第二話 初仕事#2
白ぎつね達が外に出ようとした時、雲雀は二階から降りてきた。
「あやや。雲雀さん、おはようございます」
「おはよう、白ぎつね」
雲雀は眠そうに手を口に当て、小さく欠伸をする。
両手を高く上げ体を伸ばし、白ぎつね達の荷物を見る。
二つの袋があり、片方はパンパンでもう片方はすっからかんだ。
「どこかに行くの?」
「Si。白ぎつね達はちょっと、隣町のサミナまで行ってくるのですヨ」
「そう。夕飯はどうするの?」
「夕方までには帰ってくるつもりデス。夕飯の用意も、私達が向こうでお弁当を買ってくるので必要ありません」
「そう、分かったわ」
雲雀はそこで話を切り上げ、白ぎつね達を見送った。
それから彼女はお風呂場に行き、朝のシャワーを浴びて服を着替え、髪を乾かしリビングへ向かった。
テーブルの上には朝食用のパンが置かれていて、それを確認すると冷蔵庫に向かって足を進めた。
冷蔵庫を開け、中に入っているものを見てみる。
(昨日の野菜と卵がまだ残っているわね。カウフロートの肉もあるけど、朝からこれはきついわ。…よしっ、決めた)
雲雀は冷蔵庫から野菜と卵を取り出し、調理場の引き出しを開けてフライパンを取り出した。
火石で火をつけ、フライパンに油を挽いて温める。良いくらいに温まったら卵を片手で割り、フライパンに落として水を少々加えて蓋をした。
「次はサラダね」
包丁を取り出し、野菜を次々にカットしていく。
全部切り終わると、お皿を取り出して綺麗に盛り付ける。
「あっ、そろそろ火を消さなきゃ」
忙しく動き回り、フライパンの火を止めて蓋を開けた。
フライパンの上に、二つの見事な目玉焼きが出来上がっていた。
「うん。上出来だわ」
目玉焼きの形を崩さないように、一つずつ丁寧にお皿に移し替える。
使い終わった道具を流しに入れ、盛ったお皿をテーブルまで運んだ。
それと同時に、二階から葛城憂が降りてくる。
「あら、憂さん。おはよう」
「おはよう…雲雀」
憂は眠そうに目を擦り、テーブルの上に目を移した。
「これ…何」
「目玉焼きよ。今日はパンしかなかったから作ってみたの」
「違う。それじゃない」
「え?」
雲雀は、憂の指差す場所に視線を移す。
そこには、パンの入れ物の下に隠れた手紙があった。
雲雀はそれを手に取る。
「何かしら。これ?」
雲雀の持っている手紙に鼻を近付け、憂がくんくんと臭いを嗅ぐ。
「これ、白ぎつねの臭いがする」
「白ぎつね?」
雲雀は不思議に思い、中身を開けてみた。
中には二枚の紙が入っていた。
それらを開け、書かれた内容を読んでみる。
「何て書いてあるの?」
憂が雲雀の脇から覗き込む。
雲雀は、持っていた手紙を憂に渡した。
「えーと、…………」
憂に渡して数十秒後、雲雀はようやく口を開いた。
「もう分かっていると思うけど、三人で依頼を受けてこいって。魂胆が見え見えなのよ。軽率にも程があるわ」
雲雀はムッとした顔で、白ぎつね達のありがた迷惑に不満を漏らした。
しかし、憂はその雲雀の行動に何か違うものを感じた。
体を曲げて、雲雀の顔がよく見える位置に顔だけ移動する。
「ねぇ、雲雀」
「何?」
「雲雀、昨日から何かソワソワしてない?」
「えっ。ソワソワなんかしてないと思うけど…」
いつもの雲雀と何か違う。憂はそう感じ取り、いくつか思い当たる節を言ってみる。
「いらいらしてる?」
「別に、いらいらしてないわ」
「ウキウキしてる?」
「ウキウキもしてないわ」
「じゃあ…何か悩んでる?」
「それは……」
これだ、と憂は確信する。
憂は先程の雲雀の一連の行動を思い出す。
(白ぎつねからの手紙を読んでから、何かおかしかった。手紙の内容は…私達三人で依頼を受けること)
ピカーン、と憂の頭の上に見えない豆電球が光った。
「雲雀」
「な、何?」
顔を鼻と鼻が当たる位置まで近付け、憂は雲雀に詰め寄る。
「六斗の事で悩んでる」
「う…。そ、そんな事ないわ」
一瞬、言葉に詰まった雲雀。
憂は顔を引き離し、強がる雲雀に声を掛ける。
「別に、強がらなくても大丈夫。私も、六斗とどう接して良いかまだ分かっていないから」
「憂さん…」
同じ穴のムジナとでも言うのだろうか。二人は、同じ悩みを抱えていたのだ。
雲雀と憂はテーブルの席について朝食を取りながら、六斗に関して話し始めた。
「臨也とは違って、どうにも何か話し掛けづらいのよ」
「私も。何か、あーゆー人って初めてで、どうやって近付けばいいのか分からない」
「しかも年が近くて一つ屋根の下だ何て…何か恥ずかしいわ」
「恥ずかしい…かどうかは分からないけど、何か変なかんじ」
二人はそうやっていくつもの、お互いの妙な感情について話し合った。
「臨也の時はこんな事はなかったのだけれど…」
「あれは初対面の時から少し可笑しかったから。それに、みさ姉もいたし」
「そう言えば、六斗君との初対面って」
「熊退治の時」
「いきなり空から落ちてきて、ビックリしたわ」
「逃げる時も、私達の事気にしてた」
「多分、私達会うまでずっと、気にしてたわね。彼」
「利己主義の臨也とは大違い」
そう言って二人は笑った。
食べ終わった朝食の皿を片付け、二人してソファーに座る。
何処からか入ってきた猫が、憂に誘われて膝の上に乗った。
喉を撫でられ、気持ち良さそうにニャーと声を出す。
「でも、私達これからどうしようかしら」
雲雀がぽつりと呟いた言葉に、憂はぴくりと反応した。
「いつまでもぎこちない関係でいるわけにはいかないし、どうにかして普通に話せるようにならないと…」
「そうだね。一緒に住むからには仲良くしたい」
猫を撫でながら、憂もぽつりと呟いた。
そう言う点から見ると、今回の三人でのパーティーは結構タイミングが良い。
しかし、二人と一人がお互いに苦手意識を持っているので、楽しく談笑と言うのは難しいだろう。
二人は、どうやって仲良くなろうか頭を捻っていた。
「やっぱり、普通に話していくしかないか」
雲雀がそう言うと、憂も首を縦に降る。
「そうだね。多分、あっちも苦手意識はあるだろうから、私達から積極的に話さないと」
「積極的にか…。はぁー、何か緊張するわ」
「雲雀、男の子にあまり耐性ないんだね」
「しょーがないでしょ。ずぅーっと女子校だったんだから」
ちょっとだけふて腐れて、雲雀は言葉を吐いた。
憂はその言葉に小さく笑う。
「何かメンバーが増えるのって大変」
「そうね。岬さんも、私達と一緒の気持ちだったのかしら」
雲雀は、自分達が初めてこのギルドに来たことを思い出す。
その時はまだ三人で、白ぎつねと臨也と岬しかいなかった。
人数は少なかったが、温かく楽しかった事を二人は覚えている。
「今度は私達が頑張らないと」
「そうね。出来るだけ普通に、なるべく積極的に頑張りましょう」
二人は、二人だけの秘密で密かにそう決心した。
そして色々と議論し、上手くできるか分からないが、平常心で六普通に斗と接する事を心掛けた。。
しかし緊張のあまりか、雲雀は早くも新聞を逆さまに取るという失敗を犯してしまった。




