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Element Master  作者: 柚子桜
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第一話 奇妙な世界#7



ギルド『聖騎士(ロイヤルナイツ)』のメンバー全員がテーブルを囲んだ。

長方形の机の上には、今日、俺と白ぎつねが作った料理が並べられていた。

あまりの出来栄えに皆驚いているようだった(俺が料理を出来るという点で)。

「それでは、新しい仲間の歓迎会も兼ねて、夕食にしたいと思いまーす。司会は私、白ぎつねがお送りいたします♪」

ヒューヒューと、臨也さんが煽りの指笛を鳴らす。

他のメンバーも楽しそうに拍手をしていた。

「では、皆様のお手を拝借。さぁ、手を合わせてーいた」

「「「いただきまーす」」」

白ぎつねが言い終わる前に、他のメンバーは「いただきます」を言い終わり料理に手をつける。

これが狙いだったか、と俺は感心した。

白ぎつねは不満なのか、耳を逆立てわなわなと震えていた。

「どーした、白ぎつね。食べないのか?」

臨也さんがニヤついた顔で白ぎつねに尋ねる。

白ぎつねは黙りながらダンッと椅子に座り、お箸を取り鍋に手を伸ばした。

その瞬間、白ぎつねの動作が停止した。

何があったのかと俺も気になり、鍋の中を覗き込んでみる。

するとどうだろう。さっきまで沢山あった六人前のカウフロートの肉が見事に無くなっていて、残っていたのは野菜ばっかだった。

「何でお肉しかとらないんですか!」

白ぎつねが耳を逆立て臨也さんを問いただす。臨也さんは面白そうに笑っていた。

「いや、だってすき焼きって言ったら肉だろ?」

「お野菜もあります!」

「野菜を食べるとアレルギーが」

「でません!」

「でないな。だって何のアレルギーも持ってないし」

ケラケラと楽しそうに臨也さんは笑った。

白ぎつねはがっくしとした感じで、耳も尻尾も垂れ下がっている。

白ぎつねで遊んでで満足したのか、臨也さんは取ったお肉を皆に分けた。

「最後にそうするなら、最初からそうしてください」

「何言ってんだ。それまでの過程が楽しいんじゃねーか」

臨也の言葉に、耳・首・尻尾の三点をうなだれる。

そして、しばらくの静寂が訪れた。

「…りっ君、卵とって」

「……」

「りっ君!」

「へ、俺ですか?」

「あなた以外にそこに誰かいる?」

「あ…はい。わかりました」

呼び慣れない呼ばれ方に戸惑い、一瞬誰に向かって言ったのか分からなかった。

(よくよく考えてみれば、名前で『り』が付くやつなんて俺しかいないよな)

自嘲の笑いを浮かべ、側にあった卵を手に取りそれを岬さんに渡した。

彼女はそれを受け取ると、片手で綺麗に割った。

それを見ていた臨也さんが感心する。

「へー、岬。お前って、卵片手で割れんだな」

「失礼だな。私にだってそれくらい出来ますよーだ」

「腐っても女の子ってやつだな」

「おい」

臨也は岬さんへの興味が薄らいだのか、葛城憂と白河雲雀に興味を移した。

「お前ら二人も、卵片手で割れんの?」

二人はご飯を食べる手を休めて、臨也の質問に答えた。

「まぁ、一応ね。よく皆でお菓子作りとかするから」

「片手は無理。両手なら割れる」「へー」

態度とは裏腹に、あまり興味がなさそうに返事をする臨也さん。

次の興味の対象は白ぎつねとなった。

「白ぎつね、お前は卵、片手で割れるよな」

白ぎつねはその質問に、立ち上がり堂々と胸を張って答えた。

「当然でございます。何せ、岬や雲雀さんらに色々と教えて差し上げたのも、この私でございますから」

「へー。そんなに色々教わったのか、岬?」

「うん。色々教わったよ。料理とか良い食材の見分け方とか。あと、ピカピカになる掃除のやり方」

「よーし、よーく分かった」

臨也さんはそう言うと、岬さんの言葉を遮った。

のんびりご飯を食べながら傍観していると、少女ら二人が何やらヒソヒソと話をしているのが見えた。

多分、この先の展開の話をしているのだろう。

それは、今日出会ったばかりの俺にでも分かる事だ。だがこの様子をみると、白ぎつねは本気で気付いていないようだ。

「んじゃ白ぎつね。俺にも、イロイロと教えてくれよ」

「Si。よろこんで」

「それじゃあまずは、ベッドの上での女性の扱い方から頼む」

「Si。この白ぎつねめが、手取り足取りってええぇぇぇー!!」

急に白ぎつねの顔がボンッと赤くなった。

結構耐性がないんだなーと俺はしみじみ思う。

「そ、そそそそそそんな。私には無理ですよ。って言うか、そういうのはちゃんと心から」

「いや、違う。白ぎつね、お前じゃなきゃ駄目なんだ!」

「はうぅ」

白ぎつねはさっきよりもっと顔を赤くする。

この弄りは多分これからもまだまだ続くなと思い、気にしないで夕食を食べることにした。

結局、その後も臨也さんは白ぎつねを弄り続けた。

白ぎつねはその度に、耳と尻尾を忙しく上下させていた。

途中、俺の作った抹茶風味のご飯が女性陣から褒められたのは素で嬉しかった。

そんな楽しい晩餐会も、一時間くらい経つと落ち着きを取り戻しつつあった。

「あー、食った食った。で、新人君の歓迎会って何すんの?」

臨也さんが腹を叩きながら議題を上げる。

そう言えば俺、一体何をされるんだろう。

「あー、えーとですね、まずは自己紹介からですね」

「自己紹介か。俺と岬はやったけど、またすんのか?」

「いえ、お二人にはもうしてもらっているので結構です。して頂きたいのはこちらの二人なんデス」

白ぎつねは言葉を発しながら、二人の少女に目を向けた。

セミロングの方の少女は猫と遊んでいて、お嬢様風の少女はティーカップで紅茶を飲んでいた。

お嬢様風の少女は白ぎつねの発言を聞いていたのか、ティーカップをおいて俺を見据える。

彼女の瞳に吸い込まれそうな気がした。

「私は白河雲雀(しらかわひばり)。このギルドに入って三ヶ月になるわ。以後よろしく」

「…葛城憂(かつらぎゆう)。動物が好き。以下同文」

二人は簡潔な形で自己紹介を終わらす。

次は俺の番だな。

「如月六斗です。歳は数えで16。至らない所もあるかも知れませんが、これからよろしくお願いします」

まるで、どこかの会社に就職した人みたいな挨拶。

(少し堅すぎたかな)

そう考えていると、周りから拍手が聞こえてきた。

周りを見てみると、皆が拍手を送ってくれている。

そんな光景が少しだけ嬉しかった。

「そんじゃここで、一つ後輩君に助言」

臨也さんが立ち上がり、人差し指を立てる。

そしてその指を俺に向かって指差した。

「16だっていったよな。なら俺と岬は一つ年上、雲雀と憂は一つ年下。だから、名前にさん付けしたりないでいいぜ。同じギルドの仲間なんだから砕けた感じでいこうぜ。六斗」

臨也さんのその心遣いが、俺にはとても嬉しかった。

上下関係で立場を決められていた世界。そんな世界で生きてきた俺にとって、今まさにこの言葉は、俺の嫌いだった現実をぶち壊してくれる言葉だった。

多少、抵抗などがあったが、俺は作られた自分を壊すために、その言葉を口にする。

「サンキュー、臨也」

その言葉を言った時、俺は清々しい気持ちになった。

「はっ、上出来だ」

臨也はそう言うと、ポケットから何かを取り出す。

そして、その取り出したものを俺に渡した。

「何、これ?」

それは、真っ白な正方形の紙だった。何の変哲もない、ただの紙。

俺は臨也を見た。

臨也はもう一枚その紙を取り出し、白ぎつねに渡した。

「白ぎつね、軽く見せてやってくれないか」

「Si」

臨也からもらった紙を手の平に乗せ、白ぎつねは目をつむった。

すると次の瞬間、紙は跡形も燃えた。

「え?」

俺は驚いて、白ぎつねと臨也を交互に見た。

二人の表情は至って普通だった。

理解に苦しんでいる俺を見兼ねたのか、臨也がゆっくりとわかりやすく説明してくれた。

「これはな『ポイントカード』と言って、自分がもつ能力の特性を調べるためのものだ。例えば、白ぎつねは火を扱うから紙が燃えた。水なら湿って、風なら切れる。とまぁこんな感じだ。おまえもやってみろよ」

そう言われて、俺は先程白ぎつねがやったように紙を手の平の上に乗せた。

目を閉じ、手の平に力を加えてみる。

「って、どうやってやるの?」

素で感じた疑問を口にだす。

そう言えば、力の使い方を聞いてはいないし、まして俺はそのあるかどうかも分からない力を使ったことがない。

そのため、どうしてようか分からなかった。

「あんま深く考えんな。意識を手の平に集中させれば、カードが反応して結果がでるさ」

臨也にそう言われ、俺はもう一度目をつむった。

そして、手の平に意識を集中させる。

その時、体の中を何かが駆け巡りり、手の平の所で爆発したような気がした。

ビックリして目を開けてみると、手の平にあったカードが黒く淀んでいた。



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