第一話 奇妙な世界#3
五分くらい歩いた所で、狐の女性の足が止まった。
目の前にある建物は、周りと少し違っていた。
周りの家が木造であるの対し、この家はレンガ造りだ。家の形も違った。民家風ではなく、独特のデザインで少し大きい。
俺はボーっとその家を眺めていた。
「珍しいですか?」
隣から声が掛かる。
ボーとした所を見られたのか、それが恥ずかしくて少し照れた。
「いや、珍しいって言うか何と言うか。周りと少し、形が違うなーって」
それを珍しいと言うんじゃないのか。と喋っている間に思いながらも、俺は最後まで言い切った。
彼女もやはりそう思ったのか、小さく声を出して笑った。
「さぁどうぞ。ゆっくりしていってくださいね」
そう言うと、彼女は入口のドアを開けた。
光が俺を襲ってきたような気がした。光に逆らって、俺は中に足を進める。
段々と視界が開けると同時に、誰かの声が耳に入った。
「あら、あなたは…」
聞いた事のある声。俺はそちらに顔を向ける。
案の定、そこには森であったあの少女がいた。
「えっ、何で…」
「それはこっちのセリフ」
後ろから声がした。
驚いて振り返ると、あの時の表情の薄い少女が立っていた。
「二人とも、生きて…」
「勝手に殺さないでくださいます」
「なんか失礼」
「あれくらいの敵にやられる私達じゃありませんわ」
俺は、少女達二人が生きているのを見て嬉しかった。
自分のしたことが正しかったんだと証明出来て、間違っていなかったんだと確信が持てて、何だか救われた気がした。
「えーと…お二方はこの青年と知り合いなんでしょうか?」
狐の女性が二人に尋ねる。
二人はお互いに顔を見合わせ、二人同時に女性を見た。
「まぁ、命の恩人って所かしら。私達が」
「以下同文」
そう言うと、二人して俺を見てくる。
一体、何を求められているんだろう。
「で、白ぎつねはどうしてその人と一緒なのかしら」
「まさか…逢い引き?」
「ちっ、違います!」
白ぎつねと呼ばれた女性は、顔を真っ赤にして反論する。
俺には、この二人の意図が読めたような気がした。
「顔を真っ赤にして反論するなんて…怪しいわね」
「やっぱり逢い引き…」
「だから、違います!」
(あーあ、やっぱり)
思った通り、少女達は白ぎつねを弄っているのだ。
止めないと話が進まないな。
そうは思いながらも、口を挟もうとすると俺も巻き込まれるような気がしたので、少しの間黙っておくことにした。
三十分程経った頃だろうか。俺と少女と白ぎつねとの出会いが語られた所で落ち着き、ようやく騒ぎが治まった。
「お疲れさんです」
「はぁー。本当にありえないのデス」
白ぎつねは相当疲れているようだった。
それに比べて、あちらの二人はまだまだ余裕そうだ。
気を抜いたら、俺にまで危害が飛んで来そうだった。
そのため、故意に目を逸らしていたつもりだったのだが、不意にお嬢様風の少女と目があった。
それをきっかけに、言葉が紡がれてゆく。
「で、あなたはどうする気なのかしら?」
「何が?」
「今後の事。いつまでもここにいられると迷惑」
「ちょっ、憂さん!」
「まぁ、そうだよな。帰りたくはないけど、帰る方法は一応知っときたいし、この世界の事も色々調べてみたいし、どこかに住める所と金稼げる場所ってある?」
「都合の良い事ね。まぁ、お金は西の森の果実を採ってきて来たら良いとして、住む場所はね…」
「家と家の間の隙間。あそこは猫達も住んでる」
「猫が住んでいるのなら大丈夫でしょう。無料だし経費削減にもなるわ」
「お風呂は川の水を使えば問題無い。ご飯は、お店の人が分けてくれるらしい」
「……猫と同レベルですか」
少女二人の返答に、俺は呆れてしまう。
嫌われていると思うより、遊ばれていると思ったからだ。
気を抜いたら火の粉が飛んでくると思っていたら、気を抜かなくても飛んでくるとは。
「あら。猫の家だからって、人間が住めないとは限らないわよ」
「猫に失礼」
「もう、二人とも、いい加減にしてください!」
あまりにも少女らがふざけるので、白ぎつねは耳と尻尾を逆立てて怒った。
二人はあまり反省していない、と言うか白ぎつねを怒らせて満足そうな顔をしていた。
白ぎつねの立ち場はこういう立ち位置なのだろう。
「すみません。二人が無礼な事を申して」
「いや、別に…」
途中から遊ばれている事が分かっていたので、何故だかあまりムカついていない。
なのでさっきの事は、全く気に留めていなかった。
「あのー、先程の事を踏まえと聞きにくいのですが」
「いや、気にしてないからもういいって」
「そうですか。ありがとうございます」
そう言うと、白ぎつねは会心の笑みを放った。
そして改まり、俺に向き直る。
「では聞きます。貴方様もしや、流れ星に打たれたりしませんでしたか」
何で分かったんだろう。
俺はそう思いながらも、その質問に「Yes」と答えた。
するとどうだろう。部屋の空気が変わった。そして白ぎつねからは期待の眼差しが…。
「あの、よければよろしければ何ですけど」
白ぎつねはまたまた改まって言った。
「私達のギルドに入りませんか!?」
そう。確かこれが全ての始まりだったような気がする。