35、神託の神殿
マーレイを出て街道を東に歩く。タクトが聞いてきた。
「手紙に神託の神殿と書いてたけど、どのぐらいかかるの?」
「東の街道を三時間ぐらいだよ」
「前に聞いたところだよね」
コズエも聞いてくる。
「うん。キンバリーの町にあって、王家が管理しているんだ。神託は王族しか聞けないと言われているけど、コズエがいるから俺たちも神託が聞けるかもと思って」
「いいかも。話を聞けたらいいな。呼ばれたのにまだ神様に会ってないから」
「いいね! 行こう」
みんな大賛成だった。良かった。今日は森で野宿した。すぐに街を出たのは、おじさんを待たせないためだ。今日もいろいろあって、疲れたからみんなすぐに寝てしまった。
次の日、1時間ほど歩くと、キンバリーの小さな町が見えてきた。ここも国の端にある静かで穏やか町だ。
「きれいで、いいところね」
「本当だね」
コズエとタクトが話している。俺は来たことがあった。道も舗装されていて、さすが王家が管理しているだけあるなと思った。神殿の前に行くと、鉄格子の門が閉まっていて、両脇に門兵が立っていた。門兵に止められる。
「今日は拝礼できないから、帰りなさい」
「そうですか」
俺たちは門から離れ、来た道を戻った。コズエが言った。
「残念だね」
「そうだな。前は門が開いていて、門兵は玄関ドアの横に立っていた。今日は変だな。せっかくなんで、神様が下りてきた山の方に回ってみようか」
「そうだね。行こう!」
コズエは喜んだ。塀を回って北側に行こうとすると、一台の馬車が止まっていた。
『助けて!』
「声がする!」
「えっ!?」
タクトが怯えてコズエの肩にしがみついた。コズエはもう平気だった。
「どこから?」
「敷地の中からかな」
北側の門から、大きな布袋を担いだ二人が出てきた。
「きっとあれだ。コズエ、眠り玉を打って」
「了解」
コズエがラケットで玉を打つと男に当たって、玉がはじけた。中から眠り粉が出て、二人は眠ってしまった。タクトが魔法で二人を縛って車輪に括り付ける。馬車も、車輪が回らないように魔法でロックした。俺たちは袋を北の門から中に入れて、植木の陰で袋を開けた。中から出てきたのは、紫の髪にキレイなドレスを着た若い女性だった。口は布でふさがれ、手と両足も縛られている。靴は履いていなかった。俺が布と縄をほどいた。
「うわ、キレイな人。お姫様みたいだ」
タクトの言葉にその女性は頬を赤くした。コズエも観察する。
(きれいといえばそうね。着ているものが今まで会った人と全く違う。気品があるから、貴族の人かしら?)
頭にはティアラが着いている。この人、王族じゃないか?
「俺たちはフリオン団です。俺がシュナ、こっちが魔法使いのタクト、異世界人のコズエです」
「フリオン団、知っています! それに異世界人だなんて。まあ! 私はこの国の王女、ウティルナです」
『えっ!』
二人は驚いた。やっぱり。ウティルナ王女はこの国の第一王女で、19歳だ。
「どうしてこんなことに?」
「私は危険を承知で神託を受けに来ました。ですが、神官に護衛を中に入れてはだめだと言われました。神託の間に入るとすぐに、案内した神官が魔法で壁に四角い穴を開けたんです。そこから男たちが二人入って来て、私を縛って袋に入れました」
入り口を作るのは俺たちと同じやり方だ。俺は疑問を口にした。
「神官は魔法使いじゃないから、おかしいな」
「そうですよね」
王女もそれを知っていた。それに魔法使いは馬車の近くにいなかった。まだ中にいるのか? 中から声がした。
「どうやら捜しているみたいだ。行こう」
「はい」
俺たちは王女を連れて玄関に回った。俺が王女の前に立ち、コズエとタクトが後ろに付いた。門兵が驚いて、槍を構える。
「お前たち!」
「王女がいました!」
門兵が声を上げると、中から神官と護衛が出てきた。俺が王女に言った。
「どの神官か教えてください」
「はい。——あの男です」
王女が指さした。俺が大声で言う。
「そいつを捕まえろ。魔法使いだ!」
『何!?』
他の神官たちが驚いてその男を振り返る。その男はチッと舌打ちして、魔法で煙幕を出した。
『うわあぁ』
神官たちは慌てふためく。護衛が突進するが、すでに魔法使いはいなかった。
「北側に馬車があって、男たちを捕まえてあります。すぐに行ってください」
門兵たちが向かう。王女を護衛に任せて、俺たちも後を追った。魔法使いがいた。
「いたぞ!」
魔法使いは馬車を使おうと男たちの縄をほどいていたが、間に合わないので走って逃げた。タクトが拘束魔法をかけるが、跳ね返された。
「効かない!」
門兵たちが後を追いかけた。縛っておいた男たちは首を切られて死んでいた。コズエが驚いて口に手を当て、タクトも体をこわばらせた。俺は録音石で記録して、すぐに町の警備署に送った。とんでもないことになったな。すぐに兵士がやってきて、魔法使いを追う者と、現状を調べる者と分かれた。俺たちは王女の従者に呼ばれて神殿に戻った。
中に招かれて、応接室で待つように言われた。お茶も用意された。俺たちはソファに座った。コズエが言った。
「中に入れたね」
「飲み物もあるよ」
「うん」
王女の計らいだろう。みんなでお茶とお菓子を食べた。タクトがしょぼんとして言った。
「俺、クライムさんが言ったとおりだな。魔法が効かなかった。レベルが違うんだ……」
「あれは、魔法防御のアイテムを使ったんじゃないか? 縄をほどくのに戸惑っていた」
「そうか! 良かった! 俺の実力じゃダメなのかと思った」
「お前は優秀な魔法使いだ!」
「そうだよ」
「うん。ありがとう二人とも」
タクトはすっかり元気を取り戻した。
しばらくすると、王女が巻物を持って、従者と共に入って来た。王女は従者に命令する。
「外に出てください」
「それはできません」
タクトが提案する。
「なら、ドアを少し開けて様子を見てください。防音魔法をかけます」
「分かりました」
従者は納得して部屋を出た。ドアを少し開けたままにして、顔はこちらに向けている。なんか怖い……。あんなことがあったから仕方ないか。王女が説明してくれた。
「入れ替わられた神官が、物置に縛られた状態で見つかりました」
「魔法で変身したのか」
「はい。本来は、護衛も入って良かったんです」
ここの警備もダメだな……。俺は自分の考えを言ってみた。
「王女を誘拐するなんて大胆過ぎる。スナープ団だろうか?」
「分かりません。私は独自にスナープ団を調べていますが、それであなたたちのことも知りました」
「そうだったんだ!」
なるほど。俺たちは兵站に協力してるからな。王女が調べているなんて、国のことを考えているんだな。
「ですが、王位継承争いかもしれません」
「ああ、そうか……」
「どういうこと?」
コズエが聞いたので、タクトが説明する。
「この国の王様には、五人お妃がいるんだよ」
「五人も!」
「うち三人は、戦争を終わらせるために同盟を結んだ国の王女たちなんだ。それぞれが子供を産んでる。そこで、王様が王位継承権を白紙にしんだ。同盟のおかけで、戦争が終わったからね。だから年齢や男女問わず全員に権利があるんだよ」
「そうなんだね」(戦争が終わっても大変じゃん!)
コズエは汗をかいた。マーレイの隣の国も同盟国なので、マーレイは国境に近くても安定しているのだ。戦争は東側の国境で行われていた。
王位継承権は元は王妃の子供、現在22歳の第一王子が持っていた。王妃が次の子供を産めないのが分かり、情勢も安定していなかったので、急遽ウティルナ王女の母が側室になった。王女の弟、17歳の第二王子もいる。第三側室から第五側室まで、15歳、10歳、7歳の王子たちがいる。
王女は表立って動いてはいないが、王位継承争いに巻き込まれて団が目を付けられたら困るなと思った……。
「あなたたちを呼んだのは、神の神託を聞かせたかったからです」
『えっ!?』
意外な話だった。
「私が神託を聞きに来たのは、なぜ国がよくならないのか疑問だったからです。人さらいや、強盗が後を絶ちません。そのため、国はずっと不安定です。戦後7年も経ったのに、何かがおかしいと思いました。それで、神に答えがもらえるのではと思って来たのです。志を同じくするあなたたちと、異世界人の方に会ったのは、神のお導きではないかと思いました」
それなら仕方がないか。俺は聞いてみる。
「答えは得られたのでしょうか?」
「はい、神は私に告げました。
『スナープ団の塔を破壊しなければならい』
と」
『!』
「神託書にも刻まれました」
王女は神託の巻物を持っていた。神託書は神殿が用意した紙に、神の言葉が自然に書かれたもののことだ。それは国の決定事項になる。グロット王国の建国は神によるものなので、国が神に逆らうことはないからだ。
つまり、破壊してもいいのだ。これは決定である。




