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この物語世界に全米ボディビル選手権大会などというものはないのだけれど。

大魔王城は炎のもとに崩れ去ろうとしている。

城の持ち主、魔王ギュスターヴは地べたにあぐらをかきながらそれを見ていた。

その周囲には焼け焦げ破れたドレスもそのままに仁王立ちするアシュリー姫と、魔王の幾ばくかの供回り。

どうしてこんなことになったのかというと少々話がややこしくなる、といいたいが。

単純明快、たった一言に要約できる。

つまりアシュリー姫ただ一人に魔王が敗れ去った、ただそれだけのことだった。




話は3時間前にさかのぼる。


「くくく、良い格好だなぁ、アシュリー姫よ」


暗くじめじめとした地下牢に、鉄の手枷をはめられたドレスの少女が繋がれている。


「なにをするのです!私をここから出しなさい!」


たわわに実った胸を大きく揺らしながら、アシュリー姫と呼ばれた金髪の少女は自分をそう呼んだ身なりの良い男に吠えかかった。

男は魔王ギュスターヴである。

顔は深くかぶったフードに覆われてよく見えない。


「その元気、いつまで持つものか。これから姫君には我妻、わが愛奴としてふさわしい物腰を身に付けてもらおう。快楽地獄に堕ちるが良い」


魔王は高笑いを上げながら地下牢をあとにした。


あとに取り残されたアシュリー姫を、魔王の配下が取り囲んだ。

オーク、ワーウルフ、リザードマン、吸血鬼。

いずれも人間の戦士の攻撃をものともせぬであろう屈強な体つきの魔族たちであった。

他にも怪しげな薬らしきものを手にした老人(ただし足は多数の触手だ)、目深にフードをかぶった異様に胸と尻の大きな魔女もいる。

そのうちの一人、オークがずいと姫の前に身を乗り出した。


「さてと……それじゃあおっぱじめようぜ。まずは俺からでいいよなぁ?」


「待ち給え。こちらの女性はさる王族のご令嬢。何も無闇矢鱈に傷物にすれば良いというわけではない。まずは私の出番であろう」


舌なめずりしながら言い放つオークを、吸血鬼の紳士が押しとどめた。


「魅了で落としてからイージーモードってか?アンタそんなんだから毎回詰めが甘いんだよ。まずは俺の肉球マッサージで身も心もほぐしてやるよ」


とワーウルフが言えば、


「逆に俺のフタモツで前後もろとも貫けば絶望してあとはいいなりになるであろ。まずは俺が」


リザードマンが主張する。

それを聞いて老人と魔女が


「いやいやワシの薬と触手でだな」


「何を言うのかしら、女の事なら知り尽くしてる私が」


と先陣争いに参加する。

ぎゃんぎゃんと言い争う魔王の配下共を見ていたアシュリー姫だったが、


「……さて、もういいかしら」


とつぶやいた。

耳ざとくそれを聞きつけ、振り向いた魔王の配下たちは唖然とする。

おもむろに、何事もないかのように、アシュリー姫は分厚い鉄の手枷を引きちぎったのだ。


「いてて……すりむいちゃった。やっぱり鉄の手枷ってのはよくないわね。だれかさっきの魔王さまに言っておいてくださる?愛奴を手荒に扱うようじゃお◯んぽねじ切られますよ―って」


言いながらアシュリー姫は首枷も可憐な指で引きちぎる。

首枷はヒフキオナガトビリュウモドキの革をなめしたもので、大抵の人間の力では断ち切ることなど出来はしない。


あっけにとられていた魔王の配下どもだったが、いち早く我に返ったのはオークだった。


「野郎!」


一声吠えると、右拳を大きく振りかぶり恐るべきスピードでアシュリー姫に殴りかかる。

オークの拳がアシュリー姫の頭蓋に吸い込まれ紅い花が咲くと思われたその刹那。

オークの身体は大きく浮き上がり、拳のスピードそのままに石壁へと頭から突っ込んだ。

大音響とともに石壁に大きな穴が空き、大量の土埃が宙を舞う。

たっぷりふた呼吸ほど配下どもは咳き込み、目を細めてオークが突っ込んだ壁を見た。

意外にも綺麗につるつるした尻と、ふんどしに包まれた大きなきんた◯が土埃の向こうから姿を現す。

そしてオークの脚の間に、腰を落として構えるアシュリー姫の姿を見たのだ。


「スケルグ!」


魔女が叫んでオークに注意を促した。あるいはそれがいけなかったのかもしれない。

魔女の声に反応し身じろぎしたオークに気づくと、アシュリー姫はオーク(の尻)に向き直った。


「ひゅっ!」


ドパパパパパパッ!

鋭い呼吸音の一瞬後、激しい連打音が地下牢に響く。

吸血鬼の目をもってしても何発の拳がオークのきんた◯に叩きこまれたか、はっきりとはわからないほどの速さだ。

オークはそのままピクリとも身動きしなくなる。

たじろいだ魔王の配下ども。しかし。


「ネイサン!合わせろ!」


「おっ、おう!」


リザードマンとワーウルフが飛び出す。

高い跳躍から回転し、拳足を繰り出すのはワーウルフ。

地を這うような低さから蹴りを繰り出すのはリザードマンだ。

しかしどっしりと構えたアシュリー姫は眉を蠢かせることもなく、ワーウルフの拳足を片手で払った。

リザードマンの足払いは間違いなくクリーンヒットしたが、アシュリー姫はこゆるぎもしない。

ついで顔面へ襲い掛かったリザードマンのしっぽを片手でつかみとって振り回し、ワーウルフともどもリザードマンを自分の右側の壁に叩きつける。

崩れた壁石が瓦礫となって彼らに降り注ぐ。

アシュリー姫は構え直すと2歩3歩前に進み、残りの者どもを睨めつけた。

しかしそれこそが吸血鬼の待ち望んでいた瞬間でもあった。


「ぬうううん!」


吸血鬼は眼力を集中させ、アシュリー姫に魅了を掛ける。

魔女たちは果たして魅了が聞くものかと訝しんだが、効果はあったようだ。

果たしてアシュリー姫の目と肩から力が抜け、彼女は棒立ちとなったのだ。

それを見て一同はほっと胸をなでおろし、改めてアシュリー姫を辱める手はずを整え始めた。


「さて、それでは私がお○んぽ一番乗りでよかろうな?」


襟元を正しながら吸血鬼が言い放つ。


「ああ、構わんさね」


「ワシも異論はないな」


魔女と老人が地下牢に持ち込まれたベッドの埃を払う合間に、吸血鬼はアシュリー姫に歩み寄った。

虚ろな瞳の彼女を顎をつかみ、自分の顔に向き直させる。

その魂の抜けたような表情が、彼のお◯んぽを否応なしに硬直させた。

荒ぶりそうな鼻息を懸命に押さえながら、吸血鬼は顔をアシュリー姫の首元に近づけた。

と、お◯んぽにやわらかな感触がある。

何事かと見やると、姫が彼のお◯んぽを自ずから掴んでいるではないか。


「これはこれは……どうやら魅了が効きすぎたようだ。そんなにもこれがほしいのですかな?」


そういった吸血鬼にアシュリー姫は焦点が合わないままの目で微笑んだ。

訝しんだ吸血鬼に、瓦礫から這い出たワーウルフが叫ぶ。


「スレイン!離れろ!」


遅かった。

吸血鬼は後ろ向きにまっすぐ吹き飛び、鉄格子に激突する。

太い鉄筋で組まれていた鉄格子は大きくひしゃげ、天井と床から抜け落ちる鉄筋もある。

身体を開き大きく腰を落とし、左掌を突き出したアシュリー姫の右手には、おっきくなったままボタボタと血を流すお◯んぽがあった。

しかし目は虚ろなままだ。

虚ろな目のままお◯んぽを足元に叩きつけ、スタスタと吸血鬼に歩み寄る。

彼が彼女を見上げた時にはもう遅かった。

ザクッ。

せっかく再生し始めた股間のお◯んぽを、きんた◯ごともぎ取られる。


「ぐあああああああああああ!!!!!」


「うるさいですわ」


ドスッという鈍い音とともに、アシュリー姫の拳が吸血鬼の腹に打ち込まれる。

吸血鬼の肉体は差し迫る危険を察知しシュウシュウと音を上げながら再生を早め、その結果。

ザクッ。

せっかく再生し始めた股間のお◯んぽを、きんた◯ごともぎ取られる。


「ぐあああああああああああ!!!!!」


「うるさいですわ」


ドスッ。


シュウシュウ。


ザクッ。


「ぐあああああああああああ!!!!!」


「うるさいですわ」


ドスッ。


魔女と老人(と彼の下半身から生えているおびただしい数の触手)はあまりの凄惨さに震え上がって縮こまり、肩を抱き合って部屋の隅に縮こまってそれを見ていた。


瓦礫から這い出たワーウルフと、意識を取り戻したリザードマンは呆然とそれを眺めるだけだったが、やがてリザードマンが眼前の光景の感想を述べた。


「綺麗な……カラーテだな……」


「ああ……おそらく魅了はかかったままだ。いま俺達が後から襲っても、きっと」


ワーウルフはそれから先を述べなかった。


お◯んぽをえぐり取り、どこかしらを殴りつけて黙らせる。

更に5回ほどそれが繰り返されたところで、突如アシュリー姫の視界が煙幕で覆われる。

彼女の直ぐ側を何かが背後へと素早く移動した。

振り返ると、コウモリの翼を生やした肌もあらわな少女が宙を舞っていた。


「おのれ……おのれ人間風情めが!!よくも私にこれほどまでの辱めを!しかしこの姿ならばもぐところなどなかろう!もう魔王の命など知るものか!!粉微塵に粉砕してくれムグゥーッ!?」


慎ましやかな胸とコウモリの翼しか持たぬ少女へと姿を変えた吸血鬼はしかし、その叫びを自らの肉体に生えていた肉塊を口蓋へ押し込まれることで遮られた。

彼、あるいは彼女の喉首を片手で締め上げ、石床へ押し付けたアシュリー姫は虚ろな目のまま、先ほど放り投げたお◯んぽを取り上げた。

それは未だに勃起している。

何をされるかわかってしまった吸血鬼は恐怖に染まった目からボロボロと大粒の涙をこぼし、必死にもがいた。

しかしその鋭い爪は、アシュリー姫の柔肌一つ傷つけることさえかなわない。

やめて、やめてくれ、後生だからそれだけは――

吸血鬼の願いが冥界に通じたのか、その行為は果たされずに済んだ。


「アーガーム、イル・イル・シー、遠方より疾く来たりて雷よりも速く我が敵を討ち滅ぼせ――ヘルファイヤ!」


魔女の詠唱とともに顕れたとてつもない業火に、アシュリー姫は吸血鬼ごと覆われた。

輻射熱でワーウルフの体毛と壁に埋まったオークのふんどしに火が付き、オークはそれで目を覚ました。

アチアチと大騒ぎしながらオス共は魔女の元へと駆け戻る。


「ミショーン!なんてことしやがる!俺達も殺す気か!」


「スレインまで巻込みやがって!」


「こんな狭いところでヘルファイヤなんか使うな!!」


ゼイゼイと肩で息をする魔女は抗議の声を上げるオス共を一瞥すると、フンと鼻を鳴らした。


「わるかったわね。でも、これで」


火球が消し飛ぶ。

立っていたのは、豊満な胸と腰回りだけを残して焼けただれたドレスを身にまとうアシュリー姫。

肌には焦げ跡、やけど一つ見当たらない。

右手にはあちこちが焼け焦げただれた、少女の姿の吸血鬼。かろうじて生きてはいるようだ。

誰かが呆然と呟く。


「……マジか……」


「化物め……!」


オークが吐き捨てるようにつぶやくと、眼の色を取り戻したアシュリー姫はその豪奢な金髪をかきあげながら宣った。

焼けただれた吸血鬼を魔女の傍らに向かって放り投げる。


「私に魔法は効きませんわよ」


「……今のヘルファイヤは私の全魔法力の3分の2を叩き込んだ、対物理/対魔法障壁貫通魔法弾、改3型。あれを止められるのは第3位階以上の悪魔か天使だけよ。魔王さまだって無傷では済まないわ。それを……」


「まぁなかなかすごい手品でしたわね」


渾身の一撃を手品呼ばわりされた魔女はがっくりと膝をついた。

もうできることなど何もない。

魔女は完全に戦意を喪失した。


アシュリー姫が余裕しゃくしゃくの笑顔を浮かべたその時、その左腕にガラスで出来た注射器が突き刺さった。

白衣の老人が投げたものである。


「つっ!」


「ふ、ふへ、ふひゃーっはっはっは!ダメ元でもやってみるもんじゃのう!まさかワシの注射器が通るとは思わなんだぞ!」


「博士!」「やった博士!」「エロ博士きた!」「「「これで勝つる!!」」」


歓声を上げる魔王の配下の者どもをよそに、アシュリー姫は注射器を引きぬき、踏み砕いた。


「あーあー、無駄じゃ無駄じゃ、それの中身は特性の筋弛緩剤じゃ。どんな地獄の化物でも小さじいっぱいで身動きできなくなるワシの自慢の一品じゃ。人間ならほんの一滴でも生命さえ危うくなるわい」


勝ち誇る白衣の老人は自分の触手たちに命令する。


「そーらお前たち!姫殿下をお前たちの触手お◯んぽで慰み者にするのじゃ!!」


ところが触手たちは動かない。

どころかきゅーきゅーと可愛い声を上げて縮こまるばかり。

中には震えながら魔女に擦り寄ろうとする触手までいる始末だ。

臆しているのだ。


「なにをしておる!ええい!行かんかこの痴れ者どもが!!」


自分の脚だか触手だかに怒鳴りつける白衣の老人に、アシュリー姫が2歩3歩と歩み寄る。


「ひっ」


たじろぐ魔王の配下共の前で、アシュリー姫は右手で左手首を押さえ、左肩を前に出し胸を張り、たわわな胸を横に向かって張り出すようなポーズを取った。

ニカっと笑うと、歯を食いしばりこめかみに青筋を立て全身を強張らせた。

瞬時にしてアシュリー姫の身体が膨張する。


筋 肉(パーンプ!) 変 身(アーップ!!)


やわらかな陰影と曲線で包まれていた白く美しくたおやかな肌。

それは今や、内側から張り裂けんばかりの圧力で存在を主張する筋肉を薄く包んだ、テラテラと光る浅黒い肌にとって変わっていた。

可憐な曲線を描いていたはずの首元と背筋は複雑に入り組んだ筋肉に覆われ、ふくよかでありながら適度な太さを保っていた腕は丸太のように太く筋張り、艶めかしい曲線を描いていた臀部からつま先へかけては大木のように肥大し、その筋肉は神鉄の鏃でも貫けないかと思われた。見事にくびれながらもやわらかな肉に覆われていたはずの腹回りに至っては、見事に6つに分かれた鎧の如き腹直筋がその存在を主張している。歳の割にはいささか大きすぎ張りのあった柔らかな胸は、いまや張りと厚みと硬さしかない。

アシュリー姫?だった者?は一段笑みを大きくすると、


「フンッ!」


と気合を入れた。


「マ!ジ!カ!ルゥ~~~~~!サイドチェスト!!」


注射器が刺さっていたと思しき一点から血液がぴゅう、と僅かにほとばしる。


「薬は今、排出したわ」


アシュリー?姫?だった?ものは、脂っこい笑顔と野太い声で宣言した。

そのままくるりと振り向き、大きく腕を広げると全身を強張らせ、今度は陰影の濃い背筋の存在を大いに主張する。


「マジカルぅ~!バックダブルバイセップス!」


それを見て魔王の配下どもは腰を抜かして失禁した。

ちょろちょろとあふれ出たあたたかな液体は混ざり合い、たまさか排水溝をふさいでいた焼けただれた吸血鬼の身体(ちなみに未だに幼女体型)を潤した。

尿に含まれていた塩分など各種ミネラルのおかげで吸血鬼の再生スピードは速まったが、本人が知ったらどう思うのか。

ともあれ可憐でところどころだいぶなまめかしい印象だったアシュリー姫は、いまや全米ボディビル選手権大会へヴィー級王者もうなるほどの量とキレのある筋肉を見せつけていた。この物語世界に全米ボディビル選手権大会などというものはないのだけれど。

一通りポーズを取り終えたアシュリー姫は、最初のポーズに戻り、それからポーズを解いた。

すると彼女?のすがたは光りに包まれ、瞬時に元のアシュリー姫の姿にもどる。

腰を抜かしたままの魔王の配下どもだったが、ワーウルフはアシュリー姫の内太ももに描かれた紋章に気づいた。


「あの大腿四頭筋……上腕二頭筋……それにあの紋章、カラーテ。間違いない」


「ネイサン?」


リザードマンが訝しむ。


「間違いない。あの方は『筋肉魔法少女☆あしゅらちゃん』だ」


ワーウルフは断言した。


「あしゅらちゃん!?」「まさかあの?」「魔物も人間も平等に裁くというあの筋肉モリモリ変態マッチョ野郎か?」「じゃがあしゅらちゃんは2年前に姿を消したと聞くぞ」


筋肉魔法少女☆あしゅらちゃんは互いに相争う魔族領とアシュリー姫の故郷・シェパーズラント藩王国の国境地域に出没した義賊である。

互いの占領地での重税や差別、傭兵団やはぐれ部隊による略奪といった明らかな不正を聞きつけるとどこからともなく現れ、その筋肉とカラーテを駆使して、魔族と言わず人間と言わず『おし☆おき』したのだ。

戦争行動そのものは止めようともしなかったが、そもそもたった一人では戦争を止められるはずもない。

しかし、だからこそ、あしゅらちゃんは「なるべく綺麗な戦争」を演出するべく活躍した。

結果として魔族領とシェパーズラントの戦争は2年と少し前に幾ばくかの領地と賠償金をやり取りし、停戦を迎えざるを得なくなった。

両者とも、『占領後』の領地の維持について筋肉魔法少女☆あしゅらちゃんの介入によって大きな痛手を被っていたのだ。

あしゅらちゃんが姿を消したのは停戦協定が発効し、両軍がともに活動を停止してからのことである。


ワーウルフがアシュリー姫の前に歩み出て、ひざまずいた。

オークたちも慌てて後に続く。

どうあっても勝てないと思い知ったからだ。


「恐れながら姫殿下にお尋ね申し上げます。貴方様はあしゅらちゃんでは?」


「いかにも、2年前まではそのように名乗ることもありました。あなたは?」


「これは大変ご無礼を。(それがし)、ネイサン・ウルフェンシュタインと申します。あしゅらちゃん☆ふぁんくらぶ、会員番号543番でございます。3年前、貴方様に生命を助けていただきました」


ワーウルフはそう名乗ると、左手で右手首を掴み、力を込め、上腕と肩の肉を強調してみせた。


「その三角筋、僧帽筋。見覚えがあります。あの泣き虫だった狼の子がたくましくなったもの。見違えました」


「恐れ入ります、姫殿下。あのあしゅらちゃんとは露知らず。平にご容赦を。このような者どもですが、根はよい者ばかりなのです。我が首にて、この者どもの生命、なにとぞお見逃し下さいませ」


オークがおい、とワーウルフの肩を掴んだが、彼はそれを振り払って地面に頭を擦り付ける。

それを見てアシュリー姫は柔らかく微笑した。


「いえ、よいのです。少々物足りませんが、良い運動になりました。今後このようなことがなければ許します」


「誠に寛大なお心、かたじけなく」


アシュリー姫は鷹揚にうなづき、ワーウルフは泣きながら平伏した。

しかし、アシュリー姫が寛大さを見せたのはそこまでだった。


「ですが、あの男。魔王陛下。あれは許せませぬ。私をお◯んぽ堕ちさせたいのなら、自分ですればよいのです」


そう言うとアシュリー姫は大股でワーウルフたちの横を通り過ぎた。


「お待ち下さい姫殿下、どこへ行かれるのです!今頃地下牢の出口には、我が軍勢が押し寄せておりますぞ!」


呼び止めるワーウルフに、アシュリー姫は凄惨な笑みを返した。


「知れたこと。あやつのお◯んぽをもぐのです。それに、」


「それに?」


「今の私は『筋肉魔法少女☆あしゅらちゃん』です」

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