第二話 初仕事#6
広大な草原。
森との境目に到達するのも一苦労だった。
「遠い…」
六斗は愚痴をもらした。
飛んでいけば楽なのだが、燃えた道を消火しなければならないので歩いていかなければならない。
その面倒臭さが六斗にとって苦痛だった。
「ねぇ、六斗」
火消しの作業をしている憂が、体を回して声を掛ける。
「なに?」
「社長室で何か考え込んでいたけど、何を考えてたの?」
憂の問いに、雲雀も便乗した。
「それは私も知りたいわ。考え事をして遅れをとるなんて…それ程の事を考えていたんでしょう?」
嫌味混じりに聞いてくる雲雀に少し気分を悪くしながらも、六斗は丁寧に説明した。
「レイジさんの話を聞いてた時、少し不思議に思った事があったんだよ」
「そんな所、あったかしら?」
「あったんだよ。よーくレイジさんの言葉を思い出してみろ」
六斗にそう言われ、社長室でレイジに話された事を二人は思い出す。
【元々、フレイムボアの被害がなかった訳ではないのです。しかし、フレイムボア避けの水水晶を置いていたので被害はあまり大きくならなかったのですが…最近は、フレイムボアが奥まで入り込んで来ました。自慢の庭園を荒らされ、動物達も危害を受けた。これが一度だけならまだしも、何度も何度も続くもので…】
思い出し、何度も何度も頭の中で繰り返して二人は結論を出す。
「「何もおかしくない」」
「おいおい」
面白み半分呆れ半分といった表情で、六斗は二人を見た。
「よく考えてみろ。『水水晶を置いていたから被害はあまり大きくならなかった』これから察するに、水水晶が置いてあったとしても少なからず被害はあったと言う事になる。フレイムボアは、何度も何度も敷地内に入って来てたんだよ」
「だから、それがどうなのよ」
雲雀は強い口調で六斗に言い返した。
新人に偉そうにされて機嫌が悪いのだろう。珍しく、憂も頬を膨らませムスッとしている。
「被害が大きくなったと考えられる理由は二つ。一つはフレイムボア自体が強くなった。そしてもう一つは、敷地内に入ってくるフレイムボアの数が増えたかだ」
「ふーん。だからあなたはあの時、水水晶の事を聞いたのね」
雲雀は皮肉を込めて、六斗にそう言った。
六斗はそれを知ってか知らずか、全く調子を変える事無く話を進める。
「まぁ、そうだな。で、大きなギルドが偽物を売るはずがないということで水晶の力が弱まったと言うことは考えづらい。一瞬、魔物が責めて来たのではないかと考えたが」
それはない、と六斗が言うより早く憂が告げた。
「北西・北東は両方とも山脈によって西区画・東区画ともに分断されてる。しかも、魔物の侵攻に素早く対処するため、北西・北東とも見張りの騎士がいる。越える事は不可能」
と、憂は言い切った。
憂があまりにも一生懸命に言ったので、六斗も雲雀も少し驚いたようだ。
「ま、まぁ俺もその可能性は無いと核心したよ。さっきのボアの集団と力。個体自体が力を付け、何らかの理由で入ってくる集団の数も増えたようだったしな」
六斗はそう言うと、ニハハと笑った。
少々いらついていたいた少女達も、彼の笑い顔を見て毒気が抜けたようだ。
そうこう話している内に、ようやく森に近付いて来た。
「おっ、ようやくか。これで問題も解決するし、いっちょ依頼成功だな」
六斗はそう言いながら、徐に近くにあった水水晶に近付いていった。
憂と雲雀も、彼の後に続いて水水晶に近付く。
しかし、二人の少女の足が水水晶にまで達する事はなかった。
――止まったのだ。
六斗もその異変に気付き、二人に声を掛ける。
「どうしたんだ。二人とも?」
いつまでも能天気な少年とは反対に、二人の少女は動揺を隠せずに言った。
「ないの…」
「何がだよ」
「水の加護が…無くなってるの……」
「は?」
その途端。
遠くから何かが割れるような音が聞こえた。
その音は段々と近付き、次第に大きくなる。
六斗達がその音の元に気付くのに、数秒とかからなかった。
「水晶が…割れてる…」
「おいおい…」
――何かが起きてる。
六斗はそう感じ、この場所から逃げ出す事を考えた。
(何かやばい。分からないけど、やばい気がする。逃げなきゃ。こいつらを連れて、早く)
二人の少女に声を掛け、風に乗り彼らは足早にその場から離脱する。
六斗がを見たとき、奥の山から巨大な何かが下りて来た感じがした。『魔物が攻めてきたという可能性はない。そう核心した』
六斗はこの時自分の考えの甘さを知り、先程口にした言葉が痛い程心に刺さっていた。




