7、アピスの饗宴
コズエはなんだか機嫌が悪かった。
「シュナは、エリサみたいな子が好みなの?」
「は?」
さっきのことか。
「かわいいと思うけど、あいつはコズエを身代わりにしたんだ。俺は、そういう奴は嫌いだ。あいつといたら、命がいくつあっても足りないだろ」
「あら、私たちやっぱり気が合うわね」
二人で笑った。
「でも、エリサはどうやって渓谷を抜けたのかしら?」
「おそらく、キャラバンの荷物に隠れたんだろう。その荷物も盗んだに違いない」
「まったく。あの子ったら!」
「でも、分からなくもない。若い女性は仲間といた方がいいけど、あの顔だと髪を染めても目立つからな。多分、仲間に裏切られて売られたことがあるんだろう。それなら一人のほうが安全だ」
「そんな……」(かわいいのも大変だな)
町を抜けて森の前にたどり着いた。地面を見る。
「足跡が複数あるな。こっちだ」
念のため道を外れて進む。途中、ラシットの実が落ちていたので拾った。ラシットは丸くて赤い大粒の実だ。中の果肉に弾力がある。
「これは使えそうだ」
(キャンディみたい)
「ラシットの実だ。おいしいよ」
俺はコズエに一つ渡すと、また二つ拾って一つを食べた。もう一つはポケットにしまう。この場所を探索石に記録しておいた。
「本当だ。おいしい!」
遠くで声がした。
「声がする。あっちだ」
用心して進むと、道のほうに見張りが一人、隠れて立っていた。その脇を身を低くして通り過ぎる。声に近づくと、しゃがんで草の間から覗く。開けた場所で盗賊たちが酒盛りをしている。食料が盗賊の周りの、そこかしこに置いてあった。そこに、エリサが入って来た。コズエが小声で言う。
「あの子、何してるの!」
「まったくだ……」
見張りを避けてきたな。危険すぎるだろ。二人で呆れながら様子を見る。エリサは盗賊たちと話をしていた。俺は録音石のスイッチを入れておいた。
「なんだお前は」
「あなたたちの仲間に入れてちょうだい」
「ん? ふ~ん、お前かわいい顔してるな。いいだろう」
「ありがとう! お酌するわね」
エリサは盗賊たちのお椀やコップなどに、酒を注いで回った。
「多分俺たちの話を聞いて、食料を奪うつもりだ。睡眠薬でも盛っているんだろう」
「あきれた」
やっぱりあいつは危険だ。
「俺たちは作戦を遂行しよう。
あの場所から離れた奴を狙うんだ。俺が繭を足に打つから、その後すぐにこのラシットの実を足元に投げてくれ」
「分かった」
眠っていた男が立ち上がって、一人で森の中に入って行く。寝ていたので、まだエリサの酒を飲んでいなかった。俺たちも男に付いて行った。男は用を足し始めた。コズエが気まずそうに嫌な顔をする。
(うっ。シュナとおじさんのトイレを見るなんて……。元々おじさんが盗賊するからいけないのよ)
「今だ」
俺はパチンコで繭を飛ばし、すぐにコズエが実を投げた。繭は男の右脛にあたる。白い布を脛に巻いていたので目立たなくて良かった。男は衝撃を感じて後ろを振り返り、落ちている実に気が付いた。
「なんだ、ラシットの実か。動物が落としたのかな?」
男は終わると、実を拾って食べながら戻っていった。エリサは戻ってきた男に早速、酒を勧めていた。
すると、見張りの30代ぐらいの男が戻って来た。
「ちっとも交代に来ないと思ったら。——お前は誰だ!」
男はエリサに驚く。エリサは道を通らなかったから、当然不審に思うだろう。
(まずいわ。もう酒がほとんどないし、睡眠薬も使い切っちゃった。媚びて何とかするしか……)
その時、
「うっ、うっ」
繭を当てた男が横になって呻きだした。あまりの激痛に目を見開いている。右足がビクビクと異様に動いていた。
始まった。エリサと見張りの男がそれを見て驚いている。
「お前、何をしたんだ!」
「え、ちが」
(うわぁぁぁ。怖い)
コズエも隣で固まっている。倒れた男の動きが止まると、背中から女王蜂が飛び出してきた。
「きゃああああ!」
「うわあああ! なんだ、モンスターか!」
(うわぁぁぁ、デカイ! 中型犬ぐらいある)
エリサが叫んで後ろに転んだ。コズエは顔面蒼白だった。見張りの男は、女王蜂にナイフを投げた。当たったが、すり抜ける。
「なんだと!?」
「アピスは残像を使うんだ」
「なんと!」
俺が小さな声でコズエに説明する。すでに女王蜂は、男の後ろに回っていた。プスッと男の首に毒針を刺す。男は気を失って倒れた。
「きゃあああああ!」
エリサは恐怖で泣いていた。女王蜂はゆっくりと男に卵を産み付けた。それからきょろきょろと辺りを見渡すと、寝ている男たち全員に卵を産み始めた。
「うあぁぁ」
「ぐあぁあ」
寝ている男たちは呻き声を出し、辺りは地獄の有様だった。そのうち静かになると、女王蜂より少し小さめの働き蜂が、男たちの体から次々と飛び出してきた。エリサは座ったままだった。俺は草むらから立ち上がった。
「おい、お前。逃げないと卵を植え付けられるぞ。俺たちは毒無効化のアイテムを持っている。あと、録音石で記録したからお前は盗賊の女だ。今日中にこの街から出ないと、兵站に録音を送る」
「なんですって! 分かったわよ。今日中に出るわ」(睡眠薬が無駄になった!)
エリサは正気を取り戻すと、すぐに逃げ出した。アピスはやはり追わなかった。コズエも草むらから立ち上がった。
「毒無効化のアイテムを持ってたんだね。ほっ」
「それは嘘。アイテムはほとんど換金してるから、最低限の物しか持ってない」
「えぇ!?」
「俺たちもこのままだとまずいから、今日は帰って食料は明日回収しよう。アピスは日のあるうちに南に向かうと思う」
アピスたちは、まだその場にいた。
「分かった。早く帰ろう!」
「うん」
早足にその場を離れた。




