・」と電子機器に問い掛ける。

630回もドラムを廻して、もしバケだったら・・・。


―悪い予感とは的中する―


無常にも赤い「7」が二つ並び、その隣に黒い塊が停止する。ゴローは渾身の力で、ピエロの絵が描かれているプラスチックのパネルを引っ叩いた。


台パンである。

 

考えてもみて欲しい。この機器を630回廻すには約二万円掛かるのだ。二万円あれば何が出来るのだろうか。


美味しいものや洋服、家具・家電、ああ、旅行もいけるな。

そうだ、お母さんにカーネーションや、お父さんにネクタイなんかも買ってやれる。

スロットに打ちのめされた人間は、誰よりも優しい。そして、誰よりも弱い。


ゴローは受け皿に散らばる数十枚のメダルを眺めながら思った。

「待て。630回も嵌ったんだ。『ごめんねジャグ連』があるはずだ。頼むぜ。ピエロ。」

三枚メダルを入れる。レバーを引っ叩く。ボタンを押す。三つ目のボタンを親指でネジネジする。


「頼む。ジャンバリを聞かせて・・」


「無駄だよ。お兄さん。」


「?」

ゴローは親指を離して、右隣を見た。鉄火場のホールには珍しい美しい女だった。

キャップを被ってはいるが、大きい目が印象的で、ロンTから覗く白い肌は新雪の様にペカっていた。

表情を一切変えず、台に向き合った彼女は、目にも止まらぬ速さでDDTを行っている。

「さっき台パンしたろ?あんた。ピエロが泣いてるよ?」

そういって彼女は三つ目のボタンを離した。それと同時にゴーゴーランプが静かに点灯した。

彼女は「7」を揃えるより先に、受け皿にギュウギュウに詰まったメダルを、ドル箱に流し込む。

メダルがドル箱の底を叩く音は二面性を持っている。

自分のドル箱ならば心地良い音なのだが、他人の奏でる音は不協和音のソレである。

彼女は受け皿にあったメダルを全てドル箱に流し込み、台の上に置いた。

そして一枚掛けをして、レバーを叩いた。

ゴローはその様子を見ながら、

「バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。バケこい。」と邪念を送った。


「7」

「7」

「7」


「ちくしょおおおおおおおおおおお!店長ボタンだろ?女だからってビッグばっかり出してんじゃねーよ!なんでこいつばっかり!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!」

もちろん心の叫びなのだが、ゴローの表情は不動明王のソレであった。


ゴローは受け皿にあったメダルを全て使い切り、台パンをして帰ることにした。

ホールの監視カメラを睨み付け、「くたばれ」と言い放つ。

満面の笑みを浮かべた店員の横っ面をはたいてやりたかったが、そんな度胸はない。

元を取るためにサービスで設置してある、消臭剤をこれでもかと自分の身体に浴びせ、店を出た。


―残金325円。20代中頃の男の財布の中身ではない。これでは米も変えない。

しかし、ゴローは腹が減っていた。

昼起きて、ホールに行ってから何も口にしていない。空腹を紛らわす為にコーラを買う。

空きっ腹に流し込むコーラは程よい刺激と、満腹感を与えてくれる。

嘘の満腹感ではあるが、世界なんてものは嘘で溢れているし、

真実はなかなかお目にかかれるものじゃない。

全六、イチオシ、おすすめ、強化機種・・今までどれだけ騙されてきたのであろうか。

出来ることなら地球に台パンしたい。そんな思いを描きながらゴローは家路を辿るのであった。


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