12、突然の待ち伏せ
翌日、神殿のあるプラットの町に到着したが、なんだかここも様子が変だった。町に人通りが少ないし、歩く人は下を向いていた。
「俺が通った時は、なんともなかったけど……」
タクトも気が付いたようだ。
野菜と果物を売る店の前に行くと、店のドアが壊されていた。強盗に遭ったのか……。店の人が片付けをしていたので話を聞いてみた。
「朝、強盗に入られてね。店に来たらこのありさまさ。根こそぎ盗られて中は空っぽ。通いで良かったよ。他の店もやられてるよ」
店主が店の中を見せてくれた。コズエが驚いて声を上げる。
「ひどい! この国は盗賊が本当に多いわね」
「そうなんだよ。どこも、戦争の時より増えたって話だ。こんなの異常だよ」
「そうだな」
俺も同意する。確かにおかしい。人が少なくて警備が行き届かないけど、普通はもっと良くなるはずなのに、この国は逆だ。他の店でも話を聞いてみた。そこは缶詰や保存食を扱う店だった。店主の話では、
「俺はちょうど店の前で鉢合わせたんだ。あいつらは四人で、顔半分を布で隠していた。一人が俺に拘束魔法をかけて、街道の北に向かって、徒歩で逃げたよ」
「なんだって!?」
普通、盗賊団に魔法使いはいない。そんなことをしなくても、金に困ることがないからだ。脅されても、盗賊はそれほど賢くないから、簡単に逃げ出せるはず。
この店も半分ほどしか商品が残っていなかった。店の人と別れて、神殿に向かった。
「多分、犯人は冒険者だな」
「そうなの!?」
「ああ。大量の荷物は魔法袋に入れたんだ。盗賊は魔法袋を持っていないことが多いから」
神殿は無事のようだったが、ここも安全とは言えないな。出迎えた神官に、来た理由を話した。
「そうですか、異世界人の方なんですね」
「ここもあまり治安が良くないですよね」
「そうですね。街の人の支援をしなければいけないですし、他に行かれたほうがよいと思います」
「分かりました」
俺たちは神殿を後にした。
「食事を済ませたら、この街を出よう。もしかしたら、盗賊に追いつけるかもしれない」
「分かった」
「取り戻すんだね」
「ああ、やってみる」
コズエとタクトも了承する。食堂で早い昼食を済ませると、街道を進んだ。タクトが提案してきた。
「この際、首都の神殿に行ってみたらどうかな?」
「首都はスナープ団の本拠地があるから、安全とは言えない」
「スナープ団は、商会だよね」
「裏で人身売買をしているんだ」
「え!? そうなんだ知らなかった」
タクトが知らないのは当然だ。知っているのは、商人や一部の人間だけ。
「異世界人も狙われるかもしれない」
「それなら、首都の近くの神託の神殿はどうかな? 王室とも関係があるし」
「そうだな。それまで安全なところがなければ、そうしよう」
「神託の神殿って何?」
コズエが聞くと、タクトが説明をした。
「王族が、神様に神託を聞きに行く神殿なんだ。その昔、神様が降り立ったと言われる山が聖地になって、その山の麓に建っているんだよ」
「そうなんだ。神託も本当にあるの?」
「そう言われているけどね」
「へ~、すごーい。ここは神様と近い世界なんだね。私がいた世界では、いるかいないかよく分からないよ」
「そうなんだ。俺も会ったことないけどね。アハハ」
二人はのどかに笑い合っていた。道が森の中に入ると、人影がさっと表れて五人に囲まれた。
「久しぶりねタクト。会いたかったわ」
短い黒髪で、細い葉っぱのような鋭い目をした女が言った。タクトが驚いていた。
「ミン! 生きてたのか!」
「残念だったわね。さて、私たちの荷物を返してもらうわよ」
こいつがミンか。似た顔をした男がチェンだな。男は一人だけで、こいつは勇者タイプだな。他は、防御タイプと杖を持っている魔法使い、スカートをはいている地味な女だ。この女以外は、みんな若い。20代から10代のパーティだ。
強そうには見えないが人数が多いし、魔法使いは厄介だ。相手は待ち伏せしていたから、準備をしているはず。分が悪いな。
「お仲間の荷物もいただくわよ。さっさとよこしなさい」
「強盗は犯罪だぞ」
「それが何? 言わなきゃ分からないでしょ」
試しに言ってみたが、どうやら俺たちを殺すつもりだな。
「ごめん。みんな……。俺のせいで」
タクトが後悔をにじませて言う。どうする……。その時だった。サクッと、ミンの首に矢が刺さった。
「!」
ミンは声も出せずに倒れた。
「ミン!」
後ろにいたチェンが、驚いて声を出した。すぐに、チェンの首にも矢が刺さった。
「きゃー!!」
他の二人が叫んだ。二人の頭と胸にも矢が刺さった。スカートの女だけ無事だった。そこへ、白い髪にツインテールの若い女が現れた。目は真っ赤だ。マントを羽織り、赤い服に白い七分袖のジャケットと短パン、茶色のロングブーツを履いていた。手には小型のクロスボウを持っている。クロスボウは、台の付いた弓だ。
(すごい美少女。アルビノね。初めて見た)
コズエも目を見開いて驚いていた。
その女はクロスボウを背中にしまうと、録音石で倒れた者たちをそれぞれ撮っていった。この女、賞金稼ぎだな。ミンたちは賞金首だったんだ。記録が済むと女は、手際よく倒れた者から装備を取っていった。ミンの魔法袋に手をかける。俺が声を出した。
「待ってくれ。その中に食料がたくさんあったら、それは町の人たちの物だ。必要なものを取ったら袋ごと置いて行ってくれ。袋はまた会った時に渡す!」
女はこちらを見ると、またすぐに自分の仕事に戻った。高価なものを取り出すと自分の魔法袋に入れて、ミンたちの魔法袋を地面に置いた。魔法袋とお金を持っていたのは、ミンとチェン、魔法使いの三人だった。多分スカートの女も、持っていないだろう。物を取り終わると、白い髪の女は森の中に消えた。俺は息を吐いた。
「ふー、終わったか」
「あの子、俺たちを助けてくれたのか! なんていい子なんだ!」
タクトは両手を握って感動していた。俺はタクトに説明した。
「俺たちは囮にされたんだ。あいつは賞金稼ぎだ。ずっと、ミンたちの隙を窺っていたんだろう。一対五だと分が悪いからな」
「殺してしまうのね」(若い子だったけど……)
コズエがぽつんと言った。
「賞金首は悪質だから、生死を問わないんだ。一人で四人を連れて行くのは不可能だし、録音石で情報を送ればそれで完了だ」
「でも、そのおかげで助かったよ。次に会う約束をするなんて、シュナはすごいね。勉強になる」
「変な言い方はやめろ。旅をしていたらまた会うし、必要なら向こうから取りに来るだろう」
「また会えるんだ~♡♡」
タクトからハートマークが飛んでいる。それをコズエが、白い目で見ていた。やれやれ。
俺は魔法袋を拾うと中身を確認した。缶詰が山のように入っていた。やはりこいつらが盗賊だった。一人だけ助かったから、目撃された人数と合う。あの女性は強盗に参加しなかったんだ。
「あいつらが街を襲った盗賊だった」
「なんだって!? 俺がいた時はそんなことしていなかった。どういうことなんだ? ユナ説明してくれ」
タクトがスカートの女性に聞いた。その女性が、わっと話し出した。
「待って! 私のほうこそ説明してちょうだい! 何が起こったの!?」
「こっちが先だろ」
「何言ってんの? あんたのせいよ。アビィだけがあの時死んだ!」
「!」
「やめろ二人とも」
俺が間に入る。タクトはユナの言葉に衝撃を受けていた。
「その前にこいつらを何とかしないと。道の真ん中に置いておけない」
俺は録音石で、状況を記録した。
「俺が魔法で移動させるよ」
「すごい! そんなこともできるのね」
「ああ」
タクトはコズエの言葉に照れて、いつものタクトに戻った。タクトが四人の死体を浮かせて、森の中に運んだ。道からは見えない近くに降ろす。俺たちも付いて行き、俺はメモを書いた。
『賞金稼ぎの女性が、プラット街を襲った盗賊兼冒険者の四人を始末した。黒髪の女がミン、男がチェン』
タクトがパーティの説明をする。
「ミンとチェンは外国人だ。最初は兄弟かと思ったけど、同郷で恋人同士だった。多分、お尋ね者だからこの国に逃げてきたんじゃないかな。俺の前にいた魔法使いのことをアビィとユナに聞いたんだ。アビィは死んだと言ったけど、どうして死んだのかは、二人とも口を閉ざした。だから、逃げ出そうとして二人に殺されたんじゃないかって思った」
「そんな」
コズエは口に手を当てた。
「あとの二人は知らない。俺の後に入ったんだろう」
「防御タイプがリタ、魔法使いがセレスよ」
ユナが教えてくれたので、その通りに書いた。
『兵站に報告済み』
と締めくくった。その紙を、タクトに魔法でコーティングしてもらってから、ミンの頭に張り付けた。こうしておけば、見つけた人が対処せずに済むし、コーティングでボロボロになることもない。この様子も記録してから、兵站に送った。




