20、村の異変
シロリス村を出てから街道に戻った。次のアイサムの街まで1日かかる。
「アイサムの街は大きいんだ。冒険者の店もあって、そこで冒険者証も作ってもらえるよ」
「本当!? 俺、フリオン団に入れる?」
「まあいいだろう。俺が推薦する」
「やった~」
「良かったね。タクト」
「うん!」
コズエも喜んでいた。ちょっと、女の子に弱いのが気になるが……。
「冒険者もたくさん来るし、治安もいい。神殿もあるよ」
「そっか、じゃあそこでお別れか」
「え!? そんな、知り合ったばかりなのに!」
「そうだっけ? もうずいぶん長くいるような気がする。四六時中一緒だし、離れるのが寂しいな。でも、タクトがいるからシュナは安心かな」
「もうちょっと一緒にいようよ~」
この先も安全に旅ができるとは限らないし、異世界人の女の子にずっと旅をさせるわけにはいかない。コズエもタクトもそれは分かっていると思う……。
「俺もコズエと旅ができてすごく楽しかったよ。こんなに楽しいと思ったのは初めてかも」
「そうなの? うれしい!」
「俺も楽しいよ!」
「そういえば、魔鉱石をもらったから合成はどうする?」
「それは、旅の資金にして」
「分かった」
宿場町で1泊して、翌日の午前中にアイサムの街に到着した。この街は元気なのが分かる。道もきれいで活気があった。冒険者の店の前は広場になっていて、薄い赤茶色のレンガで丸い模様が描かれている。広場の入り口には、背の高い二本の白い曲線のオブジェがあった。
まず、冒険者の店で魔鉱石を売った。20%割り増しで懐も潤った。それから、タクトの冒険者証を作る。ちゃんとフリオン団と刻印された。タクトは大喜びだった。
「これで、晴れてF級だな」
「何級でもいいよ」
タクトは上機嫌だった。店を出る。
「神殿を見に行こう」
「うん」
いよいよ、コズエともお別れ——と思ったら、声がする。
「お~い、シュナ! 会えて良かった!」
「クレード! ジミー、コリン」
茶髪に薄いグレーのヘッドバンドを着けたクレードと、その後から子供二人が走ってきた。黒髪のジミーと薄い茶髪のコリンだ。
「ちょうど探索石でお前が引っかかって良かったよ」
「三人とも久しぶり。紹介するよ。フリオン団の副リーダー、クレード32歳と、団員見習いのジミー11歳とコリン10歳だ」
二人は人買いから救出されたけど、身寄りがないので団で預かっていた。
「こっちは、異世界人のコズエ17歳と、新しい仲間の魔法使いのタクト16歳だ」
「え!」
『よろしく』
(私はもう別れちゃうけど)
クレードはコズエに驚いた。
「異世界人は初めて見たよ。最近お前のうわさを聞いたけど、盗賊を三つもやっつけて商品も取り戻したとか。エイリアスの花のことも聞いたぞ。S級魔法使いを助けたって。無茶なことするなと思ったら、そういうことか」
「……そうかもしれない」
以前の俺なら、こんなことはしなかった。
「俺、コズエに甘えていたかもな」
「私もシュナの役に立ちたかったからだよ」
「後方支援がいるだけで安心できるから、行動範囲が広がるんだ」
俺は二人しかいないのに、我ながら無茶だったかもと思った。俺たちのやり取りを見て、クレードは納得したようだ。探索石を取り出す。
「いい仲間ができたんだな。お前のおかげでフリオン団の名声が上がったよ。タクトと、——コズエも念のため探索石に登録しておいた」
「クレードはフロスト村に行くんだろ?」
「そうなんだよ。村に変な魔法使いが来て、村を占拠したようなんだ」
『え!?』
(また魔法使い……)
タクトはしょぼんとしていた。
「それでそいつを追い出すために、仲間に会えないかと思ってここに来たら、お前の話を聞いたんだよ。こっちに向かってるようだから、待っていたんだ。まずはこれを見てくれ」
クレードはピンクの受信石を出した。映像が浮かび上がる。そこには黒髪にシルフォードのようなおかっぱ頭の若い男と、横に見たことのあるピンク頭のツインテールの女がいた。後ろには色とりどりの髪色の女の子たちが、十人ほどいた。若い男が言った。
『ここは俺様、魔法使いゴーザの村にすると決めた。お前ら年寄りは、俺たちの世話をするように』
『クレード助けてくれ。若い魔法使いが来て、村を占拠すると言っている』
『おい、お前何をしているんだ! 録音石じゃないか』
そこで石が取り上げられて映像が途切れた。クレードは巻き戻して静止画にした。右に指輪と左に腕輪を付けていた。アイテムのようだ。タクトが声を上げた。
「こいつ知ってる! 同期の魔法使いだ。同じ時に学校を辞めた」
「エリサだわ! またあの子は」
やはりエリサか……。クレードが俺たちに聞いてくる。
「知ってるのか⁉」
「まあ……」
「かわいい子だね。それに他の子たちも! かわいい子がたくさんいる♡」
タクトは指を顎に当てて、物欲しそうな顔をして見ていた。お前のことを、コズエが半目で見ているぞ。あんな小さな映像でよく分かるな……。
「もちろん、コズエもかわいいよ」
タクトは気が付いて、コズエに親指を立ててウィンクした。それを見て、コズエはプッと笑った。俺もフッと笑った。
「よかったら一緒に来て、手伝ってほしい」
「分かった。でも、コズエは神殿に預けるつもりなんだ」
「女の子がたくさんいたから、コズエも来てくれると助かるかも」
「いいよ。私も行く。それが済んでからまた戻ってこればいいもの」
「分かった」
俺も了承した。やはりコズエに頼ってしまった。また旅ができるとタクトも喜んでいた。もちろん俺もだ。
クレードが首をかしげて言った。
「変なんだ。録音石を置いていたのは、話していた村長の父親の家だけど、あんないい部屋はなかった」
「魔法石で建てたんじゃないか?」
「そんな魔法石が!」(スゴ)
俺が言うと、コズエが驚いた。
「なるほど。待っている間にこいつのことを調べたんだが、冒険者ではなかった。でも、拾った冒険者証を持って、冒険者の店にアイテムの交換によく来ていた記録があったんだ。それで手に入れたのかもな」
「クレードたちは先に行ってくれないか。ジミーとコリンがいるから時間がかかるだろ。俺たちは備品を調達してから行くよ」
「分かった、助かるよ。じゃ二人とも行こう」
『うん!』
クレードたちは先に村に向かった。
「さて俺たちは店に行こう」
まずは装備屋に行って、タクトの魔法袋を買った。魔法袋は金貨二枚と高価だ。タクトはそれを手にして喜んだ。
「ありがとう!」
「お前も立派な冒険者だからな。お金も金貨二枚渡しておく」
「そんなに!」
「ああ、お前の取り分だ。借金も返さないとな」
「ありがとう。すごくうれしいよ」
(ここのお金のことがイマイチよく分からない)
タクトは早速、魔法道具の店に行って黒い陶器の鍋を買っていた。携帯用の合成の窯らしい。そのあと、食料品店に行った。
この先別れるから、コズエにもお金のことを説明した。
「食料品は銅貨一枚でほとんど買える。量り売りとかまとめ買いする感じだな。銅貨のほうが多ければ商品をおまけしてくれることもある。生活に必要なことも銅貨で賄える。外食は銅貨一~二枚、宿泊は銅貨二~三枚。給与は銀貨で支払う。大金を持ち歩くときは金貨。
銅貨以下は、地域単位で硬貨を発行したりもする。それは全国共通で使えるようになっているよ。紙のチケットは、店や地域のみで使える」
「なるほど」(銅貨が千円、銀貨が一万円、金貨が十万円ぐらいかな。価値は結構アバウトな感じ? 地図売りのおじさんが、一枚の印刷代が銅貨三枚と言っていたから、この世界は工賃がしっかりもらえるのかな? シロリスのキーホルダーもきっと銅貨一枚だよね)
コズエは考え込んでいたので、異世界とは違うのかもしれないな。食料品はお年寄りたちの分も考えて、多めに買っておいた。タクトの魔法袋にも詰め込んでもらった。
「よし、出発しよう。フロスト村はここから1時間半ぐらいだ」
「うん」
「おー!」
タクトは冒険者になれて張り切っていた。




