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【あの魔法があれば】

 

 自分の首をギロチンにかけられて初めて知ったのは、意外と首周りの固定具にはゆとりがあるということだった。

 恐らく老若男女に合わせて設計されているのだろう。

 あと、意外と冷たくない。

 小さな木のトゲトゲが刺さるのが鬱陶しい。

 それにこの部分、衛生面は大丈夫なのだろうか?

 こんな時代であるし、何かしらの病原菌が付着している可能性も……



「最後に何か言い残したことはあるか?」


 

 私は今まさに、中世ヨーロッパ風のファンタジー世界のど真ん中、巨大な城をバックにした断頭台で、その生涯を終えようとしていた。

 どこぞの海賊王でもあるまいに。

 スイッチに手を掛けたまま頭上で高笑いをしている、きらびやかな装飾に身を包まれた、あの耳のとんがった女の手によって。



「……これは夢なのでしょうか?」



 周りからシルクちゃんと呼ばれる、小柄なそのエルフの女王は軽く鼻を鳴らした後、私を哀れむように頭上から声を投げかけた。

 赤茶色の眼(ヘイゼル・アイズ)──高貴さと無邪気な残酷性が見事に溶け合った、その温かくも冷たい不思議な視線を私は思い出した。



「ふっ……夢幻世界に迷える子羊よ……この世は所詮、胡蝶の夢よ。死は救済の道。今こその真の姿を知ることとなるのだ」


「いや端的にお願いします」


「お前は国家叛逆罪によって、今からこの''生''という名の''自由の刑''から解放されるのだ」


「……なぜファンタジーの世界でサルトルの引用が? サルトルは''こっちの世界''の20世紀の哲学者ですけど」


「……貴様、何を言うておる?」


「いやそっちでしょ」



 神様はいるのか、いないのか──

 ''我々は自由という名の刑に処せられている''──

 遠い昔、学校で愛子から聞いた言葉フレーズだ。


 私たち''挑戦者グラディエーター''の深層心理が少しずつ反映されたこの世界──

 この状況を脱する方法はある。

 たったひとつ。

 あの魔法があれば。



 群衆。

 群衆が私を見ている。

 その数およそ1万人以上だろうか。

 見渡す限りの人、エルフ、ドワーフ、宙を舞う妖精、獣人、その他何が何やら分からない生き物たちが、固唾をのんでこちらを見守っている──



 ◆◇◆◇



 悲しい女の話をしよう。

 生活苦から死体清掃の闇バイトをしていたら、気付けばこうして異世界で処刑されそうになってしまった少女の話だ。

 名は門倉牡丹かどくら・ぼたんという。

 まあ、私のことなのだけれど。

 


 物語は''私たちの時間''でいうところの3日前……

 ''夢幻荘''という2階建ての木造ボロアパートから始まり──


 とある夏の日、私にとって一番大切な人との、大好きな図書館デートで終わる。

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