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人間6号 3  作者: 腹田 貝
伝輝とタカシ
15/16

ありさの冒険 ⑦ 情報収集

NHPに到着した、伝輝・タカシ・ありさ。しかし、エキストラとして参加するには、参加証が必要であることが分かり・・・

「とりあえず、中に入ろうか。

 チケットがあれば、再入場もできるし」


 エミリーが去った後、タカシが言った。

 マスク越しの為、聞き取れなかったが、ありさは目元を赤くし、ブツブツと呟いていた。


 入場ゲートの列に入り、三人は他の人間の様子を見る。

 大半が、携帯電話の画面を指で撫でていたが、A4サイズの紙を一枚持っている者もいた。

 こっそりのぞくと、「ザ・ラスト・オブ・ヒミコ エキストラ参加証」という文面と、数字とアルファベットが組み合わさった番号のようなものが見えた。


「チケットとは別に、エキストラ参加を証明する番号が必要みたいだね」

 タカシが言った。


「タカシさん、ちょっとこのまま列にいてくれる?」

 ありさが言った。そして、伝輝を引っ張り列から出た。


 二人は、列からはみ出たところから、グイグイ前へ進む。


「まー、どうしたんだ?」


「情報収集よ。

 私達が、ロケ地に行くには、無断侵入するしかないんだから」


「無断で!?」


「そうよ。

 それとも、今ここで誰かの参加証を無理やり奪う?

 ま、出来なくはないけど」


 ありさはこれ見よがしに、右手を前にかざし、指を鳴らすフリをした。


「よせよ。ここは人間界だぞ」


「分かっているわよ。

 だから、他の方法を見つける為にも、エキストラについて情報が欲しいの」


二人が入口周辺を歩いていると、白くて四角い形をした車の近くで、大きなカメラなどの機材を持った人間が複数立っていた。

 地味な服装の男性の中で、一人真っ赤なコートを着た若い女性が立っている。

 女性はマイクを手にしていた。

 伝輝達の目にも、彼らがニュースなどで見かけるテレビレポーターだと分かった。


「撮られるとマズイから、カメラマンの背中側に行きましょう」

 サッとありさが指示を出し、二人はいわゆるロケ車の傍で立っている野次馬に混ざった。


 『しゃちほん』というワイドショー番組らしいが、伝輝は知らなかった。


「さぁ、私は今、日本歴史遊園の入口にいます。

 今日は日本映画史上最大規模と言われる、『ザ・ラスト・オブ・ヒミコ』エキストラ参加の大型ロケが行われます。

 ご覧ください、あの長蛇の列を!」


 スタッフの合図とともに、レポーターの女性が明るく話し始めた。

 伝輝とありさは、カメラがこちらに向かないよう注意しつつも、レポーターの声に耳を傾けた。

 

「一年以上前から募集し、プロ・アマ含め二千人近くのエキストラがNHPに集まり、来年オープンを控えた弥生時代ゾーンで、撮影を行います。

 映画の現場だけではなく、オープン前の新エリアも体験できるということで、エキストラ募集としては、異例の倍率の高さに注目が集まりました。

 そんな中、『しゃちほん』特別枠で採用された、しゃちほんサポーターキッズエキストラの皆さんを紹介したいと思います」


 レポーターの声に合わせて、野次馬側にいた人間がゾロゾロと前に出てきた。

 小学校低学年と高学年と思われる子どもがそれぞれ二人ずつと、その親達のようだった。

 母親達は皆、化粧バッチリに決め、ニコニコしている。

 低学年生達はあどけない表情でカメラを見ており、高学年生達はうつむいたり、無愛想な顔をしていた。 

「皆さんは今回特別に、ヒミコの神殿に入って、ロケに参加することができます!

 今のお気持ちはどうですか?」


 レポーターが一番近くにいた小さな女の子にマイクを向けた。

 女の子は「たのしみです」と答えた。 


 続けて隣の高学年生の男の子に、レポーターはマイクを向けた。

 しかし、男の子は無表情のまま目を逸らした。

 そこでレポーターは、背後にいた男の子の親と思われる女性にマイクの先を素早く変えた。


「そうですねー、凄く楽しみです!

 生の長倉澄香さんやイト様(人気男性俳優の愛称)に、会えるかもしれないんですよね!」


「そうですよ! もしかしたら息子さん、共演されるかもしれませんね!」


 レポーターの返事に、女性は顔を真っ赤にして笑みを浮かべた。


「おいおいおいー!

 今日は頑張るぞーい!」


 場に浮いた口調で、更に二人組の男性がロケ車から出てきた。

 一人は丸々と太っていて、もう一人は極端にガリガリだった。

 二人共、麻で出来たような布を頭から被り、腰のところを紐で結んでいる。

 足元は、浅履きの黒い靴下のようだった。


「どうもー!

 本日、キッズ達と一緒にエキストラに参加する、『ミソカツマン』でーす!」

 二人組の男性は、カメラ目線でポーズを決めながら言った。


 ありさの「知ってるの?」という問いに、伝輝は「知らない」としか答えられなかった。


「ミソカツマンのお二人、その恰好寒くないですか?」

 レポーターが大げさに言った。


「ええ、すごーく寒いです・・・と言いたいところですが!

 何と、今回エキストラさんに配布されるこの弥生衣装は、見た目は麻布の貫頭衣。

 しかし、裏地はボアでフワフワ、意外と寒くないんです。

 裏ポケットもあるから、お財布もケータイも持てちゃう」


「足元も、地下足袋をアレンジした、映画オリジナル靴なので、冷たくないですよ」


「なるほどー、流石、史上最大規模のロケですね。

 それでは、前半のプロエキストラ撮影が終了したということで、いよいよ入場し、準備が始まります。

 しゃちほんサポーターキッズもみんな、頑張ってねー!」


「おいおいおーい!

 行くぞー、ついてこーい!」

 ミソカツマンの二人は、親子達と一緒に、入場ゲートの方へ向かって行った。 


 撮影が終わり、野次馬も去り始めた頃、ありさは遠い目で何かを見ていた。


「ヒミコの神殿に入れる・・・。

 長倉澄華と共演できる・・・。

 すごーく嫌そうな顔をした、私達と同じくらいの年齢の人間」


「何、考えてるんだよ?」伝輝は心配そうに尋ねた。


 その問いに、ありさの目はいたずらっぽく笑った。


「タカシさんのところに戻りましょう」


     ◇◆◇


 列が少しずつ動いている。入場が始まったのだ。

 タカシは目を閉じた。

 大勢の人間の中にいるというストレスを軽減する為、使用する感覚を減らしたのだ。

 視角が無くても、犬のタカシは嗅覚と聴覚で、ある程度状況判断できる。

 人間のザワザワ音から、気になるところだけを、探り当てて聞き取ることができた。


「・・・こないだネットで見たんだけど、長倉澄華って今ストーカー被害に遭っているらしいよ」

「えー、そんなの。ちょっと位当たり前なんじゃないの?

 つーか、長倉澄華って、共演者キラーって言われてるんじゃん。

 前のドラマでも、大村豊とのツーショット撮られて、すげーファンから叩かれてたじゃん。

 今回もイトと二人で深夜レストランデートって、噂されてるし、恨まれるのも自業自得じゃない」


 ふーん、とタカシが心の中で呟いていると、人間狩り用の二つ折り携帯電話が着信を知らせた。


「エミリーちゃん? 今、電話はちょっと・・・」


『フンッ! 列に並びながら、電話で話すのがそんなにおかしいの?

 てか、私との通話が、そんな簡単に盗聴されるとでも思っているの?』


「分かったよ、一体どうしたんだい?」


『クソガキ共は何しているの?

 まさか、一緒にボーっと並んでいる?』


「いや、二人はさっきどこかに行ったまま戻って来てないよ。

 多分、何かしら方法を考えているんじゃないかな」


『ふーん、まぁ、ギリギリ合格ということにしてあげるわ。

 タカシさん、二人を列に戻して、入場して。

 その時、今から送るメールを・・・』


 タカシは、エミリーの話を、フンフンと聞きながら頷いた。


「まさか、そんなことが・・・。

 エミリーちゃん、そこまで調べていてくれていたんだね」


『フン! ゴンザレスが用意した雄猫共が、どいつもこいつも見かけ倒しのダメ猫だったのよ。

 おかげで、時間が余ったのよ。

 帰ったら、ゴンザレスにお仕置きしてやるんだから!』


「それ、むしろ、ゴンザレスさん喜ぶんじゃ・・・」


 そう言いかけた辺りで、伝輝とありさが戻ってきたので、タカシは閉口した。

 適当に言葉を交わし、通話を終わらせた。


「おかえり」


「大分、列動いているよね。もうすぐ中に入れるかしら?」


「そうだね、俺達は一般入場になるから、資料館までしか行けないけど」


「良いわよ、それで。

 後は、何とかするから」


 ありさは自信あり気に言った。


「ちょっと、伝輝」

 タカシがコソッと伝輝に話しかけた。


「何?」

「お前、二つ折りケータイ持ってきてるよな?」

「うん」


「じゃあ、今からメール送るから、入場後困った時にそのメールを見ろ。

 それまでは、ケータイを見るなよ」


「困った時って・・・?」


 タカシはニヤッと笑ったまま、答えなかった。 


 列は順調に前へと進み、三人は遂に入場ゲートを通過した。


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