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バディ ~人型ロボット連続銃撃事件~

作者: アズキ

 その日は、いつもと変わらない、息の詰まるような灰色の空だった。


 現場に到着した際には、既に鑑識が現場検証を進めていた。市内の高層マンションにて銃声が起こり、居住者が警察に通報。駆けつけた警官が、玄関先で倒れている女性を発見したのが、今日未明のことである。


 「あ、お疲れ様です」

 ある意味、事件現場には相応しくない、あまりに人間的な声。その声を聴くたびに、技術の進歩を実感せずにはいられなかった。

 その声の主は、今回の一連の事件を共に捜査する相方にして、最新型の警察用人型ロボットである。

正式名称は「B」asic-「U」pgraded-「D」etective type Robot model ver.「D」(標準改良版刑事型モデル バージョンD)。頭文字を取って「BUD-D(バディー)」と呼ばれている。

 「お疲れさん。今日も早いな」

 彼には、先に現場に到着して、状況を把握しておくように指示してあった。


 「被害者は、女性型お手伝いロボット。2年前に発売された、人気モデルです」

 音声の合成技術の高まりから、一定以上の品質のロボットであれば、どんな声でも出せるようになった。大抵は、同僚や民間人に対しては、優しさと親しみを感じられる声で話すように設定されている。

 「あのお高いやつか」

 「所有者は、この部屋に住む四十代の男性」

 そう言って、彼は写真を取り出した。写真とは未だにアナログな、と思われるだろうが、オンラインでデータが改ざんされることが無いという捜査上の理由があるのだ。

 「アリバイは?」

 「事件当時は、会社に泊まりこんでおり、このマンションには立ち入っておりません。社員複数名の証言及び、監視カメラの映像も確認しましたが、確かなようです」

 「じゃあ、シロか」

 俺はそう言って、頭をくしゃくしゃとやった。




 先月から立て続けに、人型ロボットが銃撃される事件が発生していた。今日で六件目となる。

銃撃されたロボットは、いずれも生活の根幹に携わる部位を酷く損傷しており、機能の回復は困難であった。

 事件が発生する場所も時間もばらばらであり、通り魔的な犯行とみられ、犯人が一切物証を残さず、監視カメラからも何一つ手掛かりを得られない、と、捜査は難航していた。

 唯一の手掛かりは、被害者たちのたった一つの共通点。

 それは、被害者たちはいずれも、外見からは、人間とは見分けがつかないロボットだという点である。




 「一向に糸口が掴めんな。やはり、ロボットに恨みを持つ者の犯行なのか」

 俺は誰に言うでもなしに、そうつぶやいた。すかさず相方が応える。

 「これまでの犯罪者のデータの中から、その条件に合致する者をリストアップしました」

 「いらないよ」

 当初はその線で捜査を進めていたが、皆目見当がつかないまま、時間だけが過ぎて行った。一口に「ロボットに恨みを持つ」と言っても、やれロボット警官に職質を受けただの、ロボットの予想が外れてギャンブルに大負けしただの、その要因は様々であり、結果としては、見当違いのデータが蓄積していくばかりであった。このような計画的な犯行を行う動機には、なりそうもない。


 「では、どういった線で捜査を進めますか」

 「目撃者がいないか、手当たり次第に調べるしかないだろうな」

 「そうおっしゃると思って、既に聞き込みを開始しております。今のところ、成果は挙げられておりませんが」

 彼の言う「聞き込み」とは、警察権限で市民ネットワークの一部に介入し、インターネット上で目撃証言を募ることだ。

 昔は「捜査は足で稼げ」と言っていたらしいが、今風に言えば「捜査は足とアジで稼げ」といったところだろうか。「アジ」とは、文脈にもよるがおおかた「アジリティ(敏捷性)」や「アジテーション(扇動)」のことを指す。


 「人型ロボット連続銃撃事件は、今現在最もセンセーショナルな話題ですからね。窓口にアクセスが集中しちゃって、一時的にアクセス制限を設けるに至りました」

 「その調子で、もっと人手を増やしてくれるといいんだけどな。有益な情報は?」

 「ゼロです」

 情報には、有益な情報と、無益な情報と、有害な情報の三種類がある。数多寄せられる情報という大河の中から、さながら砂金獲りのごとくに有益な情報を選り分けるのが、彼の主な仕事というわけだ。

 ただし、その情報の質は、リアルの聞き込みと比べるとはるかに劣る。


 「俺も聞き込みが終わったら署に戻るから、後は頼む」

 「はい、頑張ります」と、彼は笑顔で応えた。




 成果ゼロの聞き込みを終えて、形ばかりの書類仕事を済ませ、人間の後輩と二人で飲みに来ていた。 「人間の」と注釈を付したことからお察しの通り、驚くべきことに、最近はロボットが飲み会に参加することが増えている。摂取したアルコール量を自動的に判断し、その量に比例して、顔を赤らめ、態度を鷹揚にし、まるで本当に酔っ払ったかのように振る舞うのである。


 「どうすか、最近」

 新入りらしく、瓶ビールのラベルの向きをやたらと気にしつつ酌をしながら、後輩が尋ねた。「捜査の方は」

 「全然」

 「いいなあ、ロボットと二人で捜査なんて……。刑事がピンチに陥った時、颯爽と銃を片手に現れるロボット刑事!漫画みたいじゃないですか」

 「そんなかっこいいもんじゃないって、知ってるだろ」

 小さい頃、漫画やテレビで見たような、かっこいい警官に憧れて、刑事になった。

 今でも、憧れている。


 「ところで、ロボットって、銃とか撃てるんですか」

 「必要に応じて」

 犯罪の鎮圧に際し極めて有効、かつ、代替手段を用いることが不可能または極度に困難である、と認められる場合に限り、安全な方向へ向けた発砲が許可されている。

 そして、そのような限定的な機会が来ることはほぼ無い。

 「でも、それってアシ法違反じゃないですか」そう尋ねる後輩の目は、どこまでも純真だった。

 「おいおい、研修で習っただろ」

 俺は手帳とペンを取り出す。


 アシ法とは、「ヒト型ロボット等の製造及び権利保障に関する法律」のことである。偉大な小説家の名を冠した「アシモフ法」という通称が、さらに省略された形だ。

 その第二条には、名高き「ロボット三原則」が、現代まで残るロボットの権利保障の大前提として、厳然と鎮座している。


 「言ってみな、三原則」

 「ええと、人を傷つけない、命令に従う、自分を守る、ですよね」

 「まあ、いいけど」

 その回答で、今後の昇進試験に合格するかは疑問が残る。俺は、手帳にさらさらと文字を書きつけながら言った。

 「人を傷つけられないはずのロボットが、なぜ銃を撃てるのか」

 「どうしてですか」

 「簡単に言うと、違法性が阻却されるからだ」


 「例えば、医師ロボットいるだろ。去年、総理のガンを取ったとかで話題になった」

 医療用ロボットがあくまで人間の医師の手助けをするものであるのに対し、医師ロボットは、人間の医師の代替として、診断から医療行為、アフターケアまでを全て一手に行う。外科用医師ロボットであれば、当然外科手術を行うことも可能だ。


 「胃の手術のために、腹部を切開する。この行為は「人を傷つけない」に抵触するか?」

 「いいえ」

 「そう、正当業務行為に当たるから、違法性が阻却される。つまり、ロボット三原則に違反していることにはならない」

 本来は人間の医療行為や、ボクシング等の試合で相手を殴りつけることが罪に問われない刑法上の理屈であり、それをそっくりロボットに当てはめた形となる。


 「もっとも、警察の銃はまた話が違って、厳しい厳しい前提条件を潜り抜けてようやく威嚇射撃が許される程度のものだがな」

 そう言って、コップの中のビールを呷った。

 「また、違法性が阻却されるのは、あくまで職務に基づく行為だけだ。医師ロボットは、メスで腹を切ることはできても、ナイフで腹を突くことは──」


 そう言いかけて、ふと思い当たることがあった。今までばらばらだった点と点が、一つの線で繋がっていく感覚。

 背中に冷たいものが流れた。


 「ちょっと出る」

 「え、先輩、お会計は」

 「払っといてくれ」

 心臓が早鐘を打つ。俺は、はやる気持ちを抑えながら、電話をかけた。

 「もしもし、今から会えるか?」




 「飲み会のお誘いなら、お断りしたはずですが」我が相方、BUD-Dは、事もなげに言った。「それとも、何か捜査の手掛かりでも掴んだんですか」

 「そんなところさ」

 俺は電話で彼を呼び出した後、準備を整え、三十分ほど経ってから、警察署近くの公園で落ち合った。飲んでいるから、当然徒歩で移動しなければならない。久々に全力疾走をしたものだから、すっかり息が上がってしまった。

 二人以外に誰もいない夜の公園は、空気が澄んでいて、一足早く、秋の訪れを感じさせる。


 「君、今日一日の記憶データはあるか」

 「既に本部に提出済みですが」

 警察用ロボットは、職務時間中にアイ=カメラに投影された映像データを、「記憶」として本部に提出することが義務付けられている。

 「違う、生のデータだ」

 逆に言えば、職務時間外のデータを提出する必要はない。


 「正確に言えば、今日の午前0時から午前3時にかけてのデータだな。何をしていた」

 「ひょっとして、私を疑っているんですか?」

 午前0時から午前3時。今日、お手伝いロボットが銃撃されたと推定される時刻である。


 「それは、君の返答次第だな」

 「……もちろん、署でスリープモードになっていました。カメラの電源は切っているので、記録はありません」

 「君が警察署から出ていくのを、見たやつがいる」

 「でたらめです」

 吐き捨てるように、彼は言った。


 「そもそも、何故私を疑うんですか」

 「ロボット三原則、知ってるだろ」

 俺は、居酒屋での後輩との会話を反芻していた。

 「ヒト型ロボット等の製造及び権利保障に関する法律の第二条には、以下が規定されています。第一項、ロボットは、人間に危害を加えてはならない。第二項、第一項に反しない限り、ロボットは、人間の命令に従う義務を負う。第三項、第一項及び第二項に反しない限り、ロボットは、自身を守る義務を負う」

 「流石だな」

 「からかわないでください」


 「この一連の犯行、人間には不可能だ」俺は、自分の拙く、か細い推理を、自分自身に言い聞かせるように、ゆっくりと話し始めた。「何故だか分かるか」

 「被害者がロボットに限定されているから、ですか」

 「その通り」俺は指を鳴らした。

 「被害者の住所も犯行時刻も一切ばらばらであり、共通点はロボットであるというただ一点。それも、外見からでは見分けがつかないロボットだ」

 「怨恨の線は薄く、かといって通り魔的な犯行だとしたら」彼は、まるで俺と一緒に推理しているような口ぶりで応える。「人間が犯人だった場合、誤って人間を襲撃してしまうおそれがある」

 「そういうこと」

 ロボット三原則には、人間に危害を加えてはならないと規定されているが、ロボットに危害を加えてはならないとは規定されていない。

 「事前に、犯人が入念な下調べをしていたんでしょう。話にもなりません」

 「第二に、物証が一切ないこと」俺は念を押すように言った。

 「先月から今月にかけて六件、それら全ての犯行現場に、足跡ひとつ、髪の毛一本に至るまで証拠が一切残されていない。およそ、人間業とは思えない」

 「だからって、ロボットの犯行と決めつけるのは早計では」

 「物証だけならそうかもしれないが」俺は深呼吸をした。「監視カメラも、となると話は別だ」


 犯行時刻と犯行現場から、あらゆる逃走ルートを考慮し、現場から半径10kmにわたって、来る日も来る日も、監視カメラの映像を確認し続けた。しかし、どの監視カメラにも、犯人と思しき影は、映っていなかった。

 あまりにも、映っていなさすぎた。


 「映像を不自然に途切れさせることなく、犯人の姿のみを映像から削除する。可能だろう?」

 「もちろん、技術的には可能です」彼は、自社の営業に振り回される技術職のような口ぶりで言った。「ただ、少しばかり映像編集に明るい者であれば、誰でもできます」

 「現場から半径10km周囲に存在する全ての監視カメラを、犯行後即座に書き換えることは?」俺がそう言うと、彼は少しばかり口をつぐんだものの、

 「……共犯者がいたのかも」と応えた。

 「いくら共犯者と入念な打ち合わせをしたところで、その日どのルートを通って犯行に赴くかは、その日になってみないと分からないだろう。何事にもイレギュラーはつきものだからな」人生の虚しさを嚙みしめるように、俺は言った。「今まで積み上げてきたものが、一つのミスで台無しになることがある」


 「じゃあ、仮に、ロボットが犯人だとしましょう。何故、僕なんです?」

 「別に君である必要はないが、警察用ロボットでないと不可能だ」

 ロボットは、ロボット三原則に反する行為を行うことが出来ない。

 「人を傷つける、命令に従わない、自身を守らない、これら三つの行為をしてはいけないというのが前提だが、それ以前に、ロボットは法を犯してはいけないし、犯せないように作られている」

 俺は言葉を続けた。

 「だから本来、対象が人間であるとロボットであるとを問わず、ロボットは銃撃事件を引き起こせない。他人が所有するロボットを損傷することは器物損壊罪だし、犯行のために家の敷地に入ることは住居侵入罪だ」

 「先ほどと言ってることが矛盾しています」

 「だが、違法性阻却事由があれば、ロボットは犯罪の構成要件に該当し得る行為を起こせるのだ。医師ロボットが患者の腹をメスで切開したり、といった具合にな」

 既に喉はカラカラだったが、ここで止まるまいと、俺は更に続ける。

 「何らかの手段で、阻却事由があると誤認させた場合には、ロボットはその行動を行うことができる」

 ここからは、推理というより、憶測に近かった。

 「つまり、君には物事の違法性を阻却して認識するツボのようなものがあって、それを押すことで任意に行動を起こすことができるんじゃないか。そして、住居侵入も、発砲に伴う器物損壊も、警察用ロボットが捜査を行う際に違法性阻却事由として認められ得るものだ」それ以外では、機動隊用ロボットくらいのものだろう。

 「つまり、この犯行がロボットによるものだった場合、そのロボットは警察用ロボットである可能性が高い」


 「では、僕がやったという証拠は?」彼の緑色の瞳が、俺を見つめている。俺は手をひらひらと振って、

 「できれば、君から自首してくれるとありがたいんだが」と言った。


 「話にならない」彼は吐き捨てた。「そもそも、動機が無いでしょう」

 「そこなんだよ。それだけは今でも分からない」俺はすがるような目をして懇願した。「教えてくれないか」


 「酒が入っていた同僚の冗談、ということで、聞かなかったことにします。もう帰っていいですか」

 「……俺は、君から自首してくれるとありがたい、と言ったが」

 俺は、鞄から小さな電子部品を取り出して言った。

 「証拠が無かった、とは一言も言ってないぞ」


 その瞬間、BUD-Dが目を見開いた。瞳の色が、「安全」を意味する緑色から、「危険」を意味する赤色へと変化した。恐らく「違法性を阻却するツボ」とは、あの目だろう。

 「文字通り、目の色が変わったな。先刻俺が言った『君の姿を見たやつ』とは、こいつのことさ。君が警察署から出る際、入れ違いに署に戻って来たパトカーのドライブレコーダーに、ほんの数フレームだが、君の姿が映っていた。これから、映像を照合してもらう」

 「それを渡せ」

 あまりにも感情のこもっていない声を上げて、彼は俺に銃を向けた。BUD-Dの周囲の空気からは、彼の執念じみた、気迫のようなものが感じられた。両手を挙げる。


 「もう一度訊こう。なぜ、こんなことを?」純粋な好奇心も手伝って、俺は尋ねた。


 「……僕が人間だったら」彼はぽつりとこぼすように言った。「量刑は、どうなりますか」

 「住居侵入と器物損壊が六件で、長くても懲役3年ってとこだろうな」

 「では、銃撃したのが人間だったとしたら?」

 「どんなに腕利きの弁護士が付いたとしても、死刑は免れんだろう」

 「どのみち、僕はロボットですから」彼は続ける。「スクラップになるでしょうね」

 原因を問わず、結果としてロボット三原則に違反したロボットの末路は一つだ。


 「僕が撃った人たちは、ロボットでありながら、皆人間と同じように生活していました。彼らの生命を奪ったのは、彼らを人間として葬ってやるためです」

 「……どういう意味だ?」

 「人間が彼らを撃ち殺したって、3年も経てば娑婆に戻ってきます。僕が処分されることで、彼らは人間と同等として扱われる。そして、僕は6人もの人間を殺害したとして、晴れて死刑の身となるのです。僕たちは人間なんだ!」


 一息に言い切ると、彼は銃を構え直した。

 「そんなに怖い顔しないでも、こいつはやるよ」と、俺は電子部品を彼に放り投げた。彼は、きょとんとした顔をして「え?」と、声を上げた。


 「ドライブレコーダーに君の姿が映っているかどうかは知らんが、君がそんなヘマをやるとも思えない」

 「カマをかけたんですか」

 「おかげで、動かぬ証拠が手に入ったよ」俺は、胸ポケットにしまっていた端末の画面を「録音」から「再生」にして、彼にかざした。「『……これから、映像を照合してもらう』『それを渡せ』」

 「……僕の負け、ですね」


 彼はそう言って、はにかんだように笑った。



 「君のことは憎からず思っていたんだが、残念だ」

 思い返せば、彼と捜査をしていたここ数日は、久々にやりがいを感じることができていたのかもしれない。憧れていた、スクリーンの中のヒーローたちに、近づくことができていたのかもしれない。そんな気がした。


 「僕も、楽しかったですよ」

 「そう言ってくれると、助かる」

 自然と、「嬉しい」でもなく「よかった」でもなく、「助かる」という言葉を口にしていた。

 「先ほど言った通り、僕はスクラップになるでしょうが」彼は言った。「逮捕してくれたのが、貴方でよかった」

 「そうか……」




 その時、

 「突入!」

 の声と共に、警官隊がBUD-Dの身柄を拘束した。「確保!」


 「先輩、大丈夫ですか!」

 先ほど居酒屋に残していた後輩が、心配そうに駆け寄って来た。

 「市民ネットワーク経由で、警察に通報があったんです。公園で銃撃戦がおこるかもって」

 後輩は息を切らしながら続けた。

 「まさか、先輩とは思いませんでしたけど」

 「そういえば、銃はどこへ行った」

 「こちらでしょうか」後輩は、警官隊の一人が確保していた銃を、俺に渡した。


 「……空砲だ」




 あの日から一か月が過ぎ、俺は少しばかり休暇を取ることにした。

 人型ロボット連続銃撃事件は、センセーショナルな連日連夜の報道とは打って変わって、新聞の片隅に記事が掲載されただけ、という極めて小規模な幕切れを迎えた。

 やれ警察OBの勢力がマスコミに圧力をかけただの、ロボットの権利侵害が懸念されただの、憶測が飛び交ったが、今となってはその真偽を確かめる術はない。

 もっともその間、俺はひたすらマスコミ各社への対応に追われることとなり、通常業務が全くと言って良いほど手に付かない状況だった。

 事件にあれほど関心を抱いていた人びとの興味は、いつしか別の事件や報道へと移っていった。


 あの公園に行く途中、花屋を見かけたので、立ち寄った。

 花言葉も何も分からないので、適当に見繕ってくださいと、素人丸出しの注文をしてしまった。


 「お客さん、どなたに贈られるのかしら。ご家族?それとも、恋人さん?」

 「いいえ」

 俺は、軽く一息ついて、こう答えた。


 「俺の、相方(バディ)に」

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