第二話 初仕事#8
「ブモォォォ!」
数多のフレイムボアが二人の少女に襲い掛かる。
二人の少女はそれを巧みにかわし、隙を見て反撃した。
だが敵の数は多く、一向に数が減る気配はない。
「ったく。どんだけいるのよ、もうっ」
雲雀は悪態をつき、苛立ちを口にした。
憂は口には出さないが、思っている事は一緒だろう。
「「「ブモォォォ!」」」
次から次に現れてくるフレイムボア。
雲雀達はその対処に追われていた。
「凍りなさい」
地面から氷が突き出し、二十ものボアが一斉に凍り付く。
その凍り付いたボアを、すかさず憂が破壊する。
しかし、フレイムボアの集団は後方から再び現れた。
「「「ブモォォオ!」」」
「キリがないわ」
「以下同文」
いつもの姿勢を崩さず、二人はフレイムボアを倒していく。
凍らせて砕き、舞い上げて叩き付け、時には凍りの槍を降り注がせ、二人はフレイムボアを倒していった。
敵からの反撃も多々あったが、二人はフレイムボアごときの攻撃を全く寄せ付けない。
炎の突進を軽くかわし、反対に敵に攻撃を叩き込んだ。
一向に数は減らないが、それでも敵の士気が徐々に下がっていくのを二人は感じた。
そんな風に百体は倒したかというとき、急にボアの侵攻が止まった。
「な、何?」
突然の出来事に、何が起こったのかと心配になる雲雀。
憂も辺りを心配そうに見回した。
そして、そいつは鳴き声とともに唐突に現れた。
「グガアアァァァァ!」
轟音と共に砂塵を舞い上がらせ、目の前に逞しい足をもつ四つ足の生き物が姿を現す。
真っ赤な体、赤い目に左右の角、足からは小さな炎が吹き出す。
(ヘリオニル!? 中級魔族が、何故こんな所に!)
雲雀は、中級魔族の出現に焦りを感じた。
その焦りが、雲雀の思考を鈍らせる。
「雲雀、危ない!」
憂の苦痛の叫び。
それに雲雀が気付いた時には、もう遅かった。
いっき間合いを詰めた敵が炎の爪を掲げ、至近距離で雲雀を襲う。
(しまった!)
雲雀は死を覚悟した。
「雲雀っ!」
「うわっ!」
「きゃっ!」
――ザシュッ!
憂は、目の前の光景を疑った。
中級魔族のヘリオニル。やつが炎の爪を振りかざし地面をえぐっただけで、そこから火の手があがったのだ。
しかし、それだけではない。
いきなり六斗が現れて、雲雀を押し倒したのだ。何もなかったそこから、突然、転送でもされたかのように唐突に現れた。
(六斗!? 一体どこから…)
憂は六斗の現れ方を不思議に思い、彼をじっと見詰めた。
押し倒したと言うこともあり、雲雀が顔を真っ赤にして文句を言う。
「ちょっ、あなた、いきなり人に抱き着くなんて…」
「仕方ないだろ。助けるのに、必死にだったんだよ。憂の叫び声が聞こえたから必死で…」
「うぅ…だからって…」
六斗の返答に、さらに顔を真っ赤にする雲雀。
今はそんな事をしている場合ではない、と憂は二人に叫んだ。
辺りを見渡せば、フレイムボアの集団に周りを囲まれている。その中央にはヘリオニルが。
ここから逃げるには、ヘリオニルを倒すしか方法はない。
(でも…)
ここで、憂は悩んだ。
雲雀は氷、自分は風、六斗に関しては不明。自分達が持っているElementでは、中級魔族のヘリオニルには勝てないのだ。風はある程度の火には強い。しかし、ある程度を越えると風は火に弱くなる。相手の熱で上昇気流が生じ、風の主導権を握られるからだ。雲雀の氷は水に属するが、水とは違う。氷は火に弱い。風と同じである程度までは強いのだが、ある程度を越えると水分子の結合が切、反対によく燃えてしまう。
(相手は中級魔族。炎を起こすくらい造作もない。それに、ヘリオニルのせいでフレイムボア達もElementが使える)
打つ手が無く、憂にはどう動けば良いかも分からない。
周りの様子が段々と薄れ、目に入らなくなってくる。
「グガアアァァァァ!」
ヘリオニルの叫び声で、憂の視界は色を取り戻した。
ヘリオニルは、遠くにいる六斗と雲雀に向かって炎の突進を繰り出す。
「くっ」
憂は体から外に力を流し、大きな風を起こして周りのフレイムボアごと吹き飛ばそうとした。
しかしそれは意味を為さず、憂の考えていた通り、ヘリオニルを中心に起こる上昇気流に吸収されてしまった。
「ダメだ、逃げて!」
憂は必死に声を出す。
雲雀も、一か八かでヘリオニルの動きを止めようとしたが、氷をすぐに溶かされてしまう。
(殺される…!)
雲雀は目をつむり、心の中で叫んだ。
――助けて!と。
そして次の瞬間、ヘリオニルはフレイムボアの集団に向かって突進した。
「…へ?」
「え? ……嘘」
あまりの光景に、二人とも唖然とする。
フレイムボア達はヘリオニルの突進により、大きく飛ばされ燃え尽きて死んだ。
ヘリオニルも状況が読み込めないのか、頭を二三回ブルブルと振った。
「一体…何が…」
雲雀が困惑していると、一人の少年の楽しそうな声が聞こえた。
「なるほど…こう言う事か」
隣にいる如月六斗の声。
雲雀は思わず六斗を見る。
自分の手を眺め、納得したようにニヤリと笑う少年。
雲雀はその時、如月六斗という少年がとても頼もしい少年だと感じた。




