8、初めてのアイテム
神殿に戻ると状況を説明した。
「明日、荷物を取りに行きます」
「ありがとうございます」
神官たちや、そこで働いている人たちは喜んだ。俺は、コズエと神官たちに提案した。
「考えたんだけど。コズエは、別の神殿に行ったほうがいいんじゃないかって」
「え?」
「ああ、そうですね。ここは駐屯の兵もいませんし、治安が良くありません。そうされたほうがいいかもしれません」
「分かりました」
コズエも納得した。それに、食料はかなり食べつくされていたから、神殿も次の物資が来るまで苦しいと思う。
「またよろしくね。シュナ」
「うん」
今日は神殿に泊めてもらうことになった。
「どうぞ、お疲れでしょう。お風呂を沸かしてありますよ。食事の前に入ってください」
「ありがとうございます!」(やったー! 久しぶりのお風呂だ!)
「コズエ、先に入っていいよ」
「うん、ありがとう!」
コズエはお風呂に喜んでいた。俺は用意してもらった個室で、机の前の椅子に座って待っていた。本当はベッドで横になりたかったけど、汚れたままで横になるのは嫌だった。
ノックがして、コズエが髪をタオルで拭きながら、ドアを開けた。
「出たよ。お湯を足して入るようになってた」
「分かった。ありがとう」
お風呂のドアには入浴の有無の札と、出た時に鳴らすベルが下がっていた。俺は札をひっくり返して入浴中にした。
浴室には、木の蓋をしたブリキのバケツが二つ置いてあった。どちらも、バケツを触ると熱いので熱湯だ。陶器の浴槽にも木の蓋が二枚置いてある。一枚だけ取ってお湯で、髪と体を久しぶりに洗った。蓋をもう一枚取ると、バケツのお湯を足して、浴槽に浸かった。
「は~、生き返る」
そういえばコズエは臭いを気にしていたけど、また旅が続くから、ハグはなしになったな。思い出してふふと笑った。
お風呂から出ると、ベルを鳴らした。
コズエと二人で食堂に行くと、50代ぐらいの女性が食事を用意していた。温かいスープとパン、生の野菜を食べた。
久しぶりに、白いシーツのベッドで眠る。気持ちが良かった!
翌日、荷車を借りて森に向かった。俺が引いて、コズエが後ろから押す。現場が悲惨なので、二人だけで行くことにした。
着くとアピスはいなかった。荷物は全部そのままだったので、ほっとした。獣も、モンスターが来たところには近づかなかったみたいだ。
死体がたくさんあって、血の匂いもすごい。この状態も録音石に記録しておいた。コズエには刺激が強すぎるかもしれないと思った。
「コズエは大丈夫?」
「うん、大丈夫。旅を続けるから、慣れなきゃ」
コズエは本当に頑張り屋だよな……。
「盗賊は全然減らないんだ。小さい町や村だと警備署もないから、国も盗賊退治にアピスを使うことを許可してるんだ」
「そうなんだね……」(モザイクがいる惨劇だけど……)
俺たちは、布をマスクにして作業した。
先に食料を運び、次に俺が男たちの装備と所持品を取り出す。血で汚れたものは、所持品の中にあった布で拭いて脇に置いた。それをコズエが荷車に積んだ。
身に着けているものや革のベルトは、血が染みついているのでそのままにした。魔法アイテムは持っていなかったが、ボス格の男は金貨を持っていた。装備品とお金で、神殿の損失もかなり補填できるだろう。
「この人たちはどうするの?」
「神殿から兵站に連絡してもらうことにするよ。とりあえずそのままにしておく」
獣が食べに来るかもしれない。——俺はまずいことに気がついた。死体の中で、一人だけ体が破れていない。その男の体が急に膨れ上がった。
「コズエ離れるんだ」
「え?」
その途端、体からアピスが飛び出した。
「きゃあ!」
「一匹だけ羽化が遅れたんだ。睡眠薬のせいかもしれない」
群れとはぐれてしまったな……。ちょうどいい。
「こいつを仕留めよう。コズエがやるんだ」
「どうやって!? 残像を使うんでしょ?」
「俺が攻撃するから、俺の後ろに回り込んだアピスに石を当てればいい」
「そんな! 危険すぎる。それに石なんか効くの?」
「大丈夫だ。こいつの体は、虫と同じぐらいの強度しかない。毒も、しばらく動けないだけで死なない」
「……分かった」
コズエは、俺から離れて投石紐を準備した。俺はそれを確認すると、拾った石をわざとゆっくり投げた。アピスはすぐに反応する。
(わっ、本当にアピスが二つに見える。シュナに当たりませんように)
コズエはすぐに石を投げた。俺は後ろを振り返る。石は見事、アピスの腹を破った。その瞬間、アピスはポンと消えて、黄色の魔鉱石とハチミツの瓶が落ちた。
「やったな。コズエ!」
「うん。モンスターは消えちゃうんだね」(アピスの中身がシュナにかからなくて良かったよ)
「魔法生物だから、消えるんだ。代わりにアイテムを残す。これはコズエの物だ」
俺は拾ったハチミツの瓶と魔鉱石を、コズエに渡した。
「ハチミツだ」(瓶が出る? アイテムが出るなんて、本当にゲームみたい)「黄色い石は何?」
「魔鉱石だよ。合成に使えて、モンスターの属性が付与できるんだ。アピスは毒と、雷だね。加工すると探索石や録音石のような魔法石になる。高価だからいい値で売れるよ。加工前に瘴気に当たると、モンスター化することがあるから、袋に入れておいて」
「うわ! そうなんだ」
コズエは慌てて、持っていた袋にしまった。
荷物を全部乗せると、帰路に付いた。途中、コズエに荷車の番を頼んで、ラシットの実を取りに行った。ラシットの実は滋養もあるから、みんな喜ぶだろう。
神殿に到着すると、神官長や他の人たちが出迎えてくれた。
「持って帰って来ました」
「ありがとうございます!」
「食料が減っていたので、装備品も持ってきました。ラシットの実も、売るためにたくさん採ってきました」
(それで、時間がかかってたんだ)
みんながお礼を言ってくれた。コズエは、自分の持っていたアイテムを出した。
「私の今日取ったアイテムも提供する」
「いいのか?」
「うん」
「ありがとうございます」
また、お礼を言われた。それからみんなで食料を運んだり、血で汚れた装備品を洗浄した。コズエが提供したアイテムで、俺たちの分は十分まかなえるから、もう1泊して装備品を売るまで手伝うことにした。
夕食にラシットの実を出したら、予想通りみんなはとても喜んでくれた。今日採った場所も教えておいた。見つけた木以外にも、あの森にはラシットの木がたくさんあるそうだ。今後も神殿の人たちで採りに行くことになった。いい収入源になるだろう。
普段お風呂は毎日入らないけど、今日はかなり汚れたから、俺たちのためにまた沸かしてくれた。




