28、初めての合成
「カズヤが……」
親方が悲しそうな顔をしてつぶやいた。タクトが魔法でシールドを張って、次の矢を跳ね返した。声が聞こえた。
「魔法使いがいる!」
馬車の前の岩陰から人が現れた。ダッジが叫んで、馬車を止めた。
「盗賊だ!」
俺は急いで、泣いているコズエの腕を掴んだ。
「コズエ! 落ち着くんだ。カズヤは死んでいない。元の世界に戻ったんだ!」
「……うん」
コズエは涙を拭いた。本当のところは分からないけど、神様がきっと守ってくれたはずだ。
「アピスを渡しておく」
「うん!」
コズエが気を引き締めたので、少しほっとした。ヤンとダッジは剣を抜いた。俺も剣を抜く。盗賊の数は十人だ。ユリスが言っていた数と同じだ。盗賊はやっつけたんじゃないのか? あいつら全員、元気そうだぞ……。
「自警団のバルジフがいるぞ!」
盗賊が親方を見つけた。すると、蛇型モンスターのポイズンマンバが、馬車のほうへジャンプしてきた。
「モンスターだ」
ヤンが叫んだ。モンスターを使うのか! 盗賊の男が笛を吹いている。音は出ていない。あれはアイテムの蛇使いの笛だ!
ポイズンマンバが口から、黄色い毒を吐き出した。毒が魔法シールドを破り、親方の目にかかった。親方は思わず目をつぶった。
「うわ!」
「シールドが破られた!」
タクトが叫んだ。その途端、コズエはマンバめがけて石を打った。石はマンバの腹を破り、ポンと消えた。アイテムのネックレスと紫色の魔鉱石が落ちた。
「何だと⁉」
笛を吹いていた男が驚いた。
「撤退だ!」
盗賊たちはあっさり引き始めた。
「コズエ!」
俺がコズエに合図すると、コズエがアピスを打った。俺もスリングショットで打つ。二つとも上手く張り付いた。これであの盗賊団も終わりだ。タクトが親方に治療魔法をかけ、俺はアイテムと魔鉱石を拾った。それから、兵站にこのことを録音石で連絡する。アイサムの兵士が、盗賊団を捜すだろう。
「痛みを抑えるぐらいで、これ以上は無理だ。ポイズンマンバの毒はレベル5だから、聖女じゃないと治せないんだ。回復魔法だと、レベル1~2ぐらいまでだな」
「そうか。ユリスがいるからバスタの町に戻ろう」
俺が言うと、ヤンとダッジが了解した。親方は目をつむったまま申し訳なさそうに言った。
「すまない」
「そんなことないです」(送ってくれたのに、カズヤもいなくなって……)
コズエはまた涙を浮かべて、鼻をすすった。仲間の涙はこたえる……。親方は物音で、コズエがまた悲しんでいるのに気が付いた。
「コズエちゃん、俺もカズヤは大丈夫だと思う。それに、コズエちゃんには言わなかったと思うけど、あいつ、帰りたがっていたんだ」
『え!?』
俺たち三人とも驚いた。親方は続けた。
「強がりな奴だから俺たちにも言わなかったよ。グループの活動もしんどそうだったから、帰れてほっとしたんじゃないかな」
「そうだ。サボってるなら別だが、あいつは真面目な奴だった」
「だから、俺たちが気にかけて、休ませたりしてたんだ」
ダッジもヤンもカズヤのことを話した。コズエはその話をうれしそうに聞いていた。
(カズヤはみんなに大事にされていたんだな。大丈夫だ、きっと。帰れるって分かったし、少しだけどカズヤに会えて良かった。ありがとうカズヤ!)
「モンスターは、コズエちゃんがやっつけたんだろ? カズヤにも活躍を見せたかったよ」
「そうだ。本当に驚いたよ」
「いや~、アハハ」
親方とヤンの言葉にコズエは照れた。すっかり元気になったようで安心した。俺が言った。
「グリート団は盗賊をやっつけたわけじゃなくて、追い払っただけのようだな」
「そうだ、話と違った」
ヤンもそう思ったようだった。だから盗賊たちは元気だったんだ……。盗賊は、対抗手段のない旅人を狙っているのだろう。
「アピスを付けたから、もうあいつらは出てこない。結局グリート団がやっつけたことになるけど、仕方ないか……」
「いや、俺たちは真実を話すよ。フリオン団がやっつけたって。フリオン団はすごいって」
「ありがとう」
ヤンがそう言ってくれたので、俺はお礼を言った。それと、グリート団の言うことはもう信じないと思った。ユリスはそれで教えてくれたんだ。聖女はやはりまともだった。
俺はコズエに、マンバが落としたネックレスと魔鉱石を渡した。
「このネックレスは着けているとレベル5の毒が防げる。合成にも同じ防御効果がある。魔鉱石のほうはレベル2ぐらいまでだな」
「ネックレスは合成に使うわ。そのほうが、みんなにも使えるもの。魔鉱石はまた換金しよ。シュナが持っていて」
「分かった。合成は後でタクトにしてもらおう。それまで、身に付けているといいよ」
「分かった」
「OK」
タクトもウィンクして了解した。
バスタの町に戻ると町の人に、グリート団の居場所を聞いた。
「グリート団なら、もう町を出たよ。次はマーレイに行くって言ってたな」
「なんだって!?」
みんなが驚いた。なんて逃げ足の速い奴らだ。やっつけてないから、サッサと出て行くよな……。
「追いかけよう。まだそんなに離れてないはずだ」
「分かった」
すぐに追いつけるか分からないので、ダッジたちがグループに連絡と夜の準備をしてからになった。俺たちは親方の家で待って、その間に合成をすることにした。
奥さんが親方のケガと、カズヤのことで驚いていた。親方の子供二人は独立していたので、カズヤは親方の家に居候していたそうだ。
「カズヤが戻ったのね……。それは良かったけど、急だったわ」
「まだ時間があるから、親方は休んでください」
「分かった。合成を見たかったが、この目じゃ何も分からんな」
親方は目を洗ったが、目を開けられなくなっていた。頭がたまにズキズキ痛むそうだ。
「私が代わりに見ておきますよ」
奥さんが心配そうに、親方を部屋に連れて行くが、すぐに目をキラキラさせて戻って来た。見たかったんだな……。タクトは魔法袋から鍋を取り出した。
「じゃあ、ラケットとネックレスを出して」
「うん」
コズエが二つをタクトに渡すと、それを鍋に入れて蓋をした。当然ラケットははみ出す。俺も合成は初めて見る。タクトが両手をかざして魔法をかけると、紫の光が出た。蓋を開けるとネックレスは消えて、網の金具の下に紫の細い線が入っていた。変化はこれだけだな……。分かりにくい。タクトがラケットを持って確認する。
「大丈夫だ。これで毒攻撃を防ぐことができるよ!」
「ありがとう!」
こうやって見ると、タクトはやはりすごいな。魔法が使えるのはすごいことだ。俺は感心したが、二人はきゃっきゃと喜んでいた。やはり二人は似ている。
「光はすごかったけど! 特に変化はないのね」
奥さんは顔に手を当てて感心していた。俺と同じ意見なので、満足した。
ダッジたちが迎えに来たので、また馬車に乗って町を出た。今度は街道を北上する。




