3、アルムヘイムに到着
翌日、森を抜けてアルムヘイムの町に入った。古びてはいるが、少し賑やかな街道の中継地だ。
「町だ!」(初めて見る異世界の町!)
コズエは喜んでいた。
「ここで、買い出しをしていくから」
「うん」
カバン屋でコズエ用のリュックを調達した。持っていた長いバッグも差し込むことができる。
「あとは、食料だな」
「あれ、ハシブのじいさんとこの坊やじゃないか」
突然声をかけられた。振り向くと、赤い髪で鋭い目つきの女、キーラが手下二人を連れて立っていた。胸の谷間が見える黒い服に赤いジャケットと、マントを羽織っている。手下のヘルナンは、薄ベージュ色の髪に色あせた黒のヘッドバンドをして、ひょろっと細い半目の男。ポルクは、頭に黒地に白模様のバンダナを付けた背が低くてがたいがいい岩みたいな男だ。
おじさんはまだ老人じゃない。失礼な奴だ。
「連れがいるんだね」
キーラは値踏みするような目でコズエを見た。コズエは緊張で固くなっていた。
マズイな。目をつけられたか。
「急いでるんだ」
「そうかい。じゃあまた」
キーラはあっさりと引き下がった。ほっと胸をなでおろした。
「すごい迫力の人だね」(赤い髪が強烈。目つきも鋭いし怖かった!)
「イグナシオのグリート団の連中だ。初めは冒険者だったけど、今は人数が多くなって荷運びや用心棒をしている。誰でも引き入れるから、崩壊寸前の統率のないグループだと言われている」
(子供にダメ出しされてますよ)
「でも、大人の力には敵わないから、面倒はごめんだ。
以前キーラがアイテムを探していた時に、おじさんと会ったんだ」
『あんたたち冒険者でしょ。私はキーラ。こいつらがヘルナンとポルクで、私の手下。ちょっと聞きたいんだけど、バレンシアの涙を知らないかい?』
『俺はハシブ、こっちがシュナ。バレンシアの涙は扱ったことがない。話も聞いてないな』
『そうかい。邪魔したね』
バレンシアの涙は、催眠ガスや毒ガスなどの、ガス攻撃を無効化できるアイテムだ。普段使うことがないので、どこかに探索に行くんだろうと思った。キーラたちと会ったのは、ちょうどおじさんと別れる2年前だった。そのころから、この三人組だった。別行動しているということは、グリート団の情報部員なんだろう。
俺は三人に会ったことをさっとメモした。他の団の情報や名前を聞いたら、忘れないうちにメモしている。俺もグリート団は、実際会ったことがないから情報でしか知らない。
(メモを取ってる。ノートと鉛筆がこの世界にもあるんだ)
「ハシブおじさんは俺のいるグループのリーダーで、俺の養い親だ」
(シュナは親がいないんだ……)
コズエがシュンとしたので、気を使わせてしまったと思った。
「この国は、7年前に戦争が終わったんだ。親のいない子供はたくさんいる……」
「そうなんだね」
「この話はまた後でするよ。先に買い物だ」
肉屋、魚屋、日持ちするものなどの食料品店をはしごする。買った物は魔法袋に入れた。
「あとは、パン屋だな」
振り返ると、コズエはいなかった。
「! コズエ!」
しまった、つい先を歩いていた!
私はシュナの後ろを歩いていたら、突然手と口をふさがれた。見るとヘルナンだった。ポルクが足を担ぎ上げて路地に入っていく。
「また会ったわね」
向かった先にキーラがいて、私はドスンと、乱暴に降ろされた。
「きゃ!」
「あら、あんた女の子だったのかい?」
しまった。声が出ちゃった! ヘルナンは、乱暴に降ろしたことを後悔しているようだった。いい人そう。ポルクは無表情だった。キーラは自分の顎に手を当てて、私の顔を覗き込んだ。
「シュナの坊やのほうが、まだ女の子みたいだね」
それを言わないで! 反論したいけど、この状況では怖くて言えない。キーラはにっこり笑った。笑った顔も怖い!
「怯えなくて大丈夫よ。お嬢さんを家に送っていくだけだから」
「え?」
「あなた、肌も手もきれいでしょ。だからいいとこのお嬢さんで、誘拐されたかなんかで、家に送ってもらう途中なんでしょ? 私たちが代わりに送ってあげる」
「ち、違います。私は普通の家の子で」
なんか褒められた。シュナの活動のこと知ってるの?
「この国の普通の家は、いい家のことよ」
話が通じない! 異世界から来たことは、話さないほうがいいよね……。
「シュナと旅をしているだけです」
嘘は言っていない。でもどうしよう! 助けてシュナ!
「やめろ!」
シュナの声がした。
コズエを見つけた。俺はコズエの横についた。さっき言ってた、『じゃあ、またって』このことか。
「ちっ」(探索石を使ったのか)
キーラが舌打ちした。
「この子は異世界人だ」
「え!? あちゃ~」
(言って良かったんだ)
キーラは手を顔に当てて、後ろに下がった。手を振る。
「神殿に行くんだろ? 邪魔したね。これは貸しということで。じゃあね」
三人はあっさり行ってしまった。どうせ、貸しは返すつもりがないんだろうけど。
「コズエを送って、小遣い稼ぎをするつもりだったんだろ」
神殿は寄付するところでお金をもらうところじゃないからな。それで置いて行った、といところだろう。
「そうなんだ。良かった。腰が抜けたみたいで、立てない」(なんなの、あの人たち。本当、ダメな大人の見本だよ!)
俺はコズエに手を貸して、引っ張り上げた。
「あの人たち嫌い!」
「俺もだ。おじさんはまだ56歳で、おじいさんじゃない!」
「私たち気が合うわね」
二人とも怒っていたけど、笑った。
「よく分かったね」
「探索石を使ったんだ。コズエのことも記録しただろ」
「そうだった! 便利だね。見つけてもらえて良かった」
「目を離してゴメン。怖かっただろ」
「怖かったけど、来てくれてありがとう!」
「はぐれないように、手をつないだ方がいいかな」
「そうしよう!」
コズエの手は震えていた。二人で手をつないでパン屋に向かった。




