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コンビニバイトのとある一日

作者: 丙子 甲

 コンビニって言うのは多少立地に左右されるけれども、混む時間が決まっていて、特に田舎の、休日の夕方は人が少ない。みんなスーパーに行くから。僕はそう思う。

 深夜はもっと少ないだろうけど、生憎高校バイトの僕は未だ深夜バイトを経験したことがない。

 そろそろシフト交代の時間だななんて気を抜いてたら、どうしてか思い出したようにお客さんが入ってきた。可愛い感じに着飾った女の人だ。

「いらっしゃいませ」

 お客さんはインスタント食品のコーナーで少し考え込むようにしてから、思い切ってレトルトの麻婆豆腐と、500ミリリットルのスポーツドリンクを一本。

 ちょっと待って、麻婆豆腐をスポーツドリンクで食べるんですか。

 突っ込みたいところはあるけど、接客業たる者、面には出してはいけない。あくまで無表情をつくって、冷静にレジを勤める。

「合計が、えー、487円になります」

 細かいなあ。手間が掛かるでしょうに。お客さんの方を見やれば、几帳面に小銭を出していらっしゃる。450円まで出したところで、財布が滑って落ちた。それはもう、これ以上金を出されて溜まるかって財布が反乱を起こしたみたいだった。

 ちょっと耳を覆いたくなるぐらいには高い音を立てて、小銭が散らばる。しゃがみ込んで小銭を拾うのを手伝うと、お客さんは怪訝そうな顔をした。

 別に僕、悪いことしてないよね。

 そう独り合点して、散らばっていた十数円を拾い上げ、お客さんに手渡す。女の人は、即座に足りない分がないか検分し始めた。

 いやいやいや盗ってませんって。

 値段が変わってないのを確認してから、お客さんが残りの37円をレジに置いたときだった。

 来客を知らせるベルが鳴る。

「あ、いらっしゃいま――」

 僕の言葉はそこで途切れた。まあ当然の反応、ではあると思う。新しい客はちょっと入店をお断りしたくなるようなナイフを持っていた。

というかあのサイズは絶対銃刀法に触れてると思う。

 そして下手な黒い目出し帽。

 リアルにいるんだ、こう言うの。日本では絶滅していたかと思っていた。

 僕は咄嗟にお客さんのお金の上に小銭用の皿を乗せた。心許ないけど、見つからないように。

「動くな!」

 目出し帽男が怒鳴った。お客さんはそんな声に耳も貸さず、ビール瓶のプラスチックケースに手をかけた。普段踏み台にしている奴だ。

「動くなっつってんだろ!」

 強盗がうろたえ始める。

「あ、危ないんで刃物振り回さないでくださいます?」

 威嚇のつもりか、強盗がこちらに刃物を向けた。だからやめてくださいって。

 目の前で盛大にうろたえられると、慌てる自分が馬鹿らしくなる。そう感じるぐらいには、目の前の強盗はテンパっていた。

「るっせぇ! つか、何で平静と」

 ごん、鈍い音が響いたかと思うと、強盗は無様に床に伸びていた。

「おや、まあ」

 お客さんの手にはプラスチックケース。

 だらりと垂れたその腕が、どうやら手の中のケースで強盗を殴ったようだ、という結論を導き出す。

 さて、次に僕がすべき行動は何か? 数秒考えた後にようやく思い当たる。

 警察呼ばなくっちゃ。

 ポケットから携帯を取りだし、110番通報をする。


「疲れた」

 110番に説明をし、強盗を引き取りに来た警察に説明をし。お役所仕事めんどくせぇ! なぜ同じ説明を二度もしなければならないのか。融通の利かない頑固者だからか奴らは馬鹿だからか。

「あの」

 お客さんが口を開いた。ああ、そう言えば会計途中だった事を思い出す。

「すみません」

 営業スマイルで対応。何はともあれ、笑顔笑顔。お客さまは神さま、これ大事。

「合計が、487円ですよね」

 そう言ってレジの受け皿をひっくり返す。何だか疲れたような顔をして財布を取り出しかけていたお客さんは、驚いた様に目を見開いた。まるで手品だ、とでも言いたげに。

「487円、これで間違いないですね?」

 お客さんがこくこくと頷く。僕はそれにほっとして、レシートを発行した。

「ありがとうございました」

 最後は一礼して、お客さんをお見送り。お客さまは神さま云々でなく、これは礼儀。

「相変わらず礼儀正しいねぇ」

「店長!」

 言ったのは僕でなく、お客さんだった。まだ帰っていなかったようだ。

 何でお客さんが、つうか店長いたんですか。

 お客さんがぺこりとお辞儀をした。

「いつもいつも、お世話になって」

「そんな大仰なもんじゃないよ」

 傍できょとんとしている僕に気付いたのか、店長があ、と小さく呟いた。

「そう言えば顔を合わせたことないんだっけね、二人とも。こちら、うちのバイトの李 礼恩(リーエン)ちゃん、留学生なんだ」

 そう言って店長はお客さん、もとい李さんを指す。

「で、こっちが佐藤智。えーっと」

 店長はそこで考えこむように言葉を切った。

「苦学生」

「溜めたわりには普通だな」

 李さんの流ちょうな日本語が逆に胸に刺さる。そんなことより。

「僕は『ちょっとお金に困ってる高校生』です!」

「世間一般はそれを苦学生と言うんだよ、智君」

 背後で呆れたように店長がため息を吐いたのが聞こえた。

<了>

読んでくださってありがとうございます。

これが初投稿なので、何かと至らぬ点などがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。


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