24、解放作戦
翌朝、朝食を早めに済ませると屋敷に向かった。全員が配置についてから、俺とコズエで屋敷の庭に入って呼びかけた。
「おーい、ゴーザ。話がある、出てこい」
しばらくすると、ゴーザは二階のバルコニーに一人で現れた。
「なんだお前たち。まだ帰ってなかったのか」
「帰るわけないだろ。話をしに来たんだ。お年寄りたちを解放してくれ。食べ物を食べさせてないなら、じきに動けなくなる」
「そうだな。そうなったら、ゾンビのように使えば良かったか。一体捨ててしまった」
「なんて奴なの!」
コズエが憤る。
「兵站に連絡するから、ここも占拠されるぞ」
「こんな田舎に来るはずないだろ。村人が消えても放置されてるんだから」
まあ、そうだな。——みんなは入り込めただろうか?
クレードたちは台所にある裏口から入った。老人たち三人と、ラナとミシュカが食事の用意をしていた。老人たちはクレードたちが来たことを喜んだ。
「ここにいる人は全員外に出て。他の人は俺たちが助けに行く。どの辺りにいるか教えてくれ」
「洗濯場に二人と、立てなくなった二人が使用人部屋で寝ている。あとの一人は、井戸で水汲みをしているよ」
「分かった」
老人たちは裏口から出て行く。ラナとミシュカが来る。
「私たちが案内します」
「分かった。寝ている人を先に連れ出す。他の子たちにも手伝ってもらいたいから、ミシュカはみんなを呼んできてくれ。屋敷が元に戻ると言うんだ。荷物は後で回収できる。エリサには言わなくていい」
「分かりました」
二手に分かれる。使用人部屋に行くと、お年寄りが力なく床で寝ていた。一人を毛布の上に乗せる。六人が手伝いにやって来た。
「四人は運ぶのを手伝ってくれ。あとの四人は、他のお年寄り三人を屋敷から連れ出してくれ」
ラナとミシュカが二人を連れて出て行く。クレードが一人を担ぎ上げた。女の子四人で毛布の四隅を持って運び出した。ジミーとコリンも左右の真ん中を持つ。
タクトとフレイアは横にあるドアから入った。魔法石は使用中に魔力を出すので、タクトはそれを察知できる。
「録音石が置いてあった居間にあると思う。こっちよ」
「うん。魔法石の近くに行けば分かると思う」
居間に行き、そっと中を覗くとそこにはエリサがいた。エリサは気が付いていた。
「待ってたわよ」
(ゴーザと一緒じゃないのか)
タクトはめずらしく嫌な顔をした。二人は仕方なくそのまま部屋に入った。エリサは低い戸棚の前にいる。タクトはそこに魔力を感じた。多分、魔法で鍵がかけられているだろう。
「戸棚の中よ」
「分かった」
タクトは両手を出して拘束魔法をエリサにかけるが、効かなかった。
「魔法は効かないわよ!」
「アイテムを持っているのか……」
「あの女は私が相手をする」
「え、殺さないよね」
「……分からないわ」
(仕方ない)
タクトはうなずいた。フレイアは、クレードに借りたナイフをエリサに投げた。髪をかすめて切れた。どうやら、物理攻撃は効くようだ。
「きゃあ!」
「殺されたくなかったら、逃げなさい」
「分かったわよ!」
エリサがあっさり出て行こうとすると、フレイアが腕をつかんで、アイテムの腕輪を抜き取った。
「これはもらっておくわ」
「あ! 泥棒!」
「早く逃げるのね」
片手でエリサの顔面に向けて、別のナイフを構えた。エリサは腕を振り払うと素早く逃げた。フレイアは投げたナイフを回収した。
タクトは戸棚にかけられた魔法を調べた。
俺は録音石を取り出して、ゴーザに見せた。
「ここに、お前がしてきたことを全て録音してある。これを兵站に送ることにする。じゃあな」
俺は後ろを向くと歩きだした。
コズエは戻って行くシュナに戸惑った。
「まって、シュナ!」
「それなら、録音石ごと破壊してやる」
ゴーザはニヤリと笑った。コズエはその場でシュナを見ていたが、目の端に光を捕らえた。
「最大出力だ!」
ゴーザは雷を出した。コズエは玉を出すと、ラケットで素早くゴーザめがけて打った。
「こないだのは、お前か。そんなものが雷に効くはずないだろ」
俺はその声で振り返った。玉は雷の光に当たると、大量の水を噴き出した。
「なんだと!?」
そのまま雷は、ゴーザめがけて落ちた。辺りにものすごい雷鳴が轟いた。ゴーザはそのまま後ろに倒れた。
「やったか」
「ゴーザ様!? 今の音は何が」
逃げてきたエリサが部屋に入ってきた。バルコニーにゴーザが倒れているのを見て駆け寄る。
「死んでる!」
「死んだのか。増幅器を使っていなければ、生きてただろうな。あいつの敗因は、圧倒的な戦力不足だ」
(死んじゃったのね……)
コズエは死を悼んだ。エリサが叫んだ。
「あなたたちがやったのね。この、人殺し!」
「勘違いするな。ゴーザは自分の雷で死んだんだ。ここに全部記録されている。それよりお前、このままだと今度はゴーザの女だぞ」
「ちっ!」
そう言うと、エリサは逃げようとしたが、座ってゴーザの首からネックレスを取り出した。
「あいつアイテムを取る気だな」
その時、家が縮み始めた。
「きゃー」
「タクトが魔法石を見つけたのか? それともゴーザが死んだから魔力が切れたのか」
家は小さくなって元に戻った。増築部分は消えて、そこにあったものは外に置かれていた。エリサとゴーザも途中から地面に落ちた。ゴーザは白目をむいていた。
「あいたた」
エリサはお尻を打った。俺とコズエはエリサの前に立ちはだかる。フレイアに付けられていた手枷を持ってきていた。それをエリサに見せる。
「ちょうどいい拘束具がある」
「やめて!」
俺は容赦なくエリサの両手に手枷をはめた。エリサはすぐにエネルギーを吸い取られて倒れた。さて、アイテムを取るか。ネックレスは服の下に付けていたので見えなかったから、エリサのおかげだな。ゴーザからネックレスと指輪を取った。エリサは悔しそうにしていた。
家の中からタクトとフレイアが出てきた。
「すごい音がした! まだ何もしてないけど、家が元に戻った。どうなったの?」
「そうか。ならゴーザが死んで魔法石の魔力が切れたんだ。もうゆっくり探してもいいぞ」
屋敷を作りだすには相当な魔力がいる。屋敷を作れる魔法石なら相当高度なものだ。これも奪った物だろう。
「そうなのね。なら荷物を集めるわ」
「私も手伝う」
フレイアは自分の荷物が気になるのだろう。コズエも荷物を集めに行った。
「戸棚の中に金庫があったんだ。それをまだ開けていない。多分そこに屋敷を作る魔法石が入ってる。魔力が切れたなら簡単に開けられるな」
タクトは家の中に戻っていった。クレードと女の子たちが戻って来た。
「作戦が上手くいったようだな」
「ゴーザ様!」
倒れたゴーザを見て女の子たちは驚いた。泣き出す子もいた。様は引っかかるけど、まあしょうがない……。
「私たちどうなってしまうんですか?」
「売られてしまうの?」
「そんなことしない。ここに残ってもいいし、家に帰りたい子は送っていく。行きたい場所があればそこでもいい。残るならお年寄りの世話や畑を手伝ってくれ。途中で帰りたくなれば、録音石で呼べばすぐ来るよ」
クレードが説明すると、みんな泣き止んだ。ゴーザが悪人なのはみんな分かっているから、自分たちの先行きが不安なだけだったようだ。茶色の長い髪の、一番落ち着いた感じの女の子が言った。
「私はローラです。家に帰りたいです。黙って出てきたから」
「なんだって!?」
クレードが思わず声を出したが、みんなも驚いていた。
「だって、楽しそうだったから……」
(やれやれ、とんでもないな)「分かった。先に、全員無事なことを兵站に送る。いいね」
「はい」
女の子たちの映像を送ってから、みんなで荷物を集めた。フレイアも自分の荷物を取り戻したようだ。女の子たちも自分の荷物を持った。残ったのは食料とエリサの物だろう。横になっているエリサに聞いてみた。
「これはお前の物か?」
首を縦に動かしたので、魔法袋に全部入れた。エリサの手枷を外す。まだ力は入らない。
「回復魔法をかけるよ」
タクトはエリサに魔法をかけた。その途端、
「あなたたち最低よ!」
「またこれを付けるか?」
俺は手枷を見せる。エリサは驚いて黙った。
「お前な、あの場にいたら、ゴーザと心中していたんだぞ。もう危ないことはするな。次また悪さしていたら、今度こそ兵站に通報する」
「……エリサがいたら、玉を打ってから逃げるように言ったと思う。エリサなら上手く逃げられたはず」
コズエの優しい言葉に、エリサは一瞬悲しい表情を浮かべた。
「うるさいわよ!」
そう言うと、荷物を持って出口に走った。ローラが聞いてきた。
「あの子、何だったんです? 途中から加わったけど、ずっとゴーザ様を独り占めしていて」
「あいつはコソ泥だ」
「え!?」
「そうだったんだ……」
みんな驚いていたが、納得していた。クレードは、いなくなった二人の情報を罠から消去して、入れなくした。
「これでもう安心だ」




