悪女な聖女は返品不可【コミカライズ進行中】
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「レイチェル! お前との婚約を破棄する!」
婚約者であるルーベン皇太子殿下からの突然の宣言に、レイチェルは固まった。
パーティー会場はしん、と静まり返り、レイチェルの断罪劇を見守っている。
ルーベン皇太子殿下の横には、妹のフランチェスカが寄り添っていた。
本日はルーベンの誕生日パーティーであり、当然彼の隣はレイチェルの位置なのだが。
「聞けば、日頃から妹のフランチェスカをいじめているそうではないか。それだけではない。聖女としての役目を怠り、全てフランチェスカに押しつけていたとか。その間君は遊び呆け、贅沢三昧。公爵家の財産を食いつぶしたらしいな」
ちらりと玉座の方向に目をやれば、皇帝と父である公爵が静観している。
(ああ、そういうこと)
そっともれた息は、呆れなのか悲哀なのか安堵の息なのか。レイチェルにもわからなかった。
「申し開きはあるか」
「いいえ」
レイチェルは首を横に振り、ぴんと背筋を伸ばした。
この婚約破棄は、皇帝と父も公認。既に決定事項なのだ。レイチェルから何も言うことはない。
「悪びれもしないのか。とんだ女だな」
端正な顔を歪めたルーベンが、ふんと鼻を鳴らした。
「君のような悪女は皇太子妃、ひいては未来の皇妃にふさわしくない」
妹の腰を抱き寄せて、ルーベンが甘く微笑む。
「可愛いフランチェスカ。皇太子妃には天使のような君こそふさわしい」
「ルーベン様」
フランチェスカもまた、潤んだ瞳でルーベンを見上げた。
明るくて甘え上手な妹は、容姿も性格もレイチェルと正反対だ。
フランチェスカは小柄で華奢な体つき。
母譲りの明るい金髪に優しそうな水色の垂れ目で、妖精のように柔らかく可愛らしい顔立ち。
鈴を転がすような美声。
レイチェルは細身ではあるが背が高く。
祖母と同じ黒髪に、苛烈な緋色の吊り目。
妖艶でくっきりと派手な顔立ち。
威圧感のある低い声。
何でも一人でやり、誰にも頼らない。
幼い頃から両親に「可愛げがない」と言われてきた。
「泣くな」と言われて笑った。
「手間をかけるな」と言われて頼らなかった。
「我慢しろ」と言われて甘えなかった。
愛されたくて必死だっただけなのに。言いつけを守れば守るほど、両親の愛から遠ざかった。
両親が浪費で作った借金は、基本的にレイチェルの我儘とされた。
連日のパーティーも。ひっきりなしに購入する宝石やドレスも。
母が屋敷に呼ぶ若い貴族や男娼も、レイチェルの名で呼ばれた。
彼らの中には娘のレイチェルもそういう女だと思い、誘ってくるバカもいた。取り付く島もなく一蹴していたが。腹いせに「レイチェルに捨てられた」と言いふらされた。
おかげで世間でのレイチェルは、公爵令嬢という身分と聖女の力をかさにきた、浪費家で男をもてあそぶ悪女だ。
(構わないわ)
レイチェルは艶やかに微笑んで、堂々と胸を張った。
「ごめんなさい、お姉さま。あまりの仕打ちに耐えられなくて、殿下に相談しているうちに恋に落ちてしまったの。お姉さまから殿下を取る気はなかったの。本当よ?」
フランチェスカは胸の前に手を組んで、悲しそうに瞳を潤ませた。
「本当にごめんなさい。でも安心して。殿下にお願いして、新しい嫁ぎ先を見つけてもらっているの」
「この俺に婚約破棄された令嬢など、貰い手がないというのに。フランチェスカのなんと優しいことだ」
「どなたでしょうか?」
「マディソン・ヒース辺境伯だ」
ざわっ、と聴衆たちのひそひそ声が会場を巡った。
(マディソン・ヒース辺境伯‥‥‥)
彼の人の名に、胸の奥が震えた。
「バケモノ辺境伯と。なんと恐ろしい」
「左半分が醜くただれているとか」
「魔獣も素手で引き裂くらしいぞ」
社交の場には滅多に出てこないが、時折報告の為に皇都を訪れる。かの辺境伯の兜の下は、左半分に火傷の痕のような赤黒いみみず腫れがあった。
無口で不愛想な性格と、数々の武勲も相まってバケモノ辺境伯と呼ばれていた。
「喜べ。お前の作った公爵家の借金も辺境伯が肩代わりしてくれる」
ヒース領は、魔獣が数多く生息するヒース山脈に面した領地である。常に戦闘状態にあるかの地では、聖女の力は喉から手が出るほどほしい。
さらに魔獣から取れる魔石のおかげで、財産は潤沢である。
(フランの代わりに身売りされたということね)
デイル公爵家は王族の血も流れる由緒ある家門でありながら、両親の浪費による散財で家計は火の車だった。代々聖女を輩出する血筋とあって、ヒース辺境伯から多額の結納金を条件とした婚約話が来ていた。
「貴女は、本当にそれでいいの?」
レイチェルは、妹のフランチェスカを真っ直ぐに見た。
「もちろんよ。殿下への愛は、真実なの」
フランチェスカはぱっちりとした瞳を驚きに見開いてから、レイチェルの手を取る。耳元に可憐な唇を寄せて、囁いた。
『殿下は褒めて甘えてあげるだけで思い通りに動いてくれるの。可愛いでしょう?』
レイチェルから体を離したフランチェスカは、ふわりと愛らしく笑った。
「そう」
ドレスの裾をつまみ、淑女の礼を取ったレイチェルは、悪女らしくきゅっと口角を上げた。
「婚約破棄と新しい婚約。謹んでお受けしますわ」
そう言った途端、大きな音を立ててホールの扉が開いた。
「遅れて申し訳ありません」
がしゃん。
重々しい金属音と共に深紅の鎧をまとった人物が歩みを進めた。
しん、と静まり返った会場を横切る。煌びやかな場に不釣り合いな血と火炎の香りが漂う。
「マディソン辺境伯」
皇帝が男の名を呼ぶ。
「皇帝陛下にご挨拶申し上げます。マディソン辺境伯、魔王討伐の任よりただ今戻りました。至急駆けつけました故、このような出で立ちで祝いの場に入ることをお許しいただきたい」
ここ最近、魔獣の襲撃頻度と数は増していた。ヒース辺境領だけでなく、いくつかの国境に面した地域で大規模な魔獣襲撃が起こった。
普段の魔獣襲撃とは数も強さも違った。対処しきれずに陥落した地域も出た。
原因は魔王の出現である。
魔王を討ち取るため、軍が編成された。対魔獣の専門家として、当然のようにマディソンが大将に任を受けていたのだ。
「大儀であった。それでは、その石が」
「はい」
マディソンは重苦しい威圧感を放ちながら歩みを進め、レイチェルの傍らに立った。レイチェルも背が高い方だが、頭一つ大きい。兜の下から覗く朱金の瞳が、一瞬レイチェルを見下ろして前に戻る。
「少々手間取りましたが、魔王を討ち取ってまいりました。これは魔王の残した魔石です」
跪き、片手に抱えた大きな石をごとりと置いた。自由になった両手で深紅の兜を脱ぐと、容貌があらわになる。
鎧の下から現れたのは、切れ長の鋭い目と、鼻筋の通った美丈夫だ。左半分が赤く変色し、ぼこぼこと盛り上がっていなければ。
「さすがはバケモノ」
「辺境伯こそ魔王なのではないか」
静まっていた会場が、恐怖で低くさざめいた。
「おお。よくぞ帝国を脅かす魔王を排除し、魔石を持ち帰った。褒美をやろう。何がよいか」
食い入るように魔石を見つめた皇帝が、喜色を浮かべた。
握り拳大の魔石でさえ、城が建つほどの価値を持つ。これほどの大きさの魔石ならば、一体いくらになるか。計り知れない資産価値はもちろんのこと、魔王を倒した証としての軍事的価値も高い。
「ありがとうございます。僭越ながら皇太子殿下に私なりの祝いをさせて頂く許可を願います」
「なに? そんなものでよいのか」
「はい。無骨粗野な私の祝いではお気に召さないかもしれませんが」
「欲のないことよ。よかろう。許可する。別の報酬として金貨も用意しよう」
「ありがとうございます」
本当に欲がない。ただでさえ魔獣を制し続けているというのに。
「皇太子殿下。お誕生日とご婚約の祝い申し上げます。祝いの品として、私どもの忠誠と武力をお受け取り頂きたい」
「喜んで受け取ろう」
ルーベンは自分に頭を垂れるマディソンに気を良くした。圧倒的な武力を誇るマディソンがルーベンに誓う忠誠は、皇太子としての地位をより確実なものにするだろう。
「では」
マディソンが目をすがめ、片方の口の端を吊り上げた。
おもむろに立ち上がったと思うと、次の瞬間赤い閃光が走った。
(綺麗)
美しい炎の流星にレイチェルは見惚れた。
赤の光が爆発する。
轟音がこの場にいる者たちの全身を叩き、大理石の床が砕け、円形に陥没した。
「な‥‥‥あ‥‥‥」
ぺたん、と力なくルーベンが無事な床に尻を着いた。フランチェスカが駆け寄って背中に手を置く。
「ほんの一端しかお見せできないのが残念ですが」
陥没した床からマディソンが拳を抜く。ゆっくりと立ち上がり、籠手からぱらぱらと破片を落としながら、胸に手を当てた。
「陛下、床の修理費は報酬の金貨を充ててください。足りなければ後日ご請求を」
許可を出した手前、罰するわけにはいかない。皇帝は苦虫を嚙み潰したような顔でうなずいた。
(御変わりありませんのね)
バケモノと呼ばれながら、常に最前線で戦う英雄。脳裏にあの時の小さくて大きな背中が鮮明に浮かぶ。
レイチェルが12歳の時だった。皇太子であるルーベンに箔をつけるため、聖女であるレイチェルも魔獣退治に駆り出された。
皇太子と未来の皇太子妃である。
魔獣退治といっても後方にいるだけで、実際に魔獣を相手取るのは軍事に長けた貴族と騎士たちのはずだった。
一頭の竜が、軍勢を飛び越えて天幕へやってくるまでは。
「うわあああああっ!」
「!」
墜落の勢いで天幕を突き破った竜に、一瞬で天幕は大混乱となった。
「どうして竜が」
レイチェルは恐怖に震えた。
今回の遠征は、形だけのもの。先遣隊が十分に調査して、危険性の低い数と強さであるからと組まれた。
竜などいないはずだった。
通常の獣より大きく強靭で、凶暴な魔獣の中でも、竜はとりわけ厄介な存在だ。体の大きさも頑丈さも硬さも知能の高さも、全てにおいて高水準である。
「殿下をお守りしろ!」
天幕の中と外から護衛騎士が駆けつける。
手負いの竜は、闇雲に暴れ回った。予測できない動きに、騎士たちは強靭な尻尾と翼になぎ倒され、魔道師は狙いをつけられない。
皇太子のルーベンが近くにいるのも悪かった。流れ弾を気にして魔法を撃ちにくいのだ。
それでも皇太子のいる天幕は、数多くの精鋭騎士や魔道師が配置されている。竜の方が劣勢だった。
「こちらへ!」
ルーベンを竜から遠ざけようと、騎士の一人が半分ほどになった天幕の外へとうながす。
「殿下、ここから離れましょうっ」
「嫌だ!! あっちの方が危険かもしれないじゃないか。早く何とかしろっ!」
騎士とレイチェルが逃げようと言っても、ルーベンはパニックになっていて、泣きわめくばかりだった。
声変わり前の甲高い泣き声に反応したのか、単なる偶然か。竜がこちらに向けて口を開いた。喉奥に赤い光が灯る。
(もう駄目)
死を覚悟したその時。
「竜よ! 俺が相手だ!」
騎士たちの中から、一際小柄な人物が横から叫んだ。竜の標的が変わり、火炎が小さな騎士に放たれた。
火炎は小さな騎士と、残りの天幕を焼いて消えた。驚くことに騎士はまだ立っていた。
だが、満身創痍だった。
ぶすぶすと黒い煙が全身から立ち上っている。
焼け焦げた盾を放り捨てた騎士が、鎧の隙間から煙を出しながら、きらきらと赤い光をまとって地面を蹴る。
「うおおおおおッ!」
騎士が竜の真上に到達すると。全身を包んでいた赤い光が、神秘的な炎となって燃え上がった。
上空で一度止まった騎士は、赤い流星となって竜に注ぐ。
ズバッ。
赤い閃光が竜の首を穿った。
「やった!」
「まだだ!」
騎士たちと魔道師たちが歓声を上げる中、炎の消えた小さな騎士が、穴があいても尚暴れる竜の首を完全に落としにかかる。
(なんて凄い……)
小さな騎士は、どんなに竜が暴れようとも剣を放さなかった。
他の騎士たちよりも小さいのに。
竜の火炎を食らって、体も無事ではないはずなのに。
その姿は、レイチェルの胸に炎を灯した。
「わたくしは聖女よ!」
レイチェルは必死に覚えたての治癒を、小さな騎士に注いだ。ありったけの治癒をかけ、竜の瘴気を払う。
しばらくして、糸が切れたように竜が倒れた。ぴくりとも動かなくなる。
小さな騎士もまた、力尽きて地面に伏した。
他の騎士が小さな騎士の兜と鎧を外す。中から現れたのは、自分と年の変わらない少年だった。
左半身が顔を背けたくなるような酷い火傷を負っていた。
レイチェルは一晩中治癒をかけ続けたが、少年──マディソン辺境伯令息の火傷は痕が残った。
(あの時から、忘れられなかった)
皇太子と婚約をしている身。想いは胸の奥にとどめるしかなかった。
それなのに。
レイチェルはちらりとルーベンとフランチェスカを見る。目が合うと二人は嫌そうに顔をしかめ、ふいっとそっぽを向いた。
「レイチェル・デイル嬢」
マディソンが左手の籠手を外した。レイチェルに向かって差し出す。
「このような血塗れの手でもよろしいか」
レイチェルは差し出されたマディソンの手をじっと見つめた。
ごつごつと分厚い武人の手だ。皮膚に浮かぶ赤い腫れが、炎の紋章のように彼の手を彩っていた。
「わたくしはこれほど美しく素敵な手を知りませんわ。貴方こそ、わたくしのような悪女でよろしいのですか」
「貴女のような聖女を私は知りません。竜の一件の後、臥せった私の手を握る貴女を見た時。女神が降臨したのかと思いました」
真剣な声音と表情に、かああっと頬が熱くなる。
「返品は不可ですわよ?」
レイチェルはマディソンの手に己の手を重ねた。
「してくれと言われてもしません」
朱金の瞳が柔らかに細くなり、この上なく優しく唇がレイチェルの手に落ちた。
****
──婚約破棄の数週間前。
「俺に公爵家に求婚状を送れと?」
「ええ、そうよ」
フランチェスカは深くかぶっていたフードを取り、紅茶を口に運んだ。
普通なら叩き出すような怪しい人物だが、持参した公爵家の紋章を見せ、直に当主に通してもらった。
マディソン・ヒース辺境伯。
射殺しそうな目つきをした、無骨で面白みのない男だ。
左半分に残った赤い火傷痕がうらめしい。
「公爵家に求婚状を送れば、私との婚約が進むわ。でも、貴方の結婚相手はお姉さまよ」
「レイチェル嬢は、ルーベン皇太子殿下と婚約中のはずだが」
「問題ないわ。殿下は攻略済みなの。お姉さまは婚約破棄されるわ」
にっこりと花が咲くような笑みに、マディソンが眉をひそめる。
「姉の婚約者を寝とるのか」
「だってあの方ではお姉さまの伴侶に相応しくないんですもの。お姉さまは真面目で優しいから。皇室に入ったらクズどものために身を粉にしちゃうわ。でもね。私なら彼らを上手ーく飼い慣らしてあげられる」
ルーベン皇太子は凡人だ。どんなに努力しても、最高峰の教育を受けても。そこそこの成績しか残せない。人を惹きつけるカリスマ性もない。
レイチェルに強烈な劣等感を抱いていて、何かにつけて当たり散らす狭量な小人物。
聖女としての力が中途半端な自分と似合いだ。
「……姉とは不仲と聞くが」
「ふふっ。世間の噂がどういうものか、辺境伯はよくご存知でしょ?」
フランチェスカは胸に手を当てて微笑む。
世間では姉のレイチェルが悪女として認知されているが。本物は目の前にいるのだから。
「仲睦まじい姉妹というわけではないけれど、別に憎み合ってはいないわ」
フランチェスカは態度にほんの少し、普段は隠している面倒臭さを滲ませた。
姉と違って、両親はフランチェスカを愛玩動物のように甘やかして可愛がった。
「できなくていい」とやらせてもらえなかった。
「我慢しなくていい」と努力させてもらえなかった。
「笑っているだけでいい」と考えさせてもらえなかった。
『お姉さまはずるいわ。何でもやらせてもらえて。何でもできて』
わんわん泣いて当たり散らすフランチェスカに、レイチェルは言った。
『わたくしは貴女が羨ましいわ。隣の芝生は青いものよ。隣の芝生のように青くできないのなら、芝生じゃなくて素敵な花壇をつくればいいのよ』
『花は嫌よ。みんな私を可愛らしい花に例えるんだもの』
『じゃあ草を生やしてやりましょう。それも毒を持ったやつね』
『素敵!』
そうして両親の目を盗み、勉強を教えてくれた。
誰よりも美しく強い姉。彼女が食いつぶされるのは我慢ならない。
「レイチェルと俺の意思は」
「あら。とぼけないで。貴方、お姉さまに横恋慕してたじゃない」
「それも知っているのか」
鼻にしわを寄せて、マディソンは低くうめいた。気の弱いものなら震え上がるような顔と声に、目の前のフランチェスカは動じない。
「安心して。知らなかったでしょうけど、お姉さまも貴方に片思いしてるわ」
「!」
「いつどこでは、お姉さまに直接聞いてね」
マディソンは深く息を吐いた。
「俺は君のお眼鏡に適ったのか」
「ギリギリね。外見はお姉さまは気にしないタイプだからいいわ。財力と人柄は及第点かしら。でも今のままじゃ駄目よ」
フランチェスカは、ローブの懐から本を取り出した。
「それは?」
「皇室秘匿の記録よ。これに照らし合わせると、近く魔王が現れる兆候があるの。辺境伯には魔王を倒して貰うわ」
ぱらりとめくって該当ページをマディソンに見せた後、本を元に戻して紅茶を飲み干した。
フランチェスカの聖力はレイチェルに遠く及ばない。魔王が攻めてくれば自分の張った結界は容易く壊されてしまう。そうなると皇太子とフランチェスカの信用は失墜する。
別にそれは構わない。
問題はレイチェルがそれを許さないこと。
(優しいお姉さまのことだもの。結界が壊れて私や民が傷つくくらいなら、自分が犠牲になるわ)
大人しく婚約破棄を受け入れずに、身を粉にして働き続けるか。
幽閉されて聖力のみを搾取されることを望む。
「それじゃあ、お姉さまをお願いね、辺境伯様」
立ち上がったフランチェスカは、ああ、と思い出したかのように言った。
「返品は不可よ?」
お姉さまを泣かせたら許さないから。
お読み下さりありがとうございます。
ブクマ・いいね、評価など。
大変励みになりますので、頂けると嬉しいです!
※今までになく、たくさんの方々が読んでくださり、本当に感謝です。
ありがとうございます。