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いやにくどい笑みがそこにはあった

「まぁそれはともかく、あなたがたがやったこと、全部無駄よ」


と、持ち直したアシュリー姫は干したいかの脚を噛みながら言った。


「うん、それはもう見ればわかるよ。それについてもう一段謝れというならば」


「いやいやいや、そうじゃなくて」


魔王の言葉を即座に否定するアシュリー姫。

流石に一同が怪訝な顔をする。


「人類連合の圧力を減じさせるなんて、うちの親父にそんな権力あるわけ無いでしょ、っていう話」


言われて一同、はっとする。


「いや、今さらそんな顔されたって。考えればわかるでしょ、どうやってウチみたいな小所帯がまがりなりにも連合王国の体裁とってる魔族領と5年も全面戦争できたと思ってるの」


アシュリー姫の説明に寄れば、こういうことだ。

人類国家同士の半目は大いにあるが、とりもなおさず人類同士での紛争を収めたい。

なぜなら戦争、紛争は人類経済を大いに盛り立てているが、民衆の権力が強まる部分もあり、各国の王侯貴族連中はそれが全く面白くない。

となれば別の国を敵に仕立てあげ、そこで反乱分子予備軍をすりつぶすのが手っ取り早い。

それには魔族領を潰すのが最適だと思われたが、なにしろ各国による棄民政策の果ての人造国家だけに、どこも彼の国の正確な国力がわからない。

そこで魔族領と常に貿易摩擦を抱えているシェパーズラント藩王国に戦費を融資し、威力偵察代わりの全面戦争を仕掛けさせたということだった。


「で、先の戦争でさんざんおイタをした私が邪魔になった連中は、私を座敷牢に軟禁したに飽きたらず、確実に藩王国王位継承権を剥奪させるために私をあなた達に売り飛ばした。人類連合からの圧力を減じさせる? そんなのあなた達を引っ掛けた挙句、戦争に雪崩れ込むための嘘っぱちよ」


「なんと……そうであったのか……」


 魔王が頭を抱えて恐ろしく沈んだ声を出した。

 頭を抱えているのはメイドたちも一緒だ。

 呆れたアシュリー姫は執事に小声で尋ねた。


「師匠……こう言ってはなんですが、この人達お人好しすぎでは……?」


「然り。故に助力したのだ」


 むきり、とする老執事。


「助力するところが違います。もうちょっとこう、あくどいことを教えて差し上げないと」


「そうは言ってもな……この世の穢を一箇所に集めて煮詰めたようなこの地において、これほどの方のお心を汚すのは憚られる」


「……師匠もお人好しすぎます。よくもまぁこんなんで性奴隷商売なんて出来ますね」


「汚れ仕事は我ら下々の役目でよいのだ。それに商売は商売。品質とサービスで勝負してこそよ」


「それこそ大甘です」


 ほとほと呆れ果てた、という声を出したアシュリー姫は溜息一つつくと升に入った米の酒をぐいと飲み干した。

 どっしりとしたあぐらをかき、頭を抱えてウンウン唸る魔王をまっすぐに見る。


「陛下」


 これまたどっしりとした声。


「あ、はい」


 魔王は素直に居住まいを正した。


「魔族領の現状は大変良くわかりました。そこで私も及ばずながらお力添えいたしたく存じます」


「真か」


 ぱぁ、という感じで顔をほころばせる魔王。いや相変わらずフードのおかげで顔はよく見えないのだが。


「と言っても先ほどのようなのは結構。私もいずれ子を成すのでしょうが、もう少し尋常でありたいです」


「ならば何を持って?」


 魔王が身を乗り出す。


「知れたことです」


 升をメガネにぐいと突き出し、注がれた酒をまた一息で飲み干すアシュリー姫。


「要は魔族の領民と魔族領が安泰であればよいのでしょう。私が責任をもって、魔族のことごとくを安堵せしめます」


 恐ろしく自信たっぷりなアシュリー姫であった。




 それから1時間も経たないうちに、情景は冒頭のシーンへと戻る。

 燃え盛り、崩れ落ちようとする大魔王城。

 それを見つめる魔王と供回りと、アシュリー姫。

 周囲では官僚や衛兵たちが忙しく駆けまわっている。


「これで……よいのか?」


 魔王は呆然としながらアシュリー姫を見上げた。


「よいのです。陛下は私が倒しました。となれば私がこの地の辺境伯となることは道理となります。周囲も『あとはアシュリーを潰すだけ』として受け入れてくれるでしょう。そこが狙い目です。猶予はおそらく3から5年。その間にシェパーズラントを経由して魔族領の力を出来る限り底上げします」


「龍族、巨人族など君に纏ろぬものも出てくるぞ」


「人類軍250万を今のまま迎撃するよりは楽なものでしょう。というより、あなたを魔王に祀り上げておいて自分たちは領地で引きこもりだなんて、この私が許しません。魔族領のために働いてもらいます」


「君のために、ではないのか」


「そういった側面は否定しません。ですが、あなた方のようにお人好しで、人に頼まれたらいやといえない人々は放ってはおけません」


「なぜそうするのだ」


「決まっているでしょう」


 アシュリー姫は振り返った。

 変身していないのに、いやにくどい笑みがそこにはあった。


「私はあしゅらちゃんなんですよ」




 なお、魔族領はその後アシュリー姫の目論見をはるかに超え大陸北東部における覇権国家となったが、それはまた別の話であるし、ましてや魔王となったアシュリーの居室から夜な夜なお○んぽがどうとか筋肉ズリがこうとかいう前魔王ギュスターヴの喘ぎ声が聞こえるようになったとか、魔王アシュリーは子宝に恵まれたとかそんな話はなおのことである。

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