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氷の魔女は愛さない  作者: 遠堂 沙弥
スノータウン
22/78

22 『育てる、ということ』

今回は幕間のようなものです。

短いですが、どうぞよろしくお願いします。

 魔女の夜会に参加してからというもの、常日頃から魔女の修行を真剣に取り組んできたルーシーは、より一層努力するようになっていた。

 これまではただひたすら『憎い相手への復讐』という目的のみで気持ちを奮い立たせていたルーシーであったが、魔女の夜会で多種多様な魔女に出会い、強い刺激を受けたこと。

 そして何より魔女の友達が出来たことへの喜びから、その高みへと一緒に昇り詰めたいという強い気持ちがいつの間にかルーシーの糧となっていた。


 聡慧の魔女に会うこと以外で特に興味を示していなかったニコラであったが、システィーナとの出会いがこのような効果をもたらすとは思っていなかったのだろう。今では二人を会わせてよかったのかもしれないと感じる。

 しかしニコラはあまり良い気持ちとは言えなかった。

 確かにシスティーナとは親しげに会話をする仲ではあるが、忘れてはいけない。あの少女はおぞましい数の人間を殺めた過去を持っている。

 過去に囚われているわけではない。誰にでも他人に話せないような過去のひとつやふたつあるだろう、とニコラは思っている。だからシスティーナの手が血で塗れていようとニコラはそれで彼女を敬遠したりなどしない。その資格もない。

 だがひとつ懸念なのは、それがルーシーに何かしらの影響を与えてしまわないか、ということだった。

 ルーシーはまだ魔女としてまっさらな状態だ。与える知識によっては黒にも白にもなり得る。自分の弟子だけは、黒い魔女にしたくはない。

 システィーナが悪の道へ引きずり込むような少女だとは言わないが、システィーナは人間の命をそれほど重いものとは考えていない。守りたいものを守る為ならば何百人、何千人の人間をその手にかけたとしてもシスティーナはきっとこう言うだろう。


「守りたいものを守っただけ」だと。


 そういった命の価値観をルーシーと共有して欲しくない、というのがニコラの本音だった。

 だから比較的魔女に対する偏見が少ないこのスノータウンに居を構え、そこで暮らし、ルーシーを迎えたのだ。


 ルーシーには明るい未来を、幸ある人生を、少しでもその陰った顔を笑顔で満たしてやりたい。

 そんな想いからニコラは出来る限り価値観の歪んだ人間や魔女と接することを、ルーシーから遠ざけたかった。

 一切触れずに生きていくことなど出来ないのはわかっている。

 だからこそ長旅を決意した。


 魔女に対して温かい村の中に居続けては視野は狭くなるばかり。いつか魔女に敵意を持った人間と遭遇した時に、ルーシーがその人間を魔法で攻撃することが正当であると認識してほしくはない。

 一見人間の方が魔女より優れているように思える。

 だからこそ人間が魔女を殺すことより、魔女が人間を殺す方が罪は重いとされていた。それは理不尽であるし、明らかに不平等だ。

 だがそれがこの世界の法律だ。

 人数で圧倒的に勝る人間の方が魔女よりその命の価値は高い。例え人間より優れた能力を有していようとも、その力は異端とされ、危険と判断される。だから魔女は忌避される。

 システィーナのように、ただ自分が正しいと思うことを実行するだけではいけないのだ。

 世界は人間の味方だ。

 だからこそルーシーはまっさらな状態から、少しずつその現実を目にしていかなければならない。

 何が正しくて、何が間違っているのか。自分の価値基準ではなく、世界の価値基準で物事を判断しなくてはいけない。その目を養わなければいけない。

 自分こそがその価値基準であるという認識を持った魔女は毒にしかならない。そういった魔女ばかりが夜会に集まる。利己的で、自己中心的で、自己顕示欲の強い魔女たち。

 人間とは違い、個人で強い能力を持っているだけにタチが悪い。


 まずは個々としての能力が高くない人間相手に、ゆっくりと世間というものを教えていくつもりだった。

 よりにもよって初めての夜会にタチの悪い魔女ばかりが集まっていて、これほど運に恵まれていなかったとは……と。ニコラは今でも少しだけ後悔している。

 しかしかえって良かったと思える面もあったのは確かだ。

 ルーシーはどこか『魔女は特別で素晴らしい存在だ』と思っている節が見られた。あくまでニコラの視点であるが、ニコラから見たルーシーはひたすらに魔女としての覚醒を望んで修行に打ち込んでいるように見える。

 そして夜会で出会った魔女に対してもそうだった。初めてたくさんの魔女を目にしたら誰でもそうなるものなのかもしれないが、ルーシーはすれ違う魔女たちのことを羨望の眼差しで見つめていた。

 憧れの存在を見つめるように、自分のいつかはああなりたいと思っているような、そんな眼差しだ。

 別にそれが悪いことだと言うつもりはないが、どうか歪んだ魔女を憧れの対象として目指す……ということにだけはならないように。そう願うばかりだった。

 決して、幽魂の魔女のようなおぞましい存在に憧れたりなんかしないでくれ、と。


 ニコラはただ願い、実行するまでだ。

 ルーシーを立派な魔女として育て上げ、自分がいなくても自らの力で生きていく術を身に付けて、健やかにたくましく、どうか優しい人たちに囲まれて……笑顔で暮らしていけるように。


 ニコラに残された命は、ただ……その未来の為だけに……。

これまでも端々で語ってきたつもりですが、ニコラの想いなどが読者の方にも伝わればと思います。

次回もよろしくお願いします。

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