第二話 初仕事#3
時を戻って現在。
三人は準備を終え、憂の風のElementで目的地に向かっていた。
上昇気流を起こし四方八方から吹く風が、彼らを目的地へと運んでゆく。
「なぁ、憂。あと何分くらいかかるんだ?」
六斗が体のバランスを保ちながら、憂に尋ねた。
実を言うと、憂は今この能力をあまり使いこなせていない。
白ぎつね曰く、使いこなせれば空気をも支配出来ると言うことらしいが、今はまだ風を起こすので精一杯だ。
そんな未熟者ながらも憂は様々な方向から風を吹かせ、六斗と雲雀を舞い上げるようにして移動していた。
「後五分くらい。この街、結構大きいから」
「へぇー。そう言えばさ、この街の名前って何て言うんだ?」
真剣な憂の傍ら、のんきに質問をする六斗に雲雀が呆れ半分答えた。
「あなた、そんな事も知らなかったの」
「いや、だって聞いたことないし、初めて来た所だし」
「はぁ…。この地方が西に位置する事は知ってる?」
「いんや、初耳だ」
「……」
呆れて頭を抱える雲雀。
何か悪い事をしたのかと気になり、悪くもないのに罪悪感を感じだす六斗。
その様子を見てクスリと笑う憂が、雲雀の変わりに喋り始めた。
「西は観光で有名。中心都市はベルニーニ。それは知ってる?」
「あ、あぁ。それは聞いた」
「じゃあ、私達の街がベルニーニから西80キロにあるって事は?」
「初耳でございますな」
「そう」
憂は一旦進むのを止め、真上にゆっくりと上昇した。
どんどん広がっていく景色に六斗はくぎ付けになる。
憂はある程度の高度まで上がると、その位置でホバリングした。「あの大きな街がベルニーニ。西の中心都市」
憂はそう言って、芸術的な高い建物が並ぶ都市を指差した。
スペインのサグラダ・ファミリア聖堂にも負けじ劣らずの建物が建ち並ぶ。
「すげぇな…」
六斗は感嘆の声を漏らし、遠くからではあるがベルニーニの町並みに感動していた。
「で、ベルニーニからずーと手前に来て…高原を越えた所にある街がサミナ。そこからすぐ近くにあるのが、私達の街『ポラリス』」
憂に言われて、六斗は真下を見た。
中心にある教会を中心に、円形に街が広がっている。街の東側からは、あまり大きくはないが川も流れている。様々な店が建ち並びどれもこれも古風で似たような景観で、それらが一体となって独特の町並みを作り出していた。
「で、私達が行く所があっち」
街の外れ、大きな建物と森に接した広い草原を憂は指差す。
牧場のような広い土地に、所々に見える黒い点々。多分、あれらは動物だろう。森の先には、大きな山がそびえ立っている。
「結構遠いな。この高度から見て、まだあれだけの距離があるなんて」
彼がそう言うのも仕方がない。
六斗達は今、非常に高い所にいる。
憂の風のElementのおかげでどうにかなっているが、普通なら酸素濃度の低さと寒さで死んでしまうくらいだ。
そんな高度から見ても、それなりに距離がある。
歩いていったら相当大変だったろうな、と六斗は思った。
「あら、あれは何かしら?」
不意に、雲雀が不思議そうな声を上げる。
六斗達はその声に反応し、雲雀に顔を向ける。
雲雀は二人の顔を見ること無く、大陸の中央を指差した。
白い何かの大群が、中央にそびえる山に向かって飛んで行く。
「あれは…『天空騎士』?」
「『天空騎士』? 何なんだ、それは」
「西区画のギルドの一つよ。風の加護を受けた武器や人間・幻獣を中心とするギルド。西区画の空の覇者とも呼ばれているわ」
「へぇー。んなギルドがあったんだ。で、あの山は?」
「アースガル山。この大陸が作られたと同時に出現したと言われてる」
「神々が住む山としても知られているわ。私達にとって、聖地みたいなものね」
六斗は感心して二人の話に耳を傾けた。
アースガル山について興味を持ったようで、帰ったら白ぎつねにもっと深く聞いてみようと考えた。
「さ、そろそろ行きましょう。早くしないと夕方までに帰れなくなるわ」
「そうだね。六斗、もう行くよ」
アースガルス山をずぅーっと眺める六斗。
その山の姿を目に納め、六斗は山から目を離した。
「OK。んじゃ、さっさと行こうか」
六斗がそう言うと、憂はゆっくりと降下しだした。
目に映る範囲が狭まり、建物が段々と大きくなってくる。
ある程度の高度まで落ちると、憂はまた風のElementを使って水平移動を始めた。




