19、エイリアスの花
俺たちはサンドルの家で作戦を立てた。俺がベアーの説明をする。
「ベアーの金縛りは、ベアーが相手に攻撃した頃に切れる。金縛りのかかる距離は個体の大きさによる。咆哮だと8~10m。睨みは一人にだけかかる。3~5mだ」
「結構距離があるね」
「だからコズエは届かないところから、後方支援してくれ。タクトも10m離れて待機。俺が囮になって、引き付ける。咆哮を出す前に逃げるから、コズエは粉玉をベアーに当ててくれ」
「分かった」
地図を見ると岩場から左側に崖がある。タクトは一番狙われるから、花を取る役がいいだろう。
「俺は崖の下に逃げる。さすがにベアーも降りてこないだろう。その隙にタクトが岩場の花を取るんだ」
「分かった」
「露を落とさないようにさっと採れるか?」
「ああ、魔法で採るよ」
タクトは指を横に動かして、ウィンクした。俺にはナイフがある。サンドルが尋ねた。
「魔法袋は持っているかい?」
そういえば……。
「借りものだけど持ってます」
「そうか」
「ミンたちのね」
「ああ。すっかり忘れてたけど、コズエにも渡しておくよ」
「うん」
俺はタクトとコズエに、ミンたちの袋を渡した。ちょうど良かったな。
「日が昇る前に出発だ」
「分かった」
「了解!」
タクトが粉玉をいくつか作ってコズエに渡した。サンドルがラケットを背負うベルトをコズエにくれた。
「それはあげるよ」
「ありがとうございます! ちょうどラケットだけ運ぶときのものが欲しかったんです」
コズエは喜んでお礼を言った。その日は早めに寝ることにした。翌朝暗いうちに準備をして、武器と必要なものだけを持って出かけた。薄暗い中、高原の入口まで来る。まだ誰もいない。門を通って高原に入った。朝は冷える。これで朝露が出るんだな。
岩場に身を低くして静かに近づくと、ベアーがその下で寝ていた。
「いる~」
コズエが汗をかいて言った。俺は崖に行って、縄を近くの木に結んできた。朝日が昇り始めた。
「作戦開始だ」
俺は飛び出して、ベアーに近づいた。崖に逃げる位置まで近づくと、剣を鳴らして音を出した。ベアーがすぐに目を覚まして、近寄って来た。寝起きなら少しは有利だろう。かなりこいつはデカい。10mぐらいまで俺が近づくと、咆哮しようとした。
「ウ」
その瞬間、コズエが粉玉をベアーに当てた。ナイスだコズエ。俺は逃げる。ベアーは怒って走って来た。縄を掴んで崖から飛び降りた。
掴まったままじっとしていた。ベアーは立ち止まったようだ。足元は覗けないだろう。しばらくすると遠ざかる音が聞こえた。ふ~、助かった。縄を切られたらおしまいだった。少し時間を置いてから縄を登って、用心深く上を覗いた。誰もいない。
コズエとタクトが走って来た。
「大丈夫か?」
「ああ。問題ない。そっちは?」
「ばっちりだ!」
タクトは魔法袋を上げて、親指を立ててウィンクした。
「それが、ベアーはこっちに戻って来なかったんだ」
「なんだって!? そうか、花を摘んだから、縄張りが変わったんだ」
「じゃあこの花にはやっぱり魔力があるんだね」
魔法袋を見てタクトはつぶやいた。とにかく終わった。俺は二人に言った。
「みんな、良くやった!」
「うん」
「おー」
三人でホッとして高原を降りた。もう明るいけど、入口にはまだ誰もいなかった。でも、団体が村の外へ向かって歩いていた。ゼインのパーティだ。ゼインがシルフォードを支えている。シルフォードはフードをかぶっていた。ゼインが俺たちに気が付いた。
「やあ、早いな」
「帰るんですか?」
「ああ、誰もいないうちに出て行こうと思ってさ。もしかして、高原から戻って来たのか?」
「そうです」
「まさか、エイリアスの花を採ってきたのか?」
「もちろん!」
タクトが答えた。それを聞いてパーティのみんなが驚いた。
「ベアーを倒したのか?」
「いやいや、そんなことしませんよ」
俺が答える。
「そうか。俺たちも付いていっていいだろうが。もしエイリアスの花が本当に効くなら、ここに残ったほうがいいかもしれない」
「いいですよ。見ていってください」
効果があるのか、証人は多い方がいいだろう。俺たちはサンドルの家に戻った。
「サンドルさん、アミン、採って来たよ」
タクトが声をかける。二人とも大喜びした。タクトが魔法袋からエイリアスの花を、ゆっくり取り出した。
「大丈夫だ。朝露が入ってる」
花をアミンに渡した。アミンはサンドルにそっと渡す。サンドルは気をつけながら飲み干した。少しすると体が光った。
「眩しい!」
コズエが声を上げる。みんなも手で光を遮った。光が収まると、サンドルの瞳の色が戻っていた。
「見えます! ああ、なんてことだ。治るなんて。フリオン団のみなさん、本当にありがとうございます! 神にも感謝します」
「お父さん、良かった」
サンドルは泣いてしゃがみこんだ。アミンも寄り添って泣いた。サンドルは落ち着くと、俺たちに向かってまたお礼を言った。
「シュナ、コズエ、タクト、あなたたちは素晴らしい冒険者だ。今まで誰もなしえなかったことをしてくれた。心から感謝します」
「お父さんを助けてくれて、ありがとうございます」
アミンもお礼を言って頭を下げた。俺たちは誇らしかった。ゼインが言った。
「エイリアスの花の伝説は本物だったのか……。なら取りに行くのにサンドル、あんたが協力してくれないか」
「それは断る。シュナを見ていて思ったんだ、もう無理はしないって。私にはアミンがいる」
「そうか……」
「くそっ、何であんたばっかり。俺は魔力もほとんど奪われてしまった。もうおしまいだ……」
シルフォードが力なく崩れて落ちて泣いた。俺はシルフォードの前に立った。魔法袋からエイリアスの花をそっと取り出した。中を見ると朝露が入っている。それを見てみんなが驚いた。
「もう一本取って来たんだ。逃げた崖に咲いていたんだよ」
それを聞いてシルフォードが顔を上げると、フードが取れた。髪が肩まで切ってあり、目の下はやつれていた。つらくて寝むれなかったんだろう……。
「お前は初めから、俺の分を取ってこようと思ったのか?」
「そうだ」
「なぜそんなことができるんだ」
「困った時は、助け合わないと」
シルフォードは下を向いて泣いた。
「さあ、つらいだろうから、早く飲むんだ」
俺が促すと、シルフォードは素直にうなずいて、花を受け取った。ゆっくりと飲む。シルフォードの体も光った。
(うわ、また眩しい!)
光が収まると、腕は元に戻っていた。
「魔力も戻っている! 本当にありがとうシュナ。フリオン団のみんな。団の悪口を言って悪かったよ」
あれはやっぱり悪口だったのか……。
「もういいよ」
「アミン、ひどいことを言ってゴメン」
シルフォードはアミンにも謝った。
「うんん、もういいの。その代わりお父さんを許してあげて」
「もちろんだ。サンドルさん、失礼なことを言ってすいませんでした」
シルフォードは頭を下げた。サンドルも微笑んだ。
「いいんだよ。こちらこそ、すまなかった」
「良かったな。シルフォード!」
ゼインが喜んで言った。他の仲間も口々に回復を喜んだ。仲間の女性が言った。
「シルフォードを助けてくれてありがとう。フリオン団は本当に素晴らしいわ」
「フリオン団万歳!」
『フリオン団万歳!!』
え? みんなが口々に手を上げて言う。コズエもタクトもうれしそうに手を上げていた。まあいっか。俺も手を上げてみんなと一緒に拍手した。この場にいたみんなが祝福されたようだった。その後、ゼインたちは村長のところに行って、シルフォードとサンドルがエイリアスの花で治ったことを報告した。ゼインたちは村を後にした。
村長は驚いて、サンドルの家にやってきた。
「良かった……」
村長は泣いて喜んだ。サンドルとアミンと三人でまた喜んだ。サンドルがお礼に魔鉱石を七個もくれた。
「これはお礼です。自分で貯めていたものですが、また取りに行けるようになったので差し上げます」
「ありがとうございます。助かります。これで旅の資金ができました」
結局アイテムを取ることはできなかったから、ちょうど良かった!
「君たちお金がないのかい?」
村長が聞いてきた。
「はい、この村にはアイテムを取りに来たんです」
「それなら、村が集めた資金から次の町までの路銀を渡すよ。そこなら冒険者の店がある」
「助かります」
村長は自分の財布から、銀貨を五枚も出してくれた。
「エイリアスの花の伝説が本当なら、また花を求めて来るかもしれないな」
村長はぽつりと言った。その後、人数が落ち着いたら、時計とノートを置いて高原に登る人は、もしものために記帳させることにした。サンドルは家に来た冒険者に魔法をかけて、地図と入場チケットを回収していた。かける魔法は、武器強化、回復魔法、魔鉱石の加工など様々だ。でも楽しそうにしていた。
俺たちは朝食を食べてから、出発することにした。アミンが白リスのキーホルダーを三つ、両手に乗せて差し出した。
「幸運のお守りです。みなさんに差し上げます」
「ありがとう! かわいい」(むっちりしてるのよね。細いと折れちゃうからかな?)
『ありがとう』
コズエはラケットのバッグに付けて、俺たちはリュックに付けた。門のところまでサンドルとアミン、村長にも見送られて村を後にした。リスの像も笑っているようだった。




