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イオリアとエレインシリーズ

恋愛に興味がないのに乙女ゲームの世界に転生してしまった

作者: リィズ・ブランディシュカ
掲載日:2026/05/25



 伊織は会社員として働く女性だ。

 しかし、毎日残業続き。

 栄養ドリンクと気力で頑張り続けていたが、ある日健康を害して倒れ、そのまま死亡してしまう。


 そんな伊織は、とある世界に転生する事が決まった。

 目を覚ました彼女は、転生待機室なる場所で、神様と面談していたのだった。


 神様が転生先はどこがいいと聞くが、伊織はどこでも良かった。

 欲を言えば、あまり働かずに済む世界ならどこでも。と言ったので、神様はそれだけなら、もう少しオプションをつけようと考えた。

 その結果気を利かせて、彼女が前世でちょっとやっていた乙女ゲームの世界をチョイスし、特別な能力も与えた。


 伊織はゲーム好きであり、たまたま死ぬ前に安売りされていた乙女ゲームをやっていたのだ。

 恋愛ものはあまり好きではなかったが、たまたま暇つぶしにやっていたのだった。






 転生処理中の伊織は、前世の人生を思い浮かべる。


 伊織の人生はいつも散々で、いいように人から利用されてばかり。

 ただ働きをしたのは数えきれない。

 感謝をされることもなく、伊織の人生は他人に消費されるだけだった。


 彼女が送ったのは、誰かから愛された事のない日々だった。

 しかし次の人生で愛を望む気持ちにはなれなかった。


 愛があれば心が満たされるのか、懐疑的だったからだ。

 職場の者達がたまに口にする恋バナや伴侶の話を耳にしても、他人事のように考えていた。


 伊織の人生は恋愛で破滅したのが大きな理由だ。





 伊織はイオリア・ココレートとして転生する。

 光のゲートのようなものを通った後に意識を失ったが、次に目を覚ますと赤ちゃんだった。


 赤ちゃんの意識はぼんやりしていて、伊織の心もそれと同じ。


 二つの意識はくっついたり離れたりを繰り返しながら、ぼんやりとした日々が過ぎていく。


 伊織の意識がはっきりしてきたのは3歳を少しすぎた頃のことだった。

 この時はまだ自身が乙女ゲームの世界に転生しているとは知らなかった。





 彼女が生まれたのは貴族の家。


 ココレートという名前の裕福な家だ。

 5階建ての大きな屋敷があり、何十人もの使用人が働いている。


 そこには、暮らしていくのには何の不自由もない環境が用意されていた。


 両親は仲睦まじく、家庭環境に問題はない。

 彼らは前世ではもらえなかった愛をイオリアにふんだんに与えた。

 人から愛されることとはこういうものかと、誕生日のために増えるプレゼントの山を見て、彼女は少し理解した。


 誕生日のぬいぐるみをもらったあと、家の手伝いを強制されたり、面剛ごとをおしつけられるなんてことは、今世ではなかった。






 ちなみにその世界には、様々な魔法が存在する世界だ。

 火を出したり、水を出したりする魔法もあれば、体を強くしたり、怪我を癒すものなどがある。


 イオリアは治癒の魔法が使える人間だった。

 世界の中でも数えるほど珍しいらしく、家庭教師をつけなければならないらしい。

 しかしそれだけでなく、悪い点もある。

 国から監視される事が多く、一年に一度専門の施設で魔法の力をはかることが義務付けられていた。


 だが、問題はすくなかった。

 家庭教師はすぐに見つかり、分かりやすく教えてくれる人だったため、イオリアはスムーズに力を育てられた。

 その家庭教師はいつも優しく、理不尽な事でイオリアを叱る事はない。


 付き合った彼氏がどうとかいいながら、伊織のあずかり知らぬところで貯めたストレスを、幼い子供に向けてはけ口にし、罵声を浴びせた前世の塾の講師とは大違いだった。


 学んだことを身に付けた後はしっかりと褒められ、ご褒美をもらった事はイオリアの心をあたためた。


 そんな世界の家の中で、イオリアは両親からの愛情をたっぷり受けて育ったが、それでもそれらを本物だと信じ切る事ができなかった。


 なぜならその世界には「密告システム」のようなものがあるからだ。最寄りの教会で悪事を報告すると、人が犯した罪がすぐにばれて、世界のどこかにある煉獄の監獄に送りこまれてしまうからだ。


 人の悪意と疑心が蔓延する世界で、誰かを心から信用し、愛することは危うい事だと判断した。







 そんなイオリアには、十を過ぎたころに婚約者ができた。


 その世界の貴族なら、その年齢で婚約者ができる事は当たり前だったため、イオリアは特に何も思わなかった。

 恋愛に興味がなかったせいでもある。


 その結婚でココレートの家の力は強化されるらしく、さらに裕福になると両親が言っていた。


 彼女には、裕福な暮らしをしたのなら、多少の事は我慢すべきだと言う考えがあったため、政略結婚でもなんでも断るつもりはなかった。


 しかし、婚約者の名前を知ったイオリアは驚愕する。

 それは聞き覚えのある名前だったからだ。

 婚約者は攻略対象の一人、エレイン・トュルーデだった。

 イオリアはここで、自分が転生した世界が、乙女ゲームの世界だと確信した。






 婚約者が攻略対象である。

 それはゆゆしき、問題であった。


 登場人物の傍にいると、トラブルや恋愛イベントに巻き込まれるおそれがあるためだ。


 やっかい事には極力巻き込まれたくないと考えたイオリアは、彼と距離を置こうと考え、婚約解消を願う。

 イオリアはゲームには出てこないモブだったが、それでも何かの拍子に原作ストーリーに関わってしまうかもしれないと思ったのだ。


 エレインは当然困惑したが、イオリアは理由を話せなかった。


 お茶を濁すような返答ばかりをするイオリアに愛想をつかさなかったのは、イオリアがエレインにした行いが原因だろう。


 ゲームの登場人物だけあって、エレインの人生は波乱万丈だ。


 婚約した当時はまだまだ子供だったエレインが、困難に直面するのを黙ってみていられなかったイオリアは、度々を手を差し出した。


 両親に見向きもされず、一人で問題にあたらなければならない子供を、哀れに思っての事だ。


 エレインの両親は仕事が忙しく、子供と過ごす時間はすくなかった。


 だから使用人や護身術を教える先生、家庭教師に冷たくあたられるエレインは、誰にも相談できなかった。


 それはその家の人事を担う者達が腐敗していたせいで、イオリアは婚約者である立場を利用し、彼の家に何度か通う事でこれを解決した。


 それが原因で、エレインはイオリアに恩と少しの好意を抱くことになり、婚約解消が滞ってしまうのだった。







 ともあれ仲良くしたつもりはないので、イオリアからの心理的な距離はあけたままで、月日が過ぎる。

 そんなイオリアは原作の舞台となる学校へ入学する。

 入学した学校は規模が大きく、数千人の生徒が通っている。


 イオリアは珍しい魔法の使い手であるため、その中でも最初から目立っていた。


 そのため、悪役令嬢がつっかかってきたり、エレイン以外の攻略対象に話しかけられたりすることもあった。


 しかしイオリアが人との交流をあまり望んでいないと知ると、彼らはすぐに興味を失ったようだった。

 

 代わりにヒロインが目立ちはじめ、彼らはそちらの方とつるむようになった。


 ヒロインは攻撃魔法の才能に恵まれ、強大な力を持っていたからだ。

 その力の強さは、最初の授業から多くの人の目をひいた。


 炎の力で、魔法で動かす人形を何体も燃やし尽くした光景は圧巻だった。


 しかしそんな中でも、エレインだけは、ちょくちょくイオリアに話しかけてきていた。






 そんな風にして、イオリアは、静かに学園で過ごしていく。

 しかし、そんなイオリアは、ある日目立ってしまう。


 課外授業でとある小さな村を訪れ、その世界にいるーー人にあだ名す存在ーー魔物たちを討伐していた時、強い個体が現れた。


 それは蛇神と呼ばれる存在だ。


 間違った方法でまつられた蛇のモンスターが神と呼ばれるほどの力をつけてしまい、暴れまわったのだ。


 不幸な事に引率の教師が離れていたこともあり、生徒達はパニックに陥った。


 しかし、イオリアとヒロインの協力で、被害は最小限にとどめられたのだ。


 炎の魔法で敵を焼くヒロインと、治癒の魔法を応用した力で、敵の再生能力を遅らせたイオリア。


 イオリアに興味を示したヒロインは、それからよく話しかけるようになり、彼女は再び注目を浴びるようになった。






 そんな中、ターニングポイントと呼ばれる出来事が発生する。

 それは、ヒロインの名前にまつわる出来事だ。


 ヒロインの名前はブルーム。

 蕾の意味を持つ可愛らしい文字である。


 しかしそれは、両親が悪意を持ってつけた名前だった。


 捨て子であり、孤児院で育てられた彼女は、生みの親の顔を知らずにいた。

 だが、少し前にあった学生限定の力試しの大会で目立ったブルームは有名になり、新聞記事にのったのだ。

 それで、その名声にひきつけられた親が、学園に尋ねてきたのだ。

 今までほったらかしにしていたにも、関わらず。


 家族に戻ろうと言う生みの親の言葉を、ブルームは拒絶した。

 そこで彼らは、ブルームを罵り、彼女に監獄の名前をつけたと言い出したのだ。

 一般的には知られない事で、噂になっているだけの情報だが、監獄の名前は明らかになっておらず、推測されている候補がいくつか存在している。


 その一つがファイアブルームという名前だった。

 

 ショックを受けるヒロイン、ブルームはその日からふさぎ込んでしまった。





 放っておけなかったイオリアは、設定資料の知識を引っ張りだして、ヒロインに伝える。


 監獄の名前がファイアブルームであることは事実だが、それは初代の監獄長が囚人の更生を救いを願ってつけたものだと。


 人の心を癒す花が、もっとも必要とされない場所に名付けたのは、いつか彼らが更生できるように祈りをこめたのだと。


 この世界に存在するファイア・ブルームという花は、障害を焼き払い前に進むという意味がこめられていた。


 ブルームはそのことを知って、立ち直る。


 その出来事がきっかけで、攻略対象からも感謝され、イオリアはエレイン以外の彼らともよく付き合うようになったのだった。






 彼らはイオリアが望んでいなくても、彼女と接点を持とうとする。

 最後の学年である3年生の時は、生徒会に所属するように、あれこれと手をつくしてきた。

  

 半ばあきらめの境地に達したイオリアは流れにのまれ承諾し、これを引きうける事になる。


 3年になったころ、学園内では揉め事が頻発し、絶えずトラブルが起きていたため、生徒会の本来の人数では人手が足りなかった。

 そのため、勧誘がしつこかったという理由もある。


 イオリアに割り当てられた主な生徒会活動は、けが人の治療が主だったが、力の強かった彼女は頼りにされていた。


 婚約者であるエレインはそんなイオリアが疲れないように、様々な面で配慮した。


 イオリアが一人の時間をもてるように、生徒会で代わりの仕事を引き受けたり、人払いをしたり、人のいない場所を見つけたりした。





 そんな風に学園での日常を過ごしていくイオリア。


 学園での日々は順風満帆とは言えなかったが、致命的な問題や大きなトラブルは起こらなかった。

 しかしイオリアが3年生の時、国内で問題が起きた。


 驚異的な病が流行し、国民たちの健康を蝕んだのだ。


 そのため、人手が足りなくなり、治癒の力を持つなら学生でも主戦力として病院で治療に参加することになった。


 国民や兵士が病で次つぎと倒れ、人手がないことで、病の元凶である魔物が討伐できない。よって、ブルームや攻略対象達はそちらに対応することになった。


 イオリアはその頃にはエレインを頼りにするようになっていた。


 エレインはイオリアと同じ治癒の魔法を使えるようになり、彼女よりもかなり大きな力を扱えたたからだ。

 魔法は先天的に扱えることが多いが、成長していく中で新たに覚醒する事もあった。

 エレインは後者で、学生期間中に治癒の魔法に目覚めていた。


 魔法の発動やコントロールの繊細さ、それだけでなく魔法を用いない看護や治療の知識や技術にも詳しくなったエレイン。


 度々荒事の後始末に駆り出されるイオリアが、彼の存在を頭の中に入れない日はあまりなかった。






 病の大流行の中、どうしても悲劇的な出来事は起きてしまう。

 治療のかいもなく家族と死に別れたり、親しい人の死に目にあえなかったりすることは珍しくない。

 そのたびに人々は嘆き悲しみ、イオリアは彼らの姿を見つめてきた。


 彼女の脳裏によみがえるのは、前世の母親の姿だ。

 父親とかけおち同然で故郷をはなれ、伊織を生んだ母。

 伊織が生まれてから数年は、家族三人で仲良く暮らしていた。


 しかし伊織が小学生になった頃、父親が行方不明になってしまう。

 父の部屋に残されていたのは母とは別の女性との手紙や写真。


 それが残された母の心に何をもたらしたのかは想像するしかできない。

  

 結果として、母は伊織に辛くあたるようになり、ある日突然行方不明になってしまった。

 

 だから伊織は恋愛しないと決めていたし、人に愛を期待することはしなかった。


 けれど、その価値観を人に強要することはない。


 患者の恋人たちが想い人に会いたいと言えば出来る限り尽力し、告白を手伝ってほしいと言われたときは、躊躇いながらも引き受けた。


 数日後には見知った誰かの命がなくなっているかもしれない。


 そんな世界なのだから、できる事はしておきたかったのだ。






 病の流行は広がるばかりで、患者の数は増えるばかり。

 手当てをする側もすぐに疲労で倒れ始めた。


 このままでは国が持たない。

 国民たちは大勢死に、国は崩壊するだろう。


 そう判断したイオリアは、賭けに出る事にした。


 今は乙女ゲームの最終局面。


 ブルームや攻略対象達が、この問題の大元である蛇竜を倒そうとしているはずだった。


 蛇竜は、病をまき散らし、魔物を操ると言う特殊な魔物の個体だ。


 力が強いので、ブルーム達が束になっても簡単には倒せない。


 イオリアは、病の流行がおさまらないことや、魔物の被害を聞くに、討伐で何か問題がおきて手こずっているのだと判断した。


 だからイオリアは、無断で自分が担当している医療施設を離れ、彼らの元へかけつける。


 途中でエレインとも合流した彼女は、蛇竜と討伐隊の戦闘場所、監獄前でブルーム達と再会した。


  




 彼らは大人数で行動していたが、密告システムによってあまり連携が機能していなかった。


 蛇竜の体に生える特殊な黄金の花は、多額で取引される特殊な素材だ。


 その花を採取するだけの余裕はないはずだった。


 戦いに集中しなければならないはずなのに、いがみ合ったり、騙し合ったりしていたため、討伐が進まなかったのだ。


 イオリア達が駆け付けた時には、同士討ちで怪我をしている者達が大勢いた。


 密告システムで悪事が報告され、監獄におくられる予定が多発している現状だが、さすがに今は収容が後回しにされている。


 とはいっても、悪事が頻発しているため、討伐隊の精神面はかなり参っていた。


 犯罪者と同じ場所で背中を預けたり、同じ釜の飯を食う事などできない、という現状だ。






 イオリアはそんな中で、蛇竜に自分が魔法をかけると提案する。


 イオリアの治癒の魔法は、一見すると怪我を治すものに見えるが、実は状態を戻しているのだった。


 神様が気を利かせ過ぎたことで、ただでさえ珍しい治癒能力がさらに珍しくなった結果だった。


 そのため、イオリアの力で蛇竜の体に割いている花を蕾に戻し、芽に戻し、体内に戻すことで、戦いの集中力や連携を取り戻そうとしたのだ。

 

 イオリアの試みは成功し、魔法をかけると、体の表面で目立っていた黄金の花は蛇竜の体内に戻っていく。

 

 そこからは連携を発揮し、蛇竜をスムーズに追い込めるようになった。


 数日の戦いの最後にブルームの炎の力と、攻略対象達の攻撃でとどめをさして、蛇竜を討伐。

 

 国をおそった大災害は終息に向かっていった。





 蛇竜の亡骸を燃やし、処分した後、その地面から小さな花が生えてきた。


 その花はとても美しい可憐な花だ。


 暗闇の中で燃えるロウソクの火のように、ヒラヒラとした赤い花弁が風に揺れ、ほのかに光っていた。


 それはファイアブルームという名前の花だ。


 戦闘が終わった事で、密告システムで告げられた悪事をもとに、罪人を収容する必要がでたため、今代の監獄の長たちが戦闘場所へやってきた。


 そこで、咲いている花に気づいた監獄長の男性が教えてくれる。


 同士討ちを嘆いた彼は、負傷したものや悪事を密告されたものに説教する。


 その時に、彼がかたった花の話は、イオリアがブルームに語ったのと同じ話だった。

 






 その後、無断で持ち場を離れたイオリア達は叱られたが、蛇竜討伐の功績もあり、罰を受ける事はなかった。


 それどころか国を救った英雄として、名前が広まっていった。


 その後、ブルームは攻略対象の一人と結婚式をあげ、多くの者達から祝福された。


 彼女はとても幸せそうに笑いながら、花嫁衣裳に身をつつんでいた。


 イオリアは、恋愛をしなくていいと考えていたが、少しだけ気持ちが変わっていた。


 多くの者達の生と死を見つめたことで、両親からの愛を完全に信じられるようになり、他人からの愛にも心を砕ける余裕ができたのだ。


 生と死が交差する戦場を駆け、勝ち取った未来の中で添い遂げる相手と笑いあう。


 そんなヒロインの姿を見た彼女は、ほんの少しだけ誰かと生きる未来の自分を、脳裏に思い描く事ができるようになっていた。



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