31、突然の仲間割れ
俺たちは倉庫の裏に回った。タクトが両手を上げると黄色の光の魔法陣が出て、壁にドアのような四角い穴が空いた。俺は中に向けて小声で注意した。
「静かに。みんな外に出て」
「行くよ」
ユナがみんなに声をかけた。ユリスもいるが、元気がなかった。ヘルナンが先導して四人が続き、最後にキーラとコズエがついた。七人は、馬車のいる表の通りに走って行った。後はドアをふさぐだけだ。そこへ、正規のドアが開いて、両手を上げたタクトと男の目があった。
「あっ」
「なんだお前ら!」
「あと少しだったのに!」
でもタクトは壁を元通りに塞いだ。俺たちは囮になるために、男たちに近い表のほうへ走った。
「逃げたぞ!」
表側で声がする。男が大声で仲間を呼んでいた。
倉庫の間は人が通れる細い脇道があり、入り組んでいる。コズエはキーラの後に付いて走っていた。突然、キーラは脇道から手を引かれた。
「キーラこっちだ」
(あれ?)
脇道を覗くとポルクとキーラが、その道を進んですぐに曲がってしまった。
(どういうこと?)
コズエはそのままみんなのほうについて行った。表に停めてある馬車に四人が乗り込んでいた。ヘルナンはコズエしかいないことに気がついた。
「キーラさんは?」
「それが、ポルクと脇道に入ったの。聞いてなかったけど……」
ヘルナンは探索石を出す。二人は止まっていた。
「構わず行ってくれ」
「え?」
そう言うとヘルナンが走り出した。
「待てー」
男たち六人が俺とタクトを追いかけて来る。そこへ前から兵士二人が、時間通りにやって来た。
「あいつらです!」
「分かった」
兵士は男たちに向かっていった。男たちは兵士に気がついて、慌てて元来た道を戻っていった。
「船を出せ! 出向する」
「錨を切れ!」
男たちは自分の船に乗り、板の階段を捨てた。途中まで登っていた男は海に落ちた。錨を切って船を出す。その様子を兵士は録音石で記録した。もちろん二人しかいないので、初めから乗り込む気はないだろう。タクトが落ちた男を魔法で拾い上げた。男は命拾いしたが兵士に捕まった。
「よし、船は記録した。人買いの情報を他の港に回す」
「話を聞くから君たちも警備署に来てくれ。もう大丈夫だな?」
「はい、大丈夫です。後から行きます」
兵士は男を連行していった。これで一安心だ。でも、コズエがいないし、キーラたちもいない。どういうことだ?
「コズエは?」
「細い男の人の後を追って、元来た道を戻っていったよ」
ユナさんが教えてくれた。大丈夫じゃなかった! 探索石でコズエを捜す。他にも三人いる。キーラたちもそこにいるのか?
「俺たちも行こう。ダッジさんたちは先に警備署に行ってください」
「分かった」
ポルクとキーラは行き止まりに辿り着いた。ポルクが急に止まったので、キーラがぶつかって後ろに転んだ。
「もう、急に止まって危ないじゃないか」
「いつまでも、女の下に付いてるわけにはいかない。お前はここで誘拐犯に殺されたことになる」
「!」
キーラはその言葉を聞いて驚いた。ポルクは背中の斧を抜き取ると振りかざす。その時、
「ポルク!」
ガン!
ヘルナンが声をかけて間に入った。両手で鞘ごと剣を持って斧を受け止めた。鞘が割れる。
「ヘルナン!」
「キーラさん逃げろ」
ヘルナンは切羽詰まって言う。何とか持ちこたえているが、ポルクに力負けするのは時間の問題だ。後ろから追いかけてきたコズエが、驚く暇もなく石をポルクの頭めがけて打った。石は額に命中し体勢が崩れた。ヘルナンがすぐに剣を抜いて、ポルクを刺した。
「ぐあ」
ポルクは後ろに倒れた。
「コズエ、助かった……」
「うん」
ヘルナンは息を吐きながら、肩越しに礼を言った。キーラは放心状態だった。何が起こったのか、一瞬のうちに終わったという感じだった。
「キーラさん立てるか」
「……ああ」
いつものキーラとは違った。ヘルナンはポルクの装備と所持品を探る。
俺とタクトはコズエのもとに辿り着いた。その場の光景が全く理解できない。倒れたポルクを見る。どいうことだ⁉ コズエは無事だった。
「コズエ大丈夫か」
「うん」
「大丈夫だ戻ろう。ポルクのことも警備署に伝える」
ヘルナンが手短に言う。キーラの様子もおかしいが、ここで聞くのは気が引けたので、そのまま警備署に向かった。
みんなで話を聞いた。他の二人も聖女だった。案の定、一人はマーレイの聖女ニンス16歳で、もう一人はロスリンという町の聖女マリー15歳だった。二人は中央の街道から一緒に誘拐されてきた。マーレイに行っても親方はまだ治っていないだろうな。ユナさんが言うには、
「あの後、宿に泊まってそのままそこで、聖女の仕事をしながら働かせてもらったの。そしたら有名になったみたいで、すぐにさらわれた。誘拐犯は夜に来て、他の人に迷惑がかかるから付いて行くしかなかった。その後北上して、ユリスが誘拐されたの。一緒にポリントまで来てあの倉庫に入れられた。まさかシュナたちが来てくれるとは、思わなかった! ラッキーだわ。やっぱり聖女ね」
そうだったのか。ユナは相変わらずだな。フッと笑った。
「あいつらは、聖女は高く売れるからって言ってた」
「どこの組織かは言っていたか?」
「それは聞いてない。多分下っ端よ」
兵士の問いにユナが答えた。その後に、ヘルナンがポルクの話をした。
「倉庫の間に男の死体がある。元仲間だが、さっき裏切った。キーラさんを殺そうとしたので助けに入って始末した。コズエがいなかったら俺たちが死んでた」
『!』
俺とタクトは驚いた。キーラはぼそりとつぶやいた。
「あたしの下にいたのが不満だったみたい。全然気づかなかったよ……」
そういうことか! 能天気なキーラが相当ショックを受けていた。兵士が言った。
「そういうことなら、正当防衛で処理しよう」
「助かります」
ヘルナンの取り調べも終わった。九人で警備署を出た。
「今出発すれば、宿場で食事にありつける。申し訳ないけど、このまますぐにマーレイに出発します」
俺は聖女たちに言った。ユナがみんなに聞く。
「みんないい?」
「分かりました」
みんな了承してくれた。ダッジは馬車で待っていた。ヘルナンたちも乗って大所帯で来た道を戻ることになった。




