五夜
(汝はまた真実からそね目を反らすか)
声が聞こえる。
(仕方ない事だろ?俺が居たらあいつに迷惑かけちまうんだ!)
錬磨は怒り気味に答える。(汝、力を望んでいたのではないのか?)
問いかけられる
(力?…ああ望んだ、だけど…現実はそんな簡単にできてねーんだよ!…俺は、俺はヒーローでも何でもないただの人間だ!)
錬磨は叫んだ。
(汝の本心か?なれば我は…)
声が消えていく。
「レン!レン!…れ〜ん〜ま君!」
女性の声。
「何だって言うんだよ?
…あれ?」
びっくりした表情の女性。「は…るえ?」
錬磨は女性を見る。
「あれ?じゃないわよ!びっくりしたじゃない!」
春枝は言った。
「わりぃ、寝ぼけてたみたいだ…」
錬磨は回りを見渡す。
「俺の部屋?」
錬磨は呟いた。
「はぁ?ちょっとレン大丈夫?風邪で会社休んだらしいじゃん?まだ熱あるん?」
春枝は聞く。
「ん、ああ、少しボーッとするかな?」
錬磨は答える。
「ったくも〜、普段ちゃんとしてないからだよ?
でもおかしい〜な?」
錬磨の顔を覗きこんでいる。
「何がだよ?」
「あっ、いやさ〜レンはお馬鹿でしょ?何で風邪引いたの? 」
「あっ?って、おまっちょっとひでぇ〜ぞ?苦しんでる彼氏を見て言う事かよ」錬磨と春枝の会話。
「ごめん、ごめん、だけど心配したからこうして来たんじゃない」
「ああ、サンキュー」
「ご飯食べたの?なんか作ろうか?」
錬磨は自分の腹をさする。「食った気はするんだけどな〜」
錬磨は首を傾げる。
「なによ?はっきりしないな〜…お粥作ってあげるから食べたい時たべなよ?」 「おまっ、ちょっと待て!お前カレーっぽいのしか作れないじゃないか?
大丈夫なのかよ」
「いつの話しよそれ」
「いや…つい最近までだったような…」
錬磨は心配する。
「…大丈夫!」
「今の間はなんだ?」
錬磨はすごく心配する。
「…大丈夫!煮込む位誰がやっても同じだよ!」
春枝は妙な自信で溢れている。
錬磨は断るタイミングを失った。
「昔あいつの飯食って凱鬼のヤロー泡吹いてたからな〜」
錬磨は冷や汗をかく。
「ん?何?なんか言った〜?」
「いや…食欲ねーから多く作るなよ?」
錬磨のせめてもの抵抗。
「〜♪了解!」
鼻歌混じりに返事をする春枝。
「でもな〜」
「?ん、なんだ?」
「まさか私たちが付き合うなんてね〜」
錬磨と春枝は幼なじみだった。
「んだな〜不思議なもんだ」「だね♪しかも私ってばちゃんと女の子しちゃてるし」
春枝は機嫌良さそうに料理を作る。
「レンはいつから私のこと好きだったの?」
「んな事聞くなよ、恥ずかしい奴だな」
「いいじゃん、聞かせてよ〜」
ピーンポーン、錬磨の部屋のチャイムが鳴る。
「ハーイ!今行きまーす」
(フゥ〜助かった…)
錬磨は安堵した。
「あっ、いいよレンは寝てなよ、私が出るよ」
春枝玄関の扉を開けた。
「よう!久しぶり!!れん…ま?じゃない、すいません部屋間違えました」
凱鬼は手を上げたまま謝った。
「いえいえ…じゃあ失礼します」
春枝が言った。
「ホントすいません…っておい!ドア閉めんじゃねー!」
凱鬼は叫んだ。
「何よ、相変わらずうっさいわね〜」
「てめえ、俺だってわかってたのに閉めようとしたのか?」
「あんたのバカ面なんかそう忘れられるもんじぁ〜ないからね」
凱鬼と春枝は話す。
居間から錬磨は問いかける。
「どうしたんだ?何かあったん?」
その声を聞いて凱鬼は。
「錬磨!久しぶりだな?俺がわかるか?」
錬磨は凱鬼の顔を見て言った。
「…友達の押し売りは結構ですので」
錬磨は言った。
「って、お前もかよ!ったくかわんねーなぁお前ら」凱鬼はツッコミを入れた。「ああ、凱鬼も変わんないみたいだな…相変わらずバカ面だ」
錬磨は言った。
「お前らこんなイケメンを目の前にして」
凱鬼はやれやれと首を振る。
「イケメン…いけないメンズ?」
春枝は言った。
「ああ、春枝は頭いいな」
錬磨も頷いた。
「…もういいよ、俺マジ凹むよ?」
凱鬼はうなだれた。
「まぁまぁ、とりあえず上がってくんだろ?」
錬磨は言う。
「お邪魔しまーす」
凱鬼が言う。
「ホント邪魔だよ」
春枝が言う。
「…布団?俺最悪のタイミングでしたか?」
凱鬼が聞く。
「ちげーよ!」
「ちがうわよ!」
錬磨と春枝は同時に言った。
「ってか春枝!鍋大丈夫なのかよ?」
錬磨は言う。
「…大丈夫!」
春枝は言う。
そしてキッチンに向かった。
「おっ、なんだ?飯か?俺も食いてぇ〜ってか食っていいよな?」
凱鬼が聞く。
「いや…構わないけど、お前食うの?あいつの料理」錬磨は聞く。
「錬磨〜いくら手料理だからって…独り占めはよくないぜ?」
凱鬼はわくわくしながら言う。
「いや…お前覚えてないの?前あいつの弁当食って倒れたの」
錬磨が聞く。
「はぁ?いくら何でもたべもん食って倒れるわきゃねーだろ?特に女の作ったもんでこの俺がよ!バカか錬磨は」
凱鬼は言う。
「はぁ…ダメだお前…壊れてるよ」
(あっ…そうだどうせならコイツに全部食わせよう)錬磨は思った。
「お待たせ〜」
春枝が戻ってくる。
「俺、今食欲ねーから、凱鬼に食わせてやってくれ♪」
錬磨が言う。
「えー、しょうがないな…もったいないけど、ありがたく食べなさい」
凱鬼に雑炊をわたす。
「えっ、マジ?いいの?返さないぞ?」
凱鬼は雑炊を見ながら言う。
「いいから食えよ、再会祝だ!」
錬磨は言う。
「錬磨、お前いい奴だな〜ホント!親友の鏡だぜ!」凱鬼は泣きながら言った。「いただきまーす!」
凱鬼は雑炊を口に運ぶ。
「…、…!」
凱鬼は錬磨を見た。
「言ったろ?」
錬磨はそんな目で凱鬼に言った。
凱鬼を見る春枝。
「美味すぎて言葉が出ないんだな〜コイツ」
錬磨はわざとらしく言った。
親指を立てる凱鬼。
そして雑炊を一気に掻き込んだ。
「おっ?流石だな凱鬼!骨は拾ってやる!」
錬磨も親指を立てる。
「ちょっとガイ!少しは味わって食べなさいよ!」
(春枝よ、それは無理ってやつだぜ?味なんてわかっちまったらまず食えないだろうよ…奴の汗が俺に語りかけてくんぜ)
錬磨は涙ぐみながら、目を閉じた。
「ごっそさん!」
凱鬼は言った。
「生還したのか?…まさかだろ?」
錬磨は凱鬼を見た。
「えっ…と、なんつーか…すごく、懐かしい…」
凱鬼は倒れた。
「えっ、ちょっとガイ!何してんのよ?」
春枝が言った。
「…飯食って眠くなったんだろ?少しほっといてやれよ」
(せめてもの情だ!凱鬼お前の努力は無駄にしないぜ)
「ったくも〜ガキなんだから…」
春枝は言った。
(鬼かお前は?)
消えいく意識の中で凱鬼はツッコミをいれた。
しばらくして
「そろそろ時間かな?明日も仕事だしそろそろ帰るよ」
春枝は時計を見て言った。時間は11時をまわったところだ。
「…コイツとうとう起きなかったよ…ホントどうしよもないやつ」
春枝は言った。
「…」
錬磨は答えなかった。
「じゃあ、送ってくよ?」
錬磨は言った。
「いいよ別に〜すぐそこだもん」
少し嬉しそうに言った。
「そっか、じゃあ気をつけてな…今日はサンキューな」
錬磨は玄関まで春枝を見送りに出る。
「れんも早く風邪治さないと、明日も様子見て無理しないで休みなさいよ?」
「ああ、そうだな、朝起きてから決めんよ」