第一話 奇妙な世界#6
「帰ったぞー」
「みんなただいまー」
二人は袋を持って現れた。
両方ともパンパンで、中に何か入っているようだ。
「おかえりなさい。どうしたんですか、その袋?」
白ぎつねがそう言うと、結構髪の多い金髪の青年は頭を掻きながら答えた。
「これはな、魔物退治したら、娯楽施設の店主が報酬とは別に分けてくれたもの何だよ。俺が持ってきたのが水の加護を受けた苗で、あいつが持ってきたのが火の加護を受けた石だ」
金髪の青年は袋の中を見せる。そこには、見た感じ普通の苗が入っていた。
白ぎつねはそれを見て、喜びのあまり尻尾をぶんぶんと振っている。
犬に見えた。
「すごいですぅ! これだけの苗があれば、当分水は買わなくても大丈夫デス!」
「そうか、すごいか。なら、今日は俺と一緒に風呂に」
「入りません」
「入ります」
「入りませんっ!」
金髪の青年の冗談に加わる最後のメンバーの女性。
格好はミニスカートにニーソックス、白のシャツにだらし無い着片のネクタイ。髪は茶色く、肩までの長さでくせ毛っぽかった。なんだか学生さんに見えた。
「もうっ、岬さんまで悪のりしないでください」
岬と呼ばれた女性は、白ぎつねの反応を楽しむように笑った。
「冗談だよ。三割くらいわ」
「後の七割は本気ですか!」
「ほら、やっぱり俺と一緒に風呂に」
「入りません!」
「入ります」
「断じて入りませんっ!!」
金髪の青年と学生っぽい女性は、面白おかしく笑った。
白ぎつねは耳を逆立てて怒っているが、尻尾は左右にぶんぶんと振れている。
(どっちなんだよ)
そう思いながらも、俺は口には出さないことにした。
ある程度白ぎつねの弄りが終わった時、金髪の青年が俺の存在に気が付いた。
「なぁ、白ぎつね」
「なんですか?」
「あそこにいるやつって誰?」
指をさされる。白ぎつねがあっと言うような顔をしていたので、多分俺の存在は忘れられていたのだろう。
慌てて白ぎつねは俺の紹介に入る。
「えーと、こちらは如月六斗さん。今日、こちらにやって来たギルドの新メンバーです」
白ぎつねが紹介すると、金髪の青年はまじまじと俺を見つめる。
値踏みをされているような気がして苛立たしかった。
評価をし終えたようで、青年は俺に向かって手を差し出す。
どうやら良い評価を得たようだ。
「『聖騎士』にようこそ。俺の名前は砺波臨也。これからよろしくな」
「こちらこそ、よろしくおねがいします」
右を差し出し、お互いに握手を交わす。
目を見て感じた事だが、この人は何か強い意思を持っていると感じた。
「で、となりにいるこの学生服っぽい女が」
「和倉岬、よろしくね」
「よ、よろしくおねがいします」
岬さんは、軽く首を曲げると袋を持って歩いて行ってしまった。
「ねぇ白ぎつね。この荷物ってどうすればいーの?」
「あっ、それはですねー」
岬さんの後に白ぎつねもついて行く。
この場に残ったのは、俺と臨也さんだけになった。
「一つだけ言っとくぞ」
真面目な顔つきで話を切り出す臨也さん。一体、何を言われるんだろう。少しだけ、俺は緊張していた。
「白ぎつねの足は俺のもんだ」
「黙らっしゃい!」
スコーンと臨也さんの頭に火の加護を受けた石がクリーンヒットした。
何を言われるかと思えば、そんなことだったとは。しかも、律儀に白ぎつねからツッコミが入ったし。
(まぁ、でも退屈はしないかな)
そう思うと、今後の事が楽しくなってくる。
俺は今、この世界に来て初めてわくわくしていた。