一夜
退魔の生業
オープニング
「お前何してるかわかってんのかよ」
「…死ぬ事は罪じゃない…殺すことが罪なんだ」
虚ろな目で放つ言葉に、対峙する剴鬼はこの感覚に覚えがあった
「錬磨、お前スイッチが入ったのか…
嘘だろ」
(俺は何やってんだっけ…剴鬼が何か言ってる、スイッチ?あいつ何言ってんだ)
錬磨は少し離れている女性に目をやった。
それは無意識の中でやった行動であり、人物を確認するための行動じゃなかった。
その女性が少し退いた、その行動もまた命を守る為の自然な行動だった。
始まりの夜
「ったく、あいつこきつかいすきだろ」
仕事場の上司の悪態をついた。
「ヤベ、独り言かよ、俺も年とったね」
そんな言葉を呟きながら、その足をいつものコンビニに向けていた。
彼の名前は 戦鬼錬磨
大学を卒業して4年今は小さな町工場で働いている。今では特に問題なく暮らしいる。
「ん、なんだ?」
錬磨は違和感を感じた。
回りをみわたす。
「気の…せいか?」
一見特に変わった様子はないように思える。
「…疲れてんのか、嫌な気分だ」
その時、少しさきね路地から物音が聞こえた、微かな音だった。
「なんだ今の…それにやっぱおかしいだろ、さっきから」
(そうだ、何でこんなに静かなんだ)
さっきの物音以外の音はしない、車の音も人のだす雑音すらない。
「…風…もないか」
もう一度辺りを見渡す。
「…」
そして音のした方に視線を送ろうとしたが。
(駄目だ、そっちは駄目だ、見れば戻れなくなる)
錬磨は唐突にそう感じた。しかし、同時に好奇心も感じていた。
「こんな感じそうそうねーよな」
錬磨の顔には笑みが出ていた、意識的な笑みではない、そして足は路地に向かっていた。
「なんだろ、この感じ…知っている…」
(イヤ、そんな訳ねーよな)錬磨の握っていた手のひらは気がつかない間に汗ばんでいた。
視線の端に存在を捉えた。「…誰か居るのか…誰かだって…」
物陰に動きはないが、錬磨は一見してそれをヒトと認識していた。
無言のままヒト影が動く。「追っ手か、速いわね毎回ながら、流石にきついなーもう」
女声がした。
「何よ、動かないで余裕のつもり?見くびらないで」 「…」
錬磨は何も反応しないでただ見つめていた
「敵とは言葉を交わす事も無いって事なの?
あったまくるな〜もう」
「敵…あんた何言ってだ」
錬磨は女の言葉に反応した「おい、あんたケガしてんのか?」
錬磨は問いかけた。
「はぁ?あんた何言ってのよ、敵の心配?余裕ね、サンプルとして捕まえるつもりなのかしら?」
「あんた、危ない人?
…イヤ、まぁ人の趣味にケチつけるつもりはねーけどなんつーか、楽しいのか?戦隊物ごっこ?」
「はぁ?何言ってんのあなた?…まさか一般人?でもまさかね、結界の中で…」最後の方は聞き取れなかった。
「一般人っていうか、一般人って言葉がもうあっち系統の人だろ」
「ちちち違います!私そんな、イヤまぁそんな事はどうでもいいんです〜、あなたは何者」
女は言葉の途中でふらついた。
「おい、大丈夫か?」
錬磨は支えるため女に近づいた。
「おい、おいあんた!」
声をかけると女は目をあけた。
「!っな、近!なにやってんのよ!!なんなの?なんのつもりなの?お持ち帰りですか?」
(こいつなんか面白いな)
「うっせーな、少し黙れ」
「ななな何言ってんですか〜誰か助けて〜」
女は涙目だった
「ごめん、わるかった叫ぶなよ」
「ふぇ?別に泣いて無いよ」強がってみた女に錬磨に笑みがこぼれた。
「まぁ、いいや、あんたケガ大丈夫か?」
「…あなたホントに敵じゃないみたい…くぅ」
女は安心したのか緊張がとけた。
と同時に考えないようにしていた痛みが頭をよぎった一度思い出してしまえばいたみは止まらない。
「大丈夫か、なぁあんた!」「うるさい!大丈夫だったら倒れないわよ」
精一杯の強がりだった。
「なんだよ、なんで俺が怒られてんだよ」
苦笑いの錬磨に女の視線がぶつかる。
「ありがとう」
女が言った。
「いいよ、別に」
錬磨は視線を避けた。
よくみれば女はかなりの美人である。
錬磨は少し照れくさくなった。
「それより、あなたは速くここから離れて日常に帰りなさい」
目を伏せながら女は言った。
「日常って、いいから医者行くぞ、えっと救急車のがいいのか?」
その時意外な方向から声がかかった。
「来るわけないだろ?こんな場所にそんなもんが」
サングラスの帽子男見るからに怪しげな雰囲気で立っていた。
「あんたの遊び仲間か?」
錬磨の問いかけに女は反応を見せず、ただ現れた男を見据えていた。
「今度は本物の追っ手のようね…長いし過ぎたかな」錬磨を突き放す為に女はどうにか腕に力を入れた。
「おいあんた、無理すんな、ふらついてんぞ」
錬磨に軽い笑みを見せ女は男の方に向き直った。
「おいおいこんな所で見せつけてくれるなよ」
男はからかうように言った「彼は一般人よ、まさか手を出さないわよね」
「んーそれは無理かも」
ニヤリと笑う。
「結界の中にいるんだ、普通じゃないよな〜君も」
錬磨に視線を送る
「っつ、なんなんだよお前、結界?訳わからない事言ってんじゃねー!
いいから救急車呼んでこいよ」
錬磨は女の方に振り向く。その時錬磨の頬に何かががする。
頬に手をやる錬磨。
「…血…なんだよ、これ」
道路に刺さる何かを見た。「トランプ…」
振り向く錬磨。
その瞬間突き飛ばされた。「いって〜なにしやが…る」錬磨の立っていた所にカードが數枚つき刺さっている。
その側に女が立っていた。「ハッ、まさか植物の姫君緑炎の彩花が人助けとはね」
「少し喋りすぎだよあなたは、…モテないわよそういう人は」
「面白いね君、そんな余裕もないくせに」
二人が距離縮めていく。
「まっ、待てよあんたら一体なにやってんだよ」
その時地面がわれた。
割れた地面から草の根が飛び出る。
それを合図に二人の戦いは始まった。
「それだけ傷をおってまだ力を使えるとはね…化け物が!」
「非道言われようね、傷つくよ」
「魔が心を持つものかよ、彩花さんよ〜」
「あなたはさっきからヒトの名前を気軽に呼ばないでよ!許してないわよ呼ぶことすら!
私はあなたの事すらしらないんだから」
「これは、失礼」
男はわざとらしく頭を下げた。
「僕は日本裏政府特別退魔組織に所属する飛遠です。初めまして…貴女方、魔を殺す者です」
錬磨が反応する。
(魔?殺す?退魔?なんなんだ…)
錬磨は叫ぶ。
「なんなんだよお前ら!」
飛遠は錬磨を見る。
「まだ此処に居たんだ、ビビって逃げ損なったか?
鬱陶しいし先に殺っちまうか?」
カードお放とうとする。
「やめて」
彩花が叫ぶ
カードを投げる瞬間腕を捕まれた。
「やめときなよ遠ちゃん、一般人に手を出すと面倒だぜ」
男が手を掴んでいた。
(!あいつ…凱鬼?なんであいつがこんなとこに)
「凱鬼さん、何しに来たんです?こんな死に損ない相手に」
「まぁそー言うなよ、俺の狩りぞこないのミスなんだからさ、彩ちゃんも俺と決着つけないで死ねないっしょ?」
「凱鬼…全く今日は散々な日ね」
彩花はそんな言葉を吐き捨てる。
思いもしない方向から声がした。
「凱鬼!お前総魔凱鬼だろ!俺だ錬磨だ!」
凱鬼は驚いた。
「錬磨、戦鬼錬磨なのか?なんでお前が此処に…目覚めた?いや違う、力に巻き込まれただけか?」
凱鬼は考えている。
「凱鬼、何言ってんだよ?目覚める、なんの事だ?」錬磨は凱鬼に問いかけた。「凱鬼さん知り合いですか?」
今度は飛遠が問いかけた
「ああ、知り合いも知り合いヤツとは従兄弟どうしだ、同時にライバルかな」
凱鬼は伏し目がちに言った。
「なんで錬磨のヤローが此処にいるんだ…まさか宗家のヤローどもか?
くそっ」
凱鬼は悪態をつき、飛遠に言った。
「一般人に手をだすな、目標だけを殺れ…」
二人は再び彩花に襲いかかる。
「なめないでよ、何もしないで待ってた訳ないじゃない!」
襲いかかる二人に向かって無数の草の根が行く手を阻む。
「っち、この死に損ないが」飛遠が吐き捨てる。
凱鬼は無言で草の根を切り捨てる。
「見えない剣、やっぱり厄介ね…」
一瞬彩花の力が抜けた。
「ここまでだな、その傷でよくやったよあんたは!」凱鬼は剣をふりおろす格好をとった。
「やめろ!凱鬼!その娘死んじまうぞ!」
凱鬼は動きを止めない。
「っちくしょー!」
錬磨はもう走っていた。
凱鬼は剣をふりおろす。
「やめろって言ってんだよー!」
凱鬼と彩花の間に割って入った。
「錬磨!退け!」
「退かねーよ!」
にらみ合う二人、その時凱鬼の後ろから。
「じゃー死ねよ!!お前」
錬磨の体に無数のカードが刺さる
「え…嘘でしょ、何で見ず知らずの私なんかの為に…いやだ、こんなのいやだ」彩花は涙した。
「飛遠!」
凱鬼が怒鳴り声を上げた。「事故ですよ事故、そんなに怒らないでくださいよ」にやつきながら飛遠は言った。
「それより速く後ろの奴止め刺さないと、またにげられますよ?」
相変わらずにやけながら言葉を続ける。
「しかし、そいつもまさか化け物を庇ったとは思いもしないんだろうけど」
彩花は睨み付けた。
「あんた達の方がよっぽど人じゃないわよ…」
(こいつ泣いてくれるのか?バカだな…逃げれば良かったのに、ご丁寧に抱えてくれちゃって…感覚が無いのが残念かな)
消えそうな意識の中で錬磨はそんなことを考えていた(っち、このまま死ぬんかな俺、嫌だな〜まだ春枝とも付き合い出したばっかなのにな)
消えかける意識の中で錬磨は声を聞いた。
『汝、力を求めるか?』
(なんだ?声?)
『汝、魔宿りし者を滅ぼす力を求めるか?』
(力…欲しいさ!)
『ならば我の契約者となり魔なるものを滅ぼす力を手にいれよ』
(そいつはごめんだ…俺は守る力は欲しいけど…滅ぼす力?ごめんだな)
『ならば我の力を止めてみせよ、我は我の力を使うのみだ』
(なんだ、おい!待てお前なんなんだ?)
『我は汝の力の一つ』
(なら俺に力を貸せ!)
『…』
「ゴホッ、うう」
唐突現実に引き戻された。「まだ生きてんのか?しぶとい野郎だな」
飛遠が言った。
ガッ、錬磨の手が飛遠の首を掴む。
「!錬磨、何してる!」
凱鬼が錬磨に視線を送る。ゾクッ、凱鬼はその場から飛び退いた。
「っなせよ、この」
飛遠が錬磨の腕を思い切り蹴り上げた。
「なんなんだよこいつ…魔?嫌違う、気配が違う」
飛遠も凱鬼の居る場所まで退いた。
「ちょっと君、大丈夫なの?」
錬磨が立ち上がる。
「ねえってば!聞いてるの!」
彩花が錬磨に問いかけるが錬磨は虚ろな目で凱鬼達を見据える
「凱鬼さん、あいつ何者何です?」
「…あいつも古の退魔の血を引き継いだ者の一人だよ」
飛遠は錬磨に目をやった。「嘘だろ、あんなのが?しかしそれならこっちの味方なんでしょ?」
「いや、あいつはガキん時に宗家に見放されてそれっきりだ」
「落ちこぼれってやつですか…」
「…ああ、そんなとこだ」
飛遠は怒りを露にした。
「クソが!落ちこぼれの癖にこの僕の首を掴んだのか?このクソが!」
今にも襲いかかりそうな飛遠を凱鬼が手で制す。
「何で止めるんです!凱鬼さん!」
荒い声で問いかけた。
「目標を間違えるな…敵はあの女だ」
「それを邪魔する奴も敵でしょ!」
飛遠が凱鬼の手を振り払い錬磨に襲いかかる。
「今度こそ戻ってこれない所まで送ってやるよ!」
錬磨が飛遠を目で捉える。「…ち…か…ら」
錬磨が呟く。
「えっ?何?」
彩花は手を伸ばして錬磨を捕まえようとしたが、その手は空振りに終わる。
彩花の体は限界を超えて動くだけで激痛を伴う。
「食らえよ!てめえ〜!」
無数のカードが錬磨に向かって放たれた。
『汝、力を望むか?』
「ああ、力を…」
『魔を殲滅するための力を』
「守る為の力を…」
錬磨の瞳が紅く変わる。
放たれたカードが勢いが変わる。
正確には錬磨の動きが変化した。
「なんだ、どうなってやがる」
飛遠は驚いた、それはそのはずだ、全力ではないにしろ素人にどうこう出来るレベルのスピードではなかったのだから。
「このっ!」
もう一度カードを手にとる。
がその行動は阻まれた。
「何!おま」
飛遠は言葉をいい終わる前に電柱に叩きつけられた。 「ガハ…なんだ…この僕が吹っ飛ばされたのか…」
飛遠は訳がわからなかった。
「錬磨、お前」
静観していた凱鬼が口をひらいた。