18、パーティの撤退
サンドルの家に戻って話を聞いた。
「エイリアスの花は一年中咲いているんだ」
「えっ! それなら、魔法植物なのかな」
タクトが顎に手を当てて考え込んだ。
「エイリアスの花自体に魔力があるのかも……」
「魔力があるから、ジャイアントベアーがそばにいるのかな」
「そうだね」
(タクトはさすが、学校で勉強しただけあって魔法のことに詳しいわね)
俺とタクトが話していると、コズエが称賛のまなざしで見ていた。タクトは気付いていなかった。まあ、調子に乗らないほうがいいからいっか。そこへ、慌ただしくドアを叩く音がした。アミンがドアを開けると、ゼインがシルフォードに肩を貸して駆け込んできた。
「シルフォードがすごい怪我をしたんだ。サンドル見てくれないか!」
『!』
その場にいたみんなが凍り付いた。シルフォードのマントを取ると、右側の髪が不揃いに切れていて、右腕の肘から下の肉がなく骨が見えていた。あまりのひどさに、コズエは意識が遠のいてよろける。そばにいたタクトが支えた。
「コズエ!」
「……大丈夫」
コズエはすぐに意識を取り戻した。これよりひどい場面を見ていたけど、生きている人間は初めてだから……。シルフォードは苦悶の表情を浮かべている。
「自分で、痛み止めや止血の魔法をかけたが、そろそろ気力が切れそうだ。ここで一番の魔法使いはあんただ。こいつを助けてやってくれ!」
「分かりました。でも今私は修復魔法が使えません。保存魔法をかけますので、高度な医療魔法ができるところへ行ったほうがいいでしょう」
「修復魔法は手術と同じで、見て使わないといけないんだ。欠損があると専門の人しかできない。再生魔法もあるけどそれは聖女の力で、今それができる人はいないんだ」
タクトがコズエに説明した。
「アミン、手伝ってください」
「いやよ!」
みんなはびっくりする。
「この人はお父さんを治さないと言ったわ! だから私も手伝わない」
アミンは横を向いた。
「アミン、私のせいなんだ。だから手伝っておくれ」
アミンは仕方なく手伝うことにした。シルフォードの怪我をサンドルに説明する。アミンはこうやってサポートしていたんだな。小さいのにひどい怪我を見ても動じなかった。俺はゼインに聞いてみた。
「どうしてこんなことになってんですか?」
「それが、シルフォードの保護魔法が効かなかったんだ」
ゼインがその時のことを話してくれた。
俺たちはエイリアスの花のもとまでやってきた。岩場の上に咲いていて、その下にジャイアントベアーが立っていた。
『シルフォード、保護魔法をかけてくれ』
『分かった』
シルフォードは確かに保護魔法をかけた。でも、ジャイアントベアーが咆哮を上げると、俺たち全員が金縛りにかかったんだ。ベアーは真っ先に魔力があるシルフォードに向かった。右腕に噛みついて、肉を食べたんだ。金縛りの時間はそんなに長くないから動けるようになって、俺がベアーに体当たりした。
『煙幕だ!』
『了解!』
咆哮は魔力を消費するから、しばらくは使えない。睨みは煙幕があれば防げるから、俺たちはそれで逃げることができた。
『撤退だ!』
「本当に危なかった。どうしてこんなことになったのか分からない」
「……気が付いたんだが、お守りがないんだ」
保存魔法と痛み止めをしてもらい、シルフォードがやっと口を開いた。それを聞いてゼインが驚いた。
「何だと!」
お守りは多分アイテムだな。
「これのこと?」
アミンが、朱色と白の模様の布をつぎはぎした、丸いものを差し出した。コズエがちょっと反応した。
(和風の小物みたい)
「そうだ! お前が盗ったのか!」
シルフォードが左手で、アミンからお守りを乱暴に奪った。
「盗ってなんかいない。落ちてたから渡そうとしたのよ!」
(なんて人なの!?)
コズエがまた怒りをあらわにした。サンドルが手を出してアミンをかばった。
「やめてください。すべて私が悪いんです。グロット・オーの地図を作ったのは私です。グロット・オーがあるかは分からないです」
「嘘っていうことか」
ゼインが言った。それを聞いてシルフォードが喚いた。
「なんて奴らだ! お前たちのせいで俺がこんな目に遭った。みんなに言ってやる!」
「止めろ! そんな姿を見せるのか!? 担架で運ばれるのを嫌がってただろ」
ゼインがそれを言うとシルフォードはおとなしくなった。パーティは出て行った。
「こんなんだから、妻は出て行ったんですよね」
えっ、そっち? だいぶ病んでるのか……?
(イケメンは憂いても絵になるわね)
コズエは目を線にして、親指と人差し指の間に顎を乗せてサンドルを見ていた。どんな表情?
「みんなに言ってきます。やっと分かりました。みなさんを危険な目に遭わせて、自分勝手なことをしていました」
「お守りって何?」
「保護魔法を強化できるアイテムです」
コズエの問いにサンドルが説明した。……あいつそんなに強くないのかも。俺が言う。
「それで、S級になれたのかもな」
「え、それってずるじゃないの?」
「アイテムを取ってこればいいから、それもありなんだよ。でもまあ、魔法の練習や勉強はおろそかになるかもね」
「そっか」
タクトがコズエに説明する。サンドルは歩くときに使う杖を突いて家を出た。俺たちもついて行く。サンドルは広場で村長と話をすると、塀の近くの演説台に上がった。冒険者に向かって話をする。
「冒険者の皆さん。グロット・オーの地図は私が作りました。エイリアスの花を取ってきてほしかったからです。グロット・オーがあるかは分かりません。それが真実です。みなさんを騙して申し訳ありません。お詫びに、支払った料金分の魔法をかけますので、私の家に来てください。地図も回収します」
ざわざわ
冒険者たちはざわめいた。入れ替わりで、村長が台に上がる。
「しばらくは人が多いので、人数制限を続けます。料金は取らないです。入りたい人は入ってください。街道で地図を売っている者がいたら、もう売らなくていいと言ってください。話は以上です」
村長は70代前半ぐらいで、背中は少し曲がっていたが言葉はしっかりしていた。村長も知っていたんだな。
「そうか……」
「どうする?」
特に文句が上がることもなかった。信じている者もあまりいないからな。冒険者の話はすぐに広まるから、もう地図は売れないだろう。これで、グロット・オーの地図の話は終わったな。
俺たちは村長に話をして、明日の明け方に高原に上らせてもらうことにした。
家に帰るとサンドルに村の話を聞いた。村長に地図の話を持ちかけた時、快く承諾してくれたそうだ。
『お前の目が元に戻るなら協力するよ』
収入になるからと村の人たちも協力してくれたそうだ。地図のことが終わっても元に戻るだけだからと、みんな気にしていなかった。




