三夜
キッチンで、彩花は。味噌汁をかき混ぜながら。
「説明かぁ〜…簡単な事じゃないよね」
彩花が呟いた。
リビングでは錬磨はポケットからタバコを取り出していた。
「っち、なんだよ全部ボロボロかよ、無事なのねーのかよ?…ついてねーな、これからボックスにすっかな?」
錬磨が吸っているタバコは入れ物が柔らかいソフトタイプの入れ物だった。
錬磨は頭をかきながら彩花に訪ねた。
「なぁこの辺コンビニとかあるか?タバコ買いたいんだけど…」
彩花は声だけで答えた。
「うん?コンビニは無いけどタバコ屋さんならあるよぉー…レン君タバコ吸うんだ?体によくないよ?」
錬磨は立ち上がり、ため息混じりに呟いた。
「アンタは俺の母親か?ったくじゃあちと行ってくるわー」
錬磨は声を掛ける。
「ちゃんと帰って来るんだよ?」
少し心配気味に声を掛ける。
「たりめーだろ?まだ聞きてぇ〜事があんだ、それ残したままじゃ気持ちワリーよ」
錬磨が答えながら靴を履く。
「じゃあ行ってらっしゃい」彩花は言った。
「ん、おう」
錬磨はドアを開け外に出る。
「行ってらっしゃいって…変な奴」
錬磨は周りを見渡す。
「なんだ?このやたら高級感の感じられる床や壁…お嬢様ってホントに…」
錬磨は歩きながらそんな感想を呟いた。
キッチンでは。
「あっ…レン君タバコ屋さんの場所わかんのかな?聞かないで行っちゃったよ、もう」
「彩花が気にする必要ないよ〜、あいつが勝手に出てったんだよ〜?」
例の精霊が出てきた。
「うん、まーこの辺なら心配ないしマンション出てすぐ裏だしねタバコ屋さん」 「彩花は人の心配するより自分の心配しなきゃダメだよ?」
球根が言った。
「ケガの事ならもう大丈夫だって、球ちゃん心配し過ぎだよ」
パスタを水上げしながら彩花が言った。
「違うよ〜男の好みとかご飯の食べ合わせとかさ〜彩花ちょっとふつーと違うよ」
球根がちゃかすように言った。
「君も失礼だよね、たまに」彩花はため息をつく。
「アタシは彩花の心配してんの!
昨日初めて会った男部屋に連れ込んじゃってさ〜」
球根もため息混じりに言った。
「つつつ、連れ込んだって人聞き悪いよ〜」
オタマをブンブン振る彩花。
「あっ彩花危ないって、少し落ち着いて!ハイ!深呼吸して!」
「はぁ〜ふぅ〜はぁ〜ふぅ〜…球ちゃんが悪いんだよ?急に変な事言ってさ」
彩花は頬を膨らませ言った。
「アタシは事実しか言ってないけどな〜?言いがかりだわよ」
球根は言い返した。
「い〜や球ちゃんが悪いよ!事実でも言い方ってあると思うよ?」
「人ってめんどい生き物だね〜?それとも彩花だから?」
彩花と球根の会話が続く一方で。
「タバコ屋どこだよ…近いんじゃなかったのかよ〜」錬磨は見事に迷っていた。「っちくしょ〜なんなんだよこの田舎は!コンビニ位あれってんだよ!」
錬磨は叫びそうになった。「あーもういいや、戻るか」錬磨は引き返した。
マンションの入り口まで戻ると、横の方に自販機が有るのが見えた。
「仕方ね〜コーヒーでも買ってくか…
あいつも飲むのかな?」
コーヒーを取り出して顔を上げる錬磨。
「あっ…嘘だろ?」
目の前にはタバコ屋があった。
「マジかよ…何の為に坂下りたんだ俺…」
錬磨は少し泣きそうになった。
「すいません、ラッキーストライクと携帯用灰皿ください」
彩花の部屋に灰皿があるか聞いてなかったので携帯用灰皿を買った。
「ってか、改めて見たらやっぱこのマンション無駄にデケーなぁ、
あいつ俺とそう年かわんねーだろうに…ヤだねーこれが格差ってやつかね」
錬磨はマンションに悪態をついてみた。
「くだんねー時間食っちまったし早くもどるか」
彩花の部屋の前まできた錬磨。
「…チャイム押すべきだよな…でもオートロックのとこで戻るって言ったしな」玄関前でぶつぶつ言っている錬磨。
「…まぁいいや」
錬磨はドアを開けた。
部屋は朝食の匂いがした。そして奥から話し声らしきものが聞こえた。
「レン君帰ってくるって…どうしよう?まだなんて話していいかわからないよ?」
「ありのまま話すしかないと思うんだけどな〜アタシはさ 」
一人は彩花の声で間違いない。
もう片方の声は聞き覚えはなかった。
「あいつ一人暮らしじゃなかったのか?」
小声で呟いた錬磨。
「ありのままって…レン君混乱しちゃうんじゃないかな?」
「いや、全部話せ!いくらでも聞いてやるよ」
すかさず錬磨が言った。
「全部って、球ちゃん…」
彩花はゆっくり振り返る。「…球ちゃん?誰だそれ?」彩花の口が空いたままだった。
「…」
「…」
沈黙が続いた。
「れれれ」
「俺はおじさんじゃねーぞ」錬磨がツッコミを入れる。(やっぱこいつ変なとこで面白いな)
「違う、違うの!だってだって、レン君がいきなりいて、いきなり話しかけるから」
彩花は慌てて弁解する。
「んで…誰と話ししてたんだ?」
錬磨は部屋を見渡す。
「…一人二役?」
錬磨は言った。
「違うよ〜なんでそうなるかな〜」
彩花は涙目だった。
「とりあえず朝御飯にしよ?用意したから…話しはその後にしよ?」
すがるように彩花は言った。
「ああ、せっかく用意してくれたんだから遠慮なくいただくぞ」
錬磨は少し大袈裟に言った。
「うん、どうぞ!今味噌汁持ってくるから、テーブルでパスタ食べてて!」
錬磨はテーブルに向かう。「…パスタ?味噌汁?…
どんな食べ合わせだー!」錬磨は叫んだ。
「えっ、えっ?なに?どうしたのレン君?」
彩花はびっくりした。
「あっ、わりぃなんか納得できなかったもんで…」
「何が?まぁいいけどあんまり大きい声出したら近所迷惑だよ〜」
錬磨はパスタを見ながら腰を下ろす。
「いや、まぁ旨そうだけどな」
正直な感想を呟いた。
「でもパスタってたらスープとかじゃねーか?」
錬磨は首を傾げる。
そこに味噌汁を持った彩花がきた。
「やっぱ朝は味噌汁だよね?レン君がいるから今日は特別に、お豆腐と油揚げとネギのトリプルアタックだよ!」
彩花は少し誇らしげに言った。
「そりゃどーも」
錬磨は納得がいかない様子で尋ねた。
「何でスパゲティーに味噌汁なんだ?」
彩花は首を傾げる。
「朝は味噌汁って感じしないかな?」
「じゃあ何でスパゲティー?」
また彩花は首を傾げる。
「ダメ?」
彩花は逆に聞き返した
「ダメってか食い合わせってか、なんつーのかな」
錬磨は頭をかきむしる。
「あっ、ひょっとしたらレン君朝はご飯派の人?」
彩花はなにくわぬ顔で言った。
「もういいや」
錬磨は諦めた。
「んじゃ遠慮なく、いただきます」
錬磨は一応礼儀をわきまえた。
彩花は笑顔で答える。
「どうぞ召し上がれ♪
お口に合うといいんだけど…私、結構我流なとこあるから」
「ん?腹に入りゃ同じだろ?気にすんな」
錬磨は冗談まじりに言った。
「…これって怒るとこかな?泣くとこかな?」
錬磨あえて無視する。
「かな?かな?」
彩花は負けじと尋ねた。
「かなかなしつけーよ!
わかったよ…美味い!美味いよ、だからゆっくり食わせてくれ」
錬磨は感想を述べたのが恥ずかしいのか、一気にパスタを頬張った。
「わぁ、すごいねレン君!さっすが男の子!」
彩花は喜んだ。
ズルッとパスタを口に吸い込みながら錬磨。
「ほこおで…」
パスタを呑み込む錬磨。
「ところでよ、話ししてた奴はいいのか?一緒に食わなくてさ」
錬磨が言い直して問いかけた。
「あっ…いいよいいよ、あの子だいたい水と光があれば幸せって子だもん」
彩花が言った。
「…ずいぶん変わった知り合いなんだな?」
(こいつもしかして電波な奴か?)
「ん〜変わってるて言われたら確かに…変わってるね」
彩花は可笑しそうに笑った。
「あんたも十分変わってると思うぞ」
錬磨は彩花に言った。
「…私は普通の可愛い女の子だよ?」
彩花は自信満々に言った。「普通の奴は自分で可愛いとか言わないよ」
錬磨のツッコミ。
「可愛いくない?」
「…」
「ねぇレン君?レン君ってば!」
彩花は錬磨を見つめる。
目を反らす錬磨。
「…傷つくぞ?」
「えっ…そっか、残念」
彩花は寂しそうに言った。「はぁ…あんた可愛いってより美人寄りだよ」
錬磨は目を反らしたまま言った。
「…レン君」
彩花は顔が綻んだ。
「はいはいストープッ!」
錬磨の後ろの方から声がした。
振り返る錬磨。
「…どこから声掛けたんだ?」
彩花に尋ねた。
「ん?後ろだよ?」
もう一度振り返る錬磨。
「?ヌイグルミ?」
錬磨はそれを手に取る。
「温かい?なんだこいつ」
錬磨はそれを逆さまにした。
「レン君!気をつけて」
「えっ?なんごぁ」
最後まで喋れない錬磨。
錬磨の顔に触手がめり込む。
「全く、なんていう扱い方だ?アタシは悲しいぞ?小僧」
「いってーな!何しやがるこの球根風情がぁ〜」
錬磨は球根を投げる。
「あっ…ちょっとレン君!ダメだよ〜そんなことしちゃ〜」
彩花が間のぬけた声で言う。
「小僧…アタシを投げるとはいい度胸だ」
球根は嫌な笑顔で錬磨に凄んだ。
「ちょっ、球ちゃんダメだよ?ストップだよ?」
彩花は球根に向かって言った。
「止めないで彩花!この小僧は緑王【りょくおう】が一人娘、この緑炎のガイアに無礼を働いた…知らずとはいえね…」
球根は触手を伸ばす。
「ちょっ、なんだよこいつ?ヌイグルミじゃねーのか?」
錬磨は慌てて立ち上がる。「まだ言うか、小僧が!
が…所詮人の子、礼儀を欠いても仕方ないか」
球根は触手を引っ込める。球根と錬磨の間には彩花が立っていた。
それを見て球根は威嚇を止めたのだ。
「全く彩花はホント物好きだわよ、そんなの守っちゃってさ」
球根はため息をつく。
「な、なんなんだお前ら!」錬磨は声を荒める。
「レン君、昨日の事どれくらい覚えてる?」
彩花は唐突に問いかけた。「…昨日、変なガキにお前が襲われて、そこに俺がいて…痛てぇー、頭か割れる…」
錬磨は頭を抱える。
「レン君!無理しないで?」彩花が錬磨を抱き抱える。「ゆっくり、ゆっくりでいいよ?」
「ック…あいつが来て斬られそうになったお前の前に割って入って…で…どうなったんだ?」
錬磨は記憶を辿る。
「んであのガキが、笑いながら何か投げてきて…ダメだ、何かあった気がするだけで思いだせねー、…あの後何があった?なぁ何があったんだよ!」
錬磨はたまらず叫んだ。
「レン君…」
彩花は黙った。
「小僧、お前はその餓鬼に叩きのめされた…それだけだ」
「球ちゃん!」
彩花が何かをいい掛けたが球根が目で制した。
「そっか…俺はあのガキにやられたのか…悪かった、守ってやろうと思ったのに、結果的に逆になったのか…」
錬磨は顔を伏せた。
「違うよレン君」
彩花が優しく話しかける。「違わねーよ!」
錬磨は言う。
「いや小僧、彩花の言う通りだ…あの時に主が飛び出さなければ、反撃の機会はなく殺られていただろう」球根が言った。
「…」
錬磨は黙ったままだ。
「しかし小僧、人の身で有りながら…なぜあの結界に入り込めた?」
「結界?」
錬磨は問い返した。
「レン君、私と会う前に違和感とか感じなかったかな?」
彩花が口を開いた。
「違和感?…そうだ、音が無くなって、いや、音だけじゃない、人の気配とかそんなんが全部無くなっちまったような、そんな感覚だった…」
錬磨が思い出したように言った。
「うん、それが結界の中に入った時だと思うよ?」
彩花は優しいまま言った。「で…小僧はどうやって結界に入った?」
球根は再度錬磨に問いかけた。
「わからない、俺はただコンビニに行こうとしただけだ」
錬磨は答えた。
「…」
球根は触手を伸ばし錬磨の頭に張り付けた。
「…小僧、お前退魔の血を引く者か、成る程な」
球根は触手で錬磨を感じとっている。
「退…魔?
血?
わかんねー何言ってんだ?」
錬磨は言う。
「才能はあるが実力も経験も無い…能力すらわからないままか」
球根は続けて言う。
「しかし不思議だ…あの時感じたのは確かに魔の者だった」
球根は首?を傾げる。
「魔?魔ってなんだ?あいつらもそんな事言ってやがった」
錬磨は問いかけた。
彩花は目を伏せながら答える。
「…魔は人じゃないもの…魔神【マガミ】との契約により人じゃ無くなった者…人の域から外れた者」
彩花の声が小さくなっていく。
「…彩花もういいよ?アタシが説明するから彩花はそんな顔しないでよ」
球根は彩花を心配して言った。