第一話 奇妙な世界#1
今回から始まりました、第一話。
説明的な部分も多いかもしれませんが、楽しく書いていきたいと思います。
この世のしがらみから解放された。
これで俺は、ようやく自分自身を探す事が出来る。
誰にも感化されず、本当の自分自身を見つけ出す事が出来る。
俺の意識は次第に遠退いて行った。
……回りから色々と声がする。
多分、通りすがりの人達が騒いでいるのだろう。この俺に掛けられている声も、多分助けようとしていて、救急車を呼んだりしている所だろう。
ご苦労な事だ。
俺はこの世界から消えたいのに、どうして他人は俺を助けようとしているのだろう。それは、俺の望むことではないのに。
それは単なるエゴでしかない。人の為に助けるのではなく、自分の為に助ける。一見すると他人の為なのだけれど、本来は自分の為なのだ。
――バカバカしい。
俺は口を閉ざし、意識も閉ざした。
もう何も聞きたくない。何も答えたくない。その一心で、俺は深い眠りにつこうとしていた。
しかし、いつまで経ってもその声は聞こえてくる。
耳障りったらありゃしない。
「……ど…する……覚ま…い…」
「…う……困…な…」
「……起こ…ない……」
何でだろう。次第に耳に入ってくる言葉が鮮明になってきた。
意識を閉ざそうとしているのに、それに反して意識が開けてくる。
聞きたくもない周りの声が、耳から脳へ、そして俺の頭の中に入ってくる。
そうして分かった事だが、声の主は二人の女の子だった。
「…しょーが…い……手荒な……だけど……起こしましょ…」
「…そうだね。それじゃ……がい」
ある程度意識が開かれた時、辺りが静かになった。
静寂が訪れ、再び意識を閉ざそうとする。
そうすると、背中の辺りがひんやりとしてきた。そして段々と、体の隅々が冷たくなる。
これが、死が近付くと言うやつなのだろうか。
段々と段々と、体が冷たくなる。意識が遠退いていく……
「って、冷たっ!」
体の内部から冷えるのとは違う冷え方に、目が覚め意識が開けてしまった。
反射的に立ち上がろうとしたのだが、何故か足が滑ってしまいすってんころりん。
腰を強打してしまった。
「痛って…」
あまりの痛さに顔をしかめる。
足元をよく見ると凍りが張ってあった。
(誰だよ、こんな所に氷を張ったやつ)
「あら、目が覚めたのね」
右斜め上から声がした。
驚いて見てみると、そこには髪の長い、綺麗な女の子が立っていた。
どこか良家のお嬢様のような風格があり、何と言うか、初めてお目にかかるような人だった。
「やっぱり…生きてた」
次は左側から声が。
慌てて左側を見ると、そこにはやっぱり女の子がいた。
セミロングの表情の薄い女の子。
ここは地獄ですか?天国ですか?
あまりの出来事に頭がパニックってる。
どうして良いか分からずにいると、少女達から言葉が掛かる。
「ねぇあなた。取りあえず、ここから逃げ出してくれないかしら?」
「へ? 何言って…」
そう言うと、少女はその細い指である一点を指差した。
俺は少し落ち着いて、その指差された方を確認する。
見た所、ここらどうやら森の中のようだった。
所々で太陽の日差しが差し込み、物語に出て来そうな綺麗な森だった。…見たこともない、真っ赤な熊を除けば。
「…何これ」
「フレイムベア。火の加護を受けた熊」
「熊ですか…これが」
何か口から火吐いてるんですけど。
そして何か今にも襲って来そうなんですけど。
「私達あの熊の退治を任されたんだど、戦闘中にあなたが空から落ちてきて」
「熊に激突…熊激怒(笑)」
「それから気絶していたんだけど、先程起きたみたいなのよね。そして、ターゲットがあなたになっちゃった見たいなのよ」
何言っちゃってんすかこの人は。頭おかしいんじゃないの。
そうだ、これは夢なんだ。自分、もう死んだから意識しかなくてそれで…
「グガァァァ!」
魂が体に無理矢理引き寄せられた感じがした。
そして悟る。これは、現実だと。
「うそ…マジかよ」
俺は少女二人を交互に見た後、目の前にいる真っ赤な熊を見る。
そいつの視線は明らかに、俺を捕らえていた。
「早く逃げなさい。あなたを守って戦うのは無理なの」
「自分の命くらい、自分で守れば」
少女らはそう言うと、俺の前に出て熊と向き合う。
(ちくしょう。何なんだよこの状況)
頭はパニックってるが、取りあえずやるべき事は決まった。
――逃げる事だ。
少女達を置いて逃げるのは、気が引ける。
だが、俺には熊に立ち向かう力はない。
その点、[退治を任された]と言っていた少女らには明らかに力がある。
ここは俺が足手まといにならないように逃げるのが先決だ。
そう考えるや否や、俺は熊とは反対の方向に向かって走り出していた。
少女らを見捨てる御託を色々と並べてみたが、やはりどうとも言えない思いに駆られた。