【60秒で一気読み! キャラクター小噺】 〜もしも、こんな○○がいたら
【60秒で一気読み キャラクター小噺】 〜もしも、こんなタフガイじゃないラーメンシェフがいたら
【 ラーメンシェフはタフガイの仕事なのか⁈ 】
「ああ、やめちまえやめちまえ!
ここはなあ、おまえみたいなヤツの来るところじゃねえんだよ!」
口の悪い先輩の怒声がラーメン屋の厨房に響いた。
叱責されたその青年は血色の悪い顔がさらに青くなっていった。
幼い頃からの夢、憧れのラーメンシェフになるために修行を
積んでいるのだが、ひ弱で不器用な彼はいつも怒られていた。
ラーメンどんぶりを持てば手首を痛め、
ダシ用の豚肉の塊を運べば肩を怪我し、
今もスープの入ったズンドウをひっくり返してしまったのだ。
「そんなひ弱なヤツはなにやったって仕事なんかできやしねえ!
さっさと出て行け!」
青年は涙ぐみながらひとつ切ないため息をついた。
懐から自分のネーム入り箸を手にすると、
箸でズンドウをひょいと持ち上げ片付け、
箸で包丁を握り、器用にチャーシューを刻み、
箸でドンブリを棚にポンポンと並べた。
「あ〜あ、僕はやっぱり、なにもできない人間なんだ‥‥‥」
この青年、箸を使うと全てのことができる能力に、まだ気づいていないのだった。