表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間6号 3  作者: 腹田 貝
伝輝とタカシ
2/16

僕達の将来 ① 久しぶりの登校

一月、グル―パー島でのキバ訓練所下級クラス卒業試験を終えた伝輝は、まごころ荘の6号室に戻ったが・・・

 ぼやぁと、伝輝の瞼が開いた。


 厚手のカーテンがピッチリ閉まっており、部屋の様子だけでは、現在時刻が分からなかった。

 照明は消えているのに、うっすら家具の形が見える辺り、少なくとも深夜ではないと思った。


 意識がはっきりしてくると、顔が冷たい空気にさらされていることに気付く。

 首から下は、毛布と布団に挟まれてぬくぬくだ。

 顔もそこに交ぜてあげようと、伝輝は全身をすっぽり布団で包む。


 ズズズズ


 ふすまが横に開く時の音がした。

 ぬぅっと布団から目元まで出し、音がする方を見た。


 母親の夏美が部屋に入り、壁にある照明スイッチを押した。

 パッと、室内が明るくなり、LEDの青白い光が伝輝の目に入り込んだ。


「おはよう、起きたのね」

 夏美は枕元で正座になり、優しく伝輝の額に触れた。

「熱を計るわね。

 今は七時前だけど、熱が下がってたら、学校行く?」


 夏美の声掛けには反応せず、伝輝は首だけを左右に動かし、室内全体を見た。


 布団は自分の分しか敷かれていない。

 夏美はパジャマのままだし、既に布団が片付けられたというわけではないようだ。


「ああ、私達三人は隣の部屋で寝ているのよ」

 伝輝の反応に気付いた夏美が答えた。


「覚えてる?

 伝輝、家に着いた途端に、熱が三十九度位まで出ちゃったのよ。

 タカシさんに診てもらったら、風邪だって言われて。

 疲労で身体が弱っていたから、ウイルスにやられちゃったんだろうって。

 だから、優輝にうつさないように、私達は隣の部屋で寝ることにしたの」


 夏美の話を聞きながら、伝輝は記憶を遡った。


 南半球オセアニア地域にある、動物界の孤島グル―パー島。

 そこで伝輝は一週間以上滞在し、密林や草原をひたすら走り回っていた。

 家畜を狩り、その場で食べ、時には闘った。


 暑さと太陽の光が皮膚を襲い、吹き出す汗と乾く喉の感覚は、まだ残っている気がする。


 滞在中は疲れというものを忘れていた。

 しかし、卒業試験が終わった途端に、身体はダメージを思い出し、伝輝を数日間動けなくした。


「熱は無いわね。

 どうする? 学校に行く?」


 伝輝がボーっとしている間に、夏美は伝輝の脇に体温計を挟み、体温を確認した。


「行く」伝輝は重い身体を起こした。


 布団から出ると、寒くて震えた。

 夏美は伝輝に半纏はんてんを着させ、先に部屋を出ようとした。


「お風呂は入らない方が良いと思うけど、洗面台で頭は洗いなさい。

 流石にちょっと臭うから」


     ◇◆◇


 まごころ荘の6号室の玄関ドアを開けると、ヒュッと冷たい風が身体を刺した。


 日は出ているのに、こんなに寒いなんて。

 ついこの間まで、真夏の島にいた分、余計に北風が辛かった。


「あー! 伝輝君、おはよう!」

 下から久々の声が聞こえた。


 伝輝は何だかホッと安心しながら、外階段を降りた。

「おはよう、マグロ君」


 アジア象のマグロは、伝輝が住むまごころ荘のすぐ傍に建っている、管理人の家の一人息子だ。

 山吹色のフリースパーカーを羽織り、ジーンズを履き、赤い手袋を身に付けていた。


「今日から学校行けるんだね!」

「うん、大分休んじゃったから、ちょっと緊張するなぁ」

「大丈夫だって!

 伝輝君がいない間に卒業したり入学したりした動物もいるから、気にしなくて良いよ」


 マグロは楽しそうに長い鼻を身体の前でフリフリ動かしながら言った。


 会話しながら歩いていれば、マシなのだが、赤信号で立ち止まると、冬の寒さが身に染みた。


「今日も寒いねー。

 僕、二月って本当嫌いだよ。

 肌か乾燥して痛いんだもん」

 マグロはニット手袋をはめた両手で、灰色の頬をさすりながら言った。


「伝輝君が今日着ているセーターって、もしかしてタカシさんが買ってくれたやつ?」

「マグロ君、知ってるんだ。そうだよ」


 伝輝は青い袖なしダウンの下に、ケーブル編みの白タートルネックセーターを着ていた。



 朝食を食べている時、夏美がリボン付きのプレゼントを伝輝に手渡した。


「タカシさんからよ。

 伝輝の合格祝いだって」


 包装紙を破ると、白いセーターが三着入っていた。

 タグを見ると「高伸縮・形状記憶加工済み」と書かれていた。


 服を着たまま四足歩行から二足歩行へ骨格が変わる動物の為に作られた、動物界の服だった。



「昨日、タカシさんに頼まれて、一緒に買いに行ったんだ。

 でもタカシさん、僕が何度言っても色違いとかじゃなくって、全く同じものにするんだ」


 マグロがため息をついた。

「タカシさんがいつも着ている白いチェックシャツ、夏用冬用合わせたら二十着位あるらしいよ。

 オシャレに興味の無い動物が、服をプレゼントしちゃ駄目だと僕は思うんだよね・・・」


 マグロの話を聞きながら、伝輝は恥ずかしくなった。

 プレゼントが素直に嬉しかったので、迷いなく着たのだが、一緒に登校する相手を間違えた。

 確かに、同じ服三着はいらないと思ったが。


「あ、ドリス・・・」


 唐突にマグロが話題を変え、しばらく聞いていなかった名前を言った。

 伝輝はビクッとして正面を向いた。


「と、ありさだ」


 え?

 伝輝は自分の目と耳を疑った。


 目の前の角を曲がれば、まごころ学校正門までの直線道路につながる。

 そこを、他の動物の子ども達と同様に歩くヒトの少年と少女が横切った。


 少年の方は、紺色に赤のラインが入ったベンチコートを着ている。

 表情をクルクル変え、大げさな手振りを添えてペラペラ喋っている。


 少女の方は、脳天から鉄の棒が刺さっているのかと思う程、真っ直ぐ伸びた姿勢でスタスタと歩く。

 時折、隣で口を動かしている少年の方を向き、また表情一つ変えずに戻す。

 長い黒髪は、ベージュ色のダッフルコートの上にストンと乗っかっている。


 伝輝はドリスとありさが並んで歩く姿を見たことがなかった。

 声をかける気がマグロにないので、二人はドリス達の後ろ姿を見ながら歩いた。


 ドリスが一方的に話しかけているだけのように見える。

 しかし、ありさには普段の教室での、面倒くさそうな様子はなかった。


 クスッ


 ありさが吹き出し、ケラケラと笑い出した。

 ドリスも嬉しそうに、さらに盛り上げようと動作を大きくする。


 伝輝は衝撃を受けた。

 ありさは冷たいと言って良いほど無表情でいることが多い。

 微笑むことがあるが、それでも自分との会話で、あんな風に笑う姿は見たことなかった。


 ドリスは、少し見ない間に背が伸びたらしく、横並びだとありさとの身長差が分かる。

 無意識に「羨ましい」と思っていることに、伝輝は気付き、顔を赤くした。


     ◇◆◇


 約二ヶ月ぶりの教室に入ると、生徒達の目は一斉に伝輝の方を向いた。


「伝輝! しばらくだな!」

 ドリスの馬鹿でかい声が教室中に響く。


 伝輝は少々戸惑いながら、窓際の自分の席へ向かう。

 マグロの席は入口ドアのすぐ傍なので、そこにドスンと着席した。

 ラブラドールレトリバーのはるがマグロに話しかけてきた。

 伝輝はチラリと彼を見たが、背が伸びていて、雰囲気も以前よりかなり大人びていた。

 きっと卒業が近いのだろうと直感した。


「訓練、お疲れさん。

 めちゃくちゃハードだったんだってな!」

 伝輝が着席し、リュックから荷物を出していると、ドリスが話しかけた。


 訓練と言われて、伝輝はドキッとした。

 キバ訓練所のことは、原則内密なのだ。

 だが、そう言えば彼はグル―パー島に行く前、優輝を見に来ている。

 つまり、ドリスは自分がキバ訓練所に通っていることを知っていたのか・・・


「スタントマンの訓練所なんて、団助も面白いところ紹介するよなー!

 ま、確かに前見た時よりも、何かたくましくなった感じはするぜ。

 この真冬に日焼けしてるし」

 ドリスは屈託なくニコっと笑った。


 スタントマン・・・。

 恐らく、そう周知されているのだろう。

 伝輝は黙ったまま、うなづいた。


「ねぇ、スタントマンの訓練って、何するんだ?

 卒業したら、俳優目指すのか?」


 仔山羊がピョンッとドリスの机に飛び乗り、伝輝の顔を覗き込むように見た。

 頭頂から後頭部にかけての白い毛先が無造作にはねている。


茶介ちゃすけ

 そういうのは、周りに言っちゃいけないらしいぜ。

 企業秘密とかで」

 ドリスが茶介と呼ばれた仔山羊に言った。


「茶介・・・。あっ!」


 伝輝はこの仔山羊が、源次郎と入れ替わりで入学した生徒だと分かった。

 入学したての頃は、幼くオドオドした様子だったが、今はまるで同級生と話しているような感覚だ。

 たった二ヶ月程でここまで変わってしまうのか。

 伝輝は動物の成長の速さに驚いた。


「何だよ、気付かなかったのか?

 とっくにレンジャーごっこは卒業して、最近じゃあウチのクラス一番のミッドフィルダーだぜ」

 ドリスはニッと笑いながら、茶介の肩に手を乗せた。


「スタントマンの訓練してんだったら、流石にスポーツ禁止じゃねぇよな?

 後で、団助に確認して、昼休みにサッカーやろうぜ」


「ドリス、良いねー!

 俺、チーム内訳考えとくわ!」


 二人は、伝輝が加わることで、どう組み合わせればバランスがとれるかを話し合っていた。

 横目で見ながら伝輝は、その姿をかつてのドリスと源次郎と重ねた。


 寿命の長い動物は、出会いと別れを何度も繰り返して生きていく。

 しかし相手にとっては、一生に一度だから、決して手を抜かない。


 グル―パー島で伝輝が学んだことの一つだ。

 それを難なくこなしているドリスを、改めて凄いと思った。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ