僕達の将来 ② 他クラス
久々に登校した伝輝は、短期間で成長したクラスメイト達を見て、少し戸惑いを感じていた・・・
朝礼の時間になり、ツキノワグマの団助先生が教室に入ってきた。
伝輝が着席していることに気付き、ニコッと微笑んだ。
「久しぶりだね。ありさ、伝輝君。
君達が休んでいる間に、少しメンバーは変わったが、久々の全員出席だ。
やっぱりクラスメイト全員揃っていると、嬉しくなるね」
「団助せんせー!
伝輝って、スタントマンの訓練所に行ってたんですよね。
じゃあ、もうスポーツ禁止じゃあねーっすよね?」
ドリスがガタンと音を立てて起立し、ピシッと手を上げながら言った。
「ああ、うん、そうだね・・・」
団助先生は、ドギマギしながら、ドリスと伝輝の方を見た。
「授業が始まる前に、校長先生に確認してみるよ」
「えー、今、教えてほしーのにー!」
茶介も大きな声で言いだした。
「先生の一存で決められないから、ちょっと待っていなさい!
ほら、二人共静かに!」
団助先生は手短に朝礼を終わらせ、そそくさと教室を離れた。
授業始めのチャイムが鳴り、先生が戻ってくると、伝輝のスポーツ禁止解除が言い渡された。
「よーっしゃあー! やったぜー!」
「伝輝、お前をフォワードにしてやるぜ!」
ドリスと茶介が大げさに騒ぐので、団助先生は大きな声で注意した。
「あいつら、うるさくて迷惑だよ・・・」
マグロの隣の席のヤギの男の子が呟いた。不愉快そうに、斜め後ろを見る。
「本当、嫌になるよね、タツヤ」
マグロもこそっと言った。
「マグロって、ドリスと何年も同じクラスなんだよな。
気の毒に思うよ。
僕も茶介と同期だけど、卒業までのもう少しの辛抱だし」
「全くだよ。僕はタツヤが羨ましいよ。
まだまだあいつと学校生活を送らなきゃいけないんだからさ」
マグロの後ろの席に座る晴が「まぁまぁ」と笑いながら言った。
◇◆◇
昼食・昼休み開始のチャイムが鳴り、ドリスと茶介は大慌てで弁当を広げて食べた。
伝輝もその中に加わり、夏美が用意した弁当のおかずを口の中にかき入れた。
茶介が突然窓の方を見て大きな声を上げた。
驚いた伝輝は喉におかずを詰まらしそうになり、むせながらお茶を流し入れた。
「ボルハ達がもう校庭でサッカー始めてる!」
「マジかよ!?」ドリスも慌てて窓の方を見る。
伝輝も見てみると、校庭全体を悠々と使ってサッカーを始めている十数人の動物達が居た。
トラ、オオカミ、ヒグマ、ジャガー、ホッキョクグマ等
ザッと見る限り、猛獣・肉食獣と呼ばれる種類ばかりだった。
「そう言えば、ボルハ達のクラス、前の授業調理実習だったみたいだよ。
授業中に昼飯済ましたってことじゃない?」
近くにいたツキノワグマの男の子が言った。
それを聞いたドリスは不満そうに眉を動かした。
「くっそぉ。あいつら、絶対場所譲らないからなー。
絡むのも面倒だし」
「放課後、リベンジだね。
俺、ボール用意して、ソッコー校庭に向かうよ」
茶介が力強く言った。
◇◆◇
昼食を終えたドリスと茶介とツキノワグマの男の子は、元気よく教室を飛び出して行った。
サッカーができなくても、いくらでも遊ぶことはできるのだ。
伝輝は彼らよりも後に弁当を食べ終え、図書室に向かった。
しばらく訓練や試験で、本を読む時間がとれなかった。
放課後は図書室に行けそうにないので、今のうちに読みたい本を借りようと思った。
図書室の入口が見えてくると、その傍にありさが立っているのが見えた。
紺色のカーディガンと、膝丈のチェックスカートという、まるで私立学校の制服の様な恰好をしている。
ドアを開けようと手を伸ばした際、伝輝に気付いたらしく、スッと振り向いた。
そしてフッと微笑み、向かいの窓際を指差した。
図書室向かいの廊下の窓からは、中庭が見えた。
そこでドリス達が柔らかいボールでドッジボールをしていた。
「伝輝も今日から登校だったのね。
もっと先に来ているのかと思ってた」
「うん、家に着いたら、また熱が出ちゃって」
二人は横並びで窓の方を向いてた。
ありさは話しかける度に、顔を伝輝に向けたが、伝輝は一点を見たまま動かせなかった。
そんなことよりも、今朝ありさとドリスが仲良く歩いていたことが気になって仕方がなかった。
「ありさも今日から登校だったから、子ども園がドリスに頼んで、付き添わせたのか?」
伝輝の質問が意外だったらしく、ありさは首を傾げた。
「違うわよ。
毎日じゃないけど、朝はよく合流して一緒に来ているの」
「何で? 嫌じゃないの?」
「別に。
面倒くさいし、鬱陶しい奴だけど、嫌いじゃないわよ。
もちろん、好きでもないけど。
マグロもそうだろうけど、私達入学してからずっと同じクラスだしね。
いちいち仲良くも仲違いもしないわよ」
ありさの言葉に、今度は伝輝は顔を向けた。
ありさは澄まし顔でに窓から見える中庭の様子を眺めていた。
「そっか・・・」
少し納得し、ホッとした気持ちになった。
確かに、ドリスとマグロは二人でいるところを見かけたことはない。
しかし、他の生徒と一緒に、普通にサッカーやヒーローごっこはしていた。
友達として仲良くしている訳ではないが、嫌っている訳でもないのだ。
「どうせ、あと二年位でドリスは卒業するんだし。
適当に付き合っていれば良いのよ」
「あと二年!?」
「そうよ。
個体差や、地域にもよるけど、動物界の場合、ヒトは十五歳で成人なの。
就職して、結婚も子どもを作ることもできるようになるわ。
お酒やタバコとかは、まごころ町ではまだ駄目だけどね」
伝輝が世間を詳しく知らないと分かっているありさは、丁寧に話してくれた。
「二年後には、私もドリスにプロポーズされているのかなぁ・・・。
今のあいつを見る限り、全然そうは思えないんだけど」
「プロポーズ!?」
伝輝はかつてドリスが「自分とありさはいずれ結婚する」と言っていたことを思い出した。
「あ、ありさもそのつもりなの・・・か?」
「分かんないわよ。
でも、まごころ町って、ヒトの数が少ないし、繁殖していくには、選んでいる場合じゃないでしょ。
いずれ、カンパニーか子ども園から、そうしろって言われるんじゃないかしら?」
「そんなの、おかしいよ。
何で、そんな大事なことを、会社とかに決められなきゃいけないんだよ。
ありさの人生は、ありさのものだろ」
ありさの目がパッと見開いた。
驚いた表情で、伝輝を見る。
見つめられて、戸惑ったが、伝輝は目をそらさないように踏ん張った。
「私の人生・・・、私のもの・・・?」
ありさの瞳が潤み始めた。
伝輝は地雷を踏んでしまったと、直感した。
「あ、でもやっぱり、人それぞれだから、ありさが良ければそれで良いんじゃないかな?
ドリスも、ありさのことが好きだしさ」
おおげさな手振りを添えて、伝輝は必死で場を何とかしようとした。
「違うわ」ありさは再び中庭の方を見る。
恐らく、下ではしゃいでいるドリスを見ているのだろう。
「あいつは私のことが好きで結婚しようと思っているんじゃないの。
卒業したらすぐに結婚して、奥さんと農場で働きたいだけなのよ。
別に私じゃなくて良いの。
ただ、私が一番身近にいるからそう思っているだけよ」
ありさの語気が、段々強まってきた。
「本当に私のことが好きで、結婚してほしいならさ。
私が喜びそうな話をするものじゃない?
あいつの話の九割以上はどうでも良いけど、たまに面白いこともあるから笑うこともあるわ。
でも、あいつは私が笑おうが笑うまいが関係ないのよ。
ただ、自分が話したいことを話しているだけだもん」
「ありさ・・・」伝輝も窓の方を見た。
良くも悪くも、伝輝の両親は周りの意見を聞き入れず、結婚し自分を産んだ。
「自分達で決めたことだから」と、夏美は昇平と別れることなく、今まで自分を育ててくれた。
そんな環境で育ってきたからか、伝輝から発した言葉は、とても素直な意見だった。
「だったら、断れば良いよ。
ドリスに結婚してくれって言われたらさ。
嫌なら結婚する必要ないと思うよ」
ありさは再び伝輝を見る。
「・・・そうね、考えてみるわ」
そう言って、ありさは窓から離れ、廊下を歩いて行った。
涙目になっている様子もなく、いつもの澄まし顔でその場を去った。
「ケッコンか・・・」
まさかこの年で、日常会話中「結婚」という言葉を多用するとは思っていなかった。
十五歳で成人だなんて、江戸時代みたいだとも思った。
まごころ動物園の飼育員前田さんや、助産師の咲さんは、昇平よりも年下である。
二人共とても落ち着いてしっかりしているように見えるのは、成人が早いからなのかもしれない。
人間界では、部活をして、女子高生とレンアイできる年頃なのに、もう大人として生きなければいけないなんて、何だかもったない気もする。
「フクザツだなぁ・・・」
ハァとため息をつき、伝輝は図書室に入った。
◇◆◇
午後の授業では、茶介は机の下にサッカーボールを潜り込ませ、いそいそと時間が来るのを待っていた
休憩時間中、ドリスはそれとなく団助先生に、終礼の短縮を希望していた。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、生徒達は凄まじい速さで机上を片付け、下校支度をした。
それに応えた団助先生は、ほぼ挨拶だけで終礼を終わらせた。
ダッと、茶介がボールを持って飛び出して行った。
あまりの速さに、団助先生はポカンと口を開けたまま後部入口を見ていた。
「茶介が場所取りに行ってくれたから、俺達も行こうぜ」
ドリスが茶介のリュックを担ぎながら言った。
ドリスとツキノワグマの男の子が茶介に続くように走って教室を出て行った。
伝輝は教壇の方まで行き、一応団助先生にペコリと挨拶してから教室を出ようとした。
マグロの席に近付くと、マグロは後ろ向きになり、雄ヤギのタツヤと向かい合っていた。
晴の机には将棋盤が置かれており、晴が二人の対局を立ったままジッと見つめていた。
「病み上がりなんだから、無理するなよ」
通りかかった伝輝に、晴がサラリと声をかけた。
「晴、静かにして、集中してるんだから」
マグロがピシャリと言った。
伝輝は晴と目を合わし、手で挨拶をして廊下を歩いて行った。
「おせーぞ、伝輝」
ドリス達は下駄箱の前で靴を履きかえて待っていた。
「茶介が折角場所取りして、待ってくれているんだからよ」
「まだ、全然生徒達出てきてないじゃないか」
伝輝はポツポツといる動物達を見ながら言った。
「うるせー、時間が惜しいんだ。行くぞ」
三人は校庭に向かった。
すると、そこにいるのは、茶介一人ではなかった。
「あれは・・・!」
茶介が尻もちをついており、その周りを強面の連中が囲っていた。
「ボルハ達だ!」ドリスは表情を険しくした。
一方、ありさは、教室から校庭を眺めていた。
校庭の中央には、茶介と他クラスのボルハ達がいる。
その団体に向かって、ドリス達も走ってきている。
「余計なことを起こさないでよ」
ありさは小声で呟いた。




