15、聖女の力
「グロット・オー!」
コズエが思わず声を出して、タクトが聞いた。
「どうしたのコズエ」
「シュナが探してたから、つい声が出ちゃった」
「へ~、シュナも探してるんだね」
「探してるのならちょうどいい。この近くのシロリス村の高地にあるんだ。行ってみないかい?」
男は50代ぐらいで、黒髪を整髪剤でぺったりと七三に分け、ハンドル型の口髭もつやつやしていた。見るからに胡散臭い。タクトは男に言った。
「でも、その手の話ってたくさんあるでしょ」
「まあ、そうだね」
「おじさんはその地図をどこで手に入れたの?」
「ああ、元S級の魔法使いだっていう男から地図をもらったんだ。その男は冒険者を引退して、自分はもう行けないからと譲ってくれたんだよ。これを売れば儲かるからと言われてね」
「S級!?」
俺はタクトとおじさんのやり取りを聞いていた。多分、グロット・オーの地図は偽物だけど、話は気になるので聞いてみた。
「その高地には他に何かあるの?」
「ああ。あの村にしかない、エイリアスの花があるんだよ」
「へ~」
「エイリアスの花って何?」
「聞いたことあるよ。その花の蜜が、どんな病気でも治ると言われているんだよ。朝露でその蜜が取れるから、朝摘むといいんだって」
コズエの問いに、ユナが答えた。おじさんが続きを話す。
「でも、そこはA級モンスターのジャイアントベアーがいるから、誰も取りに行かないんだよね。でも今は、この地図のおかげでたくさんの冒険者がシロリス村に行くから、村には店もできたよ」
「ジャイアントベアーって?」
「ツキノワグマを大きくしたモンスターだ。角があるから区別できるよ。動物型モンスターの目は白くて吊り上がっている。それが戦闘モードになると赤くなるんだ。ダイヤの魔鉱石を落とすから、高額だよ」
「ダイヤ!」
俺が説明すると、コズエはダイヤに興奮していた。異世界にもあるんだな。
「そろそろ、資金も底をついてきたから補充しないとな」
みんなお金を持っていないから、今日の食事も俺が出す。コズエが焦る。
「そうなんだ!」(申し訳ない)
「行ってみるか。おじさん地図はいくらだ?」
「銀貨1枚だよ」
「高いな。銅貨3枚ぐらいだろ」
「それは印刷代だ」
ユナがおじさんに声をかける。
「なら、おじさん、悪い所があるなら治してあげるよ」
「え? じゃあ腰が痛いんだけど」
「ほら」
ユナがおじさんの腰のあたりに手をかざすと、少し光った。
「お! 軽くなった! これはありがたい。よし、お礼にタダであげよう」
おじさんは喜んで、地図を一枚置いて行った。コズエはユナの力に感心した。
「聖女の力、すごい!」
「あれぐらいなら、魔法使いの回復魔法でも治せるよ。聖女の力は治癒魔法なんだ。回復魔法は自己治癒力を高めて、治癒魔法は直接患部を治すんだよ」
「魔法にも違いがあるんだね。聖女の力があれば、エイリアスの花はいらないよね」
「聖女の力でも治せない病気はあるんだよ。だからエイリアスの花のほうが効果は高いと言われている。でもその花が本当に効くかは分からないよ」
「え⁉ そうなの?」
俺が答えた。
「言い伝えだけの話なんだ。ジャイアントベアーがいるから、魔力が高い場所だとは思う」
「じゃあ、エイリアスの花がグロット・オーなんじゃない?」
ユナがコズエに、自分の考えを話した。
「んー。エイリアスの花だと、一つの病気だけ治すことになるでしょ。グロット・オーって、なんでも願いが叶うって言われてるから。もっと範囲が広いんじゃないかな」
タクトが期待を込めて聞いた。
「ジャイアントベアーを倒せば、俺もA級になれるかな?」
「いや無理だ。タクトは冒険者証を持ってないだろ。Fからスタートだけど、FでなければAにはなれない。それに、ジャイアントベアーは咆哮や睨みで金縛りを使うから、ベアーより魔力が低いと、みんなかかる。だから避けたほうがいい。落ちてるダイヤを拾えたらラッキーだな」
俺は相手にしないし、近寄るつもりもない。地図を見ると、村の隣にも森がある。
「近くの森のモンスターを相手にしよう」
「分かった!」
「なんかドキドキする」
コズエはまだ二回目だからな。食事が終わったので町を出ることにした。ユナは町の外まで送ってくれた。
「ユナさん、お金持ってないだろう。今日の宿代だけでも渡しておくよ」
「ありがとう! 今日は、誰かの家に泊めてもらおうと思ってたけど、これで宿に泊まれるわ」
俺はユナに、銅貨五枚を渡した。少し多めだ。
「お礼にみんなに祈りを捧げるわ」
そう言うとユナは両手を合わせてから、上に掲げた。
「ヒール!」
光が四人を包んだ。みんなの体がキラキラ光る。神の光魔法とユナの優しいエネルギーが、疲れを取ってくれたようだった。
「うわ! 午前中の疲れが一気に取れた! すごいユナさん」
「本当だ」
コズエとタクトが自分の体を見ていた。
「本当ね。私、自分に使ったことがなかったけど、もっと自分にも使えば良かった」
ユナは猫背が治り、目のやつれも取れて年相応に若返っていた。
「ユナさんきれいになってる」
「そう?」
ユナは顔に手を当てて笑った。タクトはユナに手を差し出した。
「次会った時は友達だ」
ユナもタクトの手を取った。二人は和解の握手をした。コズエは両手を合わせて喜んだ。俺も二人を見て微笑んだ。
「みんな本当にありがとう。フリオン団のこと宣伝するわね。みんな気をつけて。旅の安全を祈ってるわ」
「ありがとう」
「ユナさんもお元気で」
「ユナも気を付けて」
笑顔で手を振り合い、別れた。
「ユナさんいい人だったね。楽しかったし」
「ああ」
タクトも微笑んだ。体も軽くなった俺たちは、この先あるシロリス村に向かった。気分も良かった。




