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世界の一、苦学生に不可思議現象。

注意

性描写や暴力描写は当たり前に入って来る恐れがありますので苦手な方はお引取り下さい。

また、話によっては救いが一切無いものも御座います。

朝、通勤通学で忙しい時間帯。制服を軽く崩して着用した男子高校生・時人トキトも、慌ただしく通学路を自転車で走り去って行く。

見た目こそ不良少年だが、れっきとした(?)苦学生だ。

幼少時に両親を亡くして以降、病弱な双子の妹と自分を養う為にバイトと学校を往復する日々だ。

ふっと、視界に何か異様なものが映った。そんな気がした。一瞬止まるが、

「いや待て。学校ガッコあんだろ学校ガッコ

それだけ呟くと自転車に更なる加速を加えて走り去った。


同時刻。大通りから少し外れたところに、その店は在った。


香月骨董店コウヅキコットウテン


それだけ書いてあった。店は西洋の家と言った風情で、お洒落と言っても過言ではないだろう。

内装も美しく、品物は綺麗な保存状態を保ちつつ、それでも客にちゃんと見えるようにしていた。

「♪からたちの花が咲いたよ 白い白い花が咲いたよ♪」

その店の玄関先、金髪に青目の青年が、かなり上機嫌で箒を掃いていた。

…選曲に問題があるが。なんで「からたちの花」なんだろうか。

80代後半の方々でなければ、知らないような哀しい歌だぞ。いや、マジで。

そんな金髪碧眼という外形的要素と全く噛み合わない哀しい歌を歌っていると、


 カッ…シャーン…


何か軽いものが落ちる音が店内から聞こえた。

金髪青目の青年・ニアは掃く手を止め、箒をドアに立て掛けた。

そのまま店内を窺い、音の原因を探りはじめ、ニンマリと笑んだ。

まるでチェシャ猫を具現化したような、厭らしくも妖艶な笑みを、浮かべた。

「さあ…目を覚まして、僕の愛おしい駒鳥達…。出番だって…解って、いるんでしょ…?」

それは母親が幼い我が子に呼びかけるような、それでいて魅惑的に甘い、そんな囁きだった。

「じゃあ、迎えに行かないと!ね?ニア」

「そうだね。お願い出来るかい?」

カウンターの右端。さっきまで人魚の絵画が置いてあったところに、赤い髪に青と銀の瞳をした青年が1人。ニアと同じくらいの歳に見えるが、どうも子供っぽい口調だ。

「では私は御茶請けを用意するわね。最近の坊やはジュースが良いのかしら」

「どうだろうね?でも頼むよ」

カウンターの左端。さっきまで赤毛の道化人形が座っていたところに、青い髪に赤と銀の瞳をした幼女が1人。十にも満たないように見えるが、とても大人びた口調だ。

果たして、この不可思議な2人は、いつからいたのだろうか。

本来なら気になるところだが、ニアは気にする事もなく、それぞれに言葉を返す。

そして音の原因、秒針だけが残った状態のアンティーク調の置時計を見遣る。

見事に長針と短針だけが落ちていて、だがギリギリのところで秒針が残っている状態だ。

それらを直す事もせず、愛しげに見つめ、やがて朝日に視線を移す。

「命が運ぶ、それぞれの運命ミチ…。果たして彼らの選択は何処に向かうんだろうね」


青い空と青い瞳が、かち合う。やがて雲が過ぎると、そこには誰もいなかった。



「はよっす、運野ウンノ。今日は早ぇな」

「おー、バイト終わってすぐだかんな」

時人が教室に入ると、朝練を終えたらしいクラスメイトが先にいた。

流石は運動部とでも言うのだろうか、相手が誰でも挨拶を欠かさない。爽やかだ。

運野、それが時人の苗字であった。時人はこの苗字が嫌いだ。出来すぎているから。

これで下の名前が普通ならば文句はなかっただろう。まあ普通の名前の定義は無いのだが。

しかし、親は何を思ったか下の名前は時の人と書く名前にした。妹も似たようなものだ。

「珍しいな。運野、いつもなら妹さんの様子見てから来るのに」

「ああ…いま親戚が来てんだ」

親戚筋の誰かしらは、心配なのか時折、時人達を訪れる。

親戚の誰かが養子にしたいと言ってくれた事もあったが、気持ちだけ貰っておいた。

というのも、時人と妹の刹那セツナには、特殊な能力が備わっていた。

具体的にどう、とは言えない説明の難しいものだが、確か有るのだ。

「おーい。おめぇら席に着け」

時人がクラスメイトと話していると担任の先生が入って来た。時人とクラスメイトは、慌てて席に着く。

「さて。昨日も話したと思うが、今日から我がクラスに留学生が共に過ごすからな」

担任の男性教諭はそう前置きすると、扉の方を向いて、「入ってこい」と言った。

返事は聞こえなかったが扉を開く乾いた音と共に、やけに綺麗な少年が入って来た。

銀の髪に、ミドリ双眸ソウボウが美しく、そして異常に肌が白かった。

「初めまして、タイム・ランウェイ言います。えっとヨロシクです」

拙いが、上手いと言えるレベルの日本語だった。しかし、問題はそこではなかった。

時人はタイムを見た瞬間、激しい動悸を覚えた。どう表現すれば正しいのか、解らないくらいに。

タイムと担任が何か言葉を交わしている。時人は自分の胸を掴んでしまいたい衝動に駆られた。

ふっと、それまで穏やかに笑んでいたタイムが時人を見つけ、


ガっターン!!!


「おい、どうした?!」

「運野!?」

「運野君!しっかりして!!」

突如として時人は倒れた。タイムと目が合った、その瞬間を見計らったのように。

ただその時、音を拾った。外側からではなく、内側ナカから。確かに、音だ。タイムの、音。


 「 みつけた、ボクの半身ハンミ。ボクを捧げる半身ハンミ 」


時人が目を覚ますと、白い天井が見えた。此処はどこだろうと、考えたみた。

此処は保健室だ。誰かが運んでくれたらしい。予想としては運動部の誰か

時人の記憶では、教室で倒れたところで終わっている。次いで、タイムの()

「気になるよね。銀の髪のあの子、君と同じ時を司る名を持つ子」

いきなり声をかけられ、時人は驚いて声がした方に上体ごと向けた。

声がした方向、つまりは窓際に髪が真っ赤な青年が愉しげに笑んでいた。

「…んだ…お前は…」

時人はなんとか声が出せたもの、酷く掠れた声だった。それを見て、更に愉しげにする青年。

「あの子の事が知りたいなら。君達の能力チカラを知りたいなら」

そこで青年は言葉を一旦止めると、音も姿も無く、しかし確かに時人の上に覆い被さっていた。

 「《香月骨董店》に。大通りから少し外れたところの、ボク達の骨董(イレモノ)に」

時人は声を出さなかった。否、出せなかった。自分に覆い被さる青年は、それなりの身長だ。


 だが、全く体重を感じないのだ。誰かが乗っている、その感覚はまるでなかった。


「運野君、起きたかしら?」

その時、保険医の声がし、カーテンが開けられた。驚いて青年を慌てて退かし、其方に振り返る。

「あら?まだ顔色が悪いわね…早退する?」

「え…でも…」

「無理は禁物よ。岩井先生と家には連絡いれとくから、ね?」

保険医は窓を締めながら、時人に言い聞かせてきた。時人は返答してから深く息を吐いた。

そして思う。今のは、現実か。ベッドを降りて制服を正すと、内ポケットに何かが入っているのに気付いた。前ボタンを留める前に、その《何か》を引き出した。そして、

「…現実だと…言うのか…」

思わず息を飲む。内ポケットに入っていたもの、それは《香月骨董店》と記された名刺サイズの紙。

店の名前と、「大通りから少し外れ」という簡素な案内しか無かった。

「それでは」

「ええ。お大事にね」

後のことを保険医に任せ、挨拶を交わして学校を出る。そして、朝と同じく猛スピードで自転車を走らせる。向かうのは、青年が言った《香月骨董店》という店だった。

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