34、主従の契約
布を取ると、エリサが目を開けて横になっていた。
「ひっ!」
コズエが声を上げる。
「エリサだわ! どうなってるのこれ?」
「魔法じゃないかな」
「そうだ」
俺とタクトが答えた。
『あんたたち、私を助けなさいよ!』
大きな声がして、俺は思わず耳を抑えた。エリサの声だったのか。そこへ、クライムとフレイアが一緒に戻って来た。
「あ、フレイアちゃん! 久しぶり」
「久しぶり」
タクトは思わず挨拶をした。フレイアも普通に返した。
「うちの荷物に手を出そうとしたコソ泥だ。魔法で拘束した。フレイアは君たちにコレクションの話はしていないそうだ。なんでこいつがいると分かったんだ?」
「ここに来たのは、本当にフレイアに会いに来たんだ。そしたら声が聞こえて。エリサだとは思わなかった」
エリサの奴、今度やったら突き出すと言ったのに……。仕方がないから本当のことを言った。
「君は変わった能力を持っているのか?」
「船が難破して、海に落ちて俺だけが助かった。その時の後遺症だと思う」
「ふむ、フリオン村の話は団の名前から有名だ」(変わった能力を持つ子供だな)
クライムは俺を見ていた。
「こいつのこともフレイアから聞いていた。こいつは、フレイアを見殺しにして私と神の誓いを破らせようとした。万死に値するね。見た目は悪くないから、どこぞに売り飛ばすつもりだ」
「人身売買は違法だ」
「バレなければいいんだよ」
俺が言うと、クライムはしれっとそう答えた。コズエが声を上げる。
「そんな!」
「君もひどい目に遭ったんだろ? 異世界人は優しいんだね」
「そうだけど、エリサは悪いことをしたいわけじゃないと思う。シュナも言っていたけど、困った時は助け合うものよ。この世界でも、フリオン団や復興グループの人たちがいる」(この考えは共通のものよ)
「私は金にならないことはしない主義だ」
『この変態眼鏡が!』
やめろ! そんなことを言ったらこの場ではく製にされるぞ。でも、俺の考えはエリサには届いていない……。相変わらず文句を言ってくる。耳をふさいでも無駄だ……。うっ。
「君が苦悶の表情を浮かべているということは、この女は私に悪態をついてるんだろう。このままはく製にしてコレクションとして飾っておこうかな」
やっぱり考えを読むのは止めてくれ。俺は名案を思いついた。
「主従の魔法契約を使って、働かせるのはどうだろう」
エリサは信用ならないから、このままでは仲間としては使えない。でも、トラブルに巻き込まれやすいから、どこかに所属していた方がいい。ここだと、フレイアも普通に扱ってもらっているし、俺たちの邪魔にならないだろう。名案だ!
「ふむ、そうだな。それは本人次第だが」
主従の契約は両方の承諾がいる。従者は主人に従い、主人もまた従者を守る義務がある。お互い契約を破れば代償を払うことになる。エリサに聞いてみる。
「無理なことはしなくていいから、悪い話じゃないぞ。どうだ?」
『従うわ。お願い、売られるなんてゴメンよ!』
「3年ぐらいでどうだ?」
『仕方ないわ』
エリサも了解した。エリサはコズエと同じ年ぐらいだ。3年あれば大人になるだろう。俺はクライムに伝える。
「従うそうだ」
「いいだろう」
団の魔法使いが来て、エリサの魔法を解いた。魔法使いの前でクライムとエリサが向かい合い、そのまま主従の契約が行われた。エリサはテンバー団の一員になった。エリサはコズエに言った。
「あんたって本当、お人よしよね」
「もう!」
エリサはコズエに気づかれないように後ろを向いて、涙をさっと拭いた。クライムがエリサに聞いた。
「君はいくつだ?」
「17です」
「フレイアと同じか」
「私と同じだったんだ」
コズエも言った。三人とも同じ年で親近感を感じていた。クライムが目を輝かせて、俺とコズエに聞いてきた。
「シュナとコズエも、うちの団に来ないか?」(不思議な力を持つ子と、異世界人はとても珍しい!)
「え? 俺は?」
タクトが自分を指差した。
「君は冒険者になりたてだろ。うちには優秀な魔法使いがいるんだ。——君なら一人でも大丈夫だよ」
「そんな~」
クライムがニッコリ笑うと、タクトはがっかりしていた。俺は普通に返事をする。
「俺たちはフリオン団でいいです」
「そうか残念だ」
今度はクライムが肩を落とした。警備はしっかりしてそうだし、コズエにとっては悪い話じゃないかもな。クライムに情報を言っておく。
「異世界人も今は狙われているんです」
「! スナープ団か」
「多分そうだと思います。聖女も金になるから誘拐してました」
「それなら、フレイアもこ……エリサも気を付けないとな」
契約を結んだので、クライムはエリサのことを言い直した。俺は思い出したことも言っておいた。
「エリサはコズエを人買いの身代わりにしたんだ。そして俺がコズエを買い取った」
「そういう身代わりだったのね。あなた、本当に最低ね」
フレイアがエリサを見て言った。
「しょうがないでしょ。私は身一つでやってきたんだから」
「手癖が悪かったんだろうが、すでに誘拐されていたのか。ふむ、用心しよう」
「それは否定しない」
クライムが推察して言ったことを、エリサは素直に認めた。腕を組んで横を向く。コソ泥で捕まって売られたんだな……。
コズエがフレイアに言った。
「そういえばフレイア、バスタの異世界人のカズヤに会ったよ。話すことができて良かった。ありがとう。その後、私たちの目の前で異世界に帰っていった」
『!』
フレイアとクライムは驚いた。
「それは、ぜひ見たかったな」(貴重な場面だ)
「いいことではなかったけど……」
俺はそう言うと、カズヤのことと聖女誘拐の話をクライムたちに聞かせた。クライムは興味深く聞いていた。
「君たちは、すごいね。感心したよ! やっぱりうちの団に欲しいね」
「二人だけだよね」
「そうだね」
タクトの問いにクライムが答えた。タクトはまたがっかりした。
(私の旅はエリサから始まったな……)「最後かもしれないから言っておくね。フレイア、会えて良かった。ありがとう」
コズエはフレイアにそっと別れのハグをした。
「私もよ。ありがとう、コズエ」
フレイアもコズエの背中に腕を回し、目をつむって穏やかな表情をした。二人は離れると微笑み合った。エリサはコズエの別れの言葉に驚いて、目を潤ませた。でも何も言わない。コズエはそんなエリサを優しく抱きしめた。エリサはコズエの腕にしがみついた。
「エリサも元気でね。居場所が見つかって良かったね」
「コズエ……、ごめんね……。ありがとう」
「うん」
エリサは小さい声で泣きながら言った。結局エリサも、コズエの優しさに助けられていたんだな……。それを見てクライムとタクトが目を潤ませていた。
俺たちはテンバー団を出た。三人が外まで見送ってくれた。手を振って別れた。
「エリサは良かったね」
「そうだな」
「うん!」
俺たちは微笑み合った。




