13、聖女の話
遺体から離れた森の中で、ユナから話を聞くことにした。タクトがユナを紹介した。
「この人は聖女のユナだ」
『聖女!?』
俺とコズエは驚いて大声を出した。聖女は旅に出ないものだ。長旅なのにスカートなのは変だと思っていた。
「聖女がいるなんて珍しい。それで納得だ。聖女は悪いことをすると、光魔法が使えなくなるからな。だからユナさんだけ、盗賊に参加しなかったんですね」
光魔法は神の力とも言われている。とりあえず年上なので、さん付けにした。
「そうよ。ミンは私には手伝わせなかった」
(この地味な人が聖女? 40代ぐらいかな。なんかイメージが違う……。もっとこう清楚な美女のイメージ。
さっきの白い女の子は、目つきが鋭くて無表情だったけど……)
コズエは手を口元に当てて、疑っているような微妙な目付きだった。ユナは俺と同じぐらいの身長で、痩せていて少し猫背。白茶の髪に毛先が不ぞろいのおかっぱ。目の下がやつれていた。
「ユナさん、タクトと別れた後のことを、話してくれませんか」
「分かったわ。ちょっと座らせてね」
ユナは疲れたようで、草の上に腰を下ろした。
「タクトが逃げてから、すぐにミンは、アビィを踏み台にするために引き倒したの。でも足が上がらないから意味がなかった。アビィはそれで死んだ。まだ17歳だった……」
(ひどい!)
コズエが口元に手を当てた。同い年だから、ショックも大きい……。
「それからすぐに、ゼインのS級パーティが通ったのよ」
「すごい! 偶然?」(ラッキーじゃない?)
「聖女は神の加護があって、幸運を持っていると言われているんだ」
俺はコズエに説明した。この話で、本当にそうなんだと思ったけど。
今、S級パーティは二、三パーティしかいない。S級冒険者が一人以上いればそう呼ばれる。S級のゼインは有名で、俺も名前だけは聞いたことがあった。
「そこに、S級魔法使いのシルフォードがいて、魔法で助けてくれたの。あの沼は泥炭じゃなかった。シルフォードが言うには、タールピットだから底が深くて、魔法じゃないと絶対抜け出せないって」
「タールピットって?」
「俺も聞いたことがない」
コズエとタクトが顔を見合わせる。俺が説明した。
「油が噴き出るところだって、聞いたことがある」
「シュナは物知りだな」
タクトは素直に感心していた。俺は6年間冒険者をやっているから、そこそこ知識はある。
「その沼はシルフォードが転移魔法で、人が来ない森の中に移動させて、作った看板も送って立てた。でも道にあったのは不自然だから、移動する魔法現象かもしれないって」
「転移魔法すごい! でも、盗みとかもできそうね」
「確かにすごいけど、転移魔法は目の前の物を、知っている場所にしか移動できない、一方通行なんだ」
「それなら安心か」
タクトの説明にコズエは納得していた。ユナが話を続ける。
「ミンはゼインのパーティに、仲間に裏切られたと言った」
「えっ!?」
タクトは動揺する。冒険者の間で容疑者になったようだ。
「それなら被害届を出すように言われたけど、自分たちがお尋ね者だから、それはしていない。でもタクトの特徴を伝えて、見つけたら連絡してほしいって言ってたわ」
「そんな……」
「大丈夫だ。さっきの賞金稼ぎが、兵站に情報を送ったはずだ。冒険者協会にも情報がいくから、ミンたちの正体が貼り出されるはずだ」
「良かった~」
タクトはほっとした。
「ミンはあんたに裏切られてから、人が変わった。一番近い冒険者の店で、新しい仲間を探してから、探索石であんたを捜し始めた」
「俺は元々仲間じゃない!」
「探索石を使っていたのか。それなら、逃げられないな」
「そうよ。私たちもそれで見張られていたから。
ミンはアイテムを取らなくなったから、手っ取り早く強盗をするようになったの」
それで賞金首になったんだな。
「今日もそうよ。あんたがこの道を通った情報が入ったの。南に向かったら、こっちに戻ってくるあんたの反応があった。それで、町に戻って強盗してから、北側で待ち伏せたのよ。
あの女の子が賞金稼ぎなのは分かったから、私が知りたいことも分かった」
ユナは話を終えると、ため息をついた。
「私は元は神殿にいた聖女だったの。3年前にあいつらに誘拐されたのよ」
『!』
その言葉に、三人とも驚いた。ユナは自分のことを話し始めた。
「ミンたちが、ちょっとした傷を治しに神殿に来たの。そしたら、仲間が森にいて動けないから来てくれと言われて、そのまま連れて行かれた。神殿が行方不明届けを出しているはずだから、その時からお尋ね者だったはずよ。こんなに、あっけなく終わるのね」
「監視されていたから、ユナたちがどうして仲間になったのか俺は聞いていない」
「仲良くしていると、裏切るんじゃないかって思われるから、よくしてあげられなかった。
ミンは、若くて大人しそうな女性ばかり、仲間にしていた。そのほうが扱いやすいから。前の魔法使いは、あんたが思っていた通り、逃げ出そうとしてミンに殺されたの。ミンは気に入らないとみんな殺した。盾にもした。だから何人も入れ替わった。ミンとチェンは仲が良くて、チェンはミンに絶対服従だった。誰も逃げられなかった。
強盗はしなかったけど、盗ってきた物を食べたから、私も同じね」
タクトは険しい表情をしていた。そうだろうな。話を聞いても、されたことはなくならない。
(私も少しだけ捕まっていたから、ユナさんの気持ち分かる……)
「ユナさんが、解放されたことを知らせないといけないので、録音石で撮らせてください」
「分かったわ」
俺は録音石を取り出して、ユナだけを撮る。ユナが話し出した。
「私は3年前、コーレルの神殿から、ミンとチェンの冒険者パーティに誘拐された聖女のユナです。この人たちのおかげで、無事に解放されました。私は神殿には戻りません。以上です」
ユナの言葉に三人とも驚いた。撮り終えると兵站に送信した。コズエがユナに聞いた。
「神殿に戻らないんですか?」
「ええ。私、ずっと搾取される人生だったから、もう普通に暮らしたいの。
畑仕事をする体力もないから、14歳から神殿に行ってずっと聖女の仕事をしていたけど、神官たちは当たり前な顔をしていた。感謝されることはなかった。力を使いすぎると、とても大変なのに誰もそんなこと気にもしなかった。
食べたり寝る場所には困らなかったけど、ただ働きで、自由もなかったのよ」
「大変だったんですね……」
コズエが気の毒そうな顔をすると、ユナがびっくりした。
「あなた優しいのね。誰も他人のことなんか気にしないわよ」
「コズエは異世界人なんだ」
「そうなの!? じゃあ私が解放されたのは、あなたの幸運だったのね」
「え!?」(そうなの?)
ユナの言葉に、コズエは戸惑っていた。俺はユナに聞いた。
「ユナさんはこれからどうしますか? 行きたい場所があれば送ります」
「え? あなたも親切ね!」
「フリオン団のシュナです」
「フリオン団! 聞いたことあるわよ。すごく慈善的でいいグループだって。本当にそうなのね。ありがとう。住みやすそうな街まで行きたいわ」
「分かりました。先にプラットの町に戻って、食品を返そう」
「うん」
「分かった」
四人で町に引き返した。




